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ヘルシスト 274号

2022年7月10日発行
隔月刊


人の時間・植物の時間

石井桃子(1907~2008年)は、昭和初期から平成の半ばにわたって活躍し、「子どもの本」の世界に大きな功績を残した児童文学者として知られています。

その活動は幅広く、『クマのプーさん』『ちいさいおうち』『ピーターラビットのおはなし』、ディック・ブルーナの『うさこちゃん』シリーズなど多くの海外児童文学を翻訳して紹介する一方、ベストセラーとなった『ノンちゃん雲に乗る』や『山のトムさん』などを創作した作家でもありました。また編集者としても『ドリトル先生』をはじめ、「岩波少年文庫」の編集を手掛けるなど、関わって世に送り出した児童書の数は200冊を超えるといいます。

本作りと並行して、子どもたちに良い本を届けたいという思いは、やがて児童図書館の普及へと向かい、欧米を視察した後、まずは自宅に子どもたちが自由に本を読める、名づけて「かつら文庫」を開きました。そのかつら文庫の7年間を記録した一冊『子どもの図書館』は共感を呼び、ムーブメントとなって、全国で家庭文庫の開設が激増。今日、児童図書コーナーが当たり前に設けられている公共図書館の在り方へも、影響を与えたといわれています。

常に自立した生き方を貫き、70歳を過ぎて新たな境地の作品を発表したり、87歳で1600枚もの長編小説を完成させたことに、励まされた人も少なくありません。

101歳で亡くなるまで歩みを止めなかった石井の元気の源はどこにあったのでしょう。晩年、長生きの秘訣を問われて、石井は「自分を変えないできたことかしら」と答えています。その生活ぶりは、周囲の人をして「時計のように正確だった」とのこと。毎日決まった時間に寝起きして、食事をし、仕事をし、掃除や散歩をする。淡々と繰り返される規則正しい生活が、石井の心身を支えていたことは、間違いないと思われます。


地球上のほとんどの生物は、生体内に持つ時計遺伝子でコントロールされた体内時計によって生体リズムを調整しながら生きています。特に、一日24時間周期で刻む「概日時計」は、生物が昼と夜の変化にうまく順応していくための不可欠な仕組みです。

植物にも概日時計は存在していて、外部環境に柔軟に対応する「時刻合わせ」機能を備えていていることが特徴です。また、他の生物との関わりに概日時計が深く関与していることもわかってきました。生存場所を選ぶことができない植物は、概日時計の機能を巧みに使って、変化する周囲の環境に適応しているのです。

植物は、地上に登場してから今日にいたるまで4億7000万年ものあいだ、外部環境に順応することで生き抜いてきました。植物が進化の過程で獲得してきた機能は概日時計に限らず、どれも驚くべきものばかりで、例えば、種子がまだできていない時期は食べられないように、また、種子が完成したときには種子を拡散させるべく果実を食べてもらうように、それぞれの場面に応じて分泌する化学物質を変えています。こうして植物は、「果実と種子」という生殖機能を進化させて動物との共存関係を築き、したたかに生育範囲を広げていったのです。

光合成によって無機物から生み出される有機物で他の動物の栄養を担うことができるのは植物だけです。特筆すべきはその圧倒的に高い生産能力で、だからこそ地球上すべての動物を養うことができているのだといいます。

植物は環境に適応した共存共生を、多様性を保ちながら実現させることで繁栄してきました。私たちをはじめ多くの生物は、なんらかのかたちで植物と関わりながら暮らしています。つまり植物なしでは生きることはできないのです。

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