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ヘルシスト 283号

2024年1月10日発行
隔月刊


長寿の技はそれぞれの手の内にある

18世紀末、ドイツ中央部の都市イェーナで出版され、瞬く間にヨーロッパ中で翻訳され、ベストセラーになった一冊の本があります。書名は『長寿学——長生きするための技術』、著者は後に近代医学の創始者とたたえられたドイツ人医師のクリストフ・ヴィルヘルム・フーフェラント(1762~1836年)で、当時イェーナ大学の教授だったフーフェラントの、市民までが押しかけるほどの人気だった「長寿学」の講義をまとめたものでした。

フーフェラントは、医師の家に生まれ、大学で医学を修め、父の診療所を継ぐなかで積み重ねてきた症例研究を基に、長生きするための技術は成り立つのだと、合理的な提言をしています。これはいわゆる養生論としてだけでなく、産業革命やフランス革命が起きて政治や経済が変わっていく一方、いまだに迷信や占星術の影響下に生きていたヨーロッパの人々に、科学的な健康法へと目を開かせる啓蒙書となったともいわれます。

本書は2部構成で、まず植物や動物、人間など有機体の寿命について探究した理論の部に続いて、第2部の実践篇では、「寿命を短くする要因」を回避し、「寿命を長くする要因」を活用して寿命の維持や延長を図る手段が、具体的に示されます。例えば——

毎日1時間は戸外の空気を吸って体を動かすことや座りっぱなしを避けること。心を平穏に保つこと。窓をこまめに開けること。毎日水で体を洗うこと。満腹になるまで食べないこと。ゆっくり食べること。夕食は軽めに。植物食を多めに摂ること。食後は歯をゆすぐこと。(水を)飲むという行為をなおざりにしないこと。を放置しないこと——。

これらを読んでいると、200年を超える時の隔たりを感じないどころか、命というものが、自らの行いや習慣に影響されるものであると改めて気づかされ、身が引き締まる思いがします。


281号からスタートした「がんから身をまもる」シリーズの第2回。今号のテーマは「進化する『予防・検査・治療』です。がんの研究は近年目覚ましい発展を遂げており、がん医療の要諦である「予防・検査・治療」の概念は徐々に変わりつつあります。

細胞内にあるDNAは放射線や紫外線、化学物質、活性酸素などで簡単に傷つき、その数は細胞1個当たり、1日で数万カ所とも数十万カ所ともいわれています。こうして損傷したDNAを持つ細胞が、修復されずにそのままとどまると、いずれがんになるのですが、そう簡単にはいきません。なぜなら——

京都府立医科大学大学院医学研究科分子標的予防医学の武藤倫弘教授によると、体にはDNAの損傷を修復する、あるいは傷ついた細胞を排除するメカニズムが4つ備わっているからです。1つが、損傷を見つけて素早く修復する酵素。2つ目は、傷が修復できない場合に発動する、細胞自死のプログラム「アポトーシス」。3つ目は、異常な細胞を排除する免疫機構。そして4つ目は、細胞集団の中に異質な細胞が混合すると、周辺の細胞がそれを押し出して排除する、細胞競合という機構です。

逆に、DNAを損傷した細胞が4つのメカニズムをすり抜けて蓄積されると、将来がんになる可能性はぐんと高くなります。しかし、そのような細胞が検診などで見つかった場合でも、その時点でがんと判断されなければ経過観察となり、たとえがん化したとしても、早期に発見して排除できれば、ほとんどが大事には至りません。

がんの多くは生活習慣と密接に関連しているため、早期発見と同様に重要なのが予防です。国立がん研究センターの調査によると、生活習慣の改善によって最大6割の予防効果が得られ、残りの4割を早期発見で症状が出る前に対応できれば、一部のがんを除き、ほとんどのがんは遠ざけることが可能になるといいます。

フーフェラントが200年以上前に提唱した健康法は、現代のがん予防にしっかり受け継がれているのです。

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