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ヘルシスト 271号

2022年1月10日発行
隔月刊


健康を保つ努力

女性脚本家の草分けである橋田壽賀子(1925~2021年)は、「おしん」をはじめ、「おんな太閤記」や「春日局」、「渡る世間は鬼ばかり」など数多くの人気ドラマを手がけ、2020年に脚本家として初の文化勲章を受章しました。

自ら書いた一代記『おしんの心』によれば、橋田は、テレビの世界でようやく脚本を書く機会をつかんだ頃、大好きだったスキーをやめたといいます。ちょうど白馬(長野県)のホテルに滞在してドラマを執筆しており、一段落つくとスキーに興じるのが息抜きだったのですが、ふと、もしゲレンデで転んで足や腕の骨を折って原稿を書けなくなったら、責任を全うしない自分に、もう誰も仕事を頼みはしないだろうと考えたからです。

やがてプロとして仕事を続けるには何より健康であることだと思い、自分の健康は自分で管理するしかないと心に誓って、ドラマを引き受ける際は必ず人間ドックで体調を確認し、普段から健康を保つ努力を欠かさないようになりました。

80代後半になっても日課の水泳を続け、毎朝自宅から15分ほどのクアハウスまで出かけて800m泳ぎました。夕方には犬の散歩で30~40分歩き、その他にも足腰を鍛えるために週に2、3回医者に通ってリハビリに励み、食事も主治医のアドバイスに従って栄養士からレクチャーを受け、野菜中心の、バランスの良い食生活を心がけました。

常日頃、あえて「老い」を意識しないよう努め、興味を覚えたことには、どんどんチャレンジする。肝心の脚本については毎日10枚の原稿を書くことを自らに義務づけています。

このような日々を過ごしながら、橋田は2021年の4月に95歳で亡くなるまで、「自分をしっかり見つめ、地に足をつけて人生を歩もう」という思いを込めた作品の数々を、世に送り続けました。


2021年11月に英国・グラスゴーで開催されたCOP26では最終的に、地球の平均気温の上昇を1.5℃に抑える努力を各国に求める「グラスゴー気候協定」を採択、現在の気候変動対策の指針となる2015年12月フランス・パリでのCOP21で策定された「パリ協定ルールブック」も完成しました。

COP21に先立つ2015年9月には、2030年までに持続可能でより良い世界を目指すとした、「経済」「社会」「環境」に関わる17の目標で構成されるSDGs(Sustainable Development Goals)が国連総会で採択されています。こうして、気候変動対策はSDGsと深く結びついた結果、国際社会が取り組むべき重要課題としてより鮮明に浮かび上がっていきました。

日本でもその頃から「サステイナブル(持続可能な)」という言葉が使われるようになっていきます。生物学では以前から、「細胞が恒常性を維持して長く生き続けていく」ことを「サステイナブルなシステム」と呼んでいたのですが、最近は、少々異なるニュアンスで使われることも多いようです。多くの人が、SDGsに少なからず関心を寄せるようになったという意味では、気にすることではないのかもしれません。

SDGsの要諦の一つに、人種・宗教・経済・ジェンダーなどを問わない多様性があります。しかし現実は、例えば経済発展に影響するエネルギー問題が、先進国と途上国で歩み寄りが難しいように、多様性の尊重と矛盾するハードルが存在することは事実です。何はともあれ、COP26では、1.5℃という具体的な努力目標が採択されました。これが単なるスローガンに終わり、実行と結果が伴わなければ近い将来、人類はいよいよ窮地に立たされことはもはや疑いの余地がないことも確かです。

COP26の壮大な目標もさることながら、私たちが問題意識を持って生活様式を少しでも見直すことができれば、それはSDGsへ向けた行動といえます。「健康を保つ」努力もまた、小さいけれども大切な行動となるのではないでしょうか。

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