ペットが健康に暮らすために食はとても重要だ。しかし、イヌは雑食もしくは肉食性のある雑食で、ネコは完全に肉食と、それぞれで食性が異なるため、何を食べさせるかには細心の注意が必要だ。今では、最適化されたペットフードがスーパーやコンビニで手軽に手に入るので、あまり頭を悩ませずに済む。ただしイヌやネコにもメタボリックシンドロームが見られ、新たな心配事が浮上している。大切なペットに長く健康に過ごしてもらうためには、ヒト同様、正しい食の知識が必要だ。
特集 ペットと暮らす ペットが健康で過ごせるために知っておきたい食の知識
構成/茂木登志子
私たちヒトは、いろいろな食物を「食べる」ことを通じて「栄養素」を摂取し、生命維持や身体活動を行っています。ヒトと同じく、イヌやネコも同様です。ただし、食性や必要な栄養素などの面で、ヒトとイヌやネコには少し違いがあります。
そこで最初に、ヒトとイヌ、ネコとの違いに触れておきましょう。
イヌは「雑食」 ネコは「完全肉食」
まず、ヒトとイヌ、ネコでは、食性が違います。食性というのは、食物を摂取するときにどういう行動をとり、どのようなものを食べるのかといった性質です。動物それぞれの食に関わる行動様式と言い換えてもいいでしょう。
食性は、「雑食性」「草食性」「肉食性」などに分けられます。ヒトは肉も魚も野菜も食べる雑食ですが、イヌは「雑食」あるいは「肉食性のある雑食」、ネコは「完全肉食」とされています。
遺伝子情報などからも、イヌの祖先がオオカミだということが分かっています。ですから、イヌには肉食のイメージがあるかもしれません。オオカミは草食動物を捕食しますが、獲物の内臓には植物の残渣があり、それも含めて食べていたと考えられます。また、実はオオカミはハンティングがあまり上手ではなく、獲物を捕まえられなかったときには植物を食べて飢えをしのいでいるともいわれています。肉も植物も食べるオオカミを祖先として、何でも食べるヒトと長く暮らしてきたことから、イヌの食性は雑食あるいは肉食性のある雑食とされているのです。
次に、大きく違うのは食べ方です。私たちヒトは、食物を口の中で噛み砕いてから唾液で混ぜて飲み込む「咀嚼」を行います。しかし、イヌやネコは咀嚼をしません。喉を通る大きさに食べ物を歯で切り裂くと、そのまま飲み込みます。そして、食道から胃、小腸、大腸へと送られ、消化・吸収が行われます。
消化・吸収の経路は同じですが、草食動物と肉食動物では、腸管の長さが異なります。肉食の場合、消化にかかる時間が短いために腸管も短いのですが、草食では消化に時間がかかるのでそれに応じて腸管も長くなっています。例えば、ネコの腸管は体長の4倍、イヌは5〜6倍、ヒトも5〜6倍といわれています。
イヌやネコの健康にも「腸活」を推奨
イヌやネコが生きていくためには、食事はなくてはならないものです。種に合った、安全でバランスが取れたものを口にしていれば健康に暮らしていけます。しかし、どんなに栄養学的に優れた食事を与えても、その栄養を吸収する腸が健康でない限り、必要な栄養素を吸収することができないので、健康を保つことが難しくなります。こうしたことから、近年、イヌやネコの健康にも腸内環境をより良い状態にするための健康活動(いわゆる「腸活」)が推奨されています。
イヌやネコに必要な栄養素はヒトとまったく同じで、たんぱく質、脂肪、炭水化物の三大栄養素にビタミンとミネラルを加えた五大栄養素です。ただし、摂取量の比率がヒトと異なり、たんぱく質をより多く必要としています(図1)。これは前に述べた食性と大いに関係があり、イヌとネコはヒトよりたんぱく質の要求量が多く、完全肉食のネコはイヌよりもさらに多くなっています。たんぱく質は体をつくる材料となりますが、イヌやネコの場合、不足すると体重減少や被毛の発育低下、そして成長期には発育遅延を招きます。
たんぱく質を構成するアミノ酸のうち、体内で作ることができず、食物からの摂取が必要なものを必須アミノ酸といいます。ヒトの必須アミノ酸は9種類ですが、イヌとネコはこれにアルギニンを加えた10種類です。特にネコは、アルギニンが不足すると、高アンモニア血症を起こし、死に至ることがあります。また、ネコでは必須栄養素であるタウリン(以前はアミノ酸に分類されていた)が不足すると肝臓障害、拡張型心筋症、網膜萎縮が起こるとされています。
共に暮らす家族ではあっても、動物の種が異なれば、健康に不可欠な栄養の条件も変わってきます。現在はスーパーやコンビニでもペットフードが販売されていて、飼育経験のない人でも「動物には動物用の食料を与える」ということが理解されていることでしょう。
実はヒトの食事内容は脂肪分が多すぎて、イヌやネコには適切に消化することができません。嘔吐や下痢、場合によっては膵炎のようなもっと深刻な病態につながってしまうこともあります。加えてヒトの食物の多くは、イヌやネコの健康に支障を来す量のナトリウム(塩分)が含まれています。このようなことから、イヌやネコにはそれぞれの健康と生命維持のためのペットフードが求められています。
ペットフードは給与目的によって「総合栄養食」「療法食」「間食」「その他の目的食」に分けられます(図2)。いずれも、水分含有量の違いによって、ドライタイプ、半生タイプ(セミモイスト・ソフトドライ)、ウェットタイプなどに分けられます。
総合栄養食というのは主食として与えることを目的として作られたもので、これと水を与えればイヌやネコの健康を維持できるように栄養バランスが整えられています。
主食となるペットフードは、繁殖期(妊娠・授乳期)、哺乳期、離乳期、成長期、維持期、高齢期と、ライフステージに応じた切り替えが必要です。ライフステージに応じて栄養バランスやカロリーを見直し、適切な体重管理をすることが健康維持の基本です。
なお、総合栄養食と表示できるペットフードは世界的なペットフードの栄養基準の指針であるアメリカ飼料検査官協会(AAFCO)の基準に準拠して、ペットフード公正取引協議会が定めた栄養基準をクリアしたものだけです。また、総合栄養食と表示をするためには、メーカーが自らの責任において分析試験と給与試験を行わなければなりません。
療法食は、疾病を抱えたイヌやネコの治療内容に合わせて栄養成分の量や比率を調整し、治療を補助する目的で与えるペットフードです。糖尿病や腎臓病のように、治療のために食事管理が欠かせない状態のイヌやネコには、獣医師の管理の下で療法食を与えます。
療法食も、ペットグッズ専門店に行けば手軽に買えます。だからと言って、「ちょっと胃腸の調子が悪いから」消化器系の療法食を買おう、「ちょっと太ってきたから」肥満・体重管理用の療法食を与えようなどと、飼い主さんの自己判断で買い与えてはいけません。
療法食については、定期的に受診し、獣医師の診察と指導を受けながら利用するのが基本であり、最善です。なぜなら、療法食の中には、短期間の治療に用いるために、極端な栄養バランスに調整されたものがあるからです。また、治療と療法食によって、イヌやネコの状態も変わってきます。そうした経過や変化に応じ、療法食の変更や総合栄養食への切り替えなどが必要となる場合があるからです。
なお、近年はイヌやネコの健康維持・向上のために、目的に応じて栄養素などを配慮した「機能性フード」も市販されています。ヒトにとっての機能性表示食品(事業者の責任において、科学的根拠に基づき特定の保健の目的が期待できる旨を表示した食品)と同じで、療法食とは根本的に異なります。
イヌやネコにもお楽しみの食べ物がある
ヒトがお菓子やお酒を楽しむように、イヌやネコにもお楽しみの食べ物があります。おやつやご褒美などとして与える間食用のペットフードです。素材や味わい、食感、形態もさまざまで種類も豊富です。しかし、イヌやネコが欲しがるままに与えてしまうと、栄養バランスが損なわれたり、肥満を招いたりします。カロリーベースで言えば、1日当たりの食事の10~20%までとされています。間食で摂取したカロリー分は、主食を減らすようにしてください。商品パッケージにも、1日に与えていい量や回数が記載されているので必ず目を通しましょう。
市販のペットフードではなく、手作りフードを食べさせたいと願う飼い主さんも少なくありません。しかし、すべて手作りフードにするのは、栄養管理の面において難しいのではないでしょうか。カロリーベースで換算して、食事量の10%程度を手作りにして、ペットフードにトッピングするといった方法が現実的な栄養管理ではないかと考えています。
食物に含まれている物質の中には、イヌやネコに与えてはいけないものがあります。私たちヒトが日常的に摂取しているおいしい食材でも、イヌやネコにとっては命に関わるものがあるのです。
与えてはいけない食材は、イヌとネコでは共通のものも多いです。また、イヌもネコも、体の小さい個体のほうが少量でも悪影響が出やすく、体重あたりの量だと、大型犬の方が中毒しやすいので、特に注意が必要です。ここでは、私たちヒトの日常生活で身近に存在していて、イヌやネコが食べてしまうと危険なものの主な例とその症状を紹介しておきましょう(表)。
タマネギやネギ、ニラ、ニンニクなどには、共通する香味と関係する物質が含まれています。アリルプロピルジスルフィドなどいくつかの成分が解明されていて、現在は有機チオ硫酸化合物と表されています。これらには、イヌやネコの赤血球のヘモグロビンを酸化する作用があるといわれています。そのためこれらを含む食材を大量に食べてしまうと、赤血球の脂質膜がダメージを受け、溶血性貧血や血色素尿などを引き起こし、貧血や下痢などを起こす恐れがあります。
これらは加熱してあっても、よく煮込んで形をとどめていなくても、健康障害を起こす物質は分解されずに煮汁に残っています。特にタマネギは和食から洋食まで幅広い料理に使われているだけではなく、ソースやケチャップ、ネギパウダーなどの調味料にも使われています。イヌやネコに誤食させないように注意が必要です。
肉や魚を与える場合には、細菌汚染による食中毒を起こす可能性があるので生食は避けたほうが無難です。特に魚介類は加熱が必須です。なぜなら、生のイカやエビなどには、チアミナーゼという酵素が多く含まれています。この酵素が、体内で炭水化物をエネルギーに変える役割を果たしているビタミンB1を分解してしまうのです。そのため、生の魚介類を与えすぎてビタミンB1が不足すると、エネルギーがうまく作れず、脳の働きにも影響が出て、うまく歩けないなど運動機能に障害が出ることもあります。特にネコはビタミンB1の必要量が多いので、イヌより症状が出やすいといわれています。酵素の働きは加熱すれば失われるので、与える際には生ではなく、必ず加熱してから与えます。
チョコレートを食べさせてはいけない
お菓子も要注意です。ガムやあめなどの菓子類の中には、甘味料としてキシリトールを含有しているものがあります。こうしたものをイヌが食べると、小腸で吸収され、血糖値を下げるホルモンであるインスリンの分泌が強く促されるので、少量でも危険です。摂取後30分ほどで、嘔吐などの中毒症状が出てきます。重症の場合は、急速に低血糖が生じたり、肝障害が起こったりすることがあります。
また、菓子類では、イヌやネコにチョコレートを食べさせてはいけません。特にイヌには甘いものを好む嗜好があり、チョコレートの甘いにおいにつられて食べてしまうようです。しかし、チョコレートには原料のカカオ豆にテオブロミンという成分が含まれています。ヒトはテオブロミンを代謝できますが、イヌはそのスピードが遅く、分解にとても時間がかかります。そのため体内にとどまったテオブロミンが興奮剤のような働きをして中枢神経を刺激し、嘔吐や下痢、けいれんなどの中毒症状を引き起こします。
国内のペット保険会社の統計では、イヌのチョコレート誤食は、バレンタインデー前後に多く報告されているそうです。一方、ネコは甘味を感じない、好まないなどの理由のせいでしょうか、ネコにおけるチョコレート中毒の報告は少ないといわれています。
駆け足ですが、食物を通してヒトとイヌやネコの栄養の違いを述べました。伴侶動物と暮らす読者の役に立てればうれしいです。また、家庭に動物のいない読者には、多くの人に親しまれているイヌやネコたちの生態の一端を、食と栄養を通して理解してもらえたら望外の喜びです。
水分不足は危険
生命維持には水が不可欠だ。イヌやネコが、自発的な飲水量だけで必要量を確保できているとは限らない。水分含有量が少ないドライフードを主食とする場合は、必要な飲水量も増加するので、不足しがちだ。また、ネコはもともとあまり水を飲まず、イヌも高齢期になると、喉の渇きを覚えにくい。飲水量の不足は、脱水症状や泌尿器系の疾患につながることがある。飲水をサポートする工夫が必要だ。
においで食べる
フードを与えても、実際にイヌやネコが食べなければ栄養にはならない。イヌやネコは、においをかいでそのフードを食べるかどうか決める。療法食などどうしてもそのフードを食べさせたい場合には、鰹節やだしパックなどをフードの上にしばらくのせておき、食欲をそそるにおいを移してからフードだけを与えるという方法がある。また、フードを温めたりぬるま湯でふやかしたりしてにおいを強くするのもいい。
サプリメントはどう与える?
イヌやネコのためのサプリメントが市販されている。サプリメントは「医薬品」ではなく特定の成分を摂取して補うことで健康を維持・増進させる「補助食品」だ。現状では、ヒト用と違って公的な定義や分類はない。利用する場合は、ヒト用を代用するのではなく、イヌやネコでの安全性が確認されていて、科学的根拠に基づいた成分が配合されている動物用サプリメントを与えよう。重複して与える場合や、治療薬を投与しているときのサプリメント利用については、獣医師に相談するのが安心だ。