生物 「細胞と遺伝子」 第19回 ベニクラゲの「若返り遺伝子」 老化は宿命、とされているが、なんと若返ることができる生物が存在する。体長4~10㎜の小さなベニクラゲは、危機的状況に陥るとポリプと呼ばれる成長段階の若い形態に戻ることができる。若返るというのは、細胞を未分化の状態に戻してから、再び若い細胞に分化させることだ。この若返り機構に特異的に働いている遺伝子配列が解読された。ヒトへの応用はさすがに難しいが、肌の老化を遅らせることなどは可能性があるかもしれないという。
生物 「細胞と遺伝子」 第18回 生物と物質をつなぐプロセス 「生きている」ように動くロボットは生物学的には生きてはいないが、視点を変えて工学的な立場で考えると、「生きている」細胞は、情報処理能力と運動機能を備えたロボット的なものともいえる。生物と物質は完全に分断されるものではなく、そのあいだには連続性が存在するはずだという。生物と物質をつなぐプロセスが理解できれば、例えば免疫細胞のようなものや、脳のようなコンピュータを作ることができるかもしれない。
生物 「細胞と遺伝子」 第17回 「生身」の皮膚をまとったヒューマノイド 近年、ロボットは格段の進歩を遂げ、機能や動作の完成度は目を見張るものがある。中でも人間の姿をしたヒューマノイドは、その多様な可能性から注目されている。しかし皮膚はシリコンゴムでできていて、見た目もさることながら、質感は少々不気味だ。もし生きている皮膚組織をまとうことができたら不気味さも解消し、人間により近づける―。このような生体素材と機械の融合の研究が進んでいる。SFの世界がいよいよ現実になりつつある。
医学 「細胞と遺伝子」 第16回 「細胞老化」は「COVID-19」にも関与する! がん遺伝子の活性化や過度なストレスなどによってDNAが大きな損傷を受けたとき、細胞は自らを破壊してがん化を防ぐ(アポトーシス)。また、細胞分裂を停止したものの死なずに体内に長期間存在し続ける細胞老化も同様に機能する。しかしこの細胞老化の最大の問題点は、さまざまな炎症性物質を分泌するSASPを誘引することで、加齢性疾患を招き、高齢者や糖尿病などの人でCOVID-19が重症化しやすくなったり、後遺症の要因になったりするという。
医学 「細胞と遺伝子」 第15回 がんとの共生を可能にするCAR-T細胞療法 CAR-T(カーティー)細胞療法は、T細胞の遺伝子を改変することでがん細胞への攻撃力を増強する治療法で、がんとの共生を可能にする画期的な手法として注目されている。血液がんでは高い治療効果を発揮しているものの、塊をつくって防御する固形がんを攻撃することは難しく、苦戦を強いられてきた。しかしそのハードルもやがてクリアできるはずだ。CAR-T細胞は長期間がんを攻撃する能力を持つ。がんと共生する時代がいよいよやってくるかもしれない。
医学 「細胞と遺伝子」 第14回 iPS細胞でアルツハイマー病の細胞を再現 アルツハイマー病は、多くの遺伝子の小さな作用の集積により、病因であるタンパク質が蓄積していくということはわかっている。ではなぜ、どのようなメカニズムで発病するのか―この難題について調べる有効な手法はこれまでなかったが、患者の血液細胞から作ったiPS細胞を脳の神経細胞に成長させ、病気を細胞レベルで再現することに成功。遺伝子の分析が培養皿の中で可能になった。言うなれば、iPS細胞を使えば病気のモデルは無限にできるという。
生物 「細胞と遺伝子」 第13回 日本発! ゲノム編集技術CRISPR-Cas3 「この病がこの世からなくなってほしい」 ある遺伝性難病の当事者からこのような悲痛な言葉を聞いた。親やきょうだいが次々に病にかかっていき、介護や看取りをして、自分もいつ発症するかわからない恐怖を抱えて生きている。現在は治療 ……
医学 「細胞と遺伝子」 第12回 mRNA創薬の可能性は無限大 新型コロナウイルスのスパイクタンパク質を組み込んだDNAから、その遺伝情報を転写して人工的に作られたmRNAが細胞内に運ばれると、スパイクタンパク質が作られて抗原が提示され、やがて免疫獲得となる——。ワクチンの実用化が早かったのは、この基本の仕組みがほぼ完成していて、mRNAの情報を書き換えるだけで済んだからだ。さらに、この仕組みを使えばどんなタンパク質でも合成可能になるという。
生物 「細胞と遺伝子」 第11回 死ぬために生まれる理由 死ぬことは生物にとって必然だ。換言すれば、すべての生物は必ず死ぬ運命にある。地球では生と死を繰り返すターンオーバーによって生物は生き延び、多様化を果たしてきた。人間も然り、老化と新生を繰り返すことで細胞をリニューアルさせて生き延びている。つまり老化は生命進化にとって自然で理に適った摂理だ。しかし自然破壊はこの摂理に反し、繰り返せば人類はこの先50年ももたないかもしれないという。
医学 「細胞と遺伝子」 第10回 中和抗体とともに産生される感染増強抗体 ワクチンや感染で中和抗体は作られるが、同時に、ウイルスと細胞の結合を促進させ、中和抗体の働きを弱めて感染を増強させる抗体も作られていることが、新型コロナウイルスの研究で明らかになった。ワクチンはかえって重症化させるのではと不安になるが、一定数以上の中和抗体があれば感染増強抗体は作用しないので、心配無用という。中和抗体と感染増強抗体がどう作用し合うのか——今後の研究が注目されている。