特集 気になる耳の病気小脳を鍛える「体操」でめまいやふらつきを改善

構成/渡辺由子  イラストレーション/永井 恵

誰もが一度は経験したことのあるめまいやふらつき。脳や心臓に関係する大変な病気のサインではないかと心配になるが、実はその80%は、加齢や神経の炎症が原因で起きる内耳の障害によるものだ。症状の改善には睡眠不足やストレスを避けることが何より大切で、また、内耳は気象の影響を受けやすいため天気の変化には要注意。バランスを司る器官でもある小脳を鍛える「体操」が効果的という。

横浜市立みなと赤十字病院めまい・平衡神経科部長

新井基洋(あらい・もとひろ)

1989年、北里大学医学部卒業後、同大耳鼻咽喉科入局。1995年、アメリカ・ニューヨークマウントサイナイ病院(神経生理学)へ留学し、めまいの研究に取り組む。1996年から横浜赤十字病院耳鼻咽喉科、2000年に同科副部長、2004年に部長。2005年、横浜市立みなと赤十字病院耳鼻咽喉科部長、2016年から現職。日本めまい平衡医学会専門会員、同評議員、同代議員。アメリカに本社があるベストドクターズ社から、めまい診療と治療が評価され、2020-2021 Best Doctors in Japanに選出された。

「朝、目が覚めたら天井がぐるぐる回っている」「洗顔のために顔を下に向けたら、ふらっときた」……、めまいで悩む方は、日本全国で300万人に上るといわれています。生まれてから死ぬまでにかかる病気のトップ3は、1位・風邪、2位・頭痛、3位・めまいの順で、めまいは風邪や頭痛よりも頻度は低いものの、誰もが経験する病気の一つです。

めまいの原因の80%は内耳の障害

めまいと似た言葉に、「ふらつき」があります。「めまい平衡医学国際学会」では平衡感覚に関して、次のような3つの分類を提唱しています。①目がぐるぐる回るような「回転性めまい」、②左右にぐらぐら揺れるような、地に足が着かないふわふわした浮動感や浮遊感のある「浮動性めまい」、③ふらふらして姿勢を保てない「不安定感」。このうち、ふらつきは③に該当し、大きなカテゴリーではめまいとして扱われています。私は患者に「めまいとふらつきは親戚ですよ」と説明しています。

さて、救急外来におけるめまいの原因の80%は、内耳の障害とされています。残りのうち5~7%は重篤な心筋梗塞や不整脈などの心疾患で、右の冠動脈が詰まってしまうと2人に1人は失神する手前の前失神のようなめまいを起こすことがあります。これ以外に重篤な不整脈でもめまいが起きます。さらに5%は、皆さんが最も心配する脳梗塞や脳腫瘍などの脳疾患が原因で、脳の運動機能を司る部分での梗塞や出血が生じたためです。

めまいの原因で一番多い内耳の障害について、まずはめまいが生じるメカニズムを説明しましょう。私たちが意識することなく、歩く、立ち上がる、片足で立つなど、身体を動かすことができるのは、バランスを保つ「平衡機能」が働いているからです。人間の平衡機能は、目から情報を得る「視刺激」、耳の内耳の三半規管と耳石器(前庭器)で身体の回転や傾きを感知する「前庭刺激」、足裏から身体の位置や動きを感じ取る「深部感覚刺激」の3カ所の刺激が小脳に集まり、全身の中枢である大脳で情報が統合されて、バランスを保っています。3カ所のうち、最もバランスに関わるのが前庭器で、三半規管は頭部の回転に伴って発生する回転加速度を感知し、耳石器では頭部の水平・垂直方向の直線加速度を感知してコントロールしています。しかし、何らかの原因で目や足裏、どちらかの耳に障害が起こると、平衡機能が低下。特に左右の前庭器のいずれかに障害が起き、機能に左右差が生じると、バランスを崩してめまいを起こしてしまうのです。

三半規管に入った耳石が動いて起こる

突然起こる激しい回転性めまいと耳鳴りや難聴が現れる「メニエール病」。20年くらい前まで、めまいといえば「メニエール病」と診断されてきましたが、目の動きを解析する検査機器の進化により、内耳の障害が原因のめまいのうち5~10%程度であることが分かってきました。

近年最も多いのが、前庭器を含む内耳の障害によって起こるめまいのうち、その半数を占める「良性発作性頭位めまい症」です。回転性のめまいが数十秒から数分続いて治まり、患者の意思と関係なく眼球が動く「眼振」という動きも特徴的で、原因となるのが耳石の移動です。耳石器の内側の耳石膜表面には、直径0.01㎜の粒状の耳石がびっしりと貼り付いています(図1上)。

図1 良性発作性頭位めまい症の原因〈上〉耳石器の内側の耳石膜表面には、炭酸カルシウムの結晶からなる直径0.01㎜の粒状の耳石がびっしりと貼り付いている。〈下〉頭の動きに伴い耳石もゆっくりと動き、その情報が小脳へ伝わり、自分の身体の傾き具合がどのくらいかを感知。

耳石は頭の動きに伴ってゆっくりと動き、この刺激が耳石膜の下の感覚細胞から前庭神経を介して小脳に伝わり、大脳で統合されて、自分の身体の傾き具合を感知します。ところが加齢変化によって耳石が多数剥がれ、三半規管に入って耳石の塊となり、頭を動かすと耳石塊も動くために、めまいが起こるのです。耳石の剥がれは、50代以上で増え、三半規管の3つの部屋のうち、下向きの部屋(=後半規管)に入ることが多く元に戻りづらいために、耳石塊が移動するたびにめまいが起こってしまいます。

最近ふらつきを訴える人が増えていますが、その多くは耳石器の不調が原因です。良性発作性頭位めまい症は耳石が剥がれて三半規管に入り込んでしまうことで起こりますが、耳石器障害は耳石が剥がれかかっていると耳石器内での働きが低下して、ふわふわとしためまいやふらつきが起こります。

両側の三半規管が軽度低下し、3カ月以上続くふらつきの訴えを認めるのが「加齢性平衡障害」で、さらに加齢によって全身の平衡機能に関わるあらゆる所に衰えが起こります。前述した目・耳・足裏からの刺激を感知する力、身体を支える筋力、平衡機能の司令塔である小脳や全身の中枢の大脳のいずれもが衰えてきます。このような高齢者のめまいやふらつきは、転倒リスクを高め、骨折から寝たきりへと発展させる可能性があるため、高齢社会では大きな問題として懸念されています。

突然激しいめまいが起こる「前庭神経炎」。前庭器からの刺激を小脳に伝える前庭神経の障害が原因で、めまいや強い吐き気が起こり、1週間ほど症状が続き、その間は立つこともできず、入院による安静と点滴を中心とした薬物療法を行います。

頭の片側だけ強い頭痛とめまいが起こる「片頭痛性めまい」は、「脳の嵐」とも称され、脳が引き起こすめまいです。女性に多く、思春期の頃から頭痛を訴え、30歳くらいからめまいを伴います。耳鼻咽喉科ではメニエール病と診断され、内科では片頭痛の薬物治療だけでめまいの治療は受けられず、片頭痛性めまいに悩む患者は少なくありません。他に、めまいを伴う突発性難聴や慢性中耳炎などの病気や、脳梗塞・脳出血の治療後も、めまいの原因になります。

めまいやふらつきの治療方針を決めるために、さまざまな検査を行って調べていきます。目標物を目だけで追う視標追跡検査や、視界を遮り頭や身体を動かすことで内耳を刺激する各種回転検査などで、目と身体の動きから異変がどこにあるかを調べます。ヘルスメーターのような機器に乗る重心動揺検査では、開眼時・閉眼時各1分間の直立姿勢の身体の揺れ方を確認します。開眼時は目・耳・足裏の平衡機能が働いていますが、閉眼時は耳と足裏だけで平衡機能を働かせねばならず、耳の機能の低下が前面に表れます。身体の揺れ方についても、速い、ゆっくりのそれぞれの周波数から、耳や小脳、筋力などのどこで機能の障害や低下が起こっているのかが分かります。

治療は主に薬物療法が行われますが、国内では50年近く新薬が発売されていません。既存の薬剤は、安価で副作用もはっきりしており、安全に使用できますが、薬物だけでは平衡機能を改善することは大変難しいのです。そこで平衡訓練や、姿勢や頭の位置を動かしながら耳石を元に戻す頭位治療などを、それぞれの疾患に対して行っていきます。頭位治療は良性発作性頭位めまい症に効果的で、いろいろある種類のなかで「エプレ法」が代表的です。1回の成功率は80%で、4回までの繰り返しで92%という効果があります。

寝ているだけでは治りません

しかし、難治性良性発作性頭位めまい症では、耳石塊の問題だけでなく、何らかの理由で片方の内耳機能が低下することがあります。耳のように左右にある機能は両方が同じように悪くはならず、どちらかが悪くなるものです。そこで当院では、平衡訓練の「新井式めまい体操」によるリハビリを行っています。内耳の障害によるめまいやふらつきだけでなく、加齢性平衡障害や前庭性片頭痛などにも効果があり、これまで延べ22万人が受け、1~3カ月間継続することで、7~8割に効果が表れる実績があります(図2)。

図2 めまいリハビリ治療開始6カ月後までのDHIスコアの推移めまいによる日常生活での障害の程度を検討するDHI検査のスコアから、「新井式めまい体操」によるリハビリ治療の開始前から治療6カ月後までを比較したデータ。重症のめまいも1カ月程度で中等度になり3カ月経過で軽度になることが分かる。

新井式めまい体操とはどういう体操か、フィギュアスケートで説明しましょう。氷上の競技は、各選手の華麗なジャンプやスピンが見どころです。選手らがスピンをしてもめまいを起こさずに、笑顔を見せて滑走を続けることができるのは、日々の厳しいトレーニングで技術を磨き、身体のバランスを司る小脳を鍛えているからです。新井式めまい体操も、その小脳を鍛えることがポイントです。小脳はバランスを司る司令塔であり、同時にバランスの左右差を改善する機能をもっています。平衡訓練を行うことにより、小脳が前庭器の左右差を少しずつ改善する機序があります。これを「小脳の中枢性代償」と呼んでいます。

小脳の中枢性代償機序をプロペラ飛行機を例に説明すると、プロペラは左右の三半規管、パイロットは小脳です。片方のプロペラが故障してしまっても、パイロットが優秀であれば、バランスを取って飛行を続け、無事に帰着することもできます。つまり新井式めまい体操のリハビリを行って小脳を鍛え上げれば、めまいやふらつきを改善することができると考えています。めまいやふらつきがあると、立ち上がるのが怖くて寝てばかりになりがちです。そのような方々に、「寝ているだけでは治りませんよ」と、声を大にして伝えています。

また、めまいやふらつきを訴える方は、几帳面で、自分の身体のちょっとした変化に対して神経質に捉える傾向があります。「つらい」「治らない」と連呼していると、「幸せホルモン」と称されるセロトニンの分泌量が減り、うつ傾向が強まります。一方で、小脳は欲求や前向きな言葉を発すると活動性が高まることが、さまざまな研究から明らかにされています。新井式めまい体操では、「治したい!」「負けない!」「治す!」という前向きの言葉を発してから臨んでいただいていますが、小脳も学習しやすくなる効果があると考えています。

めまいはストレス病

新井式めまい体操は、3つの基本的な体操と6つの体操で成り立っています。ここでは、3つの体操「①速い横」「②ふり返る」「③50歩足踏み」をご紹介します(図3)。いずれも目がポイントで、手の指先から視線を外さないことが重要です。座って行う体操では椅子に深く腰掛けて、脚を肩幅くらいに広げて安定させます。1日1回から始め、徐々に朝昼晩の3回できるようにします。

図3 新井式めまい体操

①速い横:両腕を肩の高さに上げて、肩幅より広めに開き、頭は動かさず目だけで左右の親指の爪を交互に見る。20回行う。ゆっくりしたスピードから始め、慣れたら1秒に1回視線を動かせるようにする。

②ふり返る:腕を前に伸ばして親指を立て、頭を左右に30度ずつ回す。20回行う。視線が親指から離れる場合、その方向の三半規管に機能低下がある。首の悪い方や、高齢者はゆっくり行う。

③50歩足踏み:両腕を肩の高さに上げ、目を開けたままで、その場で50歩足踏みをする。ふらつき予防になる。高齢者や脚の悪い方は転倒しないように注意して行う。

日常生活で、めまいやふらつきを防ぐためのアドバイスの第一は、睡眠不足を避けること。仕事や家事などで睡眠時間を減らすような無理をしないようにしましょう。2つ目は、天気の悪い日は諦めましょう。めまいやふらつきは通年起こるのですが、内耳には気圧を感知するセンサーがあり、気象の影響を受けやすく、梅雨や台風の時季などは発症を促す要因でもあります。また、寝るときに同じ側ばかりを下にして寝ていると、重力で耳石器に負担が生じて耳石が剥がれやすくなるので、注意してください。めまいやふらつきはストレス病でもあるので、自分なりの気分転換法を持ちましょう。過密なミッションをこなす宇宙飛行士は、休憩時間には必ず地球を眺めて気分転換していると聞いたことがあります。自分の好きな景色、お気に入りのタレントや俳優の写真でもいい。30秒から1分間程度、後ろ向きなことを考えずに眺めるのは、お金のかからないストレス解消法です。

めまいやふらつきを上手に回避して、充実した生活を取り戻してほしいと考えています。

(図版提供:新井基洋)

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ヘルシスト 264号

2020年11月10日発行
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