特集 知られざるポリフェノール 〈巻頭インタビュー〉
さまざまな生理作用の解明で「第7の栄養素」となれるか

構成/渡辺由子

ポリフェノールは、動けない植物が、置かれた環境で生存するために産生する化学物質だ。人間にとって有用な生理作用で知られ、抗酸化作用や抗炎症作用などが報告されているが、その作用メカニズムには謎も多い。その中で最も確実性が高いのが血管の保護作用だ。動脈硬化を抑制して心血管疾患の発症に予防作用があるという。解明が進めば、3大栄養素、ビタミン類、ミネラル類、食物繊維に続く「第7の栄養素」となる日が訪れるかもしれない。

徳島大学名誉教授

寺尾純二(てらお・じゅんじ)

1973年、京都大学農学部食品工学科(現・食品生物科学科)卒業。1975年、同大大学院農学研究科食品工学専攻(現・食品生物科学専攻)修士課程修了。同大食糧科学研究所助手、農林水産省食品総合研究所食品理化学部脂質研究室長を経て、1997年、徳島大学医学部栄養学科(現・医科栄養学科)助教授。1999年、同学科教授。2016年から現職。2016~2018年、甲南女子大学看護リハビリテーション学部教授。2018~2022年、同大医療栄養学部医療栄養学科教授。

ほとんどの植物の葉の表皮や果肉などに、普遍的に存在する「ポリフェノール」。ヒトの生体に対する調節機能が注目されています。光合成やタンパク質産生など、植物にとって直接的な生命現象に関与する一次代謝産物に対して、動物と異なり自由に動けない植物が、置かれた環境で適切に生存し、その環境を維持するために生み出す化合物が二次代謝産物です。ポリフェノールは二次代謝産物の一つです。

多様なポリフェノールの生理作用

ポリフェノールの分子構造は、芳香族炭化水素(ベンゼン環)と還元性のフェノール性水酸基を共通骨格にしており、複数個が複雑に結合する化合物群です。その種類は8000以上といわれ、フェノール性水酸基が「たくさん=poly(ポリ)」あることから、ポリフェノールと称されます。植物は、その種類に応じて多種多様な生育環境に適したポリフェノールを生み出しており、植物の数だけさまざまな種類のポリフェノールがあると考えられています。

振り返れば、私が植物のちからを意識するようになった、植物におけるポリフェノールの生理作用は、主に7つあります。

  1. ① 紫外線防御作用。光合成するために太陽光は必要ですが、紫外線は植物にとって有害でもあります。表皮付近に紫外線吸収物質としてポリフェノールを産生しています。
  2. ② 抗菌作用。植物にも生育を妨げるさまざまな病原菌があり、感染部位に抗菌成分としてポリフェノールを大量に産生し、感染を防御しています。イネのいもち病の感染拡大を阻止しているサクラネチンは、ポリフェノールの一種です。
  3. ③ 他植物の侵入阻止作用。他感作用(アレロパシー)ともいわれ、他の植物の発芽や成長を阻害する作用です。落ち葉や根から溶出したポリフェノールが、侵入してきた他の種子の発芽を抑制して、自分のテリトリーを守っています。
  4. ④ 動物の摂食作用。雑食・草食動物の摂食忌避のため、ポリフェノールは苦味・渋味成分として作用し、さらに消化酵素を不活性化することから、「食べてもおいしくないよ」というメッセージの役割があります。ヒトにとっても、その昔ポリフェノールはおなかを壊すあくと考えられ、「あくを抜く」ことが必要だとされてきました。
  5. ⑤ 受粉昆虫の誘引作用。赤や紫などの美しい花色は、受粉してくれる昆虫を誘うサインです。花色の主要な部分を担っているのが、植物色素であるポリフェノールの一種のアントシアニンで、分子構造や水素イオン濃度指数(pH)の違いによって、さまざまな色になります。
  6. ⑥ 種子運搬動物への誘引作用。植物は子孫を残すために、種をばらまく一つの方法として、果実を鳥に食べさせています。種は種皮に守られて消化されずにと共に排泄され、発芽の範囲を広げるのに役立っています。果実の色もポリフェノールのアントシアニンによってつくられ、「十分に熟れておいしいですよ」というサインになっています。
  7. ⑦ 菌との共生作用。例えばマメ科植物の大豆は、土壌の栄養分が豊かでなくても育つとされています。土壌に生息する根粒菌がマメ科植物の根にを形成し、大気中の窒素を集めて、栄養分として植物細胞に供給するなど、共生関係を築いています。そこで一役買っているのが、マメ科植物の根に存在するポリフェノールの一種のルテオリンやヘスペレチンで、根粒菌の瘤形成遺伝子を活性化するとされています。

このように、植物は二次代謝産物としてのポリフェノールをさまざまな形で使いながら生存し、その範囲を広げていると考えられています。

ポリフェノールを含む食品には、野菜、果物、茶、コーヒー、チョコレート、赤ワインなど、植物由来のものが挙げられます(図1)。ポリフェノールは、重合体タンニン類(加水分解型タンニン、縮合型タンニン)と、単量体ポリフェノール類(フェノールカルボン酸誘導体、フラボノイド、リグナン、スチルベン誘導体など)に大別されます(表)。植物界に存在するポリフェノールの多くは、フラボノイド化合物で、野菜に多いフラボン・フラボノール類、類に多いフラバノン類、果実類に多いアントシアニジン類、茶やカカオに多いフラバン-3-オール(カテキン)類、および大豆に多いイソフラボン類などに分類されます。

Fukushima Y, et al. J Agric Food Chem, 57: 1253–1259, 2009.

図1 主な食品の100g当たりのポリフェノール含有量ポリフェノールは、植物由来の食品に多く含まれる。日本人におけるポリフェノールの主な摂取源は、コーヒーや緑茶などの飲料とされている。研究が進み、推奨摂取量などが示されることを期待したい。

表 主なポリフェノールの種類と分類ポリフェノールは、植物の花や葉、樹皮などに分布する成分で、化学構造によって分類される。芳香族炭化水素と還元性フェノール性水酸基を複数持つ化合物で、その種類は8000以上といわれている。

ポリフェノールが注目されるようになったのは、ビタミンCを発見してノーベル賞を受賞したアルベルト・セント=ジェルジらが、ポリフェノールの生理機能性を1936年に初めて報告したことに始まります。柑橘類に含まれるフラボノイドが、ヒト毛細血管の抵抗性低下や血管透過性を抑えて血管を保護することが示され、ビタミンPと名づけられました。現在では、ポリフェノールにはビタミン類で確認できる欠乏症がないことから、ビタミンPの存在は否定されています。

1990年前後から、脂肪摂取と冠動脈性心疾患による死亡率の関係について、フランス人はコレステロールと飽和脂肪酸の摂取量が多いにもかかわらず、冠状動脈性心疾患の死亡率が低く、因果関係が一見逆に見える現象から、「フレンチパラドックス(逆説)」として話題になりました。フランスでは赤ワインの摂取量が多いことから、赤ワインに含まれるポリフェノールによる動脈硬化の抑制作用ではないかと推測され、赤ワインが世界的なブームになったことは、今なお記憶に新しいことです。

消化管に働きかけて間接的に作用を発現

ポリフェノールの研究は徐々に進みましたが、学術的に注目されたのは、1993年に発表されたオランダの研究グループによる本格的な疫学調査です。オランダ成人のフラボノイド摂取量と冠動脈性心疾患による死亡率が逆相関することを報告。このときのフラボノイドの主な供給源として、紅茶、リンゴ、タマネギが挙げられています。この研究成果が端緒となり、血管維持作用に関するさまざまな疫学調査や小規模ヒト介入試験が実施され、ポリフェノールの生理作用に一層注目が集まるようになりました。

ポリフェノールの血管維持作用については、一つに酸化ストレスに対する役割が考えられていました。ポリフェノールの構造で基本的な骨格を成す還元性のフェノール性水酸基は、老化やがん、動脈硬化などさまざまな疾患の原因となるフリーラジカルを捕捉し消去する、直接的な抗酸化作用を発揮することが知られています。そのことから、ポリフェノールの抗酸化作用が期待されました。

ただし、ポリフェノールの体内への吸収は、ポリフェノールの生理作用を解明するうえで、非常に重要です。ポリフェノールの種類によって異なりますが、重合体タンニン類は体内へはほとんど吸収されず、口から胃、小腸、大腸を経由して便中に排泄されます。単量体ポリフェノール類は、小腸で一部は吸収されるのですが、基本的に生体はこれを栄養素とは判断せず、毒と判断して肝臓を経由する解毒代謝が行われて、最終的に尿中に排泄されてしまいます。

私たちは野菜や果物、コーヒーや茶飲料などから日々ポリフェノールを摂取していますが、カロテンやビタミンEに比べて摂取量は多いものの、実は生体利用性は低いのです。つまり、ポリフェノールの抗酸化作用として、直接的にフリーラジカル捕捉作用を発揮できる血中での有効濃度に達しないまま、速やかに代謝変換されてしまいます。従って、フリーラジカルを直接捕捉し消去するという、抗酸化剤としてのポリフェノールの役割は否定されるようになりました。

ポリフェノール摂取の生理作用について、細胞や実験動物レベルでは、抗酸化作用・抗炎症作用の他、細胞内情報伝達系への関与・遺伝子発現調節を介した生活習慣病など非感染性疾患予防の可能性が示唆されています。なお、ポリフェノールの体内動態については、動物種によって異なると考えられるため、動物実験の結果をヒトに当てはめるには、注意が必要です。

前述したポリフェノールの抗酸化作用についても、ポリフェノール摂取が体内で直接的に抗酸化作用を発揮するのではなく、消化管に働きかけて、間接的かつ多面的に作用を発現させているのではないかと考えられるようになり、消化管に着目した研究が進んでいます。

また、数多く報告されている疫学研究やヒト介入試験から、ポリフェノール摂取によるヒトへの生理作用には、「心血管疾患予防」「メタボリックシンドローム(脂質代謝異常・糖尿病・高血圧・内臓肥満)予防」「ロコモティブシンドローム(骨粗しょう症やサルコペニア〈加齢性筋萎縮〉)予防」「抗アレルギー作用」「パーキンソン病やアルツハイマー病の予防に関わる認知機能維持作用」などが示唆されています。

その中で生理作用の発現が最も確実視されているのは、血管に対する保護作用で、動脈硬化を抑制し心血管疾患の発症を予防する効果です。2019年にデンマークで発表されたフラボノイド摂取に関する食事調査のコホート研究の結果報告は、まさにそれを示唆するものでした(Bondonno NP, et al. Nat Commun, 10: 3651, 2019.)。原因から結果を追跡する前向き研究で、デンマークの成人5万6048人(50~65歳)に対して食事調査を行い、約23年間フォローアップしています。

フラボノイドの摂取は全死亡率、心血管疾患死亡率およびがん関連死亡率と逆相関することが分かりました。また、非喫煙者では1日500㎎以上の量を摂取しても、さらなる逆相関は確認できません。つまり、フラボノイド摂取量と死亡率との間での逆相関は、フラボノイド500㎎摂取が限度であることを示しています。喫煙者では、フラボノイド1000~2000㎎まで逆相関が見られ、喫煙者に対しては、フラボノイド高含有食を積極的に摂取することが、死亡率低下に役立つ可能性が示されました。

作用メカニズムの解明が不可欠

しかし、これは疫学調査のため、喫煙者の疾病リスクとフラボノイド摂取の関係を直接証明するものではなく、その証明にはヒトでの大規模介入試験が必要です。この点を追究した研究報告が2022年に発表され、ポリフェノール研究者たちの注目を集めました。この研究は、アメリカで2万1442人(65歳以上の女性1万2666人、60歳以上の男性8776人)に対して実施した、心血管疾患とポリフェノール摂取に関する大規模介入試験“the COcoa Supplement and Multivitamin Outcomes Study(COSMOS)”です(Sesso HD, et al. Am J Clin Nutr, 115: 1490–1500, 2022.)。3〜4年間にわたり、毎日ココア抽出物のカプセル2個(80㎎のエピカテキンを含む500㎎のカカオ由来フラバノール)を摂取し、合計5年間追跡した無作為二重盲検プラセボ対照比較試験でした。その結果、ココア抽出物摂取は心血管疾患の発生率を有意に減少させることは認められなかったものの、その死亡率を27%も有意に減少させることが分かったのです(図2)。

Sesso HD, et al. Am J Clin Nutr, 115: 1490–1500, 2022.を一部改変

図2 心血管疾患とポリフェノール摂取に関する大規模介入試験アメリカで実施された大規模介入試験で、ココア抽出物摂取群とプラセボ群の4年間の心血管疾患発生率と死亡率の比較を行った。その結果、ココア抽出物摂取は、心血管疾患による死亡率を有意に下げたことが分かった。

他にも、最近ではポリフェノールによる老化細胞の選択的除去の可能性についても研究が進められています。老化細胞は生活習慣病を引き起こす一因と考えられ、加齢に伴って現れて、肝臓などの臓器に蓄積していきます。老化細胞の増幅は炎症を起こす物質をまき散らすと考えられており、選択的に老化細胞を除去する作用がある化合物群「セノリティクス(老化細胞除去剤)」を用いたセノリシス(老化細胞除去)のヒト臨床試験が進められています。その候補化合物の一つに、ポリフェノールの一種のケルセチンが挙がっており、研究の進展を見守っています。

ポリフェノール研究の発展には、ポリフェノールの作用メカニズムの解明が不可欠です。メカニズムが解明されることで、健康維持や増進におけるポリフェノールの有効利用に一層つながるでしょう。

また、私見ではありますが、食生活における野菜や果実摂取の意義と、ポリフェノールの関係を明らかにすることで、日々のポリフェノール摂取基準と摂取推奨量の設定が可能になります。そのためには、食品含有量のデータベースを作成し、介入試験・疫学調査を推し進め、さらにデータサイエンスによる総括的な機能性評価を行い、科学的エビデンスを構築することが求められています。そして、ポリフェノールが、3大栄養素に加えてビタミン類やミネラル類、食物繊維に続き、第7の栄養素(バイオファクター)として位置づけられることを期待しています。ポリフェノール研究の課題は数多く、その解決には困難も伴いますが、さまざまな可能性を秘めているポリフェノールに、皆さんも期待を寄せていただきたいと思います。

(図版提供:寺尾純二)

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2024年9月10日発行
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