特集 「糖質」そこが知りたい 老化を促進させる「糖化」から身を守る糖質の適切な摂り方

構成/菊地武顕

ストレスはさまざまな病気の原因となることが知られているが、老化を早める要因にもなっている。いくつかあるストレスのうち近年注目されているのが、糖化ストレスだ。糖化とは、体内のタンパク質が、過剰摂取で余った糖と結びついて劣化する現象で、老化を促進させるAGEsを産生する。AGEsの蓄積は認知症や糖尿病、動脈硬化などの危険因子となり生体に悪影響を及ぼす。避けるにはやはり、「糖を適切に摂る」ほかなく、何を、いつ、どれくらい食べるかが重要だという。

同志社大学大学院生命医科学研究科/アンチエイジングリサーチセンター教授

米井嘉一(よねい・よしかず)

1982年、慶應義塾大学医学部卒業。1986年、慶應義塾大学大学院医学研究科内科学専攻博士課程修了後、アメリカ・カリフォルニア大学ロサンゼルス校に留学。1989年に帰国し、日本鋼管病院内科、人間ドック脳ドック室部長などを歴任。2005年、同志社大学アンチエイジングリサーチセンター教授に就任。2008年、同大大学院生命医科学研究科教授を兼任。糖化ストレス研究会理事長、医食同源生薬研究財団代表理事、日本抗加齢医学会理事。

老化を促進する危険因子は、5つあります。①免疫ストレス、②酸化ストレス、③心身ストレス、④生活習慣、⑤糖化ストレス。この中で非常に重要なのが、酸化ストレスと糖化ストレスです。

タンパク質が糖質によって「焦げる」

酸化ストレスについては、すでに多くの研究がなされてきました。酸化は人間の健康に大きな悪影響を与えますが、人間ははるか昔から抗酸化システムを発展させてきました。酸化を止めるのに重要なのはビタミンCとEですが、人間のビタミンCとEの血中濃度は他の動物に比べ高いのです。それが人間が長寿である理由の一つです。

それに対して糖化ストレスのほうは、まだ新しい概念です。その危険性が指摘されるようになったのは、たかだか50年ほど前のこと。経済の発展に伴い食生活が変化したこと、交通機関や電化製品が発達し運動量が激減したことで、現代人は糖化ストレスにさらされるようになったと考えられています。ビタミンCとEも効果はありません。

糖化とは、体内にあるタンパク質と食事で摂取した糖質が結びついた糖化したタンパク質が過剰に蓄積してしまうことです。糖化タンパク質は、最終的には終末糖化産物(AGEs)と呼ばれる老化を促進する物質を生み出します。

もともと糖化は、食品の反応に関する研究から分かってきたことです。1912年にフランスの化学者ルイ=カミーユ・マヤール(英語読み:メイラード)が発表したもので、メイラード反応ともいわれています。ホットケーキは初め白いペースト状ですが、フライパンにのせて熱を加えると、小麦の中のタンパク質が反応してだんだんきつね色になっていきます。

これと同じように、私たちの体内でタンパク質が糖質によって「焦げる」のです。人間の体はフライパンで熱せられるように急激な温度上昇はありませんが、36~37℃の体温で長い時間をかけてタンパク質と糖質を温めているのです。

食品におけるAGEsは、大部分が健康に良いものです。例えばメラノイジンは良いAGEsの代表です。抗酸化作用があるのです。味噌や醤油に含まれる大豆タンパクは、メイラード反応を起こしてメラノイジンを作り出します。健康に良いだけでなく、風味や味も良くしてくれます。それに対して私たちの体内で作られるAGEsは、すべてが悪いものです。生体内における糖化ストレスは、食品におけるメイラード反応と同じではないからです。生体内では食品と異なり、①反応時間が短い。②主役はグルコース(ブドウ糖)ではない、③血中、組織液、細胞内などいろんな条件下で反応を起こし複雑、④炎症を引き起こす、といった特徴があります。

生体に悪影響を及ぼす糖化ストレス

前記の②に挙げた主役ですが、これはアルデヒドです。グルコースの化学式は、C6H12O6。炭素(C)が6つもあります。フルクトース(果糖)も同様です。そしてその99%以上は環状になっています。ところが熱が加わったり、紫外線が加わったり、酸化ストレスがかかったり、他のアルデヒドに攻撃を受けたりすると、その配列が壊れ、ちぎれて、アルデヒドとなります。

近年、血糖スパイクという言葉が非常に注目されるようになってきました。食後に急激に血糖値が上がることを指します。明確な定義はありませんが、食後に血糖値が140㎎/㎗を超えるようでしたら、血糖スパイクに入るといっていいでしょう。

この血糖スパイクをきっかけに、いろいろなアルデヒドが連鎖反応的に大量に生まれます。アルデヒドスパークです。2015年にドイツで、グルコースを摂取して血糖値を上げる実験が行われました。その結果、血中のグルコース濃度(血糖値)が上がると同時に、グリオキサール(GO)、メチルグリオキサール(MGO)、3-デオキシグルコソン(3DG)といった糖質由来アルデヒドが生まれることが確認されました。アルデヒドは非常にタンパク質と反応が高く、結合しカルボニル化タンパク質となり、それが進むとAGEsになります。アルデヒドの中でも特にグリセルアルデヒド由来のAGEsが、最も毒性が強いです(図1)。

図1 ヒトの体内では糖質由来のさまざまなアルデヒドが生まれるC6H12O6の化学式で表されるグルコースとフルクトースは、熱や紫外線が加わるなどすると、配列が崩れてさまざまなアルデヒドとなる。

また、糖化ストレスは生体にさまざまな悪影響を及ぼします(図2)。

図2 糖化ストレスが生体に及ぼす影響糖化ストレスは、認知症、動脈硬化、白内障・加齢黄斑変性などさまざまな老化の原因となっている。

例えば認知症。アルツハイマー型でいいますと、アミロイドβの糖化、タウタンパクの糖化が悪影響を与えます。アミロイドβがアルツハイマーを引き起こすといわれていますが、そうではなくて、糖化したアミロイドβが悪いのです。アミロイドβは酵素で分解されて脳からクリアランス(排出)されます。ところが糖化アミロイドβは凝集し神経毒性を増強させるうえ、分解しにくいのです。酵素をもってしても分解されず、クリアランスされにくくなるのです。

動脈硬化の危険因子の一つとして、LDLコレステロールが挙げられますが、これも酸化と糖化した修飾(異常)LDLコレステロールが悪いと考えられます。修飾LDLコレステロールが生まれると、マクロファージという白血球が貪食します。食べ終わるとマクロファージは泡状の細胞となり血管の壁に沈着し、動脈硬化を進行させます。

目についていえば、クリスタリンというタンパク質が糖化して濁ることが白内障と関係していますし、加齢黄斑変性症は網膜にドルーゼンという物質がたまって起きる病気ですが、これも糖化や酸化したタンパク質によって生じるものです。

骨は、その重さの3分の1をタンパク質が占めています。それが糖化しますと折れやすくなります。関節も、プロテオグリカンというクッションの役割を果たしている軟骨マトリックスタンパクが糖化すると、変形性関節症の原因となります。皮膚のコラーゲンが糖化するとコラーゲン繊維が硬くなる架橋形成も生じ、AGEsが皮膚にたまると黄ばんだ肌になります。

何をどう食べたらいいのか

現代は糖化ストレスと闘う時代といっても過言ではありません。その対策として必要なのは、①血糖スパイクの抑制・アルデヒドスパークの緩和、②AGEsの生成抑制・分解促進です。そのために有効な食事の摂り方についても、研究が進んできました。

どのような食べ物であっても、食後に血糖値が上がるのは間違いありません。ただし、急激に上昇させるものもあれば、緩やかに上昇させるものもあります。とはいえ緩やかに上昇させる食品のみを食べることは、あまり現実的ではありません。そこで提案したいのが、PFCバランスです。タンパク質(Protein)、脂質(Fat)、炭水化物(Carbohydrates)の割合を、2:2:6にするのが理想的といわれています。これはカロリーベースで計算します。例えば1日に2000㎉を摂るとするなら、タンパク質400:脂質400:炭水化物1200㎉を摂るわけです。

意外と難しいのが、タンパク質で400㎉を摂取することです。タンパク質は1gで4㎉なので、100gを摂る必要がありますが、これがなかなか大変なのです。例えば和牛肉もも(赤肉)100g中のタンパク質は約23gですから、もしそれだけでタンパク質を100g摂ろうとすると、牛肉を476gほど食べる必要があります。それは難しいため、牛肉以外の食品でもタンパク質を摂るよう心がけないといけません。納豆1パックであれば6~7g、ご飯100gには2~3gが入っています。

最近の研究で、アルデヒドスパークの緩和には、血中のアミノ酸濃度を高い値で確保することが重要であると分かってきました。肉、魚、大豆、乳製品などをしっかり食べることが大切なのです。高齢者は例えば昼食をそば屋で食べる場合、つい「かけそば」「かけうどん」といった具のないものを頼みがちですが、それに卵をのせた「月見そば」「月見うどん」にするだけで、アルデヒドスパークのリスクを減らすことができます。私自身も経験があります。私は定期的に皮膚のAGEsの測定を行っています。ある時期、とても忙しくてきちんとした食事を摂る時間もなく、コンビニで買ってきた菓子パンばかり食べていたことがあります。その時期のAGEsの値は、通常よりもかなり上がってしまいました。炭水化物に偏ったことが、如実に数字に表れたのです。そこで菓子パンをプロテインバーに変えたところ、数値はだいぶ良くなりました。

糖質の吸収を緩やかにする食材として注目したいものに、ネバネバ食品と酢も挙げられます。納豆、オクラ、メカブ、モズク、山芋などのネバネバした成分は、タンパク質と多糖類が結合した糖タンパクの混合物です。この成分を多く含む食品と糖質を一緒に食べると、糖質をコーティングするために、吸収が穏やかになるのです。酢には酢酸が多く含まれています。食事と一緒に大さじ1杯の酢を摂ると、食後の血糖値の上昇が緩やかになることが分かっています。レモンなどのかんきつ類にはクエン酸が多く含まれています。クエン酸にはグルコースの代謝を担うTCA回路を活性化させる効能があり、グルコースをどんどん消費してくれます。

また、α-グルコシダーゼという酵素の働きを阻害するサプリメントの飲用も、血糖スパイクの抑制に効果があります。これはサラシアという植物や桑の葉エキスに含まれるものです。食事に含まれる炭水化物は、α-アミラーゼという酵素の働きで分解され二糖類になります。それはさらにα-グルコシダーゼの働きで、グルコースに分解されるのです。α-グルコシダーゼの働きを阻害することで、グルコースへの分解を遅らせれば、食後の血糖値の上昇を緩やかなものにすることができます。

「1日1食健康法」はマイナスでしかない

何を食べるかに加え、どのタイミングで食べるかということも重要です。

一番のポイントは、朝食をしっかり食べることです(図3)。私たちの研究では、きちんと朝食を摂ると、昼食の後に血糖値が上がりにくいということが分かりました。逆にいうと、朝食を摂らない人は昼食後に血糖スパイクを起こしやすいのです。朝食ではご飯やパンといった炭水化物だけでなく、多くのおかず、特にタンパク質を摂ることがよいことも分かりました。

図3 朝食を抜いたときの血糖・ホルモン変動朝食を摂らないと、昼食と夕食後の血糖値は急激に上昇し、インスリン、グルカゴンの量も増えるためにすい臓の負荷も大きくなる。

食事の回数についていえば、ダイエット法の一つとして「1日1食健康法」があります。朝・昼を抜き、夕食だけを摂るというのです。「食事は1回だけにしなさい。その代わり夕食ではなんでも好きな物を食べていい」という説明にかれる人は多いようです。しかし体の糖化という観点からみれば、これはマイナスでしかありません。逆に、1回の食事量を減らして食事の回数を4~5回に増やすのがいいのかというと、これもいけません。脂肪や糖質の代謝に関係する成長ホルモンに悪影響を与えるからです。成長ホルモンを出すには、胃の中を空っぽにしてから食べるほうがよいのです。

1日3食の習慣を心がけたうえで、実際の食事の際には、いわゆるベジ・ファーストを実践しましょう。つまり、野菜から食べるのです。食べ方でいえば、よく噛んでゆっくり食べることが大事です。摂取する糖質量が同じであっても、よく噛んで食べると少しずつ消化・吸収されるので、糖質が小腸で吸収されて血液に入る時間がゆっくりになります。

次にAGEsの生成抑制・分解促進について説明します。

まずお勧めしたいのは、お茶です。カテキンが効果を発揮するのです。特にハーブティーには、お茶そのものに加えAGEs生成抑制に働く成分も含まれているものが多くあります。私の研究室では、約200種のお茶を集め、成分の分析をしたことがあります。コラーゲンの糖化作用を抑えるかを調べたのです。その結果、カモミール茶、ドクダミ茶、柿の葉茶、茶、グァバ茶、シソ茶、ルイボス茶には多くの有効成分が含まれていることが分かりました。

野菜などの食物繊維にも注目です。食物繊維は腸内で酪酸、プロピオン酸、酢酸といった短鎖脂肪酸を産生させ、腸内細菌叢を変え便通を良くします。それに加えて短鎖脂肪酸は、AGEsの生成を抑制し分解の促進に作用するのです。味噌も大切です。大豆に含まれるイソフラボンは豆味噌となる際に、発酵により水酸化されジヒドロキシイソフラボンに変換されます。これは未変換のイソフラボンと比較して、抗酸化作用が高いのみならず、抗糖化作用も強いことが分かってきました。

老化を遅らせ健康を維持するために、糖化ケアを考えた食事を摂ることがとても大切です。

(図版提供:米井嘉一)

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ヘルシスト 280号

2023年7月10日発行
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