生物 細胞と遺伝子 第32回 がん細胞のミトコンドリアが免疫療法の鍵となるか 免疫細胞のT細胞はがん細胞を攻撃する性質を持つ。一方、がん細胞にはT細胞の攻撃をかわす免疫チェックポイントと呼ばれる仕組みが備わっている。免疫チェックポイント阻害薬は、その仕組みにブレーキをかけることでT細胞を活性化させ、がん細胞を死滅させる。ただ、効く患者と効かない患者の差が大きく、その理由は長らく不明だったが、がん細胞が自らのミトコンドリアを免疫細胞に送り込んで入れ替え、T細胞の働きを制限することが明らかになった。
生物 野本教授の腸内細菌と健康のお話44 腸内細菌の日和見性 我々の共生微生物群である腸内細菌叢の中で、健康の維持促進に資する微生物を「善玉菌」と呼び、その逆を「悪玉菌」と呼ぶ、いわば情緒的な表現が一般化している。
生物 細胞と遺伝子 第31回 がんゲノムの突然変異には特有のパターンがあった! がん化に関わる遺伝子が突然変異を起こし、それが蓄積することで正常細胞はがん細胞に変化する。近年の大規模がんゲノム解析で、さまざまな原因によって引き起こされる突然変異には「変異シグネチャー」と呼ばれる特有のパターンが50種類以上存在することが明らかになった。変異シグネチャーは喫煙や紫外線などの発がん要因と密接に関連していることから、解析が進めば危険因子を正確に特定することができ、発生メカニズムの解明にもつながると考えられている。
生物 特集 謎多き渡り鳥 日本⇄オーストラリア4万㎞! ハリオアマツバメの渡りルート 水平飛行速度最速の渡り鳥として知られるハリオアマツバメは、春、暖かな日本で巣作り・産卵・子育てを行い、秋の訪れとともにオーストラリアへと移動する。しかし子育て以外は空を飛びながら生活しているため観察は極めて難しく、その渡りルートは解明されてこなかった。しかし、小さな記録装置を装着したハリオアマツバメの追跡調査に成功。春と秋の正確な渡りの経路がついに判明した。日本⇄オーストラリアの8の字を描く往復ルートは最短ではなく、じつに4万㎞にも及んでいた。
生物 特集 謎多き渡り鳥 網膜内の光化学反応で地磁気を見ることができる!? 鳥をはじめ多くの生物には、地磁気を検知する「コンパス」が備わっていると考えられている。では鳥のコンパスとはどのようなものなのか——さまざまな仮説が存在するが、生体内における分子レベルでの物理現象を解明する量子生命科学による、新たな仮説「ラジカル対機構説」が提唱され、メカニズムの解明が進んでいる。鳥の網膜内にある光受容体は青色光によって活性して磁石の性質を持ち、地磁気に反応。そのシグナルが視覚に作用することで、鳥は方向を視覚的に捉えるのだという。
生物 特集 謎多き渡り鳥 豊富なデータと最新機器でスピードアップする生態解明 山階芳麿博士が1932年に私財を投じて設立した山階家鳥類標本館をルーツに持つ山階鳥類研究所は、日本の鳥類研究の礎だ。ベトナム戦争時、米軍からの依頼で再開した日本脳炎の感染に関わるサギなどの渡り鳥に足環を着けて行う調査が、現在の鳥類標識調査へと受け継がれている。今では約400人のボランティアに加え、市民からも情報が寄せられる。最新機器も登場し、さまざまな方法が確立している。長年の調査で蓄積された豊富なデータにより生態解明がスピードアップしている。
生物 特集 謎多き渡り鳥 〈巻頭インタビュー〉市民協力と衛星追跡調査から浮かび上がった意外な経路 行動範囲が地球規模の渡り鳥の調査はとても難しく、長いあいだ生態のほとんどは解明されてこなかった。多くの人は謎多き渡り鳥に惹かれ、季節や旅情を感じ、渡り先に思いをはせた。1990年代に人工衛星を利用した追跡調査が始まると、科学技術を利用した渡りを追跡する方法が確立され、謎だった経路や行動が見え始めてきた。一方、個体を実際に見て観察する野外調査も、多くの市民の協力を得て結果を出している。科学技術と連携することで新たな事実が発見される。
生物 野本教授の腸内細菌と健康のお話43 腸内細菌を見る 細菌のサイズは、通常1~2μ(μ=1000分の1㎜)であり、そのままでは目には見えない。そこで、顕微鏡を使って、数百倍から1000倍に拡大して観察する。オランダのアントニ・ファン・レーウェンフック(1632〜1723年)は、自作の顕微鏡を用いて環境中の微生物を観察した。
生物 細胞と遺伝子 第30回 がん細胞を排除する細胞競合 変異した遺伝子を持つ細胞が、長期間のプロセスを経てがん細胞化することは分かっているが、がん化に至るメカニズムは未知の部分も多い。しかし正常細胞ががん細胞などの変異細胞を認識して排除する、細胞競合と呼ばれる仕組みがある。細胞競合とは正常細胞と変異細胞の生存競争のことで、つまり正常細胞の力を高めることができれば、がん化途上にある「前がん病変」を排除できるという。新たな予防的治療法の開発につながると注目されている。
生物 特集 ゲノム編集の真実 AI & ゲノム編集「微生物」で 生物資源の「ものづくり」 温室効果ガスの排出量削減に向けてさまざまな試みが進行している。なかでも生物資源を原料に、バイオ技術を活用して化石資源に頼らない「バイオものづくり」が注目を集めて久しい。ただ、活用できる微生物を見つけることが困難で、実用化は遠い道のりだった。現在、AIとゲノム編集という最新テクノロジーがその距離を縮めつつある。ゲノム編集技術を用いてAIによる設計通りに微生物を改変することで、化石資源を用いないさまざまな化学合成品を効率的に生産することが可能だという。