気になる人の「気にする食卓」第61回 山本一力

構成/編集部  写真/石川啓次

HEALTHIST INTERVIEW

山本一力(やまもと・いちりき)

(作家)

1948年2月18日生まれ、高知県出身。14歳のときに上京し、さまざまな職を経て、1997年に『蒼龍』でオール讀物新人賞を受賞し作家デビュー。2002年に『あかね空』で直木賞を受賞。著書は『牛天神 損料屋喜八郎始末控え』『カズサビーチ』『後家殺し』『ジョン・マン』シリーズなど多数。

長生きをするために体を動かし
満腹を感じる一歩手前で我慢することが大切

高知県出身で中学生時代に東京へ出てきて、さまざまな職業を経験し、2002年に直木賞を受賞した作家の山本一力さん。食べ物が限られていた戦後混乱期の経験から好き嫌いはなく、食べられる幸せを感じているが、食べすぎにだけは注意しているという。そして、毎日の運動も欠かさずに行っている。

幼少期を高知で過ごした山本一力さんに、まずはその時代の食事の思い出を伺った。

私は1948年生まれですから、まだ戦後の混乱期なので出てきたものを食べるしかなく、好き嫌いを言えるような時代ではありませんでした。だから、母親が作ってくれたものは何でも食べていました。でも母親は働いていたため、夕食は朝に作っておいてくれたおかずを食べることが多かったですね。あとは、自分で火おこしをして、簡単にできるものを作って食べていました。

中学時代に東京へ出てきて、食文化の違いに驚いたこともあったという。

東京では、学校に通いながら新聞配達所で働いていました。それで、給料をもらったので隣にあった蕎麦屋へ行き、きつねうどんを頼んだら真っ黒な汁のものが出てきたのには驚きました。思わず「何これ?」と言ってしまったら、店主から「これが東京のうどんだよ」と言われたのを覚えています。高知のうどんは、鰹と昆布の出汁で作られた透き通った汁に太いうどんが入っているので、見た目もまったく違ったのです。食べてみると、辛くて、味も全然違い、油揚げは逆に甘かったのを覚えています。本当に何から何まで違っていて、高知と東京の食文化の差を痛感しました。

山本さんのある日の昼食メニュー。ブリの塩焼き、シイタケ焼き、大根おろし、レモン、タケノコとホタテの天ぷら、芽キャベツとベーコンの煮物、ブリコ、漬物、十六穀米、シジミ汁、イチゴ。

では、社会人になってから現在まで食生活はどのように変化していったのだろうか。

一人暮らし時代は、自宅で作らないものを外食で食べたいと思い洋食屋へよく行っていましたね。カレーライス、オムライス、チキンライス、揚げ物などを食べていたのですが、どれも美味しくて今でも大好きなんです。でも、年齢とともに食べられる量は限られてくるようになったので、今は適量の多種多彩なメニューを自宅で食べるのが楽しみになっています。妻は私が好きな食べ物を把握していますし、これが食べたいとリクエストすることもできますからね。

毎日、3食しっかりと食べている山本さんは、朝食と昼食にこだわりを持っている。

朝食は、トースト1枚に、目玉焼き、ソーセージかベーコン、コーヒーとともに、レモンをたっぷりと搾ったニンジンジュースを必ず飲んでいます。我が家では、さまざまな食材にレモンを搾って食べているので、自宅には常にたくさんのレモンを買い置きしています。そして夜は、夕食後も原稿を書くことが多いため、満腹にならないように食べる量を調整しているので、昼食が楽しみでたくさん食べるようにしています。

無理をせずに運動をすることが大切

自転車で移動することが多いため、若い頃は意識して運動することはなかったが、現在はスロージョギングを毎日欠かさずに行っている。

糖尿病を患っているため医者から、間食は絶対にダメ、決まった時間に食事をする、毎日運動をする、と3つのことを言われています。間食は、守ったり、守らなかったりをずっと繰り返してきたのですが、自分の食べたいという欲求で体を傷めていては意味がないと自覚し、今年72歳の誕生日から本当に食べるのをやめました。まだ自慢するほど日数は過ぎていませんが、これは絶対に続けます。食事時間は自宅にいる限り問題はありません。また、若い頃からどこへ行くにも自転車を利用していたので、意識して運動することはありませんでした。

でも8年くらい前から、朝はラジオ体操、夜はスロージョギングを約40分やるようになりました。スロージョギングは、シューズとトレパンがあればどこでもできるので、海外取材へ行ったときにも走っています。もし雨が降っている日でも、スロージョギングは自宅マンションの廊下を往復しながらやることもできますから。また最近は、スロージョギングの途中に「HIIT(ハイ・インテンシティ・インターバル・トレーニング)」を取り入れています。20秒全力で体を動かし、10秒のインターバルを取る、というのが1セットで4分間、つまり計8セットやるので、本当に体へ負荷が掛かりますが絶対に無理はしません。私は長生きをしたくて運動をしているのですからね。

海外取材の際にもジョギング用シューズとトレパンを持参し、時間があればスロージョギングをしている。(写真提供:山本一力)

最後に山本さんから読者へ向けて、食と健康についてのアドバイスを頂いた。

私は満腹にさせないということを心がけていないと、どうしても食べすぎてしまいます。どんなに美味しいものでも、食べすぎたら毒ですからね。だから食べる量は、自分の体の調子に合わせて加減するようにして、あと一口だけと思うのは控えたほうがいいと思います。自分が食べたいと思う物を我慢するのではなく、量を気にしながら美味しさをかみしめてください。

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ヘルシスト 261号

2020年5月10日発行
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