特集 そこが知りたい! お酒のこと 飲みすぎにご注意 「アルコール」の基礎知識

文/渡辺由子

コロナ禍で外出する機会が減ってストレスもたまり、ついお酒の量が増えてしまう——。そうした酒好きは少なからずいるのではないか。そんな折、酒類の瓶や缶にはアルコール度数とともに純アルコール量がグラムで表示されるようになった。比率表示より明確なため、酒量のコントロールがしやすくなるはずだ。お酒は適量であれば心にも身体にも良い影響を与えてくれる。しかし、飲みすぎは心にも身体にも良くない。

札幌医科大学名誉教授

齋藤利和(さいとう・としかず)

1973年、札幌医科大学卒業。北仁会石橋病院、札幌医科大学医学部神経精神医学講座助手などを経て、アメリカ・イリノイ大学シカゴ校へアルコール依存症研究のため訪問講師として留学。1998年、札幌医科大学医学部神経精神医学講座教授、2004年、同大附属病院副院長、2014年から現職。同年、北仁会専務理事、同会精神医学研究所所長、幹メンタルクリニック院長(札幌市)。2020年から博友会副理事長。国際アルコール医学生物学会元理事長、国際神経精神薬理学会前副理事長など要職を歴任。

2021年3月、「アルコール健康障害対策推進基本計画(第2期)」が閣議決定され、酒類業界に対して、容器にアルコール度数とともに「純アルコール量」を表示するよう検討を求めた。これに対して酒類メーカーは、自社ホームページでの掲載や、容器への表示を進めている。

これは、世界保健機関(WHO)が2010年に、SDGs(持続可能な開発目標)の健康分野で、「アルコールの有害な使用を低減するための世界戦略」が採択されたことに始まる。世界各国で「適正飲酒」への取り組みが進められ、日本でも始まった動きの一つだ。厚生労働省は、推進する「健康日本21」の中の「節度ある適度な飲酒」を、「通常のアルコール代謝能を有する日本人において、節度ある適度な飲酒として、1日平均純アルコールで20g程度である」と定義している。

とはいえ、「適正飲酒」や「純アルコール量」などと聞いても、「?」と思う人も多いことだろう。そこで、健康を害することなく、アルコールを楽しむために知っておきたいアルコールの基礎知識について、アルコール依存症治療の第一人者、札幌医科大学の齋藤利和名誉教授に話を聞いた。同大を定年退職後は、札幌市の幹メンタルクリニックや赤平市の平岸病院で、アルコール依存症をはじめ精神疾患の治療にあたっている。

非常に毒性の強いアセトアルデヒド

「純アルコール量や適正飲酒とされる量について解説する前に、まず、アルコールは体内でどのように消化吸収され、代謝されるのか、知っておきましょう」

摂取したアルコールは、消化されずにそのまま消化管内で飲酒量の90%が吸収される。そのうち20%が胃で、80%が小腸上部で、それぞれの壁面から血管に吸収されるが、飲酒後1~2時間程度で、ほぼ吸収されるというから、かなり速い。残りのアルコールは呼気や尿、汗での体外排出と、他の臓器での代謝で行われる。

肝臓へと運ばれたアルコールは、肝臓を通過する間に、2段階に分けて、それぞれ酵素を使ってアルコールを分解していく(図1)。一次代謝では、アルコール脱水素酵素(ADH:アルコールデヒドロゲナーゼ)がアルコールの主成分のエタノールを分解し、アセトアルデヒドへ代謝する。アセトアルデヒドは非常に毒性の強い物質で、顔が赤くなったり、吐き気、頭痛、などの「フラッシング反応」といわれる不快な症状を引き起こす原因物質でもある。

図1 アルコールの分解肝臓では、アルコールの分解を2段階で行う。一次代謝でアルコール脱水素酵素(ADH)を使ってアセトアルデヒドを産生し、これを二次代謝でアルデヒド脱水素酵素(ALDH)を使って無害の酢酸に分解する。酵素の働きは生まれつきの体質や加齢が影響している。

二次代謝でアセトアルデヒドは、主にアルデヒド脱水素酵素(ALDH:アルデヒドデヒドロゲナーゼ)によって、無害の酢酸(アセテート)へと分解され、血液に取り込まれて全身に送られる。そして、筋肉や脂肪組織などで炭酸ガスと水に分解されて、呼気や尿として体外へ排出されていく。

アルコール代謝能力以内の飲酒量であればよいが、許容範囲を超えると、処理しきれないアルコールやアセトアルデヒドは、再び体内を循環して肝臓で処理するプロセスを繰り返すということだ。

訓練しても飲めるようにはならない

「お酒を飲んでフラッシング反応が現れるかは、生まれつきの体質です。二次代謝で使われるALDHには、『1型アルデヒド脱水素酵素(ALDH1)』と『2型アルデヒド脱水素酵素(ALDH2)』の2種類あり、アセトアルデヒドを分解するのは主にALDH2で、体質の違いを決めるのは、ALDH2の働き方なんです。実は、日本人の約1割は、ALDH2がまったく働かない『非活性型』で、どんなに訓練しても飲めるようにはなりません。ビール1杯でフラッシング反応が現れ、苦しむこともあるので、このタイプに無理にお酒を勧めてはいけません。そして約3割は、ALDH2がわずかに働く『低活性型』で、訓練すれば赤くなりながらも、多少は飲めるようになります。でも、この体質の人はアセトアルデヒドが体内にたまりやすく、肝臓などの臓器は害を受けやすいのです。残りの約6割は、ALDH2がよく働いてくれる『活性型』で、アセトアルデヒドがどんどん分解されて、頭痛や吐き気などの不快なフラッシング症状をあまり経験せずに、飲むことができます。それだけについつい飲みすぎてしまいがちで、肝臓をはじめ、他の臓器の障害のリスクも大きいので、要注意なタイプといえます」

では、ビールや日本酒、ウイスキーなど、さまざまな製法で造られているお酒に含まれる、純粋なアルコールの量、「純アルコール量」を考えよう。その飲料の100㎖中に含まれるアルコールの割合を示す「アルコール度数」とは異なるので注意したい。簡単な計算式がある。

酒の量〈㎖〉×(度数または%÷100)×0.8〈アルコールの比重〉=純アルコール量〈g〉

例えば、アルコール度数5%のビール500㎖缶1本を飲むと、500×(5÷100)×0.8=20で、純アルコール量は20gだ。

覚えておきたいアルコール分解所要時間

「厚労省が提唱する『節度ある適度な飲酒』とは、全身の臓器に悪影響を与えない量として考えられており、それが1日平均で純アルコール量20gとしています。男性よりも肝臓の大きさが小さい女性や、肝機能が低下している高齢者は、アルコール代謝は男性に比べて低いので、20gよりも少ない量のほうがいいですね。また、これを単位として考えるときに、純アルコール量10gを『1ドリンク』として、適正飲酒量は20g=2ドリンクとしています。自分が何ドリンク飲んでいるのか、目安にする単位です。一方で、生活習慣病のリスクを上げる純アルコール量は、1日平均、男性は40g、女性は20gで、アルコール依存症の予備軍や疑いがあるのは、1日約60gを超える『多量飲酒』としています(図2)。健康を害することなく、アルコールを楽しむならば、自分の好きなお酒の純アルコール量とアルコール分解に要する時間を覚えておくのがポイントですね」(表)

図2 飲酒行動の分布アルコールは正常飲酒であれば健康を害することはないが、飲酒量が増えるにつれて、アルコールに関連する問題(健康、事故、対人関係)も増える。問題を抱える人は、早期の治療開始が望まれる。

飲酒量 純アルコール量
(g)
アルコール分解
所要時間
ビール(5%) 350㎖ 14g 約2.3時間
ビール(5%) 500㎖ 20g 約3.3時間
日本酒(15%) 160㎖(約0.9合)
ワイン(12%) 200㎖
チューハイ(7%) 350㎖
焼酎(25%) 100㎖
ウイスキー(40%) 60㎖(ダブル1杯)
チューハイ(9%) 350㎖ 25.2g 約4.2時間
ビール(5%) 500㎖×2本 40g 約6.7時間
ワイン(12%) 750㎖(ボトル1本) 72g 12時間
日本酒(15%) 720㎖(4合) 86.4g 約14.4時間
日本酒(15%) 1800㎖(1升) 216ℊ 36時間

表 純アルコール量と分解所要時間※アルコール分解所要時間は、体重60㎏の人が1時間あたり純アルコール量6gを分解するとして算出。
体内で1時間に分解できるアルコール量は、体重1㎏あたり純アルコール0.1g。表は男女合わせた平均体重を60㎏として、各種アルコール飲料の純アルコール量と分解所要時間を算出。

適正飲酒量を純アルコール量換算で20gとすると、ビール(5%)500㎖缶1本、日本酒(15%)約0.9合、ワイン(12%)200㎖、チューハイ(7%)350㎖缶1本、焼酎(25%)100㎖、ウイスキーやジン(40%)ダブル(60㎖)1杯で、かなり少ない量なのに驚く。

肝心のアルコールの分解にはどのくらいの時間がかかるのだろうか。

「アルコールが体内で分解される速度は、体重に比例し、性別、年齢、体質や健康度にも左右されますが、『体重1㎏につき1時間にアルコール0.1gを分解』と考えるのがわかりやすいですね。摂取した純アルコール量や分解する時間を計るには、おおよその目安として、男女を合わせた平均体重を60㎏と考え、『1時間にアルコール6gを分解』と覚えればよいでしょう。摂取したアルコール量とその分解の所要時間がわかると、『アルコールが抜けるまでに、こんなに時間がかかるの!?』と驚くはずで、適正飲酒量に気をつけるようになると、期待しています」

アルコールが代謝される所要時間は、1時間あたり6gとして、適正飲酒の純アルコール量20gならば約3時間強かかる。午後7時ごろから夕食を食べながら、純アルコール20gのお酒をゆっくり飲むと、午後11時に寝る頃には、アルコールはほぼ分解されて、睡眠中に肝臓に負荷をかけないで済む、ということか。なるほど、納得できる量だが、たまに大酒を飲んでしまった場合、翌日は要注意だ。

「強調したいのは、例えば5%のビール500㎖を2缶飲むと、純アルコール量は40gです。代謝するのに7時間近くかかるので、午前0時まで飲んでいて、翌日の早朝にゴルフへ向かうのに車を運転する場合、アルコールは体内に残っていますから、飲酒運転になるわけです。思っているよりも、アルコールの代謝スピードは遅い、という事実を、皆さん知っておいてほしいですね」

酒だけを飲むのはとても危険

お酒を習慣的に飲んでいると、少量では酔わなくなり、「お酒に強くなった」と思ってしまうが、強くなったというより、アルコールに対する耐性ができてしまったと考えたほうがよいという。

(写真:AGE FOTOSTOCK/アフロ)

「アルコールを肝臓で分解するときに使われる酵素は、ADHとALDHの2種類ありますが、飲酒していると、薬物代謝系のCYP2E1でもアルコールを代謝するようになり、しかもCYP2E1は、使えば使うほど代謝活性が高まることがわかっています。アルコールを代謝する耐性がつく、『代謝耐性』と呼ばれています。つまり、慢性的な飲酒は、前述したADHによる代謝に加えて、この薬物代謝系のCYP2E1も関与するので、アルコールを代謝する能力がさらに高まります。酔いにくくなるために、より一層飲んでしまうことになるのです。大酒飲みはこのメカニズムが働いていると考えられます。以前、大学の新入生の歓迎コンパで一気飲みを強要され、血中アルコール濃度が急激に上昇し、急性アルコール中毒で新入生が亡くなる痛ましい事故がありました。お酒を飲んだ経験がなく、もちろん代謝耐性の低い学生ですから、危険極まりない行為だということを、忘れてはなりません。一方、アルコール依存症の患者は、代謝耐性が上がっているので、普通の人なら亡くなってしまうような血中アルコール濃度になっても、助かることがあります。また、慢性的に体内にアルコールがある状態になると、肝臓に限らず、どの臓器においても障害が起こるようになるので、飲酒量は適正な範囲内であることが大切なのです」

齋藤名誉教授によるイラスト。アルコール飲料の一気飲みによる死亡事故を受け、その危険性への理解を促す講演会で使用したという。

最近は、甘くて飲みやすくアルコール濃度が高いチューハイが人気だ。齋藤名誉教授は、「十分に注意して飲んでほしい」と呼びかけている。

「飲みやすいからぐいぐいと飲んでしまいがちですが、お酒は味わって飲むものです。お酒は食品の一つであり、歴史や地域特性を積み重ねている食文化の一つです。そこから離れて、お酒だけを飲むのは、とても危険ですから、食事とともに味わうようにしましょう。お酒だけを飲んでいると、ビタミンB1を消費し、それによって運動失調や意識障害を起こすウェルニッケ脳症や、認知症を招くこともあります。アルコールの分解に必要なたんぱく質も積極的に摂っていただきたいですね。お酒を飲むときは、バランスのとれた食事とともに、語り合いながらゆっくり飲むようにしましょう」

新型コロナウイルス感染症の感染拡大で外出自粛が続き、誰もがストレスをためているが、ストレスは飲酒を促進させてしまう。お酒そのものが、抗不安薬や抗うつ薬の代用になるからで、飲んでいるときや飲酒当日は気分が晴れて、ストレスを発散できたように感じる。しかし、気分が良くなって適量でやめられなかったり、つらいことを忘れようと杯を重ねることが常習化すると、アルコール依存症の予備軍になりかねないので、気をつけなければならない。

「ストレスを抱えて独りで飲むのは、なるべく避けましょう。コロナ禍でうつ病の患者が増えていますが、独りで飲むとその鬱々とした気分を晴らそうと、無茶な飲み方をしがちです。外出自粛で『オンライン飲み会』という新しいスタイルが浸透していますが、友人・知人と語り合いながら楽しく飲めるというメリットがあります。お酒は、適量であれば心にも身体にも良い影響を与えてくれ、人生を豊かにしてくれます。お酒を愛して飲んでほしいと思っています」

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ヘルシスト 268号

2021年7月10日発行
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