気になる人の「気にする食卓」第64回 岸本葉子

構成/編集部  写真/杉山秀樹

HEALTHIST INTERVIEW

岸本葉子(きしもと・ようこ)

(エッセイスト)

1961年6月26日生まれ、神奈川県出身。東京大学教養学部卒業後、一般企業勤務を経て中国に留学。帰国後はエッセイストとして活躍中。2003年には自らのがん闘病を綴った『がんから始まる』(晶文社)が反響を呼ぶ。最新作は『50代、足していいもの、引いていいもの』(中央公論新社)。

自分が集中できるものを見つけられれば
心の体力をつけることができ強くなれる

エッセイストとして活躍する岸本葉子さんは、2001年に虫垂がんと診断されて手術、治療をしていく中で食生活を見直し、腸内細菌を考えた食生活を心がけている。また、父の在宅介護を通じて筋肉の大切さを痛感し、自分が楽しく体を動かすことができるダンスフィットネスと出合い、心の体力も養っている。

鎌倉で生まれ育った岸本葉子さんに、まずは幼少期の食生活について伺った。

当時は魚屋さんが自転車で家まで売りに来ていたので、新鮮な魚が毎日食卓に上がっていました。よく食べていたのが鎌倉の特産品である「たたみいわし」で、軽くあぶったり、醤油をつけたりして食べていたのですが、パリパリした食感が特徴的でした。そうしたおかずに、ご飯、味噌汁、漬物がある定食屋さんのような食卓で、それが当たり前だと思っていました。でも、今の日本の食生活の現状を聞くと私が食べていたような一汁三菜という基本が崩れているので、うちは基本の食生活がしっかりできていたのですね。まさに母のおかげですが、母は古い人だったのでもったいない精神が強く、シイタケの軸も炒めて食卓に並べていました。でも、それを人に話したら普通は食べないよと言われて、私は捨てるところを食べていたのかと思いました(笑)。

大学1年の途中から一人暮らしを始め、自分でも料理をするようになったが、その食生活が大きく変わったのは2001年の終わりごろだという。

あるとき、腹痛と発熱が続いていたため医療機関を受診したのがきっかけで、大腸がんの一つである虫垂がんであることが分かり手術を受けました。これをきっかけに、私は自分ができることをやっていこうと思い、食生活も見直しました。例えば、出汁入りの味噌を使わないで、伝統的な製法で作られた味噌を使い、出汁は自分で取るようになりました。米も玄米を買うようになり、家庭用の精米機を使って、出た糠と水と塩を使い糠漬けも作るようになりました。私は糠漬けを、食パンを入れるようなほうろう容器に密閉蓋をして冷蔵庫で漬けているので、毎日かき混ぜる必要がありません。1日置きでも味は落ちないし悪くなる心配もないので、働く人や忙しい人にもぜひ試してもらいたいと思います。台所が臭うこともなく、塩も少なくて済むなど、いいこと尽くしなんです。その自家製糠漬けは、基本的に毎日昼と夜の2回食べています。

がんになった後は、特に発酵食品を意識して食べるようになりました。手術の後遺症で腸の動きが悪くなりやすいので、その自分の弱い部分を発酵食品の力を借りて活性化しているのです。まさに腸内細菌を考えた食生活を心がけています。たまに出張へ行き、家のごはんでないものを食べると途端に便通が滞るので、日頃の食生活で発酵食品を摂取して食物繊維の多い生活をしていることが、いかに腸の助けになっているかということを実感しています。

ある日の昼食メニューは、ピーマン・タマネギ・干しエビ(アミエビ)の甘辛和え、サンマの干物、梅干し・ノリ、ちりめんじゃこ、糠漬け、ミニトマトのおろしポン酢がけ、納豆のイワシ削り節がけ、カボチャ・タマネギ・すりゴマの味噌汁、玄米ご飯。(写真提供:岸本葉子)

楽しく体を動かすことで睡眠の質が向上

岸本さんは現在、人生で一番運動に力を入れて取り組んでいると語る。

若いときから近所のジムの会員になっていたのに、月に1回くらいしか行っていませんでしたが、約6年前から熱心にジムへ通うようになりました。がんになって医師から適度な運動をしたほうがいいと言われたことと、父の在宅介護を5年くらいしたときに筋肉の大切さを痛感させられ、今後を見据えた体づくり、介護予防に取り組もうという気持ちが強くなったからなのです。そのときに出合ったのが、音楽に合わせて体を動かし筋トレもできるダンスフィットネスで、私はとても楽しみながら体を動かしています。自宅で原稿を書いていても、ダンスフィットネス教室が始まる時間が近づくと急いで家を飛び出してジムに行くくらいで、60分のレッスンも時間が経つのが早く感じられます。まさに、今が人生で一番運動をしていると思いますよ。また、思いがけない副次効果もあり、体を動かした日の夜はとてもよく眠ることができるのです。以前は寝ようとして布団に入っても、その前に書いていたことをずっと考えてしまったり、夢の中で原稿を書いたりしていたのですが、体を動かして寝るとそのようなことはなくなりグッスリと眠れるようになりました。睡眠の質が上がったのでしょうね。

最後に岸本さんから、読者へ向けて健康と食生活についてのアドバイスをいただいた。

私は、がんになってから現在まで心のケアとして集中できるものを持つということを心がけています。仕事でも、ダンスフィットネスでも、何でもいいので自分が集中できるものを見つけることが大切だと思います。そういう集中できるものがあると、更年期による体調の変化、両親の介護、子育てに関する悩みなど心配することが多くても強いと思います。好きなことを見つければ心の体力をつけることができるはずです。また、食事に関しては、自分の裁量でコントロールできることが大きいと思います。いろいろな環境というのは、自分の裁量でコントロールすることができませんが、食事は自分が作りたいように作ることができ、目に見える成果として一回一回出てきます。自分の体のことを考えた食事を作ったり、食べたりすることで、その効果を確かめることができるはずです。

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ヘルシスト 264号

2020年11月10日発行
隔月刊

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