特集 免疫力大作戦感染症から身を守る「食生活」と「睡眠」

構成/渡辺由子 イラストレーション/永井 恵

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響が長期にわたることを覚悟し、私たちは新たな生活様式を受け入れつつある。環境がどう変化しようとも、大切なのは、健康で病気にならない体を維持することだ。感染症に負けない免疫力を備えるためには、バランスのとれた食事で栄養をしっかり摂ることと、質の良い睡眠が不可欠。この困難な時期こそ、当たり前ともいえる生活の基本を見直すいい機会になるかもしれない。

神奈川工科大学健康医療科学部管理栄養学科教授

饗場直美(あいば・なおみ)

ノートルダム清心女子大学卒業。徳島大学大学院医学研究科博士課程を修了後、国立公衆衛生院、アメリカ・マサチューセッツ工科大学(ポストドクター)、国立健康・栄養研究所主任研究員や栄養教育プログラムリーダーを経て、2011年より現職。免疫の基礎研究から、より実践的な栄養教育・食育に研究テーマを広げ、公私ともに食育を実践中。子どもから高齢者まで生涯を通じた健康づくりのための栄養教育の実践・評価と、食育における環境整備や評価法について研究。

昨年末から世界中で猛威を振るう新型コロナウイルス感染症に対し、健康であること、病気にかからないことを、強く意識させられる日々が続いています。健康維持や病気予防の要となるのが食生活で、朝昼晩と規則正しく、栄養バランスの良い食事を摂ることが大切です。

私たちの体には、自己と細菌やウイルスなどの異物を非自己として識別し、非自己を体外に排出し、生体の恒常性を保つ機能、「免疫」が備わっています。新型コロナウイルスの増殖を妨げる抗ウイルス薬が開発されていない現状では、免疫力でウイルスを排除し、打ち勝つしかありません。そして、栄養不足は免疫力を下げるとされ、食生活の質が病気と闘う力に大きな影響を与えます。

免疫機能で中心的役割を担うリンパ球の一つであるTリンパ球は、胸腺由来のものとそれ以外のものがあります。胸腺は老化のバロメーターともいわれ、思春期をピークに加齢とともに委縮するのですが、その代わりに頑張ってくれるのが腸管の免疫です。腸管は栄養を消化・吸収すると同時に、腸管粘膜の下にあるさまざまな免疫細胞の産生や活性化を担い、体に侵入する非自己を排除しています。腸管は体内最大の免疫器官であり、ウイルスなどとの闘いにも重要な器官として注目されています。腸内環境を整えることは、栄養をしっかりと消化・吸収する土台をつくり、健康維持と病気予防へつなげるためにも重要なのです。

免疫力を上げる食生活のヒント

新型コロナウイルス感染症との闘いが長期化するにつれ、生活様式は少なからず変わってくるはずです。在宅勤務も増えるでしょう。その中で3食きちんと食べる食生活を送るのは、気力、体力ともに大変なことです。しかしこの逆境を、「自分の食生活を見直し、食育を実践するチャンス」と捉え、気負わずにできることをいくつかアドバイスします。

まず問題になるのが、家族のうち1人が3食すべての献立を考え、調理するストレスです。在宅の時間が長くなり、ストレスが倍増しているので、パートナーや子どもなどと分担することを、ぜひともお勧めします。子どもは幼い頃から調理を手伝っていると、食べ物への興味が増し、自分で調理するおもしろさに触れて、「食の自立」を育むことが期待できます。この機会を「食育のチャンス」と考えてみてください。

1食の献立を組み立てるときの基本は、ご飯・パン・麺類などの「主食1品」と、肉・魚・卵・豆腐や納豆などのたんぱく質を多く含む食材による「主菜1品」、野菜や豆類などの「副菜2品」と味噌汁やスープなどの「汁物」からなる「一汁三菜」。汁物に野菜を入れると汁物も副菜に代えることができます(図1)。食べ過ぎずに、十分な栄養を摂ることができます。

図1 食事の組み立て方(1食500~600㎉が目安)

野菜はカリウム、ビタミンC、食物繊維などの成分の目標量を摂取するためには、1日350g以上摂ることが勧められています。常備野菜(ニンジン、タマネギ、ジャガイモ、キャベツ、キュウリ、トマトなど)でサラダを1品、「主菜」になる食材と野菜を組み合わせて1品を調理。主菜は、同じ食材を使ったとしても、煮物・炒め物、中華・洋風……と調理法や味を変えればバリエーションは広がります。レシピはネットで探せばたくさん見つかるので、「野菜を摂らなければ」「献立のバリエーションが少ない」というプレッシャーから解放されるのではないでしょうか。また、冷凍食品やレトルト食品は、調理の手間を省けて便利だと思います。私はレトルト食品を調味料と考えており、レトルトのカレーに電子レンジで加熱した野菜を加えれば、栄養価も量も増えるのでお勧めしています。

食材の調達は、外出による感染リスクを減らすために、まとめ買いが増えています。しかし、「大根1本を買うと使い切れずに半分以上捨てた」「キュウリをまとめ買いして腐らせた」という声をよく聞くので、食材の無駄遣いを防ぐためにも、3日から1週間で食べ切れる献立をざっと考えてから、まとめ買いに出かけてください。これも、献立を考える力を鍛えるチャンスと考えましょう。

高齢者の低栄養は免疫機能低下を招く

日本人の高齢者が抱えている健康の問題は、二極化しています。一つ目は、肥満が生活習慣病のリスクを高めていること。二つ目は、食事の質の低下や量の不足による痩せで、低栄養から精神的・社会的に虚弱な状態に陥るフレイルなどのリスクが高まります。いずれも、各自の免疫力や抵抗力が求められるコロナ禍では、特に注意しなければなりません。外出困難、味覚や嚥下機能の衰えといったさまざまな問題が、コロナ禍によって、高齢者の食生活と健康状態やQOL(生活の質)を悪化させていると考えられます。

全般的に食物の摂取不足による低栄養は、カロリーの不足やたんぱく質不足を起こし、筋肉量や筋力低下で転倒から寝たきりのリスクが大きくなるサルコペニアに加えて、フレイルのリスクが増大します。免疫力の点で、低栄養は免疫細胞の産生を阻害し、低下させる要因でもあります(図2)。

図2 栄養不良が体に及ぼす影響さまざまな栄養素が不足すると、細胞性免疫や抗体産生などが下がってしまい、免疫機能の低下やストレスを招いてしまう。

低栄養解消の鍵となるのがたんぱく質の摂取で、1日の必要量は成人男性60g、成人女性50gです。さまざまな研究から、サルコペニアの予防には、たんぱく質は毎食一定量で摂ることが望ましいとされており、例えば、朝食や昼食のたんぱく質量が少なくても、夕食でステーキをドカンと食べれば1日分の帳尻が合う、ということにはならないのです。1食分の目安として、肉や魚などの動物性食品は重量の約2割がたんぱく質量と換算できます。

3食のうち、栄養バランスを整えにくいのが朝食です。卵かけご飯や納豆ご飯だけでは、たんぱく質は足りません。これらにヨーグルト100gと牛乳コップ1杯(200㎖)をプラスすれば、許容範囲内になります。できれば、主菜として大人気のサバ缶を利用し、これに副菜として食物繊維の不足分を補う野菜ジュースを加えるなど、工夫次第でバランスの良い献立に近づけることができます。

有用菌優勢な腸内環境で免疫活性に

前述した、体内最大の免疫器官である腸管には、数百種類、100兆個に上る腸内細菌が生息しています。さまざまな細菌が群集を形成しており、その様子から「腸内細菌叢」や「腸内フローラ」と呼ばれています。

腸内フローラは、体に良い働きをする乳酸菌などの有用菌、体に悪影響を及ぼす可能性のある黄色ブドウ球菌などの有害菌、その中間的な菌の3つのタイプに分けられます。中間的な菌は成人においては最優勢菌として、腸内フローラの形成に寄与しています。その性格はどっちつかずで、有用菌が増えれば有用菌に、有害菌が増えれば有害菌に加勢するのです。そのため中間的な菌を味方につけようと、腸内では有用菌と有害菌がせめぎ合っていると考えられます。

また、有用菌には、病原菌が腸内に侵入するのを阻止、有害菌の増殖抑制、腸の蠕動運動を促し便秘の改善、免疫機能を刺激し生体調整のために作用、といった特徴があります。低栄養や栄養素が偏った食事では、有害菌が中間的な菌を味方につけて腸内の最大勢力になり、免疫力の低下を招く危険性が高くなります。

有用菌を優勢にするには、「プロバイオティクス」と「プレバイオティクス」の活用が有効です。プロバイオティクスは、腸内細菌のバランスを改善させる体に良い働きをする生きた菌のことで、生きた菌をたくさん含む乳酸菌飲料などの発酵乳製品、納豆や漬物などの発酵食品を食生活に取り入れることで摂取できます。市場にはさまざまなタイプの菌を含む発酵乳製品が出回っていますが、例えば乳酸菌の数では1本100あたり数十億から数百億個が担保されていないと、なかなか摂取効果はありません。そこで、保健効果や安全性などについて消費者庁がおなかの調子を整える食品として審査して保健の用途について表示を許可した「特定保健用食品(略通称トクホ)」が、発酵乳製品を選ぶ際の目安になります。

一方のプレバイオティクスは、有用菌を増殖させる成分のことで、難消化性オリゴ糖や食物繊維などがそれに当たります。食物繊維を含む野菜を摂ることは、有用菌の活躍を支えるわけで、1日3食で栄養バランス良く食べることの大切さを示しています。

また、近年、腸管免疫と腸内細菌の働きを解明する研究報告が相次いでおり、腸内細菌が腸管粘膜下の免疫細胞とクロストークし、腸管免疫機能を制御していることを示す研究があります。これらのことから、腸内フローラを有用菌優勢の状態にしておくことは、免疫機能の活性につながると期待されています。

私たちの研究グループでは、「乳酸菌飲料の継続摂取による健康影響に関する研究:二重盲検ランダム比較試験」を2019年9月に発表しました。これは、2カ所の特別養護老人ホームの入所者88人(女性73人、男性15人)に対し、朝食時に乳酸菌飲料1本の摂取を6カ月間継続し、排便回数などとともに、発熱日数や発熱回数などについて解析した研究です。

免疫力が衰えた高齢者は、感染症にかかりやすく、発熱は感染症を検討する基本の症状となります。発熱はさまざまな原因で起こりますが、体のどこかで炎症が起こり、例えば感染症にかかると、その原因となる細菌やウイルスに打ち勝とうと、免疫機能をオンにする免疫反応の一つとして現れたものと判断することができます。

この研究において、発熱の持続時間や発熱日数は、乳酸菌飲料を継続摂取した人たちのほうがプラセボ飲料を継続摂取した人たちよりも有意に短く少ない結果が得られました。年齢別に見ていくと、86歳以上では乳酸菌飲料を継続摂取した人たちのほうが発熱日数は少なく抑えられる傾向が強く現れています(図3)。この結果、プロバイオティクスである乳酸菌飲料の継続的な摂取は、発熱を伴う感染症のリスクを持つ高齢者の発熱を軽減するのに有用であることが分かりました。

図3 年齢別に見た乳酸菌飲料摂取効果饗場教授の研究グループが実施した試験で、乳酸菌飲料を継続摂取した86歳以上の人たちは、発熱日数を少なく抑えられる結果が得られた。(久代ら , 2019 を一部改変)

免疫力を上げる睡眠と食事の関係

現在のように毎日、新型コロナウイルス感染症のニュースを見聞きしていると、知らず知らずのうちに不安が増し、睡眠にも悪影響を及ぼすことが少なくありません。感染予防には、十分な睡眠時間が必要で、免疫力を上げるには良い睡眠が不可欠です。

「睡眠ホルモン」といわれるメラトニンは、脳内の松果体で生成・分泌されています。朝の光を浴びると分泌が抑制され、暗くなるにつれて分泌が促進されて脈拍・体温・血圧を低下させ、体を休めるために自然な眠りへと誘う大切な働きをしています。メラトニンを作る材料となるのが、同じく脳内で分泌されるセロトニンで、メラトニンと交代するように昼間に分泌されて身体活動を促し、暗くなると分泌が抑制されるのです。

このセロトニンは、食事から摂取する必須アミノ酸のトリプトファンを材料として、脳内で生成されています。トリプトファンは、たんぱく質を多く含む食材を摂ることにより生成され、摂取量が少ないと、脳内のセロトニン量が減少することが分かっています。また、トリプトファンが脳内に取り込まれる際には、他のアミノ酸と競合するため、単純にたんぱく質をたくさん摂取すれば良いわけではありません。

トリプトファンを脳内に取り込むために重要な働きをするのが、インスリンです。ある研究により、ブドウ糖などを摂取した際に分泌されるインスリンがあると、トリプトファンと競合する他のアミノ酸は筋肉の合成のために働き、セロトニンの材料となるトリプトファンが脳内に取り込まれやすくなることが分かりました。このことから、3食の食事で、主食のご飯やパンなどの炭水化物からブドウ糖を摂り、主菜の肉・魚などからたんぱく質(トリプトファン)を摂るという献立の構成が、良い睡眠を得る土台になっていることが理解できます。

新型コロナウイルスの感染拡大は、私たちの何気なく過ごしてきた日常が、とても尊いものであることを気づかせてくれました。毎日の食事、睡眠、運動という生活の基本を、この機会に見直し、一つひとつを大切にして過ごしていただきたいと考えています。

(図版提供:饗場直美)

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ヘルシスト 262号

2020年7月10日発行
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