特集 やっかいな鼻の病気 「アレルギー性鼻炎」は治療と体質改善で治したい

構成/渡辺由子

暖かくなってくるといつも花粉症で苦しい思いをする。しかし何らかの花粉は春に限らず飛んでいて、それぞれの時季で悩まされるのが「季節性アレルギー性鼻炎」。アレルゲンの花粉が飛ばなくなれば治まってしまう。一方、ダニやホコリなどが原因の「通年性アレルギー性鼻炎」は、アレルゲンが完全になくなることはなく、こちらはやっかいだ。命に関わる病気ではないが、QOLを大きく損なうため適切な治療が必要だ。

日本医科大学医学部耳鼻咽喉科学教授、同大武蔵小杉病院耳鼻咽喉科部長

松根彰志(まつね・しょうじ)

1984年、鹿児島大学医学部卒業。1988年、同大大学院医学研究科博士課程修了。1988~1990年、アメリカ・ピッツバーグ大学医学部耳鼻咽喉科・頭頸部外科留学(ヒト側頭骨病理研究室リサーチフェロー)。1990年、国立療養所星塚敬愛園耳鼻咽喉科科長。2000年、鹿児島大学医学部耳鼻咽喉科・頭頸部外科学助教授、2007年、同大大学院医歯学総合研究科准教授。2011年から日本医科大学武蔵小杉病院耳鼻咽喉科部長、2015年から同大医学部耳鼻咽喉科学教授。NPO花粉症・鼻副鼻腔炎治療推進会副理事長、事務局長。

花粉やダニなど原因物質(抗原、アレルゲン)を吸い込み、アレルギー反応の症状が鼻に現れる「アレルギー性鼻炎」は、抗原によって2つのタイプに分けられます。近年、患者数が急増している「花粉症」は、抗原が春のスギやヒノキ、秋のブタクサなどで季節が限定されていることから、「季節性アレルギー性鼻炎」とも呼ばれています。

増加している通年性アレルギー性鼻炎

もう一つが「通年性アレルギー性鼻炎」で、その名の通り季節に関係なく、一年中鼻炎が起こっているタイプです。抗原は主に住居内のハウスダストで、ダニとダニに関する物質、繊維くず、ヒトのフケ、ペットの毛やフケ、ゴキブリなど昆虫の死骸を含むホコリです。その70%は、ダニやダニの分泌物・排泄物、死骸の欠片など、ダニに関するものといわれています。ヒトが住む場所は、ダニにとっても快適で、しかもハウスダストはダニの棲みかです。ダニは活動が活発な時期とそうでない時期を繰り返す多少の季節性はありますが、基本的に一年を通して活動しており、ハウスダストによるアレルギーは、ダニアレルギーと考えてよいとされています。

花粉症はいまや誰もが知るアレルギー性鼻炎で、患者数の増加は顕著ですが、通年性アレルギー性鼻炎も増加しています(図1)。花粉症と通年性アレルギー性鼻炎を含み、アレルギー性鼻炎患者の低年齢化が進んでいます。3歳から10歳ころまでは、特に花粉症よりも通年性のダニアレルギー患者が多く、3歳までにダニに感作されると気管支喘息の発症を誘発するとされています。アトピー性皮膚炎や食物アレルギーなど、他のアレルギー疾患とも深い関係があることから、いかに予防し、早期発見・早期治療するかが、大きな問題となっています。

図1 アレルギー性鼻炎の疫学データアレルギー性鼻炎全体の有病率は49.2%で、2人に1人は何らかのアレルギー性鼻炎を持っている。通年性アレルギー性鼻炎は、低年齢化が進み、花粉症と合併するケースが増加。QOLへの影響が大きい。

10代から上の年代になると花粉症患者数が上回ります。いまや日本人の半数近くが、ダニアレルギーか花粉症のいずれか、あるいは両方を持っているとするデータもあります。両方のアレルギー性鼻炎を持っていると、花粉症の時期は症状がさらに重くなるケースが多々見られています。

通年性アレルギー性鼻炎の症状は、花粉症とほとんど同じです。2つのアレルギー性鼻炎は、それぞれの抗原に対して作られた特異的IgEという抗体が、身体を防御するために、鼻粘膜でⅠ型アレルギー反応を起こす疾患です。そのアレルギー反応が、くしゃみ・鼻水・鼻づまりの三大症状です。

さまざまな症状を引き起こす鼻づまり

抗原が鼻の中に侵入すると、体外へ排泄させる防御反応として、粘液を大量に分泌する鼻水やくしゃみが起こります。鼻水の性状は、副鼻腔炎が黄色や緑色の粘度の高いものですが、通年性アレルギー性鼻炎では抗原と闘う白血球と血液中の水分も加わり、透明で水のように垂れ落ちる鼻水(水様性鼻漏)になります。鼻づまりは、鼻の中の粘膜を腫れさせることで抗原の侵入を防御する反応で(図2)、その症状は外見からはわかりにくく、鼻づまりが頭痛や頭重感、肩こりなど、さまざまな症状を引き起こします。

図2 鼻粘膜アレルギー性鼻炎の患者の右鼻腔内の写真。鼻粘膜(下鼻甲介)がボールのように浮腫性に腫脹しているのが認められる。

症状を起こす抗原が鼻の中に入れば、昼夜の関係なく症状が続きますが、昼間よりも夜間や明け方に増悪する傾向があります。出勤前や登校前にくしゃみや鼻水が止まらない、夜に布団に入ると鼻づまりが始まってよく眠れないなど、自律神経の働きの日内変動が影響して、アレルギー反応を起こしやすくする背景因子となっています。

花粉症を含めたアレルギー性鼻炎は、治療しないと生命に関わる生命予後疾患ではありませんが、QOL(Quality of Life:生活の質)に大きく影響する疾患であるため、症状をコントロールする適切な治療が求められます。

通年性アレルギー性鼻炎の治療は、基本的に薬物療法による対症療法で、くしゃみ・鼻水・鼻づまりの三大症状の強さから重症度を判定して、使用する薬剤を決めます。症状の強さについては、1:くしゃみ・鼻漏型(くしゃみや鼻汁の症状が強い)、2:鼻閉型(鼻づまりの症状がくしゃみなどより強い)、3:充全型(くしゃみ・鼻汁・鼻づまりが同じように強い)と大きく3つのタイプに分け、くしゃみや鼻をかむ回数と鼻づまりの程度から、「軽症」「中等症」「重症・最重症」に分類します(図3)。

図3 アレルギー性鼻炎症状の重症度分類重症度は、アレルギー性鼻炎の三大症状のくしゃみ発作か鼻漏(水様性鼻汁)と鼻閉(鼻づまり)の強さから導き出す。これに各症状の程度から病型を判断し、検査結果や鼻内の状態から診断する。

薬物療法で使用する薬剤は多種類あり、患者の重症度に応じて組み合わせます(図4)。現在、第2世代の抗ヒスタミン薬と鼻噴霧用ステロイド薬が二大治療薬で、軽症ではいずれか一つで、中等症以上では二本立てを中心にして他の薬剤を組み合わせ、治療を進めます。

図4 通年性アレルギー性鼻炎の治療治療を進めるために指針となる重症度分類は、重症度と病型を組み合わせて、推奨する治療薬を示している。軽症では使用する薬は1種類でもよいが、重症度が上がると、鼻の各症状を抑えるための治療薬を追加していくことになる。

ヒスタミンは、アレルギー反応を起こすために分泌される神経伝達物質で、その働きを阻害するのが抗ヒスタミン薬です。第2世代の抗ヒスタミン薬は進化し、第1世代の眠気や口の渇きなどの副作用が少なく、効果が持続できるようになって1日1回の服用で済む薬も発売され、使いやすくなりました。もう一つの鼻噴霧用ステロイド薬は、鼻粘膜で炎症を起こす白血球中の好酸球の作用を阻害するステロイド薬を含んでいます。ステロイドというと副作用を心配されますが、噴霧用では鼻粘膜への作用が中心なので、ステロイドの全身への移行は少なく、影響も少ないといえます。

患者の症状に合わせた薬剤療法

これらに加えて、ロイコトリエン受容体拮抗薬(抗ロイコトリエン薬)は、鼻粘膜を腫れさせて鼻づまりを起こすロイコトリエンという神経伝達物質の作用を阻害する薬で、もともとは気管支喘息の薬でしたが、アレルギー性鼻炎にも適用が拡大されました。小児でも飲めるドライシロップの剤形は、3歳未満の幼児のダニアレルギーにも使うことができます。副作用の少ない第2世代抗ヒスタミン薬であっても、小児には痙攣などのリスクもあるために処方しない場合、抗ロイコトリエン薬が処方されることもあります。

他に、「ケミカルメディエーター遊離抑制薬」「Th2サイトカイン阻害薬」「抗プロスタグランジンD2・トロンボキサンA2薬」などがあります。いずれも、アレルギー反応を誘発するロイコトリエン、ヒスタミン、プロスタグランジン、トロンボキサンなどの神経伝達物質(ケミカルメディエーター)の作用を阻害する、あるいは、好酸球を減らすことで、アレルギー反応を抑えて、症状の改善に働く薬などです。

それぞれの薬は、即効性がある、一定の期間を経て効く、三大症状のどれによく効くかなど、タイプがさまざまなので、患者の症状から薬剤を組み合わせていきます。

患者や家族から、「根本的に体質を強くする薬はないのか」と相談されることがよくあります。症状がある限り長期にわたって薬を服用し続けることへの懸念から来るもので、そのときに勧めているのが、「アレルゲン免疫療法」です。抗原(ダニやスギ花粉のエキス)を少量ずつ投与することで身体に慣れさせ、過剰反応を起こさないようにする体質改善の治療法です。これまでは1~2週間おきに来院して注射薬で投与するため、患者負担は大きいものでした。2015年から舌下で溶けるタブレットによる「舌下免疫療法」が5歳以上から保険適用になり、患者は在宅で1日1回1錠を服用するだけでよく、負担が大きく軽減しました。ただし、最低3年間は継続する必要がありますが、服用4~5カ月目から効果を実感するという研究報告もあり、患者の満足度が高く、治療を継続するモチベーションの維持につながっています。

舌下免疫療法は、ダニとスギ花粉症で使え、両方持っている患者に対しては、まずどちらか一方から始めます。効く人ほど、口の中が腫れぼったくなったり、ヒリヒリしたりする副反応がありますが、これは身体がきちんと免疫反応していることを示し、次第に慣れてきます。ただし、どちらで反応が強く出るのか、きちんと原因を知る必要があるので、例えば、最初にスギ花粉症の舌下免疫療法から始め、軌道に乗ったら、ダニを追加するという方法で、安全に治療を進めています。

さらに、薬でも改善しないなどのケースでは、手術を検討します。例えば、鼻中隔が曲がっていると、ちょっとしたアレルギー性鼻炎でも、治りにくい鼻づまりになってしまいます。ヒトは進化の過程で二足歩行になったことで、頭部の重さが鼻中隔の湾曲に影響を及ぼしており、鼻中隔が真っすぐなヒトはいません。それに加えて、格闘技をはじめとするスポーツ、けが、けんかなどで湾曲の程度が大きくなった場合は、手術が勧められます。

また、新薬開発への期待があります。気管支喘息や慢性蕁麻疹で使われてきた、抗IgE抗体医薬の「オマリズマブ注射薬」が、2020年から季節性アレルギー性鼻炎の重症例で適用拡大になりました。2~4週間おきに注射する治療です。他のアレルギーにも効くと考えられますが、まだ適用拡大にはなっていません。抗体医薬やその他の新薬が開発されていけば、通年性アレルギー性鼻炎の治療法の選択肢が増え、症状改善が向上すると考えています。

日常生活においては、住まいからダニを駆逐することが大原則です。ただし、ゼロにすることはできないので、患者には「日々の掃除をきちんとしてください」とアドバイスしています。

いつも鼻水が垂れる加齢性鼻炎

アレルギー性鼻炎ではないのに、一年を通して鼻の症状が続く「血管運動性鼻炎」や「加齢性鼻炎」などがあり、悩まされている方も少なくありません。前者は、検査でアレルギー体質が検出できないけれど、朝夕の寒暖差など、環境の変化によって自律神経が不安定になって起こる鼻炎です。ダニや花粉が原因といったように特定できないので、症状を抑える薬物療法が中心となります。

加齢性鼻炎は、風邪の症状やくしゃみ、鼻づまりはなく、水様性鼻漏が特徴の鼻炎です。かかりつけのクリニック等で処方された慢性副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎の薬を長期服用しても、症状の改善や患者の満足が得られず、大学病院等を受診するケースが見られます。これは、鼻粘膜でアレルギー反応が起きているのではなく、加齢により鼻粘膜が萎縮して薄くなり、鼻粘膜の加温加湿機能が低下することが原因とみられています。通常、吸気は鼻腔内で加温加湿されますが、機能低下によってそのまま肺に流入します。肺で加温加湿されて、呼気として排泄するのに鼻腔を通過する際、呼気中の水分が鼻粘膜で結露しますが、水分を保持する力が衰えているために、水のような鼻水が垂れてしまいます。若い方でも、冬場にラーメンを食べるときに鼻水が垂れることはありますが、加齢性鼻炎では、時や所を選ばず垂れてしまうわけで、患者にとってはQOLの問題になります。

加齢性鼻炎は病気ではないので、治療についてもアレルギー性鼻炎の薬物療法では効果がなく、日常生活での工夫を試していただいています。一つは、1日2~3回、39~40℃の温かい生理食塩水(塩分濃度0.9%の食塩水)を使った鼻の中の洗浄(鼻うがい:図5)で、鼻の中の湿度が、若干ですが上がります。もう一つは足湯などで、足を温めると鼻の中の温度が最大で約0.5℃上がる、という研究報告もあります。この2つの工夫を最低でも1~2カ月続けていただくと、かなりの方で効果が現れています。心当たりのある方は、ぜひ試してみてください。

図5 鼻うがい鼻粘膜に付着した原因物質を洗い流すだけでなく、鼻腔の潤いを保つ効果がある。

通年性アレルギー性鼻炎のくしゃみ、鼻水、鼻づまりの症状は、日常生活に支障をきたして、QOLを著しく損なうものです。適切な診断と治療で、患者の症状に合わせた治療が選択できれば、かなり軽減できる時代になりました。上手にコントロールして、通年性アレルギー性鼻炎と付き合ってください。

(図版提供:松根彰志)

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ヘルシスト 271号

2022年1月10日発行
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