特集 新時代の栄養学体内時計と食の相互作用 —— いつ何を食べるかの大切さ

構成/大内ゆみ

私たちの臓器はそれぞれが体内時計を持ち、およそ24時間のリズムで生命活動を維持している。そのため、“何をどのくらい食べるか”だけではなく、“いつ何を食べるか”という時間を考慮した視点が重要だ。朝型、夜型の人、年齢や生活スタイルによっても、摂るべき栄養素のタイミングがそれぞれ変わってくる。新型コロナウイルス感染症によって変わったライフスタイルを時間栄養学から見直してみよう。

早稲田大学先進理工学部電気・情報生命工学科薬理学研究室教授

柴田重信(しばた・しげのぶ)

1976年、九州大学薬学部薬学科卒業。1981年、同大大学院薬学研究科博士課程修了。九州大学薬学部助教授、早稲田大学人間科学部教授を経て、2003年から現職。専門は健康科学に寄与する生体リズムの仕組みの解明と応用研究。日本時間栄養学会会長。

新型コロナウイルス感染症が拡大する中、私たちのライフスタイルは急激に変化しています。後で詳述しますが、私たちが約3万人を対象に緊急事態宣言下の外出⾃粛中の⽣活リズムと体重の変化についてアンケート調査を⾏ったところ、特に10~30代の若年層において、平⽇・休日ともに⽣活リズムが夜型化(遅寝・遅起き)した人が増えていました。これは通勤・通学などの社会的制約がなくなったからだと考えられます。そして、夜型化した人は体重が増え、朝型化(早寝・早起き)した⼈は体重が減少するという傾向がみられました(図1)。なぜ生活リズムの変化が体に影響を及ぼすのか —— それは私たちの体には体内時計があり、およそ24時間の周期のリズムをつくり出すことで生命活動を維持しているからです。

図1 外出⾃粛における体重変化と睡眠の関係朝型化した人は体重が減少し、夜型化した人は体重が増加したという傾向がみられた。また体重増加した人は睡眠の質の低下がみられた。

体内時計をつかさどっているのが時計遺伝子で、全身の臓器や組織の細胞に存在しています。脳の視床下部にある時計遺伝子が主時計となり、オーケストラの指揮者のごとく、全身の末梢時計遺伝子のリズムを整えているのです。

それぞれの臓器の体内時計は独自の機能を持ち、食物の消化・吸収・代謝・排泄も、胃や小腸、大腸、肝臓、腎臓、すい臓などに存在する体内時計によってコントロールされています。そのため、“何をどのくらい食べるか”だけではなく、“いつ何を食べるか”という時間を考慮した視点が重要なのです。そこで、私たちの研究グループでは、体内時計と食の相互作用を追究する学問として時間栄養学を提唱し研究を進めています。

体内時計と食の2つの相互作用

体内時計と食の相互作用には、2つの側面があります。一つは食物が体内時計に働きかける作用です。そもそもヒトの体内時計は、24時間ぴったりに刻むことができず、個人差はあるものの、やや長い周期になるというズレが生じています。このズレが慢性的に生じていると、いわゆる時差ボケの状態が続くことになります。さらに、平日は早寝・早起き、休日は遅寝・遅起きという生活リズムの変化により、社会的時差ボケが生じることもあります。こうした体内時計の乱れは、睡眠障害や肥満など健康に悪影響を及ぼします。

この時差ボケを解消するためには、体内時計と実際の時刻を同調させることが重要です。同調因子には光刺激があり、朝に光を浴びることで主時計のズレをリセットできるというのはよく知られています。実は食事や運動も同調因子として、重要な働きをしています(図2)。マウスの実験では、決まった時間に餌を与え続けると、末梢時計をリセットすることが分かっています。また、朝食が体内時計を早め、夕食は遅らせることもマウスの実験で分かっており、ヒトでも同じような作用が考えられます。つまり、朝食の欠食や遅い時間の夕食は、体内時計を乱す可能性があり、1日3回の食事をタイミングよく摂取することが重要です。

図2 体内時計の仕組み主時計と末梢時計が生理機能の日内リズムを刻んでいる。実際の時刻と体内時計ではズレが生じているが、朝の光や朝食、運動は体内時計をリセットする。

もう一つの相互作用として、食事のタイミングで栄養素の働きが変わるという体内時計による食への作用があります。例えば、夕食を食べすぎたり、夜遅くに食べたりすると太るということは、誰もが経験的に感じていることです。夕食後は活動量が減り、エネルギーが消費されないこともありますが、時計遺伝子の関与により、朝よりも夜のほうが脂肪は蓄積されやすいという実験結果が報告されています。糖質についても、同じ食事で朝は血糖値が上がりにくく、夜は上がりやすいことが分かっています。これは、血糖値を一定に保つインスリンの作用が、朝は高く夜間に低下するためです。つまり朝は、糖質を摂取しても速やかに糖が細胞にエネルギーとして供給されるのに対し、夜間では糖が十分に細胞に届かず、余分な糖は脂肪として蓄積されてしまいます。

筋肉や臓器、組織の維持に欠かせないたんぱく質も、朝に摂取したものが最も筋肉の合成に有効であることが分かっています。逆に、適量なら良いのですが、夜に過剰なたんぱく質を摂取すると、筋肉の合成に利用されないたんぱく質が増え、それが排泄されることにより腎臓に負荷がかかってしまうのです。

食べる時間によって栄養素の効果が変わる

健康に良いとされる機能性成分の摂取時刻による違いについても、さまざまな研究結果があります。例えば、ゴマに含まれる脂溶性のセサミンは、抗酸化作用によりコレステロールを低下させる作用があるとされています。私たちの研究では、朝にセサミンを摂取すると、肝臓でのコレステロールの合成や取り込みに関与する酵素遺伝子の発現が夕に摂取するよりも低かったことから、コレステロール低下効果も朝のほうが高いという結果が示されました。

また私たちは健康な高齢者を対象に、イヌリンという水溶性食物繊維を含む菊芋パウダーの摂取についても研究を行いました。水溶性食物繊維は粘着性があり、糖の吸収を緩やかにすることで血糖値の上昇を抑制し、ビフィズス菌などの有用菌の餌になることで腸内環境の改善効果があるとされています。菊芋パウダーを朝食前に摂取した群は、夕食前に摂取した群に比べて便秘の改善がみられました。また、朝食前摂取群のほうが食後の血糖値上昇の抑制効果が高く、昼食・夕食後の血糖値の上昇も抑えられました。腸内細菌叢では朝食前摂取群のほうが、Bacteroidetes門の細菌が増加しFirmicutes門が減少するという変化がより大きくみられました。肥満・高血糖の人では、Bacteroidetes門が少なく、Firmicutes門が多いことが報告されているため、一般的にBacteroidetes門が増加し、Firmicutes門が減少することが良い変化だといわれています。腸内細菌を含む細菌は、体内時計を持っていないため、細菌叢の変化は、腸の体内時計の制御が関与していると考えられます。

その他、リコピンやDHAも朝に摂取したほうが血中濃度が高いという研究結果があり、これは、脂溶性物質を吸収する胆汁が、就寝中に胆のうに蓄積され朝に最も分泌しやすい状態になっているからだと考えられます。これらのことから朝食は体内時計をリセットするだけでなく、体に良い影響をもたらし、非常に重要であることが分かります。しかし、朝食は昼や夜に比べて量が少ないばかりか、食べないという人も少なくありません。そこで、私たちが推奨しているのが、朝食をしっかり摂るとともに、朝食のたんぱく質の量を増やすことです。

朝食こそたんぱく質の摂取を

たんぱく質の必要量は体重60㎏の人は1日に約60gとされていますが、近年では摂取量は減少傾向にあります。特に、筋肉の維持効果が最も期待できる朝食における摂取量が一番少なく、夕食に偏っているというデータもあり、私たちが行った数々の調査でも、同じような印象を受けます。そのため朝食では、たんぱく質を20g摂取するようにし、昼食、夕食で残りの必要量を補います。私はよく「夜たくさん食べても無駄食いになってしまうから、その分を朝に持っていきなさい」と話しています。

どの食物からたんぱく質を摂るかというのも重要です。私たちの研究では、魚、肉、大豆製品を比較したところ、筋肉の維持には大きな差はみられませんでした。ただし、肉には脂質も含まれているため、摂りすぎには注意が必要です。大豆製品に含まれるイソフラボンは、血流改善作用があり、積極的に取り入れるとよいでしょう。忙しい朝に調理するのが難しければ、牛乳やヨーグルトなどの乳製品、豆乳などを活用するのも一法です。中でも牛乳は骨形成に必要なカルシウムも含まれています。ただし、カルシウムは夕方から夜にかけて吸収が高まり、骨形成に役立つとされています。そのため、筋肉維持が目的であれば朝に、骨の健康維持が目的であれば夕方に牛乳を飲むとよいでしょう。さらに夜に牛乳を飲むと睡眠の質が向上するともいわれています。しかし、牛乳には乳脂肪が含まれているため、夕方や夜に飲む場合は、無脂肪・低脂肪のものをお勧めします。

私たちは、血糖値の変動に着目した研究も行っています。血糖値は朝食を抜くなど、空腹の時間が長くなると、食べたときに血糖値が急激に上昇します。急激な血糖値の上昇は、血糖値スパイクといい、血管にダメージを与え、動脈硬化を進行させることにより心筋梗塞や脳梗塞のリスクを高めます。また、血糖値スパイクを放置すると、糖尿病の発症にもつながりやすいといわれています。

一方で、最初に摂る食事(ファーストミール)が、次の食事(セカンドミール)の後の血糖値にも影響を及ぼすことも明らかになっています。これをセカンドミール効果といいます。つまり朝食で血糖値の上昇が抑えられれば、その後の食事による血糖値の上昇も抑えられるというわけです。前述した菊芋パウダーの研究における血糖値の抑制効果もこのセカンドミール効果によるものです。

ただし、セカンドミールの効果は4、5時間しか持続しません。そのため、朝食を7時に摂ったならば、12時に昼食、17時に夕食というタイミングが理想的ですが、通常の社会生活では昼食から夕食の時間がどうしても長くなってしまいます。しかも、そもそも夜は血糖値が上がりやすいのです。

そこで私たちは、12時に昼食を摂り、17時から18時に間食として150㎉分のクッキーを摂取した場合としなかった場合で、夕食に同じものを食べて血糖値に差が出るか、試験を行いました。結果、間食をしたほうが夕食後の血糖値の上昇が抑えられました。さらにクッキーと一緒に食物繊維を含む大麦若葉や桑の葉を原料にした飲料を摂取すると、より夕食後の血糖値の上昇を抑えられることが分かりました(図3、4、5)。これまで間食は良くないものとされていましたが、摂取時刻やカロリー量、成分を考慮すれば、いわば「攻めの間食」として、健康に役立てることができると考えています。

間食後の血糖値はいったん上昇するが、夕食後の血糖値は水のみのグループよりも抑制された。加えて、クッキーだけよりも、大麦若葉や桑の葉を含む飲料を一緒に摂取したほうが、より血糖値の上昇が抑えられた。

オーダーメイドの時間栄養学

冒頭のアンケート調査について話を戻しましょう。調査対象は、⾷事管理アプリ「あすけん」(開発:asken)の利⽤者で、ダイエットへの意識が比較的高い人たちです。当初、私たちは平日・休日に関係なく夜型化したため、社会的時差ボケ、つまり体内時計の乱れが解消され、体重が減少するのではないかと推測しましたが、結果は逆でした。

体重が増加した⼈、減少した⼈の回答を解析してみると、両者とも睡眠時間が増加し、社会的時差ボケが改善していたことも分かりました。ただし、太った人は痩せた⼈に⽐べ、間食が増え、睡眠の質が低下し、活動量が減ったと答えた人が多く、睡眠不⾜や社会的時差ボケの解消よりも、朝型/夜型の変化、それに伴う活動量、間⾷、睡眠の質の変化が、短期間の体重変化につながったと考えられました。

やはり朝型の生活リズムは体に良い影響をもたらすようです。とはいえ、単純に夜型が悪いとはいえません。たしかに夜型の生活は、肥満や生活習慣病になりやすく、仕事や学業のパフォーマンスが低下しやすいなど、多くのデメリットが報告されています。しかし重要なことは、朝型と同じような効果をもたらす生活習慣を身につけることだと考えています。

時間栄養学は、例えば7時に必ず朝食を食べなければならないといった画一的なものではありません。朝型、夜型の人も、シフトワークで生活が不規則にならざるを得ない人もいます。また、年齢や生活スタイルによって、摂るべき栄養素のタイミングも変わっていきます。がんの治療も個別化しているように、一人ひとりの生活リズムに合ったオーダーメイドの時間軸の健康指導を提案していくことが重要だと考えています。

(図版提供:柴田重信)

この記事をシェアSHARE

  • facebook

特集
SPECIAL FEATURE

もっと見る