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SPECIAL FEATURE

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多様な性

262号(2020年7月10日発行)

堪忍は無事長久の基

「人の一生は重荷をて遠き道をゆくが如し
いそぐべからず
不自由を常とおもへば不足なし
こころにおこらば困窮したる時を思ひすべし
堪忍は無事長久の(後略)」

戦国の世を終わらせ、江戸幕府初代将軍となった徳川家康(1542~1616年)は、当時の武人の御多分に漏れず、波乱の人生を歩みました。3歳で母親と離別し、青年時代には十数年にわたる人質生活を経験、そして自立した後も、生き残るために、妻子を犠牲にする苦渋の決断を余儀なくされます。

「堪忍は無事長久の基」——耐え忍ぶことは、安全に過ごす根幹である、という言葉は、家康が味わった背景を彷彿とさせ、遺訓といわれて語り継がれてきました。
家康は還暦を過ぎて幕府を開き、75歳で亡くなるまでの間に、260年以上続く泰平の世の礎を築き上げました。

人生後半の家康の頑張り同様に興味深いのは、家康が若い頃から学問を重んじたと伝えられていることです。鎌倉幕府の事績を記した『吾妻鏡』をはじめ、唐の太宗が作らせたという政治の参考書である『群書治要』の他、内外の歴史、法律、儒学、兵法など、家康はさまざまな書物を収集、愛読しました。加えて医学や薬学への関心が特に高かったことも有名で、『和剤局方』など中国の医学書を傍らに置いては体調管理に努め、同様の医薬書『醫林集要』を参考に、自ら薬を調合したともいわれています。

これらは時に幕藩体制を整える力となり、また亡くなる直前まで采配を振ることができた健康の源となったに違いありません。若き日、戦のなくなる世を願いながら、まことあっぱれに雌伏の時を過ごしていたのではないでしょうか。


新型コロナウイルス感染症の感染率や死亡率に男女で差があるのではないかと、一時話題になりました。しばらくしてWHO(世界保健機関)から、感染者の割合はほぼ同じという発表があり、現時点では、男女に有意な違いはないということになっています。しかし医療の現場では、男女で異なる性質、いわゆる性差を治療や創薬における重要な要素と捉える性差医学が注目されています。

免疫機能にも性差は存在していて、例えばリウマチなどの自己免疫疾患は女性に多く、「免疫応答の暴走」といわれる気管支喘息もまた、女性のほうが有病率や重症度が高くなる傾向にあります。そもそも私たちの免疫をつかさどる細胞には「性別」があり、病気によってプラスに働いたりマイナスに働いたりするようです(〈喘息は女性のほうが重症化? 免疫にも「性」がある〉参照)。

一方、自然界を広く見渡してみると、環境に応じて雌雄を行き来する生物も少なくなく、オスとメスという枠に収まらない多様な性が存在します。私たちの社会においても、男女という2つの性だけで捉えられない性の在り方が認識されつつあります。多様な性という概念は、これからの医療にとって大きな課題の一つになるに違いありません。

さて、今号の第2特集「免疫力大作戦」では、感染症予防や健康維持に大切な免疫力を身につける生活様式を提案しています。家康は、耐え忍んだ人生にあっても、健康維持に努めました。だからこそ、泰平の世の礎を築き、生涯現役をまっとうできたのではないでしょうか。私たちも、この困難な時期をただ耐えるだけではなく、生活習慣を見直す良い機会と捉えたいものです。

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ヘルシスト 262号

2020年7月10日発行

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