特集 悩ましい頭痛 異なる「起こり方」と「経過」 あなたはどのタイプ?

構成/渡辺由子  イラストレーション/千野六久

頭痛に悩んでいる人は多い。そのほとんどが緊張型頭痛、片頭痛、群発頭痛のいわゆる「三大慢性頭痛」だが、症状の「起こり方」と「経過」が多岐にわたるため、治療スタート時にどのタイプの頭痛なのかを鑑別することが求められる。しかし自己判断で市販薬に頼った結果、こじらせてしまい、薬物乱用頭痛に陥ることも少なくない。タイプによって効果的な治療法や予防法は異なる。また脳腫瘍やくも膜下出血など重大な病気の徴候かもしれない。頭痛専門医の受診が何より肝要だ。

埼玉精神神経センター/埼玉国際頭痛センター長、埼玉医科大学客員教授

坂井文彦(さかい・ふみひこ)

1969年、慶應義塾大学医学部卒業後、同学部内科学教室に入局し、神経内科および脳循環・代謝の研究を始める。1976年、アメリカ・ベイラー医科大学神経内科留学。Harold G. Wolff賞受賞(片頭痛と脳循環の研究)。1997年、北里大学医学部脳神経内科学教授。2010年11月から現職。日本頭痛学会、国際頭痛学会などの要職を歴任。

「頭痛」は、非常に身近な痛みで、誰もが1回は経験したことがあるでしょう。慢性的な頭痛を抱えている人は、大規模疫学調査から約4000万人に上るとされています。なかには、毎日のようにひどい頭痛に悩まされ、家事や育児、仕事に支障を来しているのに、医療につながらないまま、市販の鎮痛剤でやり過ごしている方もいます。

頭痛のタイプは367種類もある

経済産業省では、毎年「健康経営度調査」を行っています。これは、企業の従業員の健康管理を経営的な視点で考え、健康の保持・増進につながる取り組みを戦略的に実践する「健康経営」を後押しするものです。2021年度実施の調査から、管理職に対して、健康保持・増進に関する教育の内容を問う項目に、新たに「片頭痛・頭痛」が加わりました。つまり、片頭痛や頭痛に配慮した職場環境を整えることが求められていると示しています。

検査をしても異常が見つからず、本人にしかわからない頭痛は、これまで医学的にも、社会的にも軽視されてきましたが、社会的損失の大きさに注目が集まり、理解が広がってきています。

頭痛には、実にさまざまなタイプがあり、頭痛専門医が評価分類の基本としている国際頭痛学会の「国際頭痛分類第3版(ICHD-3)日本語版」によれば、なんと367種類もあるとしています。臨床現場では、これほど細かく分類することはありませんが、まず、「一次性頭痛」と「二次性頭痛」を鑑別します。一次性頭痛とは、頭痛そのものが病気であり、繰り返し起こる慢性頭痛で、多くの人を悩ましています。一方の二次性頭痛とは、脳腫瘍、くも膜下出血、慢性硬膜下血腫、副腎腫瘍など、命に関わる緊急性の高い原因疾患の症状の一つとして起こるものです。

慢性頭痛の治療では、まず二次性頭痛の除外からスタートします。頭痛の「起こり方」と「経過」には、頭痛のタイプによって特徴があり、それをつかむことが最初のアプローチになります(図1)。「いつ、どんなときに起こるのか」「持続して、しかもだんだんひどくなるのか、あるいはだんだん良くなるのか」「症状が波のように出たり、引っ込んだりするのか」などを確認していきます。

図1 頭痛の見分け方(起こり方と経過の違い)主な頭痛の起こり方と経過の違いを、縦軸は痛みの強さ、横軸は頭痛の起こり方と経過で示した。上の4つは一次性頭痛、下3つは二次性頭痛。三叉神経痛は、ズキンズキンと鋭く断続的な痛みが特徴だ。

ところが、「急に頭痛が始まった」「こんな頭痛は初めて」「経過が今までの頭痛と違う」「痛みがだんだん強くなっている」といった訴えは、いわゆる慢性頭痛とは異なる起こり方や経過なので、要注意です。血圧測定やCT、MRIなどの画像診断をはじめ、検査で緊急性の高い二次性頭痛を鑑別し、早期治療につなげます。いつもと異なる頭痛を感じたら、早急に頭痛専門医の受診をお勧めします。

二次性頭痛が除外されて一次性頭痛だとしても、どのタイプの頭痛なのかを把握することが非常に重要です。頭痛を起こすメカニズムが異なれば、効果的な治療法や予防法も異なります。治療のスタートラインで鑑別を間違えると、効果のない治療薬の選択や、医療から離れて市販薬に頼って、いっそうこじらせてしまう「薬剤の使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛)」に陥ることが少なくありません。

緊張型頭痛と片頭痛を併せ持つ患者は多い

一次性頭痛のうち三大慢性頭痛とされているのが、「緊張型頭痛」、「片頭痛」、「群発頭痛」です。前述した有病者数から推定される患者数は、順に約2400万人、約1000万人、約100万人としています。

緊張型頭痛は、精神的なストレスや身体的ストレスが原因で、「ストレス頭痛」ともいわれています。発症のメカニズムの中心が身体的ストレスで、パソコン作業などのうつむき加減の姿勢を長時間続けると、頭を支える首の筋肉(後頸部筋群・上部僧帽筋)に負荷がかかり、筋肉は無酸素運動の結果、酸性となって疲労し、痛み物質のプロスタグランジンなどが蓄積するためです。首の筋肉は頭部全体を包む筋肉につながり、頭全体の筋肉が収縮して、頭痛として現れるのです。こめかみの辺りが締め付けられるように重い痛みが持続する、肩が凝る、目が疲れる、ふわふわしためまい、手のしびれなどの症状がありますが、体を動かすと痛みを紛らわせたり、軽減させたりすることができるのも特徴です。

片頭痛は、頭部の血管が拡張して、炎症が周囲に広がることで起こると考えられています。週に2回から月に2回程度、頭の片側あるいは両側が痛みます。音や光に敏感になり、吐き気を催し、嘔吐などもあり、体を動かすとさらに痛みが増します。発作は4時間から72時間続き、ひどいときは暗くて静かな部屋で寝ているしかなく、家事や育児、仕事に支障を来しますが、治まると普通に過ごせるのも特徴です。

緊張型頭痛と片頭痛は、発症のメカニズムが異なるのですが、臨床現場では両方が起こる混合型の患者が極めて多いことを実感しています。例えば、仕事のストレスが続く平日は緊張型頭痛があり、休日にホッとすると片頭痛が起こるといったケースです。

この2つを正しく鑑別し、的確な治療につなげるには、「触診」は欠かせません。緊張型頭痛の多くは、後頸部にゴリゴリとした塊のようなコリ(しこり)が見つかります。診察時に患者自身の指でも触ってもらい、マッサージを指導します。1分ほどマッサージすると、10あったコリが、4とか3にほぐれ、しかも痛みがかなり軽減されるのです。一方の片頭痛の患者は、痛みのある場所を触ったり、体を動かしたりするのが大嫌いです。頭を下に向けたりすると、うっ血していっそう痛みが増すことから、診察時に「お辞儀をすると痛みますか」などと確認し、鑑別に役立てています。コリがあってマッサージができるときは緊張型頭痛、そうでないときは片頭痛と、おおまかに見分けることができます。

さらに詳しく鑑別するには、起こった頭痛の様子を、日記のように記録する「頭痛ダイアリー」が有効です(図2)。頭痛が起こったのはどういうときか、痛みの強弱、痛みが続いた時間、そのときに服用した薬、家事や仕事の忙しさ、ストレスを感じたこと、天気、湿度、温度、月経期間などを記入し、頭痛のない日の様子も記録します。頭痛の記録は、患者にしかわからなかった痛みが視覚化されるわけで、これを基にすれば、患者とのコミュニケーションに役立ち、治療をスムーズに進めることができます。同時に患者自身が客観的に頭痛を見直し、どんなときに頭痛が起こりやすいのかがわかり、その誘因を避けるように努力するなど、痛みのコントロールにも役立ちます。頭痛治療において、頭痛ダイアリーは必須のツールだと考えています。

出典:日本頭痛学会ウェブサイト(https://www.jhsnet.net/

図2 頭痛ダイアリー頭痛が起こったときのことを記録することで、頭痛の鑑別や必要な治療が見えてくる。患者自身も頭痛を客観的に見直し、誘因を避けたり、快調なときの生活を大切にしたり、頭痛と付き合う方法を発見するきっかけになる。日本頭痛学会ウェブサイトからダウンロードできる。

頭痛が起こっているときに行うと効果的

「頭痛治療といえば鎮痛剤」と考える方が多いでしょう。しかし、私は緊張型頭痛の治療では、基本的に薬を使用しない方向で進めていきます。以前は、筋肉の緊張をほぐすために、筋弛緩剤が使用されていたことがありましたが、全身の筋肉がだらっとほぐれてしまい、良いことはありません。精神的・身体的ストレスが首の筋肉の緊張を招いていることから、首から肩の筋肉をほぐす「頭痛体操」を取り入れています。

頭痛体操にはいろいろなバリエーションがありますが、簡単にできる「肩回し体操」はお勧めです(図3)。緊張型頭痛の原因になっている肩から首、頭を支える肩僧帽筋の緊張をほぐす体操で、肩僧帽筋をストレッチして血行を促し、疲労物質や痛み物質を洗い流します。頭痛が起こっている最中に行うと効果的です。もちろん毎日行って、首から肩周辺の筋肉をしなやかに保てば、頭痛予防にも役立ちます。

図3 肩回し体操両肘を軽く曲げ、両肩を前後に回す(各10回)。前方へはリュックサックを背負うように、後方へは上着を脱ぐような感じで、肩から肩甲骨を大きく回し、肩僧帽筋をストレッチする。椅子に座ってもできる。

また、片頭痛の慢性化を予防するために考案した「頭痛体操」もお勧めします(図4)。片頭痛がないときに行えば、片頭痛予防体操として、緊張型頭痛では頭痛の有る無しにかかわらず行えるので、ぜひ日常的に行ってください。ほかに、ヨガや太極拳のような軽い運動や散歩で心身をリラックスさせるのもよいでしょう。ただし、肩こりのときに首をぐるぐると回す人がいますが、かえって首への負担が増すので、これだけはやめてください。

図4 頭痛体操正面を向き、両肘を軽く曲げ、両肩を大きく回す。頸椎を軸に、肩を左右に90°まで回転させて戻す。リズミカルに最大2分間続ける。体の軸を意識し、頭は動かさずに腕の力を抜く。椅子に座ってもできる。

最後に解説する群発頭痛は、三大慢性頭痛のうち、「最もつらい頭痛」とされています。緊張型頭痛が体を動かすと痛みが薄らぐ、片頭痛は暗く静かな部屋でじっと寝ていたい、というのに対して、群発頭痛は激しい痛みで、じっとしていられずに動き回り、壁に頭を打ち付ける人もいるほどの激痛だといわれています。20~40代の男性に多い頭痛でしたが、最近では女性にも増えています。

群発頭痛の多くは、片側の眼の奥がえぐられるような、後頭部に突き抜かれるような激しい痛みが15分から2時間くらい続くもので、その痛みが一定の期間だけ(群発期)、毎日1回か2回起こります。明け方にかけて起こることが多く、「目覚まし時計頭痛」という別名があります。群発頭痛は確実に片側だけの痛みとして起こり、頭痛と同時に、痛みのある片側だけに、涙や充血、鼻水、汗などの症状が見られるのも特徴です。また、群発期は1~2カ月間で、半年から2年おきに発症して、10年以上続くケースもあります。

鎮痛剤は群発頭痛には効かない

群発頭痛には、激しい痛みを何とか緩和するためにさまざまな治療が取り入れられています。1980年代のアメリカで、頭痛専門医が100%酸素吸入を行ったところ、群発頭痛患者の93%が10分以内に改善し、緊張型頭痛や片頭痛には効果がないことも明らかにしています。日本でも2018年から在宅酸素療法として保険適用になりました。しかし、なぜ100%酸素吸入に効果があるのか、そのメカニズムは解明されていません。

そもそも群発頭痛を起こすメカニズムについては、不明なことが多く、国内外で研究が進んでいます。そのなかで注目されているのが、脳の血管の拡張説です。拡張した血管からさまざまな物質が漏れ出し、周囲を刺激して強い頭痛を起こすのではないかと考えられています。そこで、群発期の最初の1週間に炎症を抑える作用のある副腎皮質ホルモンを大量投与し、群発期の収束に向けて量を減らし、期間の終わりに投与もやめる方法が採用されています。耐え難い群発頭痛の期間を、何とか収める治療法ですが、約70%で効果があります。また、群発頭痛には鎮痛剤は効かないことから、血管拡張を抑え、痛みを鎮めるスマトリプタンの注射薬は、即効性があり、多く使われています。在宅でも使えるように、自己注射用キットも処方されています。

頭痛は誰しも経験があるので、ひどい頭痛があっても、「親も片頭痛があったけど、元気にやっていたから、私も頑張らなくちゃ」とか「静かに我慢していれば何とかなる」などとやり過ごしていると、なかなか受診につながりません。

受診の目安にしてほしいのは、「生活の支障度」です。頭痛があるために、家事、育児、仕事に非常に苦労して、我慢してやっていることがどれくらいあるのか、頭痛による生活の支障度を改めて見つめ直してみてください。支障度を自分で発見し「頭痛を視覚化」したときに、確かに支障度が大きいことに納得できたら、ぜひ頭痛専門医を受診しましょう。日本頭痛学会のウェブサイトに頭痛専門医のリストがあるので、居住地近くで探すことができます。

自分の力で頭痛を見極め、前述した頭痛体操も含めて自分の力で治したり、頭痛専門医の治療によって頭痛を軽減させたりすることで、生活の支障度を下げられるようになりました。

頭痛を正しく理解し、正しい対処法で頭痛から解放されることを、切に願っています。

(図版提供:坂井文彦)

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ヘルシスト 276号

2022年11月10日発行
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