特集 子どもの感染症対策 流行の原因は飛沫・接触感染 「三大夏風邪」は常時要注意

構成/渡辺由子

夏に流行を繰り返すプール熱、手足口病、ヘルパンギーナはいずれも風邪の症状が出るので、子どもの「三大夏風邪」と呼ばれる。しかし最近は、夏以外の時季でも流行する状況になりつつある。例えばプール熱は、プールの衛生管理が徹底されている今は、冬季にもピークが現れる。ヘルパンギーナと手足口病はどちらもエンテロウイルスが病原で、プール熱と同様、保育園や幼稚園で濃厚接触による感染や、接触感染が主な原因で流行する。いつの時季でも要注意の感染症だ。

日本大学医学部小児科学系小児科学分野主任教授/同大医学部附属板橋病院 病院長補佐、総合周産期母子医療センター センター長

森岡一朗(もりおか・いちろう)

1997年、日本大学医学部卒業。2004年、神戸大学大学院医学研究科小児科学修了(医学博士)。兵庫県立こども病院総合周産期医療センター新生児内科医長、アメリカ・スタンフォード大学新生児・発達部門留学、愛仁会千船病院小児科を経て、2007年に神戸大学医学部附属病院助教、2012年に同大講師、2014年に同大大学院医学研究科小児科学分野こども急性疾患学部門特命教授。2018年から現職(病院長補佐は2021年から)。日本小児科学会理事、日本新生児成育医学会副理事長、日本小児感染症学会理事、日本周産期・新生児医学会理事などを務める。専門は、新生児・小児感染症、新生児医学、小児の成長・発達。

ウイルスや細菌などの微生物によって起こる感染症は、子どもにとって身近な病気です。その中で、夏季に増える感染症がいくつかあり、特に「プール熱(咽頭結膜熱)」「手足口病」「ヘルパンギーナ」は、「子どもの三大夏風邪」とも呼ばれています。いずれも感染力が強く、保育園や幼稚園で集団感染することが多く、流行の規模の大小はあるものの、毎年流行を繰り返しています。

2022年の夏は、新型コロナウイルス感染症が収束しない中で、「RSウイルス感染症」「ヒトメタニューモウイルス感染症」、そして三大夏風邪の手足口病、ヘルパンギーナ、プール熱を代表とするアデノウイルス感染症の同時流行という前代未聞の状況になりました。2023年の夏は、手足口病こそ流行は非常に小さかったものの、先に挙げた感染症が2022年と同様かそれ以上に同時流行しています。そのうち、プール熱とヘルパンギーナの感染者数は、「過去10年で最多」を記録し、インフルエンザや新型コロナウイルス感染症との同時感染等、異例の事態となっています。

三大夏風邪はすべてウイルス感染症

この状況は、2023年5月から新型コロナウイルス感染症が感染法上の分類で5類になり、人の移動や感染対策の緩みが原因ではないかとの考えもありますが、2022年と2023年の大流行を考えると、これらの夏風邪の流行は毎年起こると考えておいたほうがよいでしょう。

その理由は、子どもの三大夏風邪については、すべてウイルス感染症であり、感染予防や重症化予防のためのワクチンはありません。つまり、集団生活などで飛沫感染や接触感染によって、容易に流行することを意味します。

例えば、保育園や幼稚園では、昼寝や食事、遊びなどを通して、子ども同士が濃厚接触する機会も多いですし、乳児にいたっては、床をはったり、何でもなめて口に入れたりします。もちろん、乳幼児では適切な手洗いなど基本的な衛生対策が十分にできないことも影響しています。また、正しいマスクの装着は、2歳以下ではマスク装着によるデメリットがあり、マスクによる感染対策は現実的ではありません。

さらに、患児自身の症状がほぼ消失しても、よだれやくしゃみや便などからウイルスを排出していることがあり、症状回復後すぐに登園した場合、ウイルスが周囲にし、再び流行する可能性があることを、保護者をはじめ、子どもを支える周囲の方々に覚えておいていただきたいと考えています。

プール熱、手足口病、ヘルパンギーナの3つの感染症は、夏に流行する「風邪」とされていますが、典型的な呼吸器系の風邪症状よりも、短期間の高熱、目の症状、口内や手足の発疹やといった多様な症状が現れることが特徴です。

まずプール熱は、呼び名からプールの水を介して感染すると思われがちですが、現在はプールの水の衛生管理が徹底され、まれなことになりました。大多数は、手指を介した接触感染や飛沫感染です。5月ごろから増え始め、7~8月ごろにピークを迎えていましたが、近年は冬季にも流行のピークが見られます(図1)。好発年齢は5歳以下ですが、小学生にも目立ちます。

出典:国立感染症研究所「感染症発生動向調査 感染症週報」

図1 プール熱(咽頭結膜熱)の流行状況(2013~2023年)国立感染症研究所の2023年9月29日公表のデータによると、全国約3000の小児科定点医療機関が報告した第37週(9月11~17日)の患者数は、4539人(定点当たり1.45人)と5週連続で増加。例年終息に向かう9月に入っても、終息基準値の1.0人/週を超え、過去10年で最も流行している。

プール熱の正式名称は「咽頭結膜熱」で、病原体のアデノウイルスに感染すると、39℃以上の高熱に始まり、その名の通りに咽頭や目に炎症が起こります。高熱は3~5日間ほど続き、喉が赤く腫れて痛むために水分や食事を摂りにくくなってしまうことがあります。目の症状については、白目と結膜の炎症で目の充血や目やに、目のかゆみ、まぶしさといった結膜炎の症状が出ることもあります。

手洗いや消毒の徹底の他に予防策はない

治療は、抗菌薬が効かないウイルス感染症のため、症状に応じた対症療法を行います。つまり、発熱や咽頭痛に対しては解熱薬の投与を、結膜炎に対しては点眼薬の投与を行います。喉が痛くて水分が摂れず、脱水の兆候が認められる場合は、点滴で補水することもあります。これは後述する手足口病やヘルパンギーナでも同様です。

予防のためのワクチンはなく、保育園・幼稚園での感染拡大防止策は、飛沫感染、接触感染対策としての手洗いや消毒の徹底です。タオルなどの共有は厳禁です。ドアノブやスイッチなど、複数の人が触れる場所は、次亜塩素酸ナトリウム液などで消毒してください。

プール熱は、学校保健安全法で第二種感染症に指定されているため、発熱、咽頭炎、結膜炎などの主要症状が消失した後、2日を経過するまで登園・登校停止となります。ただしアデノウイルスは、便中に数カ月程度排泄されますので、排便後やおむつ処理後は手洗いを徹底することが重要です。

手足口病は、腸管内で増殖するエンテロウイルスの仲間が病原体で、主にコクサッキーウイルス群やエンテロウイルス群による感染症です。手足口病を起こすウイルスには、複数の種類があるため、何度も感染します。流行は5月ごろから始まり、7月から8月にかけてピークを迎え、9月ごろから徐々に収束していきます(図2)。生後6カ月から4、5歳の乳幼児の感染が多く見られます。

出典:国立感染症研究所「感染症発生動向調査 感染症週報」

図2 手足口病の流行状況(2013~2023年)手足口病は、子どもの三大夏風邪の一つで、2023年は流行が非常に小さく、このまま収束していくと考えられている。しかし、2024年以降も流行が小さくなるとは限らないので、油断は禁物だ。

感染経路は、飛沫感染や接触感染、便の中に排泄されたウイルスが口に入って感染する感染です。乳幼児では、原因となるウイルスにそれまで感染した経験のない子どもの割合が高くなっており、保育園や幼稚園で濃厚に接触する機会が多いために、発症しやすくなります。

症状は、患児の約3分の1程度に突然の発熱がありますが、38℃以下のことがほとんどです。続いて粘膜に喉の痛みを伴った水疱ができ、唾液が増えます。手のひらや足背、足底、お尻などに2~3㎜の水疱性の発疹が出ますが、かゆみはほとんどありません。しかし、コクサッキーウイルスA6というタイプによる手足口病では、発疹の出現部位が異なり、水痘(水ぼうそう)と間違えられるほどの発疹が出たり、爪が剥がれたりすることもあります。

通常、3~7日で自然に治癒するのですが、高熱、頭痛、嘔吐が続く場合は、無菌性髄膜炎を合併していることがあるので、小児科の受診が必要です。まれに脳炎を合併して、けいれんや意識障害を起こすこともあるので、注意が必要です。

ヘルパンギーナは何度でもかかる

ヘルパンギーナは、手足口病と同じエンテロウイルスの仲間が病原体で、コクサッキーウイルス群による感染が多く見られます。発熱と口の中の、特に喉の奥に小さな水ぶくれや潰瘍などの発疹ができる疾患です。

ヘルパンギーナを起こすウイルスには複数の種類があるので、何度でもかかります。時には、ひと夏に複数回感染することもあります。6月中旬ごろから感染者が増加し始めて、7月ごろにピークを迎え、10月ごろまで続きます(図3)。5歳以下が全体の90%以上で、1歳台が最も多くなります。

出典:国立感染症研究所「感染症発生動向調査 感染症週報」

図3 ヘルパンギーナの流行状況(2013~2023年)2023年のヘルパンギーナの流行状況は、プール熱と同様に、過去10年で最も流行している。しかも、流行のスタートが近年は前倒しになっていて6月中旬ごろからだったのだが、2023年は5月中旬ごろと、今までになく早かった。

症状は、突然の発熱があり、続いて喉の痛みが現れます。咽頭粘膜の発赤が著しくなり、喉の入り口の辺りに白い小さな水疱ができ、その水疱が破れて浅い潰瘍が形成され、を伴います。高熱は数日間続きますが、多くは2~4日の自然経過で解熱し、治癒します。

しかし、手足口病と同じように、発熱、頭痛、嘔吐がある場合は、無菌性髄膜炎を合併していることがあるので、小児科の受診が必要です。まれに脳炎を合併して、けいれんや意識障害を起こすこともあります。

感染経路は、飛沫感染、接触感染、糞口感染で、感染者の、くしゃみ、唾液などの飛沫に含まれるウイルスによって感染したり、便に排出されたウイルスが手などに付着したりして、感染します。他人へ感染させやすい時期は発熱などの症状があるときですが、ウイルスの排出は飛沫や鼻汁から1~2週間、便からは数週間以上続くとされ、症状が消失しても感染させる可能性があります。

手足口病とヘルパンギーナについて、保育園や幼稚園での感染拡大防止策は、飛沫感染、接触感染、糞口感染対策として、手洗いの徹底や消毒、タオルなどの共用を避けるなど、一般的な感染予防法の励行が大切です。ウイルス排出期間が長いために、流行阻止を目的とした登園停止は有効性が低く、現実的ではありません。患児の状態を見て、発熱や喉の痛み、下痢のある期間は登園を控え、全身状態が安定してから登園を再開するようにしましょう。ただし、その後も排便後やおむつ交換後の手洗いの徹底が重要です。

治療薬はなく自然治癒を待つことが基本

子どもの三大夏風邪を含め、ウイルスに効果のある治療薬はないので、強い症状に対して対症療法を行う以外は、子ども自身の免疫の働きによって自然治癒するのを待つことが基本になります。

家庭では、高熱が続いているときは、脱水症状を防ぐためにも、水分をしっかりと摂るようにしましょう。脱水で失われた塩分などを補う経口補水液などを少しずつ飲ませるようにします。また、三大夏風邪では、咽頭に炎症が起こったり、水疱ができるといったことが多いため、喉の違和感や痛みのために、飲みたがらない、食べたがらないこともあります。刺激の強い物や熱い物は避けて、軟らかく、喉ごしの良いジュースやゼリー、プリン、スープ、ヨーグルト、豆腐、おかゆなどを、少量ずつ飲ませたり食べさせたりして様子を見ましょう。

しかし、乳幼児は、自分の体の状態を言葉で表すことが難しく、大人がよく観察し、緊急の場合は迅速に受診できるようにします。どのような感染症であっても、経口摂取(哺乳)ができ、普段通りに眠れたり、遊べたりできれば、緊急の受診は必要なく、翌日などにかかりつけ医を受診するようにしましょう。

その一方で、普段と様子が違って、経口摂取(哺乳)の低下、尿量の低下、顔色が悪い、呼吸状態が悪い、ぐったりしている、けいれんなどの症状がある場合は、重い合併症を引き起こしていることがあります。重篤化して障害を残すようなことは、避けなければなりませんので、速やかに医療機関に連絡し、小児科を受診することが必要となります。

子どもの三大夏風邪を含め、感染症には大人も感染しますが、無症状や、「ちょっと体調が良くないな」といった程度の軽症であることがほとんどです。それは子どもの頃にさまざまな感染症にかかり、治癒していくことを繰り返し、自然と免疫が付いてきたからです。周りのお子さんたちも、感染する中で免疫が付き、大きく育っていくのです。保護者や周りの大人が注意して、大切に見守っていただきたいと考えます。

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ヘルシスト 282号

2023年11月10日発行
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