生物 「細胞と遺伝子」 第28回 老化・寿命と睡眠を結ぶ鍵となる神経細胞 睡眠時間の減少、幾度も目が覚めるなど、睡眠の質の低下は加齢に伴い顕著になる。最近の研究で、脳内のある神経細胞が、老化の過程における睡眠の質の低下に関係していることが明らかになった。マウスの実験では、神経細胞にあるPrdm13という分子が睡眠の質に大きく関与し、睡眠の不具合による老化の促進や、寿命への悪影響が証明されたという。Prdm13は老化・寿命と睡眠を結ぶ鍵となる物質と考えられ、ヒトへの応用が期待される。
生物 「細胞と遺伝子」 第27回 エピゲノムは細胞分化の取扱説明書 受精卵が細胞分裂を繰り返し、各器官に分化して体は形成される。生命の根源ともいえるこの仕組みには、遺伝子の活性化・不活性化を制御するエピジェネティクスと呼ばれる制御機構が関わる。その「取扱説明書」ともいえるエピゲノムはゲノムを化学修飾したもので、卵子と精子に存在し受精後に初期化される。ところが、一部に初期化されない領域があり、その情報は組織に伝わる。一方、化学修飾は化学反応であるため、エピゲノムは環境の影響を受けるという。
医学 「細胞と遺伝子」 第26回 乳がん遺伝子変異の起源をゲノム解析で解明 何らかの要因で遺伝子変異を起こした細胞が異常に増殖することでがんが発症することは分かっていたが、遺伝子変異がいつ、どのように獲得されるのか―発症に至るがん細胞の起源と進化のメカニズムは謎のままだった。しかし乳がん組織の細胞が持つ60億塩基の遺伝子を最新のゲノム解析を用いて分析した結果、乳がん発生の起源が明らかにされた。がん発症のメカニズムの全容解明に一歩近づいたといえ、がんの予防に貢献すると注目されている。
生物 「細胞と遺伝子」 第25回 Y染色体はやがて消滅する! 染色体は、DNAがヒストンというタンパク質に巻き付いて形成される棒状の複合体で、細胞の核の中に対になって格納されている。ちなみに人間の染色体は23対あり、その中の1対がXとYの性染色体だ。そのうち男性の染色体とされるY染色体が実は退化していて、やがて消滅する運命にあるのだという。ただ、Y染色体がすでに消滅しているアマミトゲネズミでは性染色体以外から、性決定をつかさどる領域が発見されている。男性が消えてしまう恐れはないのだろうか。
生物 「細胞と遺伝子」 第24回 心理的要因による発熱のメカニズム 人間の体温は脳にある体温調節中枢で37℃前後に保つよう調節されており、何かの原因で感染症にかかったときは、病原体を排除するため体温を上昇させることは知られている。一方、病気でなくても心理的要因から発熱することがあり、こちらのメカニズムはほとんど分かっていなかった。しかし最近の研究により、心の状態が体温調節に影響する仕組みが明らかにされつつある。心因性発熱の仕組みが解明されれば、心と体をつなぐ神経回路が見えてくる。
生物 「細胞と遺伝子」 第23回 セロトニンは努力行動の楽観と悲観に関与する 「幸せホルモン」として知られるセロトニンは脳内の神経伝達物質の一つで、脳の広い範囲に作用して精神を安定させる作用を持つが、具体的なメカニズムは解明されていない。しかし最近の研究で、目標達成のプロセスにおける努力行動の過程で、「きっとうまくいく」という楽観と「どうせだめだ」という悲観の調整にセロトニンが関与しているという研究成果が明らかになった。つまりセロトニンは結果よりもむしろプロセスに作用するという。幸福感は努力過程にもある。
生物 「細胞と遺伝子」 第22回 「リュウグウ」の粒子に生命の謎を解く鍵があった! 日本の小惑星探査機「はやぶさ2」が小惑星「リュウグウ」へのタッチダウンを成功させ、5.4ɡのサンプルを地球に持ち帰ったのは2020年12月のことだった。 それから約2年がたった今年3月、このサンプルの分析結果が社会に大き ……
生物 「細胞と遺伝子」 第21回 オスの細胞で卵子を生成 性を決定する因子はさまざまで、哺乳類や鳥類は性染色体の構成で性が決定する。例えば、ヒトやマウスのオスはX染色体とY染色体が対の「XY」を持ち、メスはX染色体が2つ組み合わさる「XX」を持つ。新たな研究では、オスのマウスのiPS細胞を用い、「XY」のY染色体を消失させ、そこにX染色体を入れることで、卵子になれる「XX」を持つ細胞の生成に成功。この卵子に別のマウスの精子を受精させることで、オス同士で子をつくることが可能になるという。
生物 「細胞と遺伝子」 第20回 冬眠の謎に迫る 変温動物は気温が下がると体温も低下するので自動的に休眠状態になる。一方、体温を維持する恒温動物は冬でも生活できるが、クマやリスなどは冬眠する。なぜ冬眠するのか——。代謝を制御し、蓄えた餌や脂肪をちびちび消費して冬場を乗り切るため、というのが大きな理由だが、詳細なメカニズムはまだまだ解明されていない。しかし「生と死」という大きな命題へとつながる奥の深い研究なのだという。
生物 「細胞と遺伝子」 第19回 ベニクラゲの「若返り遺伝子」 老化は宿命、とされているが、なんと若返ることができる生物が存在する。体長4~10㎜の小さなベニクラゲは、危機的状況に陥るとポリプと呼ばれる成長段階の若い形態に戻ることができる。若返るというのは、細胞を未分化の状態に戻してから、再び若い細胞に分化させることだ。この若返り機構に特異的に働いている遺伝子配列が解読された。ヒトへの応用はさすがに難しいが、肌の老化を遅らせることなどは可能性があるかもしれないという。