気になる人の「気にする食卓」第71回 辰巳琢郎

構成/編集部  写真/志水 隆

HEALTHIST INTERVIEW

辰巳琢郎(たつみ・たくろう)

(俳優)

1958年8月6日生まれ、大阪市出身。京都大学卒業。知性・品格・遊び心と三拍子揃った俳優として幅広く活躍中。食通・ワイン通としても知られ、「日本のワインを愛する会」会長を務める。自ら企画した「辰巳琢郎の葡萄酒浪漫」(BSテレ東)は16年続く長寿番組。著書に『やっぱり食いしん坊な歳時記』『日本ワイン礼讃』他多数。近畿大学文芸学部客員教授。

食に対する興味は尽きず
空腹時に食べる食事はとてもおいしい

知性・品格・遊び心と三拍子揃った俳優として、また芸能界のクイズ王との呼び声も高い辰巳琢郎さんは、多彩な趣味とともに食通、ワイン通としても知られている。全国を巡ってさまざまな食事を食べてきたからこそ、おいしく食べることにもこだわり、おなかを空かせるためのライフスタイルを貫いている。

食通として知られている辰巳琢郎さんに、まずは子どもの頃の食生活について伺った。

子どもの頃から食べることや料理することに興味がありました。小学生のときから台所に入って母の手伝いをしていましたし、ボーイスカウト時代には、ずっと炊事班。飯ごう炊さんでご飯を炊いたり、カレーやシチューなどを作るのが得意でした。

また、料理本とか栄養学の本とかが好きで、よく読んでいました。小学生のときの愛読誌は「暮しの手帖」。自分の身体のためにではなく、興味としていろいろなことを知りたかったんだと思います。大学に進学して一人暮らしを始めたときには、2口コンロを買ってもらい栄養バランスの良い食生活をしていました。

辰巳さんは、全国各地を巡って名物料理や郷土の味などを伝えるTV番組「くいしん坊! 万才」に出演していたときに、伝統食材や伝統料理のすばらしさを改めて感じたと振り返る。

8代目くいしん坊(1991~1993年)として、番組で全国各地を回らせていただいた経験は僕の財産です。何よりも、日本の食文化の多様性と精神性の高さに圧倒されました。毎月6日間ロケに出かけて、1日に平均3本収録するという強行軍。おいしいものばかりでも、食べ続けるのは結構つらいものでした。そこで、スタッフが物撮りをしている間に辺りを散歩したり、移動中はロケバスの最後部で横になって消化を助けたりしていました。食事を一番おいしく食べられるのは、おなかが空いているときだということを身に染みて感じたものです。

その後も「ごちそうさま」の司会を2年間務めたり、料理番組に度々出演していたので、くいしん坊のイメージがさらに深まったんでしょう。周りの人から新しいお店がオープンしたから行ってみてくださいとか、あそこの店はおいしかったとか、食の情報がどんどん入ってくるんです。こと食べることに関しては、今でも恵まれた環境にいると思います。

食に関する興味が尽きない辰巳さんはワイン通としても知られているが、お酒至上主義ではなく食事をよりおいしく食べるために嗜んでいる。

ワイン好きになったのは、ワインを知ったほうがよりおいしく食事を楽しめると思ったから。いわゆる酒飲みではなく食べることが好きなんです。そうして行き着いたのが日本ワイン。単体で飲んだときにはそれほど好みでないと感じても、料理と合わせると驚くほど世界が広がる。日本人の食中酒としては最高ですね。

ある日の夕飯は、豚肉の生姜焼き、ポテトサラダ、豆苗とじゃこのワサビマヨネーズ和え、切り干し大根、サンマ、いり鶏風煮物、アボカドと漬けマグロのごま油と醬油の和え物、エノキのマリネ風、ジャガイモとタマネギとワカメのお味噌汁、クラッカーのマスカルポーネとワサビ漬けのせ。(写真提供:辰巳琢郎)

食べすぎたなと思ったら食事を抜く

夜に店をはしごして食べることも多かったが、コロナ禍で食生活は変化したという。

仕事柄、外食が多いですね。特に地方へ行ったときなど、好奇心に火がついて何軒も回ってしまいます。“はしご酒”ならぬ“はしご食べ”。ほうっておくと朝まで食べ続けてしまう。胃袋が丈夫みたいですね(笑)。でも年齢とともに、自分から肉を食べに行こうという回数は減りましたが、とんかつはヒレではなくロース、ステーキももちろんサーロイン、焼き肉はカルビと、脂身のあるほうが好きなんです。とにかく揚げ物が大好物ですし、真夜中の炭水化物ほどうまいものはないと信じています。でも、そういうことを20年、30年と続けていると体重も少しずつ増え、いろいろな数値も要注意が増えてきました。そのタイミングで、コロナ禍になったんです。自宅で夕飯を食べるだけで、深夜の飲み歩き・食べ歩きは全くなし。自然に5~6㎏ほど痩せました。

食へのこだわりが強い辰巳さんから、食事をおいしく食べるための秘訣を教えてもらった。

普段の食生活は、昼に軽く食べることもありますが、基本的には朝昼ともに食べないで夜だけにしています。辰巳家は、学校に遅刻しても朝食は食べなさいという教育方針。寝起きで、おなかがそんなに空いていないのに無理矢理食べさせられていたんですね。芝居を始めてからも、おなかが空いていたら集中して演技ができないと本番前に必ず食べていました。でも、経験を積んでいくと空腹のほうが集中して演技ができることを発見。気の持ちようですね。そして、仕事が終わった後の食事のおいしいこと。「空腹は最高の調味料」という言葉がありますが、これは本当だと実感しています。

人それぞれですが、僕は食べすぎたなと思ったら、食事を抜くことも大切だと思っています。月に1日ぐらいは食べない日をつくる。36時間ぐらいのプチファスティングですね。アルコールも飲みません。結構気持ちがいいもので、身体がリセットされた感じがする。もちろん体重も減るのでおすすめです。

ヒトの肝臓にあるグリコーゲンは、血糖を常に一定に保ちながら、空腹時における糖質の供給源としての役割を果たしてくれます。でも、そのグリコーゲンを使い切らないと身体に蓄えられた脂肪が燃焼しないので、使い切ることが重要なんだそうです。考えてみれば人類が1日3食も食べるようになったのは、つい最近のこと。野性を取り戻して感覚を鋭敏にするには、空腹状態を意識してつくることが必要なんじゃないでしょうか。

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ヘルシスト 271号

2022年1月10日発行
隔月刊

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