特集 悩ましい頭痛 つらい症状からついに解放!? 進化する片頭痛の治療法

構成/渡辺由子  イラストレーション/千野六久

片頭痛は文字通り片側だけがズキズキ痛むものではなく、両側のときもあり、たいていが月に数回ほど発作が起きる。ひどいときは嘔吐したり、光や音、においなどに過敏になったりして、あまりのつらさに動けないと訴える人も多い。前兆があったりなかったり、症状の程度もさまざまなため、適切な治療が受けられないケースも多々あるという。発症メカニズムは解明されていないが、予防治療法や治療薬は格段に進化している。あの痛みから解放される日もそう遠くない⁉

富永病院副院長・脳神経内科部長・頭痛センター長/富永クリニック院長

竹島多賀夫(たけしま・たかお)

1984年、鳥取大学医学部卒業。同大大学院博士課程修了(医学博士)。同大医学部附属病院脳神経内科助手。アメリカ・国立衛生研究所(NIH)留学。鳥取大学医学部脳神経内科講師、同科准教授を経て、2010年から富永病院脳神経内科部長、同院頭痛センター長。2011年から同院副院長、2021年から富永クリニック院長兼任。京都大学医学部臨床教授、日本神経学会理事、日本頭痛学会副代表理事。

片頭痛は、命に関わる頭痛ではなく、よく聞くありふれた頭痛です。しかし、とてもつらい頭痛です。仕事や学業、家事や育児への支障度が大きく、QOL(Quality of Life:生活の質)や生産効率の低下など、社会的な損失の大きい頭痛として問題になっています。

わが国の片頭痛の有病率は人口の8.4%で、小児を含めると約1000万人に上り、当センターを受診する頭痛患者の約60%が、片頭痛の患者です。ところが、生活の支障度が大きいにもかかわらず、受診率は低く、現・埼玉国際頭痛センターの坂井文彦センター長らが行った調査では、わが国の片頭痛患者の約70%が医療機関での治療を受けておらず、処方薬を使用していた患者は8.4%。約60%は市販の鎮痛剤でしのいでいるということがわかりました。片頭痛の治療は2000年以降、大きく進歩し、発症メカニズムの解明や新薬の登場が相次いでいます。片頭痛を正しく理解し、正しい治療へつなげることが求められています。

発作のときは寝ているしかない

片頭痛は、ズキズキと脈打つように痛むのが特徴で、頭の片側だけが痛むものと思われがちですが、必ずしもそうではなく、両側が痛む人もいます。女性は男性よりも約4倍も多いとされ、発症に女性ホルモンの分泌が関与すると考えられていることから、ホルモン分泌活動が盛んな20~30代の女性に限ると、有病率は20~30%です。

片頭痛の発作は個人差がありますが、1カ月に1~数回ほど起き、1回の発作は4~72時間続きます。階段の上り下りやしゃがむなど日常的な動作によって痛みが増強し、随伴症状に、吐き気や嘔吐、光や音、においに敏感になるなど過敏症状があるため、発作の間は何もしないで寝ているしかないと訴える患者は非常に多く見られます(図1)。

出典:竹島 多賀夫, 坂井 文彦, 鈴木 則宏, ほか: A Simple Migraine Screening Instrument: Validation Study In Japan. 日本頭痛学会誌 42: 134-143, 2015.

図1 片頭痛の鑑別診断:頭痛スクリーナー(頭痛医療推進委員会監修、日本頭痛学会後援)片頭痛の鑑別診断をツール化した。過去3カ月間にあった頭痛について4項目に答える。4項目のうち、2項目以上で「ときどき」または、「半分以上」と回答した場合、片頭痛の可能性が高い。

発作が治まれば、治療の有無に関係なく、正常な状態に戻ります。周囲の人たちからは、発作のときにひたすら痛みに耐えている様子が、「怠けている」「さぼっている」と見られてしまうなど、片頭痛への理解がなかなか進まない原因になっています。

患者自身も、発作の最中はつらくて病院へ行けないけれど、「我慢すればなんとかなる」「鎮痛剤を飲んで寝ていれば、楽になる」などと考えがちです。片頭痛は遺伝性が強いことも特徴で、「親も片頭痛だったけれど、我慢していた。だから自分の片頭痛も、そんなものだ」と考える患者もいます。このような誤った思い込みが、治療につながらない要因にもなっています。

片頭痛の経過と、それに伴う体に起きる症状は、非常に特徴的です(図2)。片頭痛では、「前兆」が表れるケースがあります。片頭痛発作が起こる前や、起こり始めのときに、目の前にギザギザ模様の光が見え、それが視界を覆うように広がっていき、見えづらくなる「閃輝暗点」という視覚性前兆が知られています(図3)。数分から60分程度で消失し、最初に経験したときは、眼の異常か脳卒中の前触れか、などと驚かされますが、この症状は片頭痛特有の症状です。他に、片側の顔や舌からチクチクした感じが全身に広がる、あるいは、逆に感覚が鈍くなる症状や、まれに、言葉が出にくい失語性言語障害、半身まひ、物が二重に見えるなどの前兆が表れる場合もあります。

出典:Blau JN. Lancet, 1992;339:1202-1207, fig1(P1203)を一部改変

図2 片頭痛に伴うさまざまな変調英国のブラウ博士による、片頭痛の経過とともに現れる特徴的な症状をまとめた図。「予兆期」「前兆期」「頭痛期」「解決期」「回復期」のそれぞれで、特徴的な症状が示されており、片頭痛の鑑別診断に役立つ。

図3 閃輝暗点視野にギザギザ模様の光が現れ、動きながら広がる「閃輝暗点」。片頭痛の典型的な前兆で、脳の細胞の興奮と抑制が波紋のように広がるために起こる。前兆のない人のほうが、ある人よりも多いといわれている。

前兆の前に表れる「予兆」があるのも、片頭痛の特徴の一つです。片頭痛の起こる数時間前から1、2日前に、気分の落ち込み、集中力の低下、食欲低下、食欲亢進、肩こり、頸部痛といった漠然とした状態があり、その後に激しい頭痛に見舞われるというものです。

ただし、前兆がない片頭痛のほうが多く、他に前兆のみで頭痛のない片頭痛、前兆のある片頭痛だがいつも前兆が表れるわけではない、予兆がある、予兆がないなど、実にさまざまパターンがあり、片頭痛の鑑別を難しくしています。

症状の重さは、日常生活への支障の程度で重症度を3段階に分けています。軽度は、痛みはあるけれど普段通りにアクティビティが保てる。中等度は、日常生活で仕事や学業、家事に支障があるが、つらいけれど何とかこなすことはできる。重度は、日常生活で仕事や学業、家事を行うことはできず、暗く静かな部屋でじっと寝ているしかない。当センターの受診者の割合は、軽度が30%で、70%は中等度以上です。

つらい片頭痛のために受診し、CTやMRIなどの画像検査を受けても異常はなく、「問題なし」と済まされてしまうことは少なくありません。頭痛専門医としては、片頭痛と診断されずに効果的な治療に結びついていないことも、解決すべき大きな課題と考えています。

血管説・神経説・三叉神経血管説

では、画像で確認できない片頭痛は、脳の中で何が起こっているのでしょうか。発症メカニズムの研究が進み、「血管説」「神経説」「三叉神経血管説」などが検討され、少しずつ解明されつつあります。

古典的な血管説は、片頭痛を起こす誘発因子の刺激によって、脳の血管内で放出されたセロトニンの作用で血管が収縮して虚血状態になり、閃輝暗点などの前兆が起こる。その後にセロトニンが枯渇して血管が拡張するために、ズキズキと痛む、と考えられていました。実際には、片頭痛が始まったタイミングでは血流が増えていないことがわかり、そう単純ではないようです。

神経説は、脳の後頭葉の視覚野から始まった神経細胞の興奮と抑制が前方へと広がる「皮質拡延性抑制」が、片頭痛を起こすというものです。前兆の閃輝暗点は、本来見えないはずのギザギザ模様の光が見え、動いているように見えますが、それは皮質拡延性抑制であることが画像によって確認されました。

現在、広く受け入れられている学説が、三叉神経血管説です(図4)。脳の表面にある硬膜には三叉神経と血管が張り巡らされています。片頭痛の誘発因子となるさまざまな刺激が三叉神経に伝わり、神経の終末から、神経性の炎症に関わるCGRP(Calcitonin Gene-related Peptide:カルシトニン遺伝子関連ペプチド)やサブスタンスPが放出され、血管がそれらの作用で炎症を起こして血漿タンパク質が漏出。それによってさらに炎症が起こり、三叉神経を刺激する、というように炎症による悪循環に拍車がかかって、どんどん拡大していき、脳へシグナルとして伝わって、拍動性の痛み=片頭痛発作になると考えられています。

出典:Moskowitz MA. Ann Neurol, 1984;16:157-168
清水利彦. 神経内科外来シリーズ 頭痛外来(総編集:荒木信夫).
メジカルビュー社, 2015, P119を一部改変
柴田護. 神経内科外来シリーズ 頭痛外来(総編集:荒木信夫).
メジカルビュー社, 2015, P2-4

図4 片頭痛の発症メカニズム(三叉神経血管説)頭痛発生の最も有力な学説は「三叉神経血管説」だ。何らかの刺激により、脳の硬膜の細い血管と三叉神経に炎症が起こり、血管と三叉神経が相互に刺激し合い、それが広がって拍動性頭痛として感じられる。

またMRIを利用して、脳内の神経細胞の活動の変化を視覚化するfMRI(functional MRI:磁気共鳴機能画像法)という技術により、片頭痛発作時の脳ではどのような現象が起こっているのかを探る研究が進みました。最近では脳の中心にある視床下部という部位の変化により片頭痛発作が始まることがわかってきました。視床下部に焦点を当てた研究が進み、片頭痛の発症メカニズム解明に一歩でも近づいてほしいと考えています。

片頭痛発作の誘発因子は、実に多彩です。騒音、強いにおい、まぶしい光、人混み、月経周期など女性ホルモンの変動、睡眠不足や寝過ぎなどの自律神経のリズムの変動、ストレスが多いとき、ストレスから解放されたとき、天候や気圧の変化などです。空腹も誘発因子の一つです。朝方に片頭痛が起こる場合の対処法として、英国の文献には、寝る前にバターたっぷりのクッキーを食べて休むと腹持ちがよく、翌朝の片頭痛が減るとあります。ただし、中年以降は、寝る前にハイカロリーの摂取は栄養過多になるので、要注意です。

特定の飲食物も片頭痛の誘発因子になり、例としてチョコレート、ワイン、チーズなどが挙げられます。特に誘発因子が重なると、片頭痛が起こりやすくなります。例えば、生理の前で、台風が来ているときに、チーズとチョコレートをつまみに赤ワインを飲めば、片頭痛になる女性は大勢いると思います。自分の片頭痛の誘発因子だと考えられる物のうち、自分の努力で避けられる物を避ける、特に複数の誘発因子が重ならないように工夫して、片頭痛と上手に付き合う生活の知恵を身に付けていただくことが大事だと考えています。

片頭痛治療の第1選択肢は、生活改善です。「頭痛ダイアリー」で日々の片頭痛を記録し、片頭痛を起こしやすい生活様式を改めていきます。発作のないときに、「頭痛体操」を行っていると、頭痛の軽減に役立ちますので、ぜひお勧めします。

症状の重さに合わせた新しい治療

次に薬物治療では、発作を速やかに消失させる急性期治療と、急性期治療だけでは不十分なケースや薬物乱用がみられる場合には予防治療を行います。急性期治療で使う薬は、軽度から中等度には脳に対して痛みを和らげる作用のある鎮痛剤、非ステロイド消炎鎮痛剤(NSAIDs)。中等度から重度の片頭痛では、拡張した血管を収縮させる作用のある特異的治療薬のトリプタンが選択されます。

このトリプタンは、片頭痛の発症メカニズムにピンポイントに効果のある薬剤で、痛みが始まったら早めに服用します。また、2022年4月から使用できるようになったジタン系のラスミジタンは、トリプタン系製剤とは異なり血管収縮作用がないことから、脳心血管系疾患を有する患者にも投与でき、対象となる患者の範囲が広がり、非常に喜ばしいことです。

これらの薬剤に、制吐剤を使うと、治療がうまくいくことがわかっています。つまり、吐き気や嘔吐は、片頭痛の随伴症状としてかなり高い確率で現れるのですが、急性期治療薬を服用しても吐き出してしまっては、効果が期待できなくなるためです。同時に、発作があるときは、消化管の運動が止まり、急性期治療薬の吸収が悪くなるため、制吐剤を使うことで吸収が良くなると考えられています。

予防治療は、急性期治療だけでは効果がなく、生活への支障が心配される場合に行います。脳血管の状態を安定させるカルシウム拮抗薬、交感神経を鎮めるβ遮断薬、脳の神経細胞の興奮や過敏性を抑制する抗てんかん薬の3種類の薬剤がよく使われています。

さらに、片頭痛の画期的な予防治療法として、抗体療法が2021年4月から8月にかけて実施できるようになりました。片頭痛の発症メカニズムで主要な作用をするCGRPを予防的に抑制する「CGRP関連薬剤」で、「抗CGRP抗体」と「抗CGRP受容体抗体」があります。抗CGRP抗体は放出されたCGRPを無力化させるタイプで、抗CGRP受容体抗体はCGRPの受容体の側をブロックするタイプで、いずれも高分子の薬剤のため、注射製剤で使います。

これら新薬が保険適用になるのは、既存の予防薬で効果不十分の場合です。片頭痛の発症メカニズムにピンポイントで効き、副作用はほとんどないので、第1選択薬で使いたいくらいなのですが、高価なのが難点です。先行発売された新薬は1本約4万5000円で、1カ月に1回の接種で、初回は2本打ちます。他の2種類は1本約4万2000円で、4週間から12週間おきに打ちます。

抗体療法の効果を、3カ月続けてみて判定しています。効いていたらしばらく続けるか、効いていなければやめるかの選択ですが、半年間は使って様子を見ています。抗体療法を行うと患者の約80%に効果があり頭痛が減ります。20%くらいの患者はほとんど頭痛がなくなります。「頭痛のない生活がこんなに楽だとは!」「人生が変わった」と大喜びされています。注射をお休みにしても良い状態が続く方もおられますが、一方で、薬をやめるとすぐに元に戻ったとか、徐々に戻ったという報告もあります。ただ、再び片頭痛に悩まされたら、抗体療法を再開すればよいと考えています。

今後は、この抗体療法を長期間使用する場合、1年半とか3年とか、どのくらいの期間を使えば、脳が安定化していくのか、追跡調査をしていきたいと考えています。また、現在、CGRP拮抗薬の経口薬の治験が進んでいます。注射製剤よりも簡単に使えるので、期待が高まっています。

このように、片頭痛の治療は進化が著しく、つらいのを耐えるだけの頭痛ではなくなりつつあります。頭痛専門医を受診し、その人に適した治療薬を使いながら、日々の生活を快適に過ごせるよう、片頭痛をコントロールしてほしいと考えています。

(図版提供:竹島多賀夫)

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ヘルシスト 276号

2022年11月10日発行
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