本邦では、保健機能食品(特定保健用食品〈通称:トクホ、1991年9月より制度施行〉、栄養機能食品〈ビタミン、ミネラル〉、機能性表示食品〈2015年4月より制度施行〉)といった枠組みにおいて、食品の保健機能を謳うことが可能である。プロバイオティクスについても同様であり、トクホや機能性表示食品として実に多様なプロバイオティクス菌株の保健作用が謳われているかを、管轄の消費者庁のホームページを通じて知ることができる。
一方、食品の保健機能表示に関する規制は諸外国で異なる。例えばEU域では、食品の保健機能を謳うことは許可制とされており、欧州食品安全機関(EFSA)により個別の許可申請が審査される。プロバイオティクスについてもすでに多くの申請がなされているが、「プロバイオティクス」という言葉自体が保健機能をほのめかす(imply)との考え方から、これを製品に表記することについて厳密な審査が実施されており、これまでにEFSAの審査をクリアしたプロバイオティクスは1件もない(イタリア、チェコ、オランダ、スペインなどでは国ごとに「プロバイオティクス」の表記を認めているが)。
EFSAの審査基準(ガイドライン)において強調されている主な点は、適切に実施された複数のヒト臨床研究の証拠が明確に示されること、および、臨床的な効果を的確に説明する作用メカニズム(cause-effect-relationship)が示されること、である。より最近の改訂版では、疾病リスク因子の低減(disease risk factor reduction)の考え方が取り入れられている。疾病と密接な因果関係を有するリスク因子(例えば、抗生物質誘導下痢症の起因菌であるClostridioides difficileとか、細菌性腟症の病原菌であるGardnerellaなど)については、これらを低減する結果の提示を認めること(すなわち臨床症状の改善の証拠を必ずしも示さなくともよい)が示唆されている。
この観点は、いわゆる「未病」の概念に通じる。「未病」とは、「自覚症状はないが検査では異常がある状態」と「自覚症状はあるが検査では異常がない状態」の双方と理解されている。食品やサプリメントとして摂取されるプロバイオティクスやプレバイオティクスの本質的な役割は「未病」の予防や状態改善、あるいは上記のような疾病の再発予防であるといってよい。疾病にリンクした適切な検査マーカー(リスク因子)の解析に基づくプロ(プレ)バイオティクスの有効性を示す証拠を蓄積することが肝心であろう。
他方、アメリカでは、食品の構造・機能に関する作用を標榜するためのヒト臨床試験の実施の際に、新薬臨床試験開始届(IND:Investigational New Drug)の申請が必要となる(アメリカ食品医薬品局〈FDA〉のガイダンス:2013年9月)。2015年の一般意見聴取を経た改訂版では、一部食品についてのIND申請の必要性に関する記述が“STAY(凍結)”とされたが、プロバイオティクスがこの範囲に含まれるか明確に記載されていないところであり、現状でもFDAの基本的な見解は変わっていないようである。アジア諸国では、行政でプロバイオティクスの規定が定められている国々(中国、韓国、インド、インドネシア、マレーシア、台湾、シンガポール、フィリピン、タイなど)が多くあり、広くプロバイオティクスの考えが普及していると考えてよい。
以上のように、国際的な規制の状況はさまざまであり、今後の変化も予想されるところであるが、プロバイオティクスの食品としての有効性およびその作用メカニズムを適切に訴求するためのさらなる科学的証拠の蓄積は、世界的に共通する今後の重要な課題である。
- *1 EFSA Panel on Dietetic Products, Nutrition and Allergies (NDA): Guidance on the scientific requirements for health claims related to gut and immune function. EFSA Journal 2011;9 (4):1984 [12 pp.].
https://www.efsa.europa.eu/en/efsajournal/pub/1984 - *2 EFSA Panel on Dietetic Products, Nutrition and Allergies (NDA): Guidance on the scientific requirements for health claims related to the immune system, the gastrointestinal tract and defence against pathogenic microorganisms. EFSA Journal 2016;14(1):4369 [23 pp.].
https://www.efsa.europa.eu/en/efsajournal/pub/4369 - *3 一般社団法人日本未病学会HP.
https://www.j-mibyou.or.jp/mibyotowa.htm#mibyonohi. - *4 U.S. Department of Health and Human Services Food and Drug Administration: Guidance for Clinical Investigators, Sponsors, and IRBs: Investigational New Drug Applications (INDs) — Determining Whether Human Research Studies Can Be Conducted Without an IND. Federal Register of September 10, 2013 (78 FR 55262).
- *5 U.S. Department of Health and Human Services Food and Drug Administration: Guidance for Clinical Investigators, Sponsors, and IRBs: Investigational New Drug Applications (INDs) — Determining Whether Human Research Studies Can Be Conducted Without an IND. Federal Register of October 30, 2015 (80 FR 66907).
- *6 Nomoto K. Case Study 4: Probiotics: From Current Concept to Development of Future Prospects. Functional Foods Monographs (ILSI Southeast Asia Region Monograph Series), pp.59-70, 2021