気になる人の「気にする食卓」第67回 堂場瞬一

構成/編集部  写真/細田 忠

HEALTHIST INTERVIEW

堂場瞬一(どうば・しゅんいち)

(作家)

1963年5月21日生まれ、茨城県出身。大学卒業後、新聞社に入社し記者として勤務しながら小説の執筆を開始。2000年に『8年』で小説すばる新人賞を受賞。2013年、新聞社を退社して作家業に専念。スポーツ小説、警察小説などを中心に活躍中で、最新作は『赤の呪縛』(文藝春秋)。

運動を始めるタイミングは自分次第
一歩踏み出すことで人生が変わります

スポーツ小説、警察小説を中心に幅広いジャンルの作品を次々に発表し、2021年に作家生活20周年を迎えた堂場瞬一さん。作品の多くで、登場人物の性格や暮らしぶりなどを表現するために、日常生活で欠かせない食事シーンを取り入れている。そこで、堂場さんに食事へのこだわりと運動への取り組みを伺った。

高校時代にラグビー部主将を務めていた堂場瞬一さんに、まずは当時の食生活について伺った。

学生時代に運動をやっていたときの食生活を今振り返ると、後悔しかないですね。僕らの時代は、栄養バランスを考えた食事を摂るとか、筋トレも大切だという考えはほとんどなくて、食べたいものを好きなだけ食べていました。今のアスリートは、食事の摂り方の知識も豊富で本当にうらやましいと思います。もし、僕も学生時代に意識して食べていれば、もっと体をつくれたのではないかと、今になって反省しています。

大学入学とともに都内で一人暮らしを始め、自分でも料理をするようになるが、就職すると食生活は大きく変わってしまったという。

大学時代は、お金がなくて定食屋にも入れなかったので、自炊か学食で食べるという生活でした。自炊が一番安く済むため、料理はよくしていましたが自己流でいい加減で、コメをたくさん食べられればいいやという感じでしたね(笑)。料理は、素材と料理法の組み合わせでシステマチックにつくれて、どの素材をどの料理法でやる、とかけ算をしていけば計算できるため、一つ覚えてしまえばあとは同じなのです。でも、手っ取り早くできる炒め物などをつくることが多かったと思います。

そして就職すると、お金はあるので学生時代の反動から、おいしい物をたくさん食べようという考えが来てしまいました。外食ばかりで運動もしていなかったため体重は増え、健康診断の数値はどんどん悪くなるばかりで、就職してからの15年間は確実に寿命を縮める生活をしていました。

ある日の夕食は、十六穀米、ダイコンと鶏もも肉の煮物、納豆、ベビーリーフのサラダ、青汁、蒸し野菜(ブロッコリー、ニンジン)、豆腐とワカメの味噌汁、油揚げと九条ネギのショウガ味噌炒め。(写真提供:堂場瞬一)

そのような生活スタイルを見直すきっかけとなったのが、作家デビューだった。

仕事を続けながら作家デビューしたため、体を壊してしまったらすべて失うことになるので、まず体重を減らすことにしました。炭水化物を減らして、たんぱく質は動物性ではない豆腐、油揚げ、納豆を中心に食べていました。そして、あとはひたすら運動ですね。ジムへ週3回くらい通い、筋トレを中心にした運動を20年近く続けています。しかし、急激に体重を落とすのは体に悪いので、僕はマイペースでゆっくりとやっており、約10年で15㎏くらい体重を落としました。

登場人物の性格や行動を食事で表現

今年、作家生活20周年を迎えた堂場さんを支えてきた食事はどのようなものだったのだろうか。

実は僕、凝り始めるとそればかり食べてしまう傾向があるのです。例えば、コレステロール値があまり良くなくて青魚を食べなくてはいけなかった時期は、サバしか食べていませんでした。朝と夜は塩焼き、昼は味噌煮と、毎食サバばかり。でも、サバはカロリーが高いと思ってやめて、その後はお昼に野菜しか食べないとか。そういう生活をしていると栄養が偏りますよね。結果、バランス良く食べることが大切だということを人体実験で実感するのです。今は青汁をよく飲んでいて、野菜をなるべく食べるようにしています。最近は、新型コロナウイルス感染症の影響で夜に会食することもなくなり、家で食事をすることが増えて妻と一緒に夕食を作っています。基本的に煮方は妻がやり、焼き方は私がやる、という感じで役割分担ができています。

堂場さんの作品では、登場人物の性格や行動パターンを表すのに食べ物を活用することが多い。

たまに自分が、そのときに凝っている食べ物とかを出すこともあります(笑)。でも基本は、読者が普段食べていると思われるものを出しているので、味の説明をしないで済みます。例えば、聞き込みの途中ならそばかカレーしか食べていないというふうに。食事の場面を出しておくと、この登場人物はこういうものを食べすぎだから体が悪いのではないか、忙しすぎて早食いばかりしているが胃は大丈夫か、などということまで表現できるのです。書き手としても、シリアスな場面が続いている中で食事シーンを挟むとほっこりすることができますからね。しかし、スポーツ小説になると一食一食が勝負になるので、きちんとカロリー計算をして栄養素のバランスを取り、スポーツに合わせた食材を摂取させるように考えています。そういう部分はリアルにいきたいので、しっかりと調べて描写しています。

最後に堂場さんから、食生活と運動について読者へのアドバイスをいただいた。

体を動かす、運動をするというのは、どんな年齢からでも始められますが、最初の一歩を踏み出すのが難しいと思います。僕が本格的に運動を始めたのは39歳のときなんです。30代のうちなら何とかなると言われて、40歳になる前に慌てて始めたのですが、年齢に適した運動をやるようにすればいいのです。僕はご飯を調整するよりも運動のほうが体に効果的だったようで、皆さんも一歩を踏み出せれば人生が変わるはずです。ただし、急激にダイエットすると体に悪いので、マイペースでゆっくりとやってください。また、運動を始めるとトレーニングウエアやシューズなどを買う楽しみもでき、アクティブになれますよ。

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ヘルシスト 267号

2021年5月10日発行
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