暮らしの科学 第63回 弾けるポップコーンを作って食べよう!

文/茂木登志子  イラストレーション/大塚あや

映画館やテーマパークの定番スナックといえばポップコーンだろう。実は、家庭でも簡単に作ることができる。小さなトウモロコシの粒が、加熱するとポンッと弾けてサクサクのお菓子に変身するのだ。今回は、その変身のしくみに迫った。

〈今月のアドバイザー〉近藤徹弥(こんどう・てつや)。名古屋文理大学健康生活学部健康栄養学科教授。京都大学大学院農学研究科博士後期課程修了後、愛知県に入庁。あいち産業科学技術総合センター食品工業技術センターにて微生物の有効活用や食品の加工技術等に関する研究や技術指導に従事。2023年から現職。専門は食品科学、応用微生物学、分析化学。共著に『バイオプロセスを用いた有用性物質生産技術』(技術情報協会)など。

スーパーマーケットのスナック菓子売り場で、何かおいしいおやつはないかと探していた。目に留まったのが、ポップコーンの隣に地味に並んでいた乾燥トウモロコシの粒だ。そして記憶がよみがえってきた。

ずいぶん前に、自宅でポップコーンを作ったことがある。最初にポンッと弾ける音がしたときはびっくりしたが、ポンポンと次々に弾けるその音にワクワク感をかき立てられた。そして、トウモロコシの粒がまるで白いワタのようなスナック菓子に変身したのを見て、驚きと満足感と高揚感が交ざり合ったようなとても楽しい気分になった。どんな味わいだったかは忘れたが、あのときの楽しい驚きとワクワク感は覚えている。

乾燥したトウモロコシの粒(100g)が入ったその商品は、98円(税抜き価格)と表示されていた。隣に並んでいる完成品の塩味やキャラメル味のポップコーンも同じ値段だ。どうやら完成品よりも粒を買って家で作ったほうが、たくさん食べられそうだ。何よりも、久しぶりにポンポンという弾ける音とワクワク感も味わいたい。というわけで、ひと袋、カゴに入れた。

買って帰ってから、ふと疑問に思った。乾燥トウモロコシの粒は、どうしてポンポン弾けながら、サクサクした食感のスナック菓子に変身するのだろうか? そこにどんなしくみがあるのだろうか? 探してみると、そんな疑問に答えてくれる専門家がいた! 食品科学などの研究を専門とする、名古屋文理大学教授の近藤徹弥さんだ。

近藤さんがこれまでに取り組んできた研究テーマの一つが、食品のだ。調理・加工によって、原料が膨らむ食品がある。その膨らむしくみを研究していたのだ。ケーキ、パン、あられ、シュークリームなどが膨化食品として知られているが、ポップコーンもそうした食品の仲間なのだ。

弾けるトウモロコシ

今からトウモロコシの苗をプランターに植えて、夏に収穫したら、その粒を天日干しにする。そうすれば自家製ポップコーンができるのではないだろうか!? 近藤さんの研究室に向かう途上で、想像というか妄想というか、心に描く自家製ポップコーンの夢が膨らんでいく。だが、それはシャボン玉のようにすぐに弾けた。白いスナック菓子のポップコーンとゆでたり焼いたりして食べるトウモロコシは、種類が異なるというのだ。

「トウモロコシには用途に応じた品種があります。私たちが夏によく食べるのは、スイートコーン(甘味種)で、文字通り甘い品種です。そして、ポップコーンに用いられているのは、ポップコーン(爆裂種)という種類なのです」

トウモロコシは、粒の性質や特徴によって幾つかの種類に分けられ、用途も異なる。世界的に食用として親しまれているのがスイートコーンで、デンプン含有量が少なく糖類含有量が多い。今回のテーマであるポップコーンは、粒が小さく、硬いのが特徴だ。また、コーンスターチの原料や家畜の飼料として使われているデントコーン(馬歯種)などもある。

スイートコーンもポップコーンも、どちらも食用ではある。だが、スイートコーンは収穫したものをそのまま加熱して食べるが、ポップコーンは乾燥保存させたものを加熱調理する。近藤さんによると、スイートコーンを乾燥させても、そしてその乾燥粒を加熱しても、ポップコーンにはならないという。

「生のスイートコーンは、皮が柔らかくて、水分とショ糖、ブドウ糖を多く含んでいます。これを乾燥させると、縮んで小さくなってしまいます」

近藤さんはそう説明しながら、スイートコーン粒の乾燥具合を示す実験画像を見せてくれた(図1)。ポップコーンの乾燥粒は、ふっくらと丸みを帯びている。だが、スイートコーンは、生状態ではふっくらしているが、乾燥が進むと小さく縮んでいるのが分かる。柔らかい皮は、乾くと裂けやすい。実は、ここにポップコーンが弾けるしくみと、スイートコーンがポップコーンにならない理由があった。

図1 スイートコーンとの違い一番上の写真は生のスイートコーンだ。下は、スイートコーンの粒の変化を示している。右端の生はふっくらしているが、左側のように半割にしたり乾燥させたりすると小さくしぼんでしまう。

ここで、ポップコーン作り未体験の読者のために少し説明しておこう。乾燥したポップコーン用トウモロコシの粒を加熱すると、粒が弾けて元の粒よりも大きな白いスナック菓子に変身する。ちなみに、ポップは弾ける、コーンはトウモロコシ、という意味だ。トウモロコシも白いスナック菓子も、ポップコーンはまさに“弾けるトウモロコシ”というわけだ。

ポップコーンは、粒が弾けてから大きくなると思い込んでいた。ところが、その順番は逆だった。

「粒の中が膨化して、外側の果皮が弾けるのです」

近藤さんはゴム風船に例えて解説してくれた。

「ゴム風船が膨らむ様子をイメージしてみてください。ゴムがしっかりしていて伸縮性があると、空気が送り込まれて大きく膨らみます。しかし、薄くて破れやすかったり、ちょっと破れかけていたりすると、シューッとしぼんでしまいます。しっかり膨らむのがポップコーンで、しぼんでしまうのがスイートコーンなのです」

ゴム風船は空気を入れて膨らませる。

「ポップコーンは、水蒸気で膨らみます」

ポップコーンの乾燥粒はとても硬い。指で押してもつぶれない。調理用ハサミや包丁を用いて、やっとかち割ることができた。このカチカチに硬く乾いた粒のどこに水蒸気になる水分があるのだろうか。

「乾いているとはいえ、この硬い粒の中には14%くらいの水分が含まれています。加熱して100°Cになると、粒内の水分が水蒸気になります」

近藤さんによると、水が水蒸気になると、その体積は1700倍になるのだという。

「粒の内部の水分が水蒸気となって体積が膨張し、外に飛び出したいという圧力が高まります。しかし、皮が硬いので水蒸気は外に出ることができません」

硬い皮には、ゴム風船のような伸縮性はない。さらに加熱を続けて180°Cくらいになると、ポンと弾ける。圧力に負けまいとがんばっていた硬い皮が限界に達し、ついに破裂してしまうのだ(図2)。

図2 ポップコーンの粒が弾けるしくみポップコーンの乾燥粒にはデンプンと約14%の水分が含まれている。加熱されてデンプンが糊化し、水蒸気の体積が増える。果皮が弾けると糊化したデンプンが飛び出して固まる。

「これが、ポップコーンが弾けるしくみです。スイートコーンの柔らかい果皮は、弾ける以前にすぐに破れてしまうので、ポップコーンのようにはなりません」

ところで、弾けてできた白いポップコーンには、黒褐色部分がある。これは硬い果皮だ。では、白いサクサクした部分は、何が、どのように変身したものなのだろうか。

「デンプンです」

トウモロコシの粒は、外側と内側の2層に分けられる。外側は果皮だ。内部には、デンプンや水分が含有されている。前にも述べたように、スイートコーンは果皮が柔らかくてデンプン含有量が少ないが、反対にポップコーンは果皮が硬くデンプン含有量が多い。

「デンプンは、水と共に加熱するとのりのように柔らかくなります。これをといいます。ポップコーンの場合、胚乳にある水分とデンプンが加熱によって糊化します。水蒸気の圧力で果皮が破裂すると、糊化したデンプンが、外に飛び出します。高温の粒内から外に飛び出すと温度が急速に下がるので、柔らかいペースト状のデンプンがすぐに固まります。それでサクサクした食感のスナック菓子ができあがるというわけです」(図3、4)

図3 ポップコーンの粒と膨化褐色の部分は果皮だ。果皮が破れ、中から糊化したデンプンが飛び出して白いサクサク部分ができる。

図4 ポップコーン粒の形状による膨化の比較未処理、縦割り、頭部を少しカットしたポップコーンの粒を、少量ずつ紙封筒に入れ、電子レンジ(600W)で3分加熱してみた。縦割りしたものは水蒸気が逃げてしまい、膨化しない。ポップコーンには、硬い果皮・水分・デンプンという3大条件が必須というわけだ。

ポップコーンの調理法

ポップコーン粒の外袋には、鍋に油を引いて、コーンの粒に油をよくなじませて加熱するようにと記載されていた。しかし、インターネット上では、ポップコーン作りのコツとして “コーンの粒が浸るくらいの油で”と記載しているものも少なからず見られた。その一方で、電子レンジでの作り方も見つかる。こちらは油なしで調理可能だ。

「順番に説明しましょう。まず、油の役割ですが、加熱調理の際に粒に熱が伝わりやすくするために用いられます。ひたひたになるほどたくさんの油は不要です。健康志向の時代でもありますし、油は粒に絡ませる程度で十分です」

なるほど。では、電子レンジ調理に油が不要なのは?

「電子レンジは、食品にマイクロ波を照射して水分子を振動させ、水分子同士の摩擦熱によって食品を温めるしくみです。前に述べたように、ポップコーンの粒には約14%の水分があるので、油がなくても加熱できるのです」

実際にどのようにポップコーンを作ればいいのか、近藤さんが電子レンジとIHヒーター加熱の2通りの方法を紹介してくれた(professor’s lab参照)。自宅に帰り、さっそく試してみた。

まず、電子レンジで試してみた。紙袋がないので、耐熱ガラスのボウルにコーンを10粒入れ、キッチンペーパーとラップフィルムで覆う。をしないと電子レンジの庫内にポップコーンがバラバラと飛び散ってしまうからだ。自宅の電子レンジは500Wなので4分加熱することにした。1分くらいで最初の弾ける音が聞こえた。約4分後にはサクサクのポップコーンが完成した。不発弾(弾けないで粒のままの状態のコーン)はなかった。

次に、油を引いた鉄のフライパンにコーンを10粒入れ、蓋をして、ガスで加熱した。フライパン自体とコーン粒に熱が回るまで少し時間がかかるので、焦げないように揺すりながら弾けるのを待った。少量だったせいか、こちらも不発弾なしにポップコーンが完成した。

お試し編で、ポップコーン作りの要領が分かった。その後は、電子レンジやフライパンで、その都度、食べたい量のポップコーンを作って楽しんだ。近藤さんに教えてもらったカラメルソースを絡めた自家製キャラメルポップコーンが、至福の味わいであったことを報告しておく。

大型連休が終わっても、風薫る爽やかなこの季節は、何か楽しいことをしたくなる。そんな気分になったら、ぜひ、家でも、キャンプなどのアウトドアでも、気軽にポップコーン作りを楽しんで口福を味わってみよう!

professor's lab

ポップコーンの作り方

読者のために近藤さんがポップコーン作りの比較実験をしてくれた。これを参考にして、自分でポップコーンを作ってみょう!

電子レンジ
《用意するもの》

・ポップコーンの粒50g

・マチのある紙袋

《調理方法》

紙袋にコーンをすべて入れ、中身が飛び出さないように口を折っておく。

600Wで3分加熱。

《経過》

50秒くらいで弾ける音が始まる。数秒間隔で断続的に音が聞こえ、2分50秒くらいで音が止まる。香ばしさも漂う。

《結果》

粒50gから42.4gのポップコーンができた(不発弾は1.4g)。

《味付け》

ポップコーンと塩を紙袋に入れて、袋を振って混ぜる。
塩味ポップコーンのできあがり!

professor’s memo

少量の場合は、紙封筒を用いてもいい。ただし、加熱すると20倍近く膨らむので、封筒も紙袋も耐熱容器も、大きめのものを用いるのがコツだ。容器が小さいと膨化したポップコーンがくっついて焦げる恐れがある。


IHヒーター
《用意するもの》

・ポップコーンの粒49.9g

・サラダ油(キャノーラ油)小さじ1/2(3g)

《調理方法》

ポップコーンの粒と油を、鍋の中でよく絡ませる。

IHヒーターを最大にして、鍋に蓋をして加熱する。

粒が焦げないように、時々鍋を揺する。

《経過》

加熱後3分くらいで膨化が始まり、4分くらいまで弾ける音が続いた。

《結果》

粒49.9gと油3gから45.5gのポップコーンができた(不発弾は1.4g)。

《味付け》

ポップコーンをボウルに移しておく。鍋に砂糖80g、水少々(目安は砂糖が溶けるくらいの量)、バター20gを加熱して、カラメルソースを作る。ポップコーンを鍋に戻したら、カラメルソースが熱いうちに素早く混ぜて絡める。自家製キャラメルポップコーンの完成!

professor’s memo

少量の油でも、しっかりと粒に絡ませておけば十分だ。焦げないように時々鍋を揺すりながら、ポップコーン全体に熱が伝わるように一気に加熱するのがコツだ。ガスなどの直火で調理する場合は、IH調理を参考に。

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ヘルシスト 285号

2024年5月10日発行
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