特集 ウィズコロナのストレス対処新生活様式で実践したい自律神経を整える「10カ条」

構成/渡辺由子  イラストレーション/永井 恵

新型コロナウイルス感染症のストレスは、思いの外、深刻なようだ。生活環境の変化や漠然とした不安、緊張などによる自律神経の乱れから、身体の不調を訴える人が増えている。ストレスを溜めないようにして自律神経を整えたいところだが、今の環境ではなかなかできないこともある。しかし、このような状況が永遠に続くとも思えない。「夢」と「希望」は最良の「薬」という。明日を信じて、今できることを実践したい。

横浜労災病院勤労者メンタルヘルスセンター長兼治療就労両立支援部長

山本晴義(やまもと・はるよし)

1972年、東北大学医学部卒業後、同学部心療内科助手。1981年、呉羽総合病院心療内科部長。1983年、梅田病院長就任。1991年、横浜労災病院心療内科部長就任。1998年から同院勤労者メンタルヘルスセンター長(兼任)。2003年から同院勤労者メンタルヘルスセンター長(専任)。2014年、同院治療就労両立支援部長(兼任)。神奈川産業保健総合支援センター相談員、埼玉学園大学大学院客員教授、厚生労働省 働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト「こころの耳」委員会委員。共著に、『メールカウンセリングエッセンス』(労働調査会)がある。

新型コロナウイルス感染症の感染拡大が、中国・武漢から始まったのは2019年12月。収束の兆しも見えないまま1年が過ぎ、感染予防を目的にしたさまざまな自粛が続いている。長期化する感染症の恐怖と先行きの不安によるストレスが、心や身体の乱れを招き、不調を訴える人が増えているという。

横浜労災病院心療内科医の山本晴義医師は、診療だけでなく、2000年から「勤労者 心のメール相談」で仕事などのストレスで悩む人のメール相談を受けている。24時間365日、無料で受けるメール相談の数は、スタートから20年間で12万件を超える。

「以前、月間のメール件数は600~800件くらいでしたが、2020年2月ごろから新型コロナウイルス感染症に関する相談が届き始め、国の緊急事態宣言が解除された5月には1202件と一気に急増しました。以降1000件を超える月が続き、9月は1396件です。すべてが新型コロナウイルス感染症に関わる相談ではありませんが、収束の見通せない新型コロナウイルス感染症の感染への不安や緊張、在宅勤務など生活環境の劇的な変化によるストレスをメインにした相談が増えているのが、最近の特徴です」(図1A、B)

図1A メール相談件数の年次推移と累計(2000~2019年)「勤労者 心のメール相談」では、回答者の山本医師が1日も休まず、24時間以内に返信を行う。「『気軽に相談できる』メールというツールの強みが生きている」と、山本医師。

図1B メール相談件数の月次推移と累計(2020年1~9月)2020年は新型コロナウイルス感染症による問題に関する相談が増え続けている。3密を避ける自粛が現在も続き、より精神的に不安な状況になっていることを示している。

逃げ場がない大きなストレス

これまでの仕事上や家庭内の問題が起因するストレスと明らかに異なるのは、新型コロナウイルス感染症の感染は世界中で拡大し、各地域で活動の制限や自粛があり、新型コロナウイルス感染症から逃げようとしても逃げ場がないことだ。

「ウイルスの性質が少しずつ解明され、治療法も確立されてきましたが、まだまだ未知の部分があり、しかもいつまで続くか分かりません。現在進行形で逃げ場のない非常に大きなストレスは、大小の差はあっても、どのような人にも負荷になっています。生体には、環境の変化に対応していくためのストレス反応(防御反応)がありますが、解消できない大きなストレスは、心と身体と行動にさまざまな問題を招きます。不快な心理的反応と身体的反応が現れ、それらを解消するために行動的反応が現れるといったように、相互に関連し合っています」

心理的反応では、不安やイライラ、怒り、緊張、恐怖、悲しみ、落ち込み、気力や集中力の低下などがみられ、長期的なストレスからくる心理的反応は、うつ病などの精神的な疾患の引き金にもなるという。

身体的反応では、自律神経のバランスが崩れて、身体にさまざまな症状が現れるようになる。初期段階では、目の疲れ、首や肩のこり、腰や背中の痛み、目覚めの悪さ、頭がすっきりしない、立ちくらみ、手足の冷え、胃のもたれなどが現れる。基本的にこれらの症状では、内科的な検査から器質的な異常は確認できないが、なかには胃もたれから胃潰瘍に進むなど、疾患へと発展する可能性もある。

行動的反応では、飲酒や喫煙の量が増えたり、過食、夜更かし、暴言、暴力などがみられ、生活の乱れや仕事や家事の能率の低下につながり、さらには不本意な状態へと発展する可能性もあるそうだ(図2)。

図2 ストレスによる主な症状生体には環境の変化に対して、ストレス反応で解消する働きがあるが、解消できない大きなストレスは身体や心や行動に悪影響を与える。

また、慢性のストレス状態では、下記のような特徴的な症状が現れるという。

  • ・何かすると、すぐに疲れる
  • ・おなかが張ったり痛んだり、下痢や便秘によくなる
  • ・よく風邪を引くし、なかなか治らない
  • ・好きなものでも、あまり食べる気がしない
  • ・口の中が荒れたりただれたりすることがよくある
  • ・舌が白くなる
  • ・このごろ体重が減った
  • ・深夜に目が覚めた後、なかなか寝付けない
  • ・少しのことで腹が立ったりイライラしそうになる
  • ・人と会うのがになった
  • ・仕事をする気が起こらない

「心理・身体・行動面でのストレス反応によって、日常生活に支障が出てきて、2週間以上続いているならば、ぜひとも医療機関で適切な治療を受けることをお勧めします。一方、日常生活に支障をきたすほどではないけれど、なんとなく不調を感じる場合、心身から『ストレスが溜まらないように、気をつけて!』と注意信号が発信されている状態です。そのようなときは、私が行っている『勤労者 心のメール相談』へ相談してください。これは直接的な医療行為ではありませんが、気軽に相談できて、専門医が気軽に回答してくれるのは、病院を敬遠したり、心療内科や精神神経科の受診をためらう方にとって、垣根の低い相談の場です。そこで心情を吐露することは、何らかの助けになると考えています」

自律神経のバランスが重要

ストレスと上手に付き合うには、日常生活を健やかに送る土台となる、自律神経のバランスを保つことが重要だろう。

自律神経は、身体の内部からの反応や外部からの刺激に対して、生命維持のために自動的に全身の臓器の機能を調整する神経で、交感神経と副交感神経の2つの神経系に分かれている。交感神経は、緊急事態に対応できるように心臓の拍動や血圧を高めるなど、「活動型」であるのに対して、副交感神経は胃腸の働きを活発にしてエネルギーを蓄える「回復型」だ。この相反する働きによって、私たちの身体の生理状態を一定に保つ「ホメオスタシス(恒常性)」が維持されている(図3)。

図3 自律神経系の各器官への影響自律神経系には、活動型の交感神経と回復型の副交感神経があり、生命維持に必要な機能を調節。絶妙なバランスで成り立っているが、ストレスにより一方に偏りがちになる。ストレス解消は自律神経を整える上で重要だ。

「自律神経のバランスが乱れて、例えば、交感神経の興奮状態が続くと、多くに循環器系の症状が現れます。高血圧の状態が続いたり、どうやイライラなどが起こります。一方で交感神経の働きが弱まっていると、頭痛やめまい、冷えなどが起こります。副交感神経では、活発すぎると消化器系に症状が現れ、胃もたれや下痢・便秘などが多くなります。この副交感神経がしっかりと働かないと、身体を休息・回復させることができず、不眠や疲労感、気分の落ち込みなどの自覚症状が現れます。ただし、症状の種類や現れ方には個人差があり、遺伝にも関係していると考えられています。また、ストレス反応として最初に身体症状が現れるのは、その人の弱い所であることが多いようです。ですから、例えば頭痛持ちの人なら、頭痛を感じたときに『ストレスが溜まってきたな』と注意信号を受け取ることができるわけで、早めにストレス対策に取りかかれます。しかし注意信号を放置したり、市販薬などで対症療法を繰り返していると、脳に大きな疾患が見つかったり、行動の異常に現れてくるかもしれません。自分のストレスの発現の特徴を知っておくことで、早めのストレス対策が打てるのですから、ストレスを上手に使いこなすことが、特にウィズコロナ時代には大切ではないでしょうか」

なお、自律神経のバランスを崩して起こる身体症状は、「自律神経失調症」と診断されることがある。

「これは日本の医療機関で使われる独特のもので、疾患名としては正しくありません。WHO(世界保健機関)の国際疾病分類(ICD-10)では『身体表現性障害』、アメリカの精神医学会の診断・統計マニュアル(DSM)では『身体症状症』です」

本来、ストレスは適度であれば、意欲や成長につながる。山本医師も通常のメール相談ではストレスの効用を説明し、ストレスと上手に付き合って解消し、自律神経のバランスを整え、日常生活のベースを構築するヒントを伝えている。それが、山本医師が提唱するストレスを溜めないライフスタイルである、「ストレス1日決算主義」の実践だ。毎日の生活の中で、運動・労働・睡眠・休養・食事の5要素をバランスよく取り入れること。ストレスを次の日に持ち越さないこと。生活習慣をすぐに変えるのはなかなか難しいので、無理せず、できそうなことから、少しずつ変えていくことだという。

ストレス解消10カ条

「私自身も、診療をとおして患者さんのストレスの話を聞いていますし、日々ストレスは生まれてきます。が、自分のストレスを効果的に取り除く解消法を実践することで、日常生活を健やかに過ごすことができています。それが、『STRESS』の頭文字をもじった解消法です」

【ストレス解消10カ条】
S→ sports(運動)
T→ travel(旅)
R→ rest & recreation(休養と遊び)
E→ eating(食事)
S→ speaking & singing(おしゃべりとカラオケ)
S→ sleeping & smile & sake(睡眠と笑いと適度の酒)

「これを患者さんやメール相談をされた方にもお教えしているんですが、新型コロナウイルス感染症の予防で『3密』を避けるために、実践できないことがいくつか出てきています。新型コロナウイルス感染症によるストレスと、ストレス解消法を実践できないストレスのダブルパンチには困りものですが、私はこの逆境をあえて、『ピンチはチャンス、チャンスはチャレンジ、チャレンジはサクセスですよ』と言っています。メンタルヘルスの基本は、『ないことを嘆くよりも、できることを楽しみましょう』です。それは新型コロナウイルス感染症によるストレスの解消法でも同じです」

例えば、山本医師はフルマラソンを走るドクターであり、スポーツクラブで30年間週5回ペースで身体を鍛えてきたという。現在は、自宅から勤務先までの往復を徒歩で、そして休診日には自宅周辺をウォーキングして、「S(運動)」を実践。「T(旅)」は、国の観光支援策「Go To トラベル」で盛況だが、感染収束が見通せるまで自粛し、再び旅に出られるまで情報収集に余念がない。

「自分でできるリラクセーション法を、ぜひ見つけてください。リラックスする、ということは、自律神経系の交感神経の働きを抑え、副交感神経を優位にすることです。それによって緊張が緩み、心拍数が遅くなり、身体は休息・回復モードに入るのです。これによって免疫力も高まることが研究によって分かっています。リラクセーション法には、腹式呼吸や、筋肉の緊張を緩める筋弛緩法などがあり、音楽を聴くこともいいですね」

新型コロナウイルス感染症のワクチンの実用化まで数年かかる見通しだが、この自粛生活が永遠に続くわけではない。新型コロナウイルス感染症が落ち着いた後を楽しむには、それまで元気でいることだ。

「自律神経を整えるには、『S(睡眠)』は重要です。在宅勤務の機会が増えると、オン・オフの切り替えが難しいとされていますが、心と身体を休め、明日への気力・体力を蓄え、生活のリズムをつくる大切な睡眠を、特にしっかりと確保しましょう。睡眠について、『早寝早起き』といわれていますが、それではダメ。私は、『』と言っています。眠くなったら寝るのが身体にとって自然なこと。早寝しようと、眠くもないのに床に就くと、目が冴えて眠れない、なんてことになります。例えば、7時間睡眠で熟睡感を得られる方なら、午前6時に起きる習慣をつけていれば、午後11時ごろには眠くなるものです。目覚めたら、朝日を浴びて、体内時計をリセットすれば、自律神経も整います。ぜひとも、『早起き早寝』を実践してください。

メンタルヘルスにおいて、『夢』と『希望』は最良の薬です。新型コロナウイルス感染症が収束した暁には広く自由な生活を謳歌し、いろいろとやりたいことがあるならば、とにかく元気でいましょう」

(図版提供:山本晴義)

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2021年1月10日発行
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