特集 「新型コロナ」ここが知りたい! 重症化リスクの少ない健常児
「接種」には適切な判断を!

構成/渡辺由子

15歳未満の健常児はほぼ重症化しないと考えられている新型コロナウイルス感染症は、現段階では子どもにとってさほど脅威ではない。ただ、さまざまな基礎疾患を持っている子どもは重症化のリスクがあり、感染から守る必要がある。ワクチン接種は有効だが、オミクロン株への効果は明らかではない。副反応を心配する声は強く、十分に考慮しなければならない。それぞれの実情に合わせた適切な判断が必要だ。

長崎大学大学院医歯薬学総合研究科小児科学教授

森内浩幸(もりうち・ひろゆき)

1984年、長崎大学医学部卒業。1990年以降、アメリカNational Institute of Allergy and Infectious Diseases(NIAID)でウイルス研究と感染症臨床に従事。1999年、長崎大学医学部小児科学教室主任教授(同大学医学部附属病院小児科長併任)、2002年から同大大学院医歯薬学総合研究科教授を併任、現在に至る。日本小児感染症学会理事長、日本ウイルス学会理事、日本小児科学会理事、日本ワクチン学会理事、日本臨床ウイルス学会幹事、日本小児保健協会理事、日本感染症学会評議員。

新型コロナウイルス感染症の陽性者数は、厚生労働省発表(2022年1月18日時点)の累積人数で192万4937人、年代別では10歳未満が10万9625人、10~19歳が20万5999人となっています。0歳から19歳までで、全体の約16%を占めています(図1)。

※上記グラフに以下の人数は含まれない。性別・年代不明・非公表等2万3171人
(出典:厚生労働省「データからわかる ─新型コロナウイルス感染症情報─」)

図1 性別・年代別陽性者数(累積/2022年1月18日現在)2022年に入り、変異株のオミクロン株により感染効率が上がり、小児にも感染が広がっている。小児の感染は無症状や軽症が大多数といわれるが、医療的ケア児や基礎疾患を持っている小児は、感染に対して十分な注意が必要となる。

小児科の診療の対象となるのは、おおむね15歳未満となりますが、デルタ株が猛威を振るった第5波までは、その年代の感染者を医療施設で診る機会というのは多くはありませんでした。子どもが感染者となるのは、養育者や家族の感染が判明して、子どもが濃厚接触者となり、検査で陽性と判定されたケースばかりでした。

無症状が圧倒的に多い小児感染者

小児感染者の病態は、症状のない「無症状」が圧倒的に多く、鼻がグズグズしている、咳がちょっと出る、熱がちょっとある、といった「軽症」の中でもさらに軽い症状を訴える程度で、風邪とほとんど変わりはありません。新型コロナウイルス感染症で、臨床症状から入院治療が必要になる小児の患者は、きわめてまれです。入院が必要となるケースのほとんどは、感染した養育者が入院して不在になるため、子どもも一緒に入院させるといった、社会的な理由によるものです。

第5波までの0~19歳の死亡者は、10代後半の方が3人亡くなっています(2021年12月22日時点)。1人は事故死で、調べたところ新型コロナウイルスに感染していたことがわかりました。2人は、新型コロナウイルス感染症の重症化リスクをたくさん持っていて、かつワクチン未接種であり、かなり命の危険な状態で搬送されたため、救えなかったケースでした(図2)。

※上記グラフに以下の人数は含まれない。性別・年代不明・非公表等791人
(出典:厚生労働省「データからわかる ─新型コロナウイルス感染症情報─」)

図2 性別・年代別死亡者数(累積/2022年1月18日現在)小児感染者のうち、医療的ケア児や基礎疾患を複数持っていることが重症化や死亡の原因とされる。5~11歳のハイリスク児へのワクチン接種が進むことで、死亡者数の増加を抑えることが期待できる。2022年1月18日時点で0~19歳の死亡者は4人。1人については、死因を究明中である。

死亡者の数で考えると、インフルエンザは1~4歳、5~9歳の子どもたちの死因でそれぞれ5位に当たり、毎年数十人から多い年で百数十人が命を落としています。また、インフルエンザ脳症や重い肺炎など、インフルエンザ感染後に後遺症が残ってしまった子どもたちが、何十人、何百人といます。

アメリカでは新型コロナウイルス感染症で命を落とした子どもの数が、インフルエンザによるものと同じくらいだといわれています。その原因の一つは、小児多系統炎症性症候群(MIS-C/PIMS:Multisystem Inflammatory Syndrome in Children/Pediatric Inflammatory Multisystem Syndrome)だと考えられています。これは、新型コロナウイルス感染症にかかってから2~6週間を経過してから起こり、全身の臓器に強い炎症が起こることで重症化するリスクの高い病気です。日本での新型コロナウイルス感染症後のMIS-C/PIMSの報告は、これまで十数例ですが、アメリカでは5000~6000人の患者がいて、そのうちの1%くらいが亡くなっています。

MIS-C/PIMSの発症には人種差がかなりあり、ヒスパニック系やアフリカ系の子どもに多く、東アジア系は非常に少ないことがわかっています。アメリカにはヒスパニック系やアフリカ系住民が多く、当然MIS-C/PIMSの患者数も非常に多くなり、子どもにも重症化した患者数の多さや、死亡者が出る理由の一つだと考えられています。

さらにアメリカで子どもの感染者が重症化している原因の二つめが、十分な医療を受けることができないマイノリティの人たちの存在だといわれています。三つめは、肥満です。成人でも肥満は新型コロナウイルス感染症の重症化リスクの要因ですが、子どもについても同様です。アメリカでは、肥満児の割合が日本に比べて格段に高いことが、重症者や死亡者の増加につながる要因になっています。

日本においては、小児の新型コロナウイルス感染症は風邪と同レベルの疾患ですが、アメリカではこれら三つの要因で、インフルエンザ並みの疾患になっている可能性があります。

新型コロナウイルスは、ヒト免疫不全ウイルスやエボラウイルスのように感染すると重症化が避けられないウイルスではありません。そのなかで、例外的に高齢者や基礎疾患のある人で重症化しやすいのはなぜか、健康な子どもは重症化しにくいのはなぜか、この点を解明していく必要があると考えています。もちろん風邪でも、無症状や軽症の子どももいれば、重い合併症を起こす子どもがいるように、新型コロナウイルスも健康な子どもの重症化につながることはあります。それも含めて、健康な子どもにとって「特別なウイルスではない」と考えています。

新型コロナウイルス感染症と診断する手がかりとして、一般的な風邪やインフルエンザのようなその他の呼吸器感染症と区別する特徴的な症状はありません。嗅覚障害・味覚障害は新型コロナウイルス感染症の特徴的な症状といわれていますが、成人でも10%弱にしか見られず、またまれに風邪でもインフルエンザでも見られる症状です。

症状を言葉で表現する力において、子どもは年齢差が大きく、年長児ならば、「酸っぱくない」「カレーの匂いがしない」などと言えますが、年少児では嗅覚障害・味覚障害が起こっていても訴えられないのか、そもそも起こっていないのか、わからないことが多いのです。嗅覚障害・味覚障害が特にひどかったら、食欲が落ちたり、嗜好が変わったりすることで気づかれるかもしれませんが、新型コロナウイルス感染症においては、少なくとも感染を示す決め手となる症状ではないのです。

心理社会的ストレスによる機能性身体症状

小児の新型コロナウイルス感染症に対する治療については、風邪を引き起こすウイルスと、新型コロナウイルスでの治療に違いはなく、しかも無症状やごく軽い症状がほとんどなので、特別な治療というものはありません。発熱があれば、アセトアミノフェンの解熱剤使用といった程度で、治療をしなくても自然に軽快していく患者が大多数を占めています。

ただし、普通の風邪であっても、新型コロナウイルス感染症であっても、まれに合併症が起こったり、基礎疾患があると、命に危険が及ぶような重症に至る場合もあります。特に0~1歳児は、呼吸器系の疾患の原因になるどのようなウイルスの感染であっても肺炎になりやすく、心疾患などの基礎疾患を持っている場合は、その疾患の増悪も考えられるので、注意が必要になります。

後遺症については、実態がつかめていません。海外の研究では、10代後半から30歳くらいまでの感染者では、半数くらいは何週間も続く症状が残るとされています。15歳未満では、十数人に1人くらいで後遺症とされる症状が残るともいわれています。調査の仕方で変わってきますが、年少児は年長児に比べて、症状が残ることは明らかに少ないとされています。日本小児科学会では、後遺症の子どもたちがどのくらいいるのかを調べるために登録システムを立ち上げましたが、登録者数は大変少ないのが現状です。

後遺症の症状にはいろいろとあり、検査をしても異常は見つからないけれど、「学校に行けない」「自宅の1階と2階を往復することすらできない」という感、頭がぼーっとして集中力が落ちる「ブレイン・フォグ」、感情失禁するように感情が爆発する、不眠などを訴えることがあるようです。

後遺症になる理由は、よくわかっていませんが、理由の一つに考えられるのが、「新型コロナウイルス感染症にかかった」という心理社会的ストレスが「機能性身体症状」を引き起こしたのではないか、ということです。

子どもたちの中には、新型コロナウイルス感染症にかかっていないけれど、同じような症状を訴えるケースがあります。新型コロナウイルスが蔓延し、生活が一変して、世間全般がピリピリした雰囲気に陥っています。大人であれば、ストレスがたまったときに頭の中で言語化し、悩みとして吐露したり、解決法を見いだしてストレスを解消することができますが、小さな子どもたちは、それができず、身体で受け止めてしまうのです。ストレスを身体の症状として表し、嘔吐、下痢、息苦しさなど、ありとあらゆる症状が出てくることがあります。

そのため、後遺症の治療として効果が見込めるのは、子どもたちの訴えを丁寧に聞き、訴えに対してシンパシーをもって対応していくことです。診察や検査で、何も異常が見つからなくても、決して「気のせいだ」と言わないことです。「頭痛がひどくて大変だと思うけれど、脳腫瘍のような物騒な病気じゃないからね」と、排除できる病気については、きちんと説明することです。そして、「あなたのように頭が痛くなるのは、よくあることで、珍しいことではないよ。時間はかかるかもしれないけれど、必ず元に戻るから、一歩ずつ普通の生活に戻していこうね」などと、子どもやその養育者に合わせてきちんと説明し、「サポートする」と伝え、理解してもらうことです。何より、最初に相談を受けた先生方が、きちんと受け止めてほしいと考えています。

小児のワクチン接種については、12歳以上で接種が進められており、5~11歳についても近々接種が可能となります。5歳以上で医療的ケア児など、重症化リスクの高い子どもたちには、ワクチン接種は朗報です。医療的ケア児とは、慢性呼吸不全、重症の神経学的な後遺症、脳性麻痺、気管切開をしての吸引が必要など、日常的に医療的ケアが必要な障害児のことを指します。また、先天性心疾患、慢性腎不全、ダウン症などの染色体疾患などや、小児がんやその他の病気の治療で免疫力が落ちている場合、肥満児についても、健常児よりも重症化リスクが高く、そういった子どもたちにとっては、ワクチンを接種することで、発症予防・重症化予防が期待できますので、接種を強く推奨します(図3)。

(写真提供:ファイザー)

図3 5~11歳用の新型コロナウイルスワクチン取材後の2022年1月21日に厚生労働省は、5~11歳の子どもを対象にした新型コロナウイルスワクチンを特例承認した。早ければ3月から接種が開始される見通しとなっている。

迷っている場合は接種を急ぐ必要はない

現在接種が認められているワクチンは、オミクロン株に対しては、「周囲への感染を防ぐ」効果はあまり期待できませんが、重症化を防ぐ効果は十分期待できます。

健康な子どもとその養育者がワクチン接種を希望する場合は、効果や副反応などについてきちんと説明して、接種の機会を増やし、進めていくべきだと考えます。しかし、健康な子どもでも、養育者が接種に対して疑問を抱き、迷っている場合は、接種を急ぐ必要はないと考えています。日本の健常児において新型コロナウイルス感染症は、その多くが軽症で命に関わるような病気ではありません。そうなると、接種するワクチンには高い安全性が求められます。

一般的に、接種後の副反応は若年者ほど強く出ていることが報告されています。ただ、5~11歳のためのワクチンは成人用ワクチンの3分の1の量を用いることもあって、12歳から20代に比べると副反応は軽くて済むようです。副反応の多くは、数日で治まりますが、まれに、若い女性を中心に重症のアレルギー反応のアナフィラキシーが起こり、若い男性を中心に心筋炎が起こると、海外では報告されています。ただ、心筋炎も5~11歳では12歳から20代と比べると10分の1くらいの頻度であり、これまでの報告では全例軽症です。そうはいっても、子どもにおいて、もともと重症化しにくい新型コロナウイルス感染症で、副反応が強く出たり、重い副反応が現れる可能性が皆無ではないワクチンを接種するか、疑問に考える養育者がいても不思議ではありません。

また、子どもたちの特に思春期前後の年代では、不安や恐怖のストレスによって接種の直前・直後に起こる血管迷走神経反射で、昏倒することがあります。集団心理でストレスが増幅し、倒れた人を見て倒れてしまうこともあります。ワクチンの成分とはまったく関係ないといっても、ワクチン接種によって起こることなので、恐怖感の強い子どもたちには、無理やり接種はしない、倒れることを想定して安全なスペースをつくるなど、さまざまな配慮が必要です。通い慣れたかかりつけ医のところで個別接種できるなら、それがお勧めです。

変異株のオミクロン株による感染が増え、子どもたちにも感染が広がりました。これまで子どもが感染しにくかったのは、ヒトの細胞に存在し、ウイルスの細胞内侵入の足がかりとなるアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)受容体が、大人よりも少ないことが関係しているという生物学的理由が考えられます。オミクロン株への変異により、子どもが感染しやすい脅威のウイルスになったのではなく、変異によって感染効率が上がり、大人が外で感染し、家庭内でワクチン未接種の子どもにも感染が広がり、さらには子ども同士での感染も広がっていると見ています。

子どもにとって、新型コロナウイルス感染症は健やかな成長を阻む大きなストレスです。まずは大人が感染しないように注意し、ワクチンの3回目接種を迅速に進めていただきたいと思います。私たち小児科医は、万全の態勢で子どもたちと養育者をサポートしていきたいと考えています。

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ヘルシスト 272号

2022年3月10日発行
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