特集 「脱炭素」の現実 第3世代の「火力発電」は温室効果ガス削減の切り札

構成・写真/河﨑貴一

政府は2050年までに脱炭素社会を目指すと宣言したが、達成までの道筋はかなり険しい。再生可能エネルギーの普及は不可欠だが、どうしても発電できない時間、つまりムラが生じてしまう太陽光・風力発電は、日本経済を支える安定した電力供給に不安が残る。そのムラを補完するためにも、火力発電の使用は現実的な選択といえよう。高効率の第3世代の火力発電技術は、「脱炭素」実現の一つの鍵となるかもしれない。

東京大学生産技術研究所研究顧問

金子祥三(かねこ・しょうぞう)

東京大学工学部機械工学科を卒業後、三菱重工業に入社。火力発電プラントの設計・建設とともに燃料電池、石炭ガス化などの研究開発に従事。ボイラ技術部長、取締役原動機副事業本部長などを歴任後、取締役技師長で退社。2001年、クリーンコールパワー研究所取締役副社長。2008年、東京大学生産技術研究所特任教授。2009年、同研究所エネルギー工学連携研究センター副センター長。2016年から現職。博士(工学)。日本機械学会フェロー。2018年度日本機械学会賞(技術功績)受賞。

「2050年までにカーボンニュートラ、脱炭素社会の実現を目指す」

菅義偉首相は、昨年10月、臨時国会の所信表明演説においてこう宣言しました。さらに今年4月、地球温暖化対策推進本部で、2030年度の温室効果ガス排出削減目標を、2013年度の排出実績(14億800万t)から46%減の約7億9000万tにすると発表しました。地球環境のために、脱炭素社会に向けての取り組みは大切です。世界各国とのバランスもあるので、数値目標を立てるのはやむを得ません。問題は、これらの目標を、どのように科学的に実現させるかです。

  • カーボンニュートラル:森林などによる吸収量を差し引いた二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出量の値を、ゼロにすること。

火力発電は欠かせない

日本では、温室効果ガスの多くを占めるCO2の42%は発電によるものです(2016年度・環境省資料)。私は、長年、国内外で発電プラントの研究や建設に携わって参りました。現在、私が所属する東京大学生産技術研究所では、超高効率発電、石炭利用高度化、CO2関連(CO2固定化)、自然エネルギーなどの研究開発を行っています。それらの中でも、私が専門に研究する超高効率発電、石炭利用高度化などは、CO2の削減に大きく寄与できる技術です。

「すべての発電を再生可能エネルギーに切り換えればいい」と考える人は多いと思います。しかし、再生可能エネルギーは発電の“ムラ”があるので、発電できないときに電力をどのように補完するかが大きな問題です。結論から言えば、再生可能エネルギーを増やそうとすれば、火力発電が欠かせません(図1)。特に、エネルギー資源の大半を海外からの輸入に頼っているわが国では、火力発電の高効率化は必要不可欠です。

図1 再生可能エネルギーには補完する調整力が必要再生可能エネルギーによる発電は、自然条件の変化によって、人間生活の需要とは無関係に変動する。そのため、電力需要を補完するためのバックアップ電力が必要不可欠である。

太陽光発電は夜間や雨・曇りの日は発電できません。風力発電は、風の吹かない日は発電しません。太陽光や風力による発電は、私たちの社会生活に必要なときに、都合よく発電できるわけではありません。

再生可能エネルギーによる発電の設備利用率は、経済産業省や新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)などによると、太陽光発電の利用率は12~13%、風力発電の利用率は20~30%とされています。再生可能エネルギーの100万kWの設備は、原子力発電所の1基分などと例えられますが、実際には年間で、太陽光発電で12万~13万kW、風力発電で20万~30万kWしか発電できません。

再生可能エネルギーで注意しなければならない点がもうひとつ。それは、発電のための太陽光パネルは中国製がほとんどで、風車はヨーロッパからの輸入品です。基本的に国産の設備は使われないので、国内産業にほとんど寄与しないことです。

再生可能エネルギーによる発電の利用率の低さは日本だけの問題ではありません。再生可能エネルギーの“先進国”といわれるドイツでは、北海での風力発電が有名です。しかし、風が吹くときと吹かないときでは、2400万kW(2011年10月~2012年3月のデータ)の差が生じています。関西電力の全電力消費量に相当する電力量です。ドイツでは、電気が足りないときには、周辺各国から電気を輸入しているのが実情です。

ムラが問題の太陽光発電や風力発電

ドイツでは、産業用の電気料金が安いことで知られています。それは、ドイツが国際競争力を持つために、産業用の電気料金を安く抑えているからです。一方で、ドイツの家庭用電気料金は世界でもトップクラスの高さで、ドイツの産業用電気料金を、消費者が負担しているのです。

再生エネルギーの中で、日本は水力発電所を長年活用しています。ノルウェーのように、国内の電力需要の700%もの電力を水力で発電している国もあります。ノルウェーは、電気を輸出し、1人当たりの国民所得は隣国・スウェーデンの1.5倍近くもあります。水力は最高の再生可能エネルギーです。しかも治山治水にも役に立ちます。しかし、日本では、大型の水力発電所の適地が少なくなり、また“ダム建設は悪”ということで建設が困難になっています。今後は、中小の水力発電所が増えると予想されますが、小規模なうえに立地条件の良い所は少ないので、建設コストが高くなってしまいます。

太陽光発電や風力発電の最大の問題は、前述した発電のムラです。このムラを防ぐために、蓄電池の活用は選択肢の一つとして考えられます。しかし、蓄電池は使用するためには充電しなければならないので、稼働率は最大でも50%にしかならず、割高になってしまいます。まして、ライフラインを安定化させるほどの大容量の蓄電池を建設するのは技術的・経済的に非常に難しい。

愛媛県南宇和郡愛南町の太陽光発電。

北海道稚内市宗谷岬の風力発電。

電気が安定供給されないとどうなるのかについても説明しておきます。

2018年9月6日、北海道東部地震(最大震度7)をきっかけに、北海道で日本初のブラックアウト(電源喪失)が起きました。ブラックアウトが起きると社会のインフラの多くがまひ状態になってしまいます。北海道胆振東部地震では、全道で電力の需給を安定化させるために、14日間かかりました。今年1月には、西日本で電力使用率が供給力の99%にもなって、ブラックアウト寸前でした。

電力の供給は交流を使用しています。交流は、変圧が容易で、電圧を高くすると送電によるロスが小さくなるという長所があります。最初の頃は“交流か直流か”の論争もありましたが、現在は世界中が同期発電機による交流電力網になっています。交流は電力の供給と消費を常にバランスしていなければなりません。電力の需要が供給より大きくなると周波数が下がり、小さくなると上がります。日本の周波数は、東日本は50Hz、西日本は60Hzですが、このようにして、本州(九州、四国を含む)では±0.2Hz、北海道と沖縄では±0.3Hzの間に正確に調整されています。

電力の供給が需要に追いつかなくなるなどして周波数が1.5Hz以上下がると、発電所のタービンや発電機などが壊れてしまうので、「不足周波数リレー(UFR:Under Frequency Relay)」という遮断器(ブレーカー)が働いて、この系統を自動的に電力網から切り離す仕組みが備えられています。発電所が次々に電力網から切り離された状態がブラックアウトです。

日本の電力網の安定性は世界一

日本の電力網の周波数の安定性は世界トップで、停電率の低さも世界トップ。特に「±0.2Hz」は、日本の財産で、日本の国際競争力の源泉です。国内のどこでも、安定した電力を、同じ料金で利用できます。

例えば、日本車は海外でも現地生産されていますが、日本で製造したエンジンを積んで輸出された日本車と、現地生産された日本車では、日本で製造された自動車のほうが中古車価格は高く、保険料も安い例があります。

なぜ日本製の自動車はこれほど人気があるのか。それは、エンジンのパーツの精度に関係しています。エンジンには、1万点ほどの部品が使われていますが、例えばネジは、ピッチが一定でないと、締めても緩んできたり、壊れたりしかねません。その点、日本では、電気が安定しているのでモーターの回転数も安定し、一定のピッチのネジを生産できるのです。

それでは、日本は再生可能エネルギーを増やしながら、どのようにしたら必要な電力を安定的に供給できるのでしょうか。

その解決策は、前述したように、火力発電を使うしかないのです。それも、エネルギー効率の良い新しい技術の火力発電です。ひとことで言えば、2050年のカーボンニュートラルになっても、火力発電所の稼働時間が減っても、トータルの火力発電設備容量は減らせません。電力需給に即応できる火力発電所がなければ、停電やブラックアウトが起きるからです。

実際、ドイツでも、電力会社が火力発電所の廃止を申請しても、行政が「設備は残しておくように」と廃止許可が下りない場合も出てきています。

火力発電所を活用しなければならないのですから、発電効率を上げて、燃料の消費量を減らして、発電量を大きくするしかありません。発電効率が良くなれば、CO2の発生量も減って、CO2を削減することにもつながります。

今は、水素やアンモニアなどを再生可能エネルギーからつくるという議論が盛んになされています。しかし、水素もアンモニアも燃料です。これらにしろ、化石燃料にしろ、電気に変えるには、ボイラー(蒸気タービン)かガスタービンか、あるいは燃料電池を利用するしかありません。

蒸気の熱エネルギーを利用する蒸気機関は、18世紀後半にジェームズ・ワットが改良し、19世紀後半にチャールズ・A・パーソンズが蒸気タービンを実用化させました。蒸気タービンを利用する火力発電の第1世代「単純サイクル」は、最初は、発電効率が10%もいかなかったのが、第二次世界大戦後は効率が上がって、今では600℃の蒸気を利用する超超臨界圧(USC)で40数%まで効率が上がりました(図2)。

図2 火力発電の高効率化の歴史ワットが蒸気機関を改良後に、火力発電は技術革新によって高効率化を達成してきた。蒸気タービンを活用した第1世代の単純サイクル(下図の①)で効率は40数%、第2世代のダブル複合発電(同②)で60%。そして今、第3世代のトリプル複合発電(同③)で70%が可能になっている。

現在主流になっている第2世代「ダブル複合発電」は、蒸気タービンとガスタービンを組み合わせた二重発電方式です。天然ガスを圧縮空気の中で燃焼させたガスでガスタービンを回して発電し、その排ガスで蒸気をつくって、蒸気タービンで発電します。この発電方式での実際の効率は55%くらいになります。ガスタービンは気体か液体の燃料しか使えないのですが、固体燃料である石炭もガス化すると使えます。これが石炭ガス化複合発電(IGCC)です。しかし、ダブル複合発電の発電効率はこの辺りが限界です。

第3世代「トリプル複合発電」の可能性

そこで私が強調したいのが、高温型の固体酸化物燃料電池(SOFC)と蒸気タービンとガスタービンを使って3重に発電する第3世代「トリプル複合発電」です。天然ガスを使うと発電の熱効率は70%ぐらいまで上がりますし、ガス化した石炭でも60%以上になります。石炭は褐炭も使えるので、国内に残っている石炭も利用可能です(図3)。

図3 火力発電の SOFC の構造と特長第3世代のトリプル複合発電の鍵を握るのは、固体酸化物燃料電池(SOFC)。電気自動車等に使用される固体高分子燃料電池(PEFC)と違い、700~1000℃の廃熱を利用して、ガスタービンと蒸気タービンを組み合わせて、3重に発電が可能になる。天然ガスを使うと発電効率は70%にもなる。

この火力発電用の燃料電池の技術は事実上日本だけが持っていて、石炭のガス化も日本独自の技術です。これらを使えば、日本のみならず、世界の環境対策や産業用としても貢献できるでしょう。

また、SOFCはセラミックでできていて、酸素によって発電しますから、燃えるものなら基本的に何でも燃料として使えます。運転時の温度が高く、廃熱でガスタービンや蒸気タービンも回せます。この3段階の発電でエネルギーを有効に使えます。

それに対して、燃料電池自動車などで水素を利用する固体高分子燃料電池は、白金触媒を使って純粋な水素で発電するので、高価なうえに、廃熱(80℃)は発電には利用できません。その点、安定化ジルコニアを使うSOFCなら、高効率な発電が可能なのです。

このSOFCは、例えば50万kWの発電設備をつくるためにはセルが200万本必要です。これまでとは違う量産の世界ですから、工場の設備投資が要る。工場の生産規模に反比例してセルのコストは下がっていきますが、200万本の量産設備を生産するためには1000億円以上の投資が必要です。

半導体も液晶も太陽光パネルもリチウムイオン電池も事実上日本が工業化を成功させたといえると思いますが、典型的な量産製品であるために設備投資に後れを取り、今や中国や韓国に市場を奪われてしまいました。SOFCの大量生産をどのようにして実現するかが、日本の将来を決めると私は思っています。

(図版提供:金子祥三)

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2021年7月10日発行
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