特集 新時代の栄養学 健康長寿を目指すための「コンビニ食」と「療養食」

文/河﨑貴一

バランスの良い食事が大切なことは分かっているけれども、どうしても栄養が偏りがちになる —— 。そんなとき、実は「コンビニ食」の栄養成分表示が大きな味方になる。これをチェックすれば、糖質や塩分などがコントロールしやすいのだ。一方、より栄養に気をつけなければならない生活習慣病や持病のある高齢者。こちらの場合は、食材宅配サービスの「療養食」や「介護食」に栄養管理を任せるという手がある。

平澤芳恵(ひらさわ・よしえ)

東京労災病院治療就労両立支援センター管理栄養士・両立支援コーディネーター。メタボリック症候群予防、働く女性の食生活等をテーマに、企業などで栄養相談や講演を実施。深夜勤務者のための食事選びの研究等にも携わっている。新聞や雑誌、病院HP等でさまざまな執筆活動も行う。

金子えり(かねこ・えり)

ヨシケイ開発メニュー開発部部長。管理栄養士。群馬県桐生市出身。2007年、高崎健康福祉大学健康福祉学部健康栄養学科卒業。栃木県内の病院で患者の食事提供・栄養管理に携わった後、2008年、ヨシケイ開発に入社し、献立部に配属。2013年、献立部長。2016年から現職。

『深夜勤務者のための食生活ブック —— 健康をめざすコンビニ食の選び方 —— 』(2016年刊)という冊子が東京労災病院(東京都大田区)の治療就労両立支援センターから発刊・公開(https://www.tokyor.johas.go.jp/)されて、評判になっている。制作者は、同センターの平澤芳恵氏(管理栄養士・両立支援コーディネーター)である。

平澤芳恵さんが制作を担当した冊子(東京労災病院のHPで公開)。

コンビニのメニューでもバランスは取れる

「2013年から2016年にかけて、深夜・交代勤務者の生活習慣、食生活調査を実施し、この冊子を制作しました。20年近く前からタクシーの運転手さんの栄養指導を担当する中で、彼らは交代で24時間勤務ですから深夜に食事をする場合、営業している外食店ではラーメン店や牛丼店しかない状況がありました。コンビニ食を利用する場合もおにぎりや菓子パン、サンドイッチなどで簡単に済ませ、野菜不足や塩分過多の人が多くいました。

車に長時間乗務していると、運動不足にもなりがちで、調査結果からは、高血圧や糖尿病など生活習慣病に関する所見を抱える人が多く、食事面では、タクシー運転手さんの1日の食事回数は3回ではなく2回、野菜は1日1回程度、深夜にコンビニを利用する人は7割を超えることが明らかになりました。コンビニでも選び方次第で野菜量を増やしたり、食事量をコントロールできます。工夫して選ぶことにより、栄養のバランスは良くなるため、研究の成果物として、本冊子を制作しました」(平澤氏)

図1 コンビニ食の栄養分析「あんぱん・インスタント麺」の食事や「カツ・フライ弁当」は男性に多いが、ビタミンやミネラルが不足。「おにぎり・サラダ」は女性に多くほとんどの栄養素が不足。「ミートソース」に「ツナサラダ」を足すとバランスが良い。

図1のように、男性に多い「あんぱん・インスタント麺」の食事は、エネルギーやコレステロール、炭水化物などが多く、逆にビタミン類全般や食物繊維、カリウムなどが不足する。揚げ物が主体のガッツリ系弁当は、さらにその傾向が強くなる。女性は、「おにぎり・サラダ」のメニューをよく見かけるが、これだとほとんどの栄養素が不足する。

その点、コンビニのメニューでも「ミートソース(パスタ)」に「ツナサラダ」を足すと、ほとんどの栄養素がまんべんなく摂れて、カロリーも過剰にならない。

とくに、男性に多い、エネルギーが過剰で栄養バランスの悪い食事を摂り続けると、体に悪影響が出る場合がある。平澤氏は言う。

「企業を訪問する栄養相談で、例えばゲーム制作会社の社員さんたちは、20~30代と若いのに体重100㎏超の肥満の人が少なくなく、健康診断ではお酒を飲む習慣がないのに、肝機能が基準値を超えている人や、高尿酸値の人も多くいます。

彼らは、ディスプレイの前で椅子に座ったまま仕事を続け、休日も運動をしません。仕事は夜型で、帰宅しても好きなゲームをやってから寝るので、睡眠時間は3~4時間と慢性的な睡眠不足。午前中は体が目覚めず、カフェイン入りの眠気覚ましドリンクを飲んで自分を奮い立たせている人もいらっしゃいます。さらにその影響か、おなかの不調を訴える人も少なくありません」

栄養成分表示が必ず付いているコンビニ食

体調の悪さは食事と大きな関係がある。食事は会社の近くのラーメン店や立ち食いそば、それにコンビニでもインスタント麺と菓子パンを組み合わせるなど、食事や栄養素への関心は高くないという現状がある。

「緑黄色野菜の摂取を推奨するなどコンビニメニューの組み合わせ方をアドバイスし、最近では腸内細菌と肥満の関係も報告されていることから、乳酸菌飲料を1日に2本飲むことを提案すると、数カ月もするとおなかの不調は改善し、体調が良くなる人もいます」(平澤氏)

「コンビニ食の最大の長所は、栄養成分表示が必ずあることで、糖質や塩分のコントロールしやすくなっています。デパ地下やスーパーの食品にはないところもあります。かつては、『ナトリウム含有量』という表示で、換算しないと食塩相当量が算出できませんでしたが、現在の『食塩相当量』という表示によって、塩分量が分かりやすくなっています」(平澤氏)

一般にコンビニ食は、揚げ物(脂肪分)が多く、塩分や糖分の味付けが濃い傾向がある。平澤氏がかつて、あるコンビニメーカーの担当者に、「塩分量を低く抑えられませんか?」と尋ねたことがあった。その時、担当者は、「日持ちをさせる観点と、(味付けが濃いのは)万人受けのため、そうせざるを得ない」と答えたという。現在では、消費者の健康志向もあって野菜の量が増えたり、塩分は少なくなりつつあるが、カロリーや塩分のコントロールをしたい消費者にとっては、栄養成分表示を有効活用したいものだ。

たとえば、高血圧が気になる人が深夜や明け方にコンビニ食を利用する場合、塩分を抑え、カリウムを意識した「おにぎり(鮭)+海藻サラダ」なら470㎉で塩分は3.3g、「納豆巻き+アボカドサラダ」の組み合わせであれば、272㎉で塩分2.5gと1食あたりの塩分量は3g前後と良好だ。

脂質異常症(中性脂肪・LDLコレステロール)が気になる人が深夜や明け方にコンビニを利用する場合は、DHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)が多く含まれる青魚や、たんぱく質の多い大豆とともに、食物繊維が豊富な海藻や根菜類を組み合わせると良い。たとえば、「納豆巻き+海藻サラダ」(470㎉、塩分3.3g)や「ほぐしあじのご飯+五目豆」(400㎉、塩分3.2g)などがおすすめ。おやつには、糖分や脂肪分たっぷりのおやつよりもクルミやアーモンドなどのナッツ類を選ぶと、食物繊維も多く摂れる。

さらに健康に良い食べ方がある。

「『ベジタブルファースト』といって、野菜から先に食べ次におかず(主菜)、ご飯(主食)の順に食べ進めると、血糖値の急激な上昇が抑えられます。ただし、野菜ジュースは、食物繊維を取り除いたり、果汁や糖分を加えられている商品もあるので、野菜の代わりにはならない場合があります」(平澤氏)

そして、コンビニの利用法を平澤氏はこう勧める。

「コンビニで選ぶ際にも主食、主菜、副菜のバランスを意識しながら食事を選ぶと健康的になりますので、ぜび参考にしてみてください」

管理栄養士が作成し認知症予防医が監修

しかし、栄養管理は面倒で難しい。とくに、生活習慣病や持病のある高齢者には負担が大きいだろう。

そんなときは、食材宅配サービスを利用して、栄養管理を任せるという選択肢もある。

たとえば、北海道から沖縄県までを宅配エリアとしてカバーし、約50万人に利用されているヨシケイ開発(本社・静岡市)には、食材の宅配ばかりか、レンジや湯煎で温める調理済料理や冷凍弁当などの日替わりメニューを毎週届けるサービスもある(送料無料)。それらの中でも、療養食や介護食としても利用しやすいメニューが、「健康が気になるオトナ世代のため」とキャッチフレーズが付けられた「和彩ごよみ」である。このメニューは、すべて管理栄養士が作成して認知症予防医が監修したメニューが中心で国産食材を多用する「プレミアム」、標準的な「スタンダード」、レンジや湯煎で温めるだけで、1人前から利用できる「ライト」の3コースがある。

「弊社のメニューのうち、カロリーや塩分が控えめのメニューにご興味をお持ちのお客さまはご高齢の方が多く、そのような方々に人気のあるのが『和彩ごよみ』です。このメニューは1食あたりの塩分を週平均で2.8g以下(ライトメニューは3.5g以下)に抑えて、野菜は1日に摂取する目標値350gのうち約2分の1に相当する140g以上(ライトメニュー以外)を摂取できます」と説明するのは、同社メニュー開発部の金子えり部長(執行役員・管理栄養士)である。

同社のメニューは、毎週月曜日から土曜日までの6日間の夕食の食材、または調理済料理が配達され、主食は利用者が用意する。毎日のメニューは、エネルギー、野菜量、糖質、炭水化物、蛋白質、脂質、食塩相当量が記されている(野菜量と糖質は一部メニュー)。

「主菜は、牛肉・豚肉・鶏肉・魚のメイン食材をバランスよく提供しています。メニューは毎日2~3品。全国65社の加盟社が、本社で開発したメニューに従って、食材の多くを地元で調達しています。

塩分を制限するにあたっては、塩分やしょうゆを減らしたメニューだと美味しく感じないお客さまもいらっしゃいます。そこで、美味しく楽しんで食べていただくために、料理によってはかつお節をプラスして、うま味成分を増やしたりという工夫も行っています。また、青じそやしょうが、ごまなどの薬味を使って、風味をプラスして、美味しく感じていただくメニュー作りも心がけています」

「和彩ごよみ」の「プレミアム」は、とくに「健康寿命の延伸を応援するメニュー」と記されていて、医師監修のサポートメニューを毎週2~3日導入している。

たとえば、2020年11月16日(月)から21日(土)までの「プレミアム」メニューは(図2) —— 。

  • ●16日/筑前煮+ほうれん草と炒り卵の甘酢+焼き椎茸の香りご飯
  • ●17日/生姜たっぷり!豚ロースやわらか生姜焼き+舞茸けんちん汁+細切り大根の梅マヨあえ
  • ●18日/銀聖鮭三五八漬焼き+豚肉と野菜の重ね蒸し+さつま芋のごま炒り
  • ●19日/牛肉の味噌プルコギ+生揚げとみつばの韓国風サラダ……

図2 ヨシケイ開発の「和彩ごよみ」の「プレミアム」メニュー「和彩ごよみ」は、カロリーや塩分が控えめのメニューに興味がある高齢者に人気がある。週6日、夕食用に届けられるメニューは、牛肉・豚肉・鶏肉・魚の主菜のバランスが良く、メニューのほとんどには、エネルギー、野菜量、糖質、炭水化物、蛋白質、脂質、食塩相当量が記されている。

ヘルパーに調理を依頼するケースもある

調理が必要なメニューについては、カラー写真の完成例と調理法がメニューブックに掲載されている。

この期間の料金は、「プレミアム」は2人前1390~1610円、「スタンダード」は2人前880~1120円、「ライト」は1人前820~890円。

「料理を作るためには、食材を買いに行かなければなりません。買い物は荷物が重いうえに、キャベツをひと玉買うと、使い切れないので、何日もキャベツ料理が続いてしまうことがあります。それに、新型コロナウイルスに感染しないようにと、買い物を控える方も多くなりました。そんなときでも、弊社をご利用いただければ、弊社の社員がご都合の良いお届け先に配達しますし、ご都合の悪いお客さまや、配達員との接触を好まれないお客さまにつきましては、宅配用の鍵付き『あんしんBOX』をお貸ししています」(金子部長)

食材宅配サービスのメリットについて、同社広報戦略室の山崎氏も話す。

「買い物に行くと、その方の好みで食材や料理が偏る傾向があります。食材はできるだけ多くの種類を摂るほうが健康的です。つい先日もアメリカにお住まいの方が、新型コロナウイルス感染症のために、ご実家に里帰りができず、ご両親が心配だというので、弊社サービスをご紹介いただきました。また、要介護でひとり住まいの高齢者の方で、弊社の宅配サービスを利用して、ヘルパーさんに調理をお願いされているケースもあります。

実は私も栄養士として、かつては弊社でメニュー開発を担当しておりました。仕事を終えてから買い物に行く時間がなかったので、弊社の宅配サービスを勤務先に届けてもらい、それを持ち帰って家族の夕食を作っていました」

人生100年時代を迎えて、健康長寿を目指したい。そのためにも、食はとても大切である。

(図版提供:東京労災病院治療就労両立支援センター/ヨシケイ開発)

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ヘルシスト 265号

2021年1月10日発行
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