気になる人の「気にする食卓」第63回 千住 明

構成/編集部  写真/山元茂樹

HEALTHIST INTERVIEW

千住 明(せんじゅ・あきら)

(作曲家)

1960年10月21日生まれ、東京都出身。東京藝術大学作曲科卒業後、同大大学院を首席で修了。藝大在学中より、ポップスから純音楽までと活動は多岐にわたり、現在は作曲家・編曲家・音楽プロデューサーとしてグローバルに活躍中。東京藝術大学特任教授。東京音楽大学特別招聘教授。

音楽と料理はともに時間芸術
母の料理の伝承者として兄妹にも振る舞う

作曲家・編曲家・音楽プロデューサーとしてグローバルに活躍している千住明さん。兄の博さんは日本画家、妹の真理子さんはヴァイオリニストと、芸術界で活躍する千住3兄妹の次男としても知られている。幼少期から母を手伝ってきたため、自粛生活の環境下で再び料理の腕を振るっている。

子どもの頃から母の手伝いで料理をしてきたという千住明さんに、まずは幼少期について伺った。

妹の真理子が小さい頃からヴァイオリンを始め、才能があったので手を怪我しないように家の手伝いをさせなかったんです。それで、次男の僕が自然と母の手伝いをするようになりました。小学5年生の頃になると、母が真理子のレッスンの送り迎えをクルマでしていて夕食時に不在だったので、母が作り置きしていった料理を僕がフライパンで温め直して食卓に並べ、祖父母と父、兄に食べてもらっていました。でもそのうち、単純に温め直して出すだけでは面白くないと思うようになり、母の料理に自分なりのアイデアで少し手を加えてみたりするようになったのです。それがきっかけで、物づくりの面白さを知り、将来は料理人を目指そうと思っていた時期もありました。また、小学校の林間学校では、僕が手際よく料理を作っていたので驚いた先生たちに、「家でどんな生活をしているんだ」と聞かれました(笑)。

近年は仕事が忙しく、じっくりと料理をする時間がなくなっていたが、新型コロナウイルス感染症の影響で自粛生活が続き、再び料理の腕を振るっている。

中学生になると一人で料理を作るようになり、いろいろなものを作っていましたが、その多くは母から学んだものでした。僕は千住家の料理の伝承者を自負していますから、母が亡くなった後、兄の博や真理子が母の味を恋しくなると僕が作って食べさせていました。でも、近年は仕事が忙しく、どうしても外食が中心の生活になっていました。夕食時には大好きなワインも一緒に飲んでいたので、ここ数年間、休肝日がまったくない状態でした。でも今年60歳ですから、そろそろ自分の体のことを真剣に考えなければいけないなと思っていたのです。

ある日の夕食メニューは、もずく酢、しらすと大根おろし、ニンニクで炒めたキクラゲ、アボカド・赤タマネギ・オクラ・たくあん・スプラウト入りの五色納豆、千住さんが母から受け継いだ鶏の唐揚げ、オリジナルの海老の唐揚げ、白米、味噌汁。(写真提供:千住 明)

そんな折に新型コロナウイルス感染症が蔓延し、外食を控えて自粛生活をするようになったので、お酒を飲まない日をつくるチャンスに恵まれたと思いました。自宅では普段、妻が料理を作っているのですが、飲まない日は僕が料理を作るようにしています。まさにコロナがきっかけで、再びじっくりと料理を作る時間ができたわけですが、自分が一番食べたい物を作るとなると、やはり母の料理なのです。

音楽と料理はともに時間芸術で、創造性、イマジネーションが必要となる同じ脳の働きを使う、非常に似た動きなのです。だから、作曲の仕事をしている途中で料理を作るときに、頭をクールダウンさせる必要はありません。

家庭でしか食べられない料理を作る

千住家の料理の伝承者である明さんに、料理へのこだわり、調理方法の工夫などを聞いた。

母は化学系の研究員で、栄養士の資格も持っていたので、子どもたちに食事はバランス良く食べなさい、とよく言っていました。そして、自宅で作る、食べる物というのは、外では絶対に食べられない物でなければいけない、と。つまり、家庭で食べる物は体にいい物、健康を考えた調理方法で作ることが大切なのです。今回、提供した夕食の写真にある鶏の唐揚げは、鶏肉を購入してきて、まず自分で脂と皮を全部取ります。この作業だけで本当に時間がかかりますが、手間を惜しんでいたら体にいい物を食べることはできません。そして、醤油とニンニクで味つけをしたら、衣は片栗粉だけを薄く付けて植物性の油で二度揚げします。油は植物系の新鮮な油で、バターやラードは使いません。その油も一回ごとに新鮮なものを使用します。これは、母の味を受け継いだ料理なのですが、味も衣も昔より薄くしています。また、僕のオリジナル料理である海老の唐揚げは、海老を重曹と塩で洗ってプリプリにしてから、紹興酒とニンニクに漬けて揚げます。

音楽も料理も、創造性、イマジネーションが必要で似ている部分が多いため、作曲活動の途中で料理に取り組むことがあるという。

最後に千住さんから、読者へ向けて健康と食生活におけるアドバイスを頂いた。

僕は、時間があるときに事務所の近くをウォーキングしていますが、約20分はウォーミングアップに当てています。準備の時間がないと有酸素運動にならないということを、きちんと意識して体を動かすことは大切だと思います。また、朝起きて疲れが取れていないと思う人は水分をよく摂取してください。水分といっても、水を飲むということではなく、野菜や果物から摂取するようにすれば、自然と体に水分が補充されます。無理のない方法で、自然の物から摂取するのがとても体にいいと思いますので。また、これからの時代の贅沢は、美味しい物をおなかがいっぱいになるまで食べるのではなく、いい物を少しだけ食べる審美眼を養っていくことだと思っています。

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ヘルシスト 263号

2020年9月10日発行
隔月刊

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