特集 転ばぬ先の「足のケア」 爪は健康のバロメーター——「足の爪」トラブルは要注意

構成/渡辺由子  イラストレーション/青木宣人

体の中で小さなパーツの爪だが、運動器としては重要な働きを担っているため、健康寿命に与える影響も大きい。その爪のトラブルで一番多いのが「巻き爪」で、歩行困難になるだけでなく、膝や腰の痛みの原因や、高齢者の場合は転倒や寝たきりのリスクを高めてしまうというのだ。しかも、巻き爪の原因は、正しい爪切りや保湿など、日常的な足のケアを怠っていることだと考えられている。そのため普段から爪のケアをしっかりすることが大切になってくる。

埼玉県済生会川口総合病院皮膚科主任部長/東京医科歯科大学臨床准教授

高山かおる(たかやま・かおる)

1995年、山形大学医学部卒業。2007年、当時の日本の大学病院では珍しい皮膚科フットケア外来の開局に携わる。日本皮膚科学会認定皮膚科専門医。日本皮膚免疫アレルギー学会代議員、日本フットケア・足病医学会理事、日本臨床皮膚科医会常任理事、日本転倒予防学会理事、日本トータルフットケアマネジメント協会理事。「100歳まで自分の足で歩ける社会づくり」を目指し、足育研究会を設立し、代表理事を務める。専門は、接触性皮膚炎、フットケア。

爪は、体の中ではとても小さなパーツです。しかし、運動器として重要な働きを担い、さらには「爪は健康のバロメーター」ともいわれています。

手の爪よりもトラブルが起こりやすい

「爪」と呼んでいるのは爪甲で、軟部組織の爪床の上にのっていて、爪の形成や維持に必要な水分や栄養を爪床から補給しています。爪の生え際の皮膚に隠れているところから爪半月のあたりが爪母で、爪は爪母のケラチノサイト(角化細胞)からつくられ、指先のほうへ成長していきます。爪のおもな成分は、毛髪と同じくハードケラチン(硬ケラチン)です。

また、爪は繊維のように縦方向と横方向が互い違いに3層に重なっています。下から縦(腹爪)、横(中間爪)、縦(背爪)の順で、これにより柔軟性と折れにくい耐久性を兼ね備えています(図1)。

図1 爪の構造爪は小さなパーツだが、立位や歩行などの動作の要であり、重要な働きをしている。爪は、薄い爪が3枚重なり、繊維状になっている。

爪は、指の機能を高めるためになくてはならない存在で、「指を保護する」「指の力を強くする」「指の触感を鋭くする」「指の動きのバランスを取る」という4つの働きを担っています。特に足の爪がなかったら、歩行時につま先に力が入らず、足の指で地面をしっかりとつかんだり、後ろへ蹴ったりすることはできません。バランスは安定せず、転倒のリスクも高まります。

足の爪は、手の爪よりもトラブルが起こりやすいことが特徴です。足には全体重がかかり、地面からは強い刺激を受けるので、足にかかる負担が極めて大きいためです。特にトラブルに見舞われやすいのは、足の第1(親指)で、それだけ負担が大きいことを表しています。

足の爪のトラブルで一番多いのが「巻き爪」です(図2)。爪が先端にいくにつれて、細く巻き上がっていく症状で、アルファベットの「C」のように内側に巻き込んだり、さらにひどくなって「O」状のトランペットのようになったり、ホチキスの針のように直角に折れ曲がったりすることもあります。

図2 巻き爪爪の端が内側に巻き込んでできる巻き爪。外反母趾などの足の変形や、足に合わない靴などが原因で起こる。痛みがなければ治療は必要ない。

巻き爪の部分の痛みで、歩行困難になるだけでなく、膝や腰の痛みの原因や、高齢者の場合は転倒や寝たきりのリスクを高めることから、「たかが爪のトラブル」とは言えないのです。

巻き爪の原因は多様で、その一つに爪と骨は密接に関係していることがあり、骨が変形すると爪も変形します。第1趾が外側を向く「外反母趾」などの変形により、爪は横や下からの圧力を受けやすくなると、皮膚の軟部組織が厚くなって爪に覆いかぶさり、それに押されて爪が内側に巻いてきます。足の形に合わない窮屈な靴を履くことも同様に、爪が両側からの圧力で、皮膚を挟み込んで内側に巻いていきます。

「バイアスカット」は巻き爪の原因の一つ

爪の切り方も原因の一つで、爪の両端の角を大きく斜め切りする「バイアスカット」(図3)を繰り返していると、爪が伸びてきたときに行き先がなくなり、爪が巻いてしまいます。バイアスカットによる巻き爪は、O状に巻き込む難治性の巻き爪のリスクを高めます。

図3 爪の形足の爪が伸びる速度は、手の爪の2分の1ほどで、月に1回程度切ればよいが、足の爪の切り方を間違えると、巻き爪や陥入爪などのトラブルの原因になる。短く切りすぎる深爪、両端を斜めに切り込むバイアスカットではなく、指先と同じ長さで真っすぐ切り、角を紙ヤスリで少し落とすスクエアカットにする。

巻き爪の原因はさまざまですが、私は、「正しい爪切りや保湿など、日常的な足のケアを怠っていること」「歩かないこと」「足の指にきちんと力が入らないこと」だと考えています。日常的なケアは後述しますが、足の5本の指で地面を踏みしめて蹴り出し、体重をかけて歩けば、爪に均一の力がかかり、爪が端に巻き込まれずに、指に沿った緩やかなカーブを維持できます。また自分に合った靴を履き、よく歩いていれば、巻き爪予防にもつながります。

巻き爪の治療の一つは、自宅でできる方法で、痛みを緩和する応急措置の「コットンパッキング法」です。爪の先が2㎜程度伸びていれば、脱脂綿や不織布を米粒くらいの大きさに丸め、痛みのある爪と皮膚の間に挟む方法です。小さすぎると効果がなく、大きすぎると痛いので、大きさを微調整します。

「巻き爪の治療を行っている」と標榜している医療機関の皮膚科・形成外科・整形外科・足のクリニック、接骨院やネイルサロン等では、矯正による保存的治療ができます。巻き爪とは、爪が巻いている状態を表す症状名で、痛みがあっても炎症がなければ、疾患ではありません。そのため、医療機関を受診する場合、炎症がなければ保険診療の対象ではなく自由診療となるので注意が必要です。

保存的治療には、矯正器具を使ったさまざまな方法が考案されており、施設で導入している方法が異なるため、事前に調べることを勧めています。超弾性のワイヤーやクリップを爪の先端に取り付けて、超弾性の材料の復元力を利用して巻き爪を矯正する方法など、さまざまです(図4)。爪の伸びる速さに応じて器具を付け替え、治療にかかる期間は個人差があり、半年から2年くらいかかるなど、治療期間に応じて自由診療や施術に対する費用が必要です。

超弾性ワイヤー法

巻き爪や陥入爪で行われる保存的治療法の一つ。爪の先端に穴を2カ所開け、特殊なワイヤーを通し、ワイヤーが元に戻る力を利用して爪の形を矯正。爪の伸びに合わせて付け替える。

超弾性クリップ法

爪の先に形状記憶合金製のクリップを装着し、クリップが上に戻る力を利用して爪の形を矯正する。超弾性ワイヤー法では、爪が割れてしまう人や爪の薄い人に適している治療法。

図4 巻き爪の矯正治療

爪を生えないようにする不可逆的な手術を行っている施設もあります。しかし、「二度と爪が生えない」といっても、再び爪が生えてくることは少なくありません。その結果、巻き爪の再発、爪が厚くなる「肥厚爪」や、肥厚爪に分類される発生の機序・診断治療が明確でない「爪甲鉤彎症」になるなど、二次的なトラブルのリスクがあり、治療法の選択は十分に考慮すべきと考えています。

難治性陥入爪リスクを高める肥満や多汗

足の爪のトラブルで、巻き爪に次いで多いのが陥入爪で、爪の端が皮膚に食い込んで炎症を起こしている状態です(図5)。陥入爪の一番大きな原因は、深爪です。爪が伸びてきたときに、本来なら皮膚は爪で押さえられますが、深爪によって爪の押さえがなくなると皮膚の軟部組織が盛り上がり、伸びてきた爪が軟部組織にぶつかり、傷をつくって炎症が起こると陥入爪になります。

図5 陥入爪爪が皮膚の軟部組織にぶつかったり、爪棘が軟部組織に突き刺さったりして、傷ができてしまい炎症が起きた状態。間違った爪の切り方を繰り返していると、症状はなかなか治まらない。

深爪によって爪の角がとげのように残るができると、軟部組織に突き刺さり、傷となることもあります。炎症や痛みがあるので、さらに爪を切ると、切った直後はよいけれど、爪が伸びてくると、また爪棘ができるという連鎖に陥ってしまいます。他にも、巻き爪や、激しい運動で爪が折れるなどして炎症が発生し、陥入爪になることもあります。

肥満や汗の多い人は、難治性の陥入爪になるリスクが高いといわれています。肥満の場合、もともと軟部組織が盛り上がって爪に覆いかぶさりやすく、また爪は汗によって水分を含むと軟らかくなり、折れやすくなるためです。

陥入爪の治療は、症状の重さによって治療法を選択します。炎症が比較的穏やかで軽症であれば、自宅でのケアが可能です。爪と皮膚が触れていると炎症が治まらなくなるので、巻き爪と同様にコットンパッキング法で爪と皮膚を離して、炎症が治まるのを待ちます。

医療施設で行う保存的治療は、爪と皮膚の間の溝に細く軟らかい医療用チューブを差し込んで爪の食い込みを防ぐガター法があり、施術直後から痛みを軽減できます。しかし、炎症が繰り返されて症状が治まらないときはこじれている場合が多く、手術を選択することになります。

当院では、楔状切除術といって、爪の端の爪棘を形に最小限に切り取り、爪と皮膚を剥がすことで皮膚を休ませます。これによって炎症が治まり、痛みからも解放され、改善に向かいます。切除範囲が最小限なので、爪としての機能はほぼ維持できます。

他に、爪が生える場所の爪母の切除や薬品で腐食させるなど、爪甲の幅を永久的に狭くして、陥入爪の再発を予防する手術法もあります。しかし、巻き爪と同様に、二次的なトラブルを招く恐れがあり、初期の段階で適切な治療を行えば陥入爪は治るので、過剰な手術は必要ないことが多いと考えています。

トラブルを予防するためのポイント

小さな爪には、大きな機能があります。爪が適切な長さであれば、足の指がきちんと着くことによって、地面を力強く押して正しく歩くことができ、足首や膝の揺らつきをなくすなど、さまざまな作用があります。

巻き爪や陥入爪だけでなく、タコやウオノメ、外反母趾や開張足などは、従来は足に合わない靴が原因だとされてきました。しかしそれよりも、本来持つその人の足の靭帯の緩さに歩き方や姿勢、爪切りなどの日々のフットケアなどが積み重なった結果、トラブルとして現れているのだと考えています。大学生女子50人の足トラブルについて調査したところ、75%が開張足や外反母趾、タコやウオノメ、巻き爪といったトラブルを抱え、なかには2つも3つも重なっている人もいました。またその多くは、トラブルは子どもの頃に始まっていました。

この調査から、爪をはじめとする足のトラブルは、「一時的」なものではなく、「蓄積性」であり、つまりは「生活習慣病」であるとの考えを強くしました。さらには、トラブルは連鎖していくだけに、足のことをきちんと知る、きちんとケアするなど、足の健康を保つことの重要性を幼い頃から学ぶ、「足の教育」が欠かせないと考えています。

では、爪と足のトラブルを予防するためのポイントをご紹介します。まず、正しい爪の切り方は、「スクエアカット」といって爪を四角に切るほうが、巻き爪や陥入爪を防ぐことができます。爪を指の先端か、それより少し長めの位置でまっすぐに切ります。入浴後など爪が少し軟らかいときに、割れないように爪の端から少しずつ切り、最後は両端を紙ヤスリでやや丸く整えます。ヤスリかけは、往復させず、一方向にサッサッとなでるようにかけます。なお、爪切りの道具で、上の刃と下の刃で爪を挟んで切る「平型爪切り」を使っている方が多いのですが、刃にカーブがついていると深爪になりやすいので、ストレート(直刃)のものを選んでください。

毎日の入浴時には、少量のせっけんをよく泡立て、足全体を泡で包むようにして、指を1本ずつ洗います。汚れや角質の溜まりやすい指の間や指の裏もていねいに洗います。爪の周りに汚れや角質が溜まっていると、爪と皮膚の間の爪溝が深くなって、さらに溜まりやすくなるので、週2~3回は柔らかいブラシなどでやさしく洗います。

洗い終えたら、清潔なタオルで水分をよく拭き取り、爪白癬(爪水虫)の温床にならないようにします。足洗いの後は、顔のお手入れのように保湿が必要で、ハンドクリームなどでよいので、足裏から指先、爪の上や周りまで、満遍なく擦り込みます。

靴については、巻き爪や陥入爪に限らず、足首、膝、腰などさまざまな部位に影響を与えるので、自分の足に合った、正しい靴を選択することは非常に重要です。それには正しい足のサイズを知ることが必要で、かかとからつま先までの長さの足長(レングス)、足幅で最も広い足の指のつけ根を1周測った長さの足囲(ワイズ)から分かります。爪にトラブルのある人は、スニーカーやウォーキングシューズ、もしくは足の機能を研究して作られたコンフォートシューズをそろえる専門店で、試着してフィット感や指先を自由に動かせるかなどを確認して選ぶことを勧めています。

日本人は、欧米人に比べて生活習慣の違いから、足のケアへの意識が低いといわれてきました。しかし、人生100年時代になり、足のトラブルが健康寿命を短くすることにつながると、足がフォーカスされています。足のトラブルは爪だけではありませんが、爪を見ることは自分の健康を知ること、意識することにつながります。あなたの巻き爪の問題は、体の問題でもあるのです。健康的な爪を保つことは、足の機能を高めることです。「ヘルシー&ビューティー」を意識し、もっと足と爪を大切にしてほしいと考えています。

(図版提供:高山かおる)

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ヘルシスト 279号

2023年5月10日発行
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