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ヘルシスト 294号

2025年11月10日発行
隔月刊


多くの人は天気の影響を受けている

経験したことのない暑さや線状降水帯の発生、近海で生まれる台風も増えてきて、昨今、天気予報は、毎日の生活に欠かせないものとなっています。その天気予報について、今から100年ほど前、気象学を「学問」としてだけでなく、社会に役立つものとしようと、気象学者の藤原(1884〜1950年)が、その普及に努めたことが知られています。

長野県の諏訪市に生まれた藤原は、東京帝国大学で理論物理学を学んだ後、中央気象台に入り、日本の近代気象学の父といわれた岡田武松の指示の下にヨーロッパへ留学。学び持ち帰った手法は、それまでの経験則に頼り感覚的・統計的だった日本の気象学を、大気の状態を物理的法則で捉え、理論的に予測するものへと転換する基礎となりました。

藤原は、東京帝大教授や中央気象台長を歴任し、「2つ以上の熱帯低気圧が約1000㎞以内に接近した際に互いに影響し合って複雑な動きをする」といった有名な研究を深める一方、20冊以上の本を執筆。気象の知識や情報を、分かりやすく提供することに力を注ぎました。

そのうちの一冊、『気象と人生』の中では、「人間の生理及び個人或いは社会の衛生」が、いかに気象と関係しているかを、「かぜ」「気温」「湿度」「気圧」「地域」などに触れながら考察し、多くの人は天気の影響を受けていることを自覚していないと思うが、吟味しておく必要がある、と示唆しています。

その気づきがあったればこそ、だったのでしょう。藤原が後進に向け書き残した「(天気)予報者の心掛け」には、言葉の選び方や予報者の体調、日々の過ごし方にまでわたる30近い項目の心得が示され、一般の人々に、気象の情報を役立ててほしいという熱い思いが伝わってきます。


日本では、2024年末から2025年の初旬にかけて25年ぶりの大規模なインフルエンザの流行が発生しました。今シーズンは、例年になく早い時期から流行が始まっています。インフルエンザの流行は気候だけでなく、ウイルスの変異やワクチン接種率など多くの要因に左右されるため不確実性が高く、流行の規模や深刻さを予測することはなかなか難しいのですが、流行のパターンは明らかに変わってきているといわれています。

流行パターンの変化に影響を与えている原因の一つとして考えられているのが、気候変動との関連性です。気候変動が及ぼすインフルエンザへの影響をテーマとする研究はいくつかあり、さまざまな可能性が指摘されています。

Nature(2025年2月)に発表された研究「温暖化が流行パターンに与える影響」には、冬と夏における段階的な気温上昇(2.5℃、5℃、7.5℃、10℃)をシミュレーションした結果、温暖化が長期間にわたり感染に大きな影響を与えることが示唆されています。さらに極度の高温は秋と冬の感染率に顕著な影響を与え、その効果は数年にわたり持続するとしています。

一方アメリカでは、2012~2013年にインフルエンザが大流行しています。The Lancet(2023年7月)に掲載された論文によると、2011~2012年に記録的な暖冬となり、次の冬に異例なほど早い時期から重症度の高いインフルエンザの流行が発生したといいます。過去のインフルエンザの流行シーズンと気候との関連を分析した結果、暖冬の後には早期に始まる重症な流行が続く傾向があることが判明したのです。これらのパターンはインフルエンザA型、B型の双方で見られ、地球温暖化により今後も暖冬が頻繁に発生することが予測されることから、流行拡大と感染症の重症化を避けるには、早い時期からのワクチン接種が有効と結論づけています。

異常気象や環境変化は健康に影響を与え、間接的に感染症への脆弱性を高める恐れがあります。異常に暑い夏を経て、インフルエンザの流行は始まっています。

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