
最近、各種製品の宣伝媒体に、企業が実施した臨床試験の結果をグラフで示すことが目立つようになった。示されたグラフの下部には小文字で実施要領が説明されているし、詳細は大本の学術発表論文を手繰ることで閲覧可能である。しかしながら、グラフで示される結果を正しく理解することは、科学研究に素人の大方の消費者には簡単ではない。まず、一般的なグラフには、縦軸と横軸があるので、それぞれ、何を示しているかを理解する必要がある。例えば、某特定保健用食品(トクホ)の臨床試験結果を示すグラフでは、横軸に被験飲料の摂取期間を含む試験期間が、時間(~年)単位で示されている。縦軸は、訴求しようとする効果因子の量(摂取開始時を基準とした変化量の場合もある)である。グラフには、複数試験群(たいていは、被験食品と対照食品の2種類)の結果の推移が、それぞれ異なるシンボル(〇とか△など)をつないだ折れ線グラフで示されている。棒グラフ(この場合は、棒の模様や色で試験群を区別する)の場合もある。トクホ摂取群では、対照食品摂取群に比べて、まあ、誰が見ても「よく効いているね」といったデータが示されているのが普通である。少し詳細に見てみよう。まずは、横軸。各目盛りに対応するすべての数値がグラフの折れ線や棒の該当する位置に示されているかを確認する。一般的に、試験群間のデータの差異を統計処理によって検定しており、有意な差異があった場合、当該ポイントにこれを示す*印が示される。この*の数が多いほど、訴求しようとする効果の信頼性が高まる。もちろん、データ全体のポイント数が多いことも結果の確からしさを後押しする。通常生活における訴求因子の変化の範囲は、効果量を判断するうえで肝心である。被験者の当該因子は、試験終了後に時間を置くと試験開始前のレベルに戻っていたのか、それとも、変化した状態が維持されたのか、はグラフに示されない場合がほとんどであるが、興味深いところである。また、「科学は再現性である」といわれるが、示された結果が3回以上の繰り返し試験で再現性が得られていたのか、等は、論文査読の際に担当の査読者からよく問われる。
厚生労働省は、研究を不当なバイアスから保護するために、「厚生労働科学研究における利益相反の管理に関する指針」を策定している。臨床研究の学会発表の冒頭で、演者が「利益相反」について状況を宣言することをよく見かける。これは、臨床および基礎の両面について言える。臨床試験における被験物質を提供する側の企業研究者として参画する場合に、利益相反の存在は避けられない。筆者は、長年、企業研究体において臨床機関の先生方との共同研究に参画した経験があるが、厳しい場合は、それ相応の研究への貢献があっても、企業体研究者ということで学術論文の著者から外される場合もあった。こんなこともあったが、企業体に在籍した期間はもちろんのこと、アカデミアに研究の場を移してからも、学生さんの指導に際して、研究の進め方や結果の解釈に都合を持ち込まないこと、を強調してきた。以前の本コラムにおいて、プロバイオティクスの要件の一つとして「保健作用の科学的根拠の明示」を挙げたが、有用な効果を期待するプロバイオティクスの効果検証試験を行う際に、比較対照となる試験群とプロバイオティクス群の試験結果を入れ替えて考えても、結果の解釈が変わってはならない。得られた結果の有意性を統計解析する場合に、ついつい、有意な結果が得られる解析法を選択してしまうこと等は、都合が前面に出てしまうありがちな間違いである。企業体側としても、例えば日本製薬工業協会は、「企業活動と医療機関等の関係の透明性ガイドライン(透明性ガイドライン)」を策定している。
ずいぶん前に、筆者が学術誌に論文を投稿して、その査読結果を待つ間に当該研究の進め方に致命的な間違いを発見した。対応する間もなく論文は一発accept(掲載受諾)されてしまったが、すぐに編集局にwithdraw(論文取り下げ)の返事を出したことを思い出す。これからの研究生活でも可能な限り“crystal clear”な姿勢で研究の完成を迎えたい。
- *1 Stewart Richie(矢羽野 薫 訳). Science Fictions: あなたが知らない科学の真実. ダイヤモンド社, 2024.
- *2 厚生労働省ウェブサイト. 厚生労働科学研究における利益相反の管理に関する指針. http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10600000-Daijinkanboukouseikagakuka/0000152586.pdf
- *3 野本康二. 可能性が広がりつつあるプロバイオティクス. ヘルシスト, 249: 32, 2018.
- *4 日本製薬工業協会ウェブサイト. 企業活動と医療機関等の関係の透明性ガイドラインについて. https://www.jpma.or.jp/basis/tomeisei/aboutguide/index.html








