特集 気候変動と健康リスク 〈巻頭インタビュー〉
気温の上昇で深刻な状況に! 健康はどんな影響を受けるか

構成/渡辺由子

気温上昇が止まらない。日本の夏はいまや常套句となった「記録的な」暑さに毎年見舞われ、健康への深刻な影響が顕現している。熱中症死亡者数は急増し、2024年は2000人を突破。これは自然災害による死亡者数の5.5倍だ。さらに心臓病や呼吸器疾患などの持病が、暑さをきっかけに悪化して死亡する暑熱関連死も、熱中症の約7倍あるとされる。過度な暑さは、さまざまな疾患や健康に多大な影響を及ぼす。もはや個人の努力だけでは不可避で、社会全体での取り組みが重要だという。

東京大学大学院医学系研究科国際保健政策学教授

橋爪真弘(はしづめ・まさひろ)

2007年、英国・ロンドン大学衛生熱帯医学大学院博士課程修了。2012年、長崎大学熱帯医学研究所教授、同大大学院熱帯医学・グローバルヘルス研究科教授(兼任)を経て、2019年から現職。専門は、グローバルヘルス、プラネタリーヘルス、環境疫学、気候変動。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書第2作業部会主執筆者、世界保健機関(WHO)技術諮問委員会委員、環境省 中央環境審議会専門委員(気候変動影響評価等小委員会)などを歴任。

2025年の日本の夏は、前年以上に記録的な厳しい暑さに見舞われました。世界的にも気温が上昇し、世界各地で熱波発生のニュースが伝えられました。

1988年に、世界気象機関(World Meteorological Organization:WMO)と国連の補助機関である国連環境計画(United Nations Environment Programme:UNEP)によって設立された政府間組織、「気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change:IPCC)」では、各国政府の気候変動に関する政策に対して科学的な基礎を与えることを目的に、世界中の科学者が協力して、科学誌などに掲載された論文などの文献に基づいた定期的な報告書を公表しています。

2021年にIPCCが公表した第6次評価報告書では、世界の平均気温は18世紀半ばから19世紀にかけて起こった産業革命より前に比べて、1.1℃上昇したとしています。これは人類が経験したことのないレベルの温暖化で、しかも年を追うごとに上昇し、2024年には1.55℃まで上昇したとする研究報告もあります。温暖化の原因について、IPCCは人間活動であることは疑いの余地はないと、断言しています。なお、日本では過去年平均気温が100年当たり1.4℃上昇し、1990年代以降、猛暑となる年が続出。世界の平均気温の上昇以上であり、その暑さの過酷さが際立っています(図1)。

気象庁 日本の年平均気温偏差の経年変化(1898〜2024年)を基に作成

図1 日本の年平均気温偏差の経年変化2024年の日本の平均気温の基準値(1991~2020年の30年平均)からの偏差は+1.48℃。1898年の統計開始以降、最も高い値だった。日本の年平均気温は上昇しており、1990年代以降、高温の年が頻出している。

日本を含め世界では、産業革命前からの気温上昇を、今世紀中に1.5℃未満に抑えようという目標を立て、目標達成には、今世紀半ばに温室効果ガス排出量をゼロにしなければならないと推定しています。

気温上昇による健康への影響は深刻で、特に高齢者は暑さに脆弱です。毎年総務省が発表する、国内の熱中症による5月から9月までの救急搬送人員は、2024年は9万7578人で過去最多を記録しています(図2)。おそらく2025年も過去最多を更新するのではないかと考えています。また、熱中症による死亡者数も増加傾向にあり、2023年に1651人、2024年はついに2000人を突破して2033人(6~9月の概数)で、約8割を高齢者が占めています(図3)。

総務省消防庁 熱中症による救急搬送状況の概要を基に作成

図2 熱中症救急搬送数

厚生労働省 人口動態統計を基に作成

図3 熱中症による死亡者数
日本の夏は、年々、猛暑が頻出し、熱中症による救急搬送数や死亡者数が増加しており、死亡者の8割は暑さに脆弱な高齢者が占める。特に一人暮らしの高齢者の熱中症予防に、家族や知人、地域行政レベルでの見守りの確保、高騰する電気代などへの経済的な支援が必要ではないだろうか。

自然災害による死亡者数の5.5倍

1年のうちの4カ月間で、約2000人もの人々が亡くなるのは現実として考えづらいと思いますが、環境省が発表する、大雨、豪雨、土砂災害、台風、雪害、地震などの自然災害の死亡者数と比較すると、熱中症による死亡者数は、その5.5倍にも上ります。今後、健康を考えるうえで、「暑さや熱波も自然災害」と認識することが、重要だと考えています。

暑さの健康への影響は熱中症だけではなく、暑さがトリガーとなって亡くなる暑熱関連死が、今、クローズアップされています。心臓病や呼吸器疾患で亡くなった方の中にも、暑さをきっかけに持病が悪化して亡くなる方が相当数含まれているとみています。暑さで汗をかき、体内の水分量が減るため、血液を循環させる心臓に負荷がかかり、例えば心臓に持病があると、さらに心臓の機能が低下して、心不全を起こして亡くなることも考えられます。私たちの調査研究で、暑熱関連死者数は熱中症死亡者数の約7倍と推計しており、暑熱関連死は大きな問題です(図4)。

Yuan L, et.al., Environ Health Perspect. 2023;131:127008.

図4 熱中症死亡者数と暑熱関連死者数暑さの健康への影響は熱中症だけではない。橋爪教授らの研究により、2015~2019年の5年間で、熱中症の死亡者数は5031人だったが、暑熱関連死は3万3467人で、約7倍に上ると推定されることが分かった。

肥満や糖尿病、高血圧などの生活習慣病のある人や妊婦も暑さに対して特に注意が必要で、健康な人よりも暑さに対して死亡リスクが高くなることが、研究で分かっています。熱中症だけに注目していると、暑さによる健康への影響を過小評価することになるので、注意しなければなりません。

暑熱関連死は今世紀末には現在と比べて何倍に増えるのか、私たちの研究グループで推計したところ、将来的な日本の人口減少を考慮して計算すると、気温が産業革命前よりも2.7℃上昇する場合、全都道府県で2倍以上になると見込まれました。東北、北海道の地域は気温の上昇の幅が大きい傾向ですが、総じて2倍以上になると考えられます。

救急搬送件数についても、1.3~3倍の増加が考えられています。搬送件数の増加は、1年を通してみると夏と冬の2つのピークがあり、これまでは冬のピークが最も高くなる季節性がはっきりと見られていました。しかし温暖化によって気温が上昇してくると、今後は、冬のピークは下がる一方で、夏のピークが冬を追い越し、逆転することが研究で明らかになりました。これは、私たちが温室効果ガスの排出に対して何の対策もせず、気温上昇が約2℃、3℃、4℃、5℃となるシナリオに基づいて計算したもので、あくまでもシナリオベースですが、あり得ることだと考えています。

将来想定される気候変動に対して、このままの救急搬送体制で救急車は足りるのか、救急患者を受け入れる医療施設がしないかなど、さまざまなシミュレーションで研究を進めています。救急車の稼働率は今世紀中に100%を超える可能性が示されており、救急車の台数を増やせばよいという単純な問題ではなく、救急車の適正利用をさらに推進する動機づけも含め、救急医療体制のあり方を再検討することが望まれます。

デングウイルスを媒介する蚊が北上

気候変動は、感染症やアレルギー疾患、メンタルヘルスなど、さまざまな健康状態に影響を及ぼします(図5)。例えば、デング熱やマラリアなどの感染症は、温暖化によって媒介蚊の生息域が広がり、これまで流行地域の周辺にあった地域が、新たに流行地域に含まれる可能性があります。日本でも、デング熱の病原体であるデングウイルスを媒介するヒトスジシマカの生息域が北上し、1950年代は北関東が北限でしたが、2015年には青森市で幼虫が一時的に確認されています。北海道での確認は報告されていませんが、このまま温暖化が進めば、生息可能になることが懸念されています。

アメリカ疾病予防管理センター(CDC) Effects of Climate Change on Healthを参考に改変

図5 さまざまな健康への影響気候変動は猛暑や異常気象だけでなく、さまざまな形で現れ、それらが原因となって、持病の悪化や新たな疾患の罹患など、私たちの健康に想像以上の影響を与えることになる。

日本国内におけるデング熱患者の大部分は、海外の流行地域で感染した旅行者が帰国後に発症する輸入症例です。しかし、2014年には代々木公園周辺を中心に162例の国内感染事例が報告され、媒介蚊を介した国内での伝播リスクが現実に存在することが示されました。さらに、近年の外国人観光客の増加により、流行地域からの感染者を通じてデングウイルスが持ち込まれ、国内に生息するヒトスジシマカを介して流行が拡大する潜在的なリスクが高まっていると考えられます。

また、温暖化に伴って大気中の水蒸気量が増加し、短時間強雨(スコールのような雨)が増えています。線状降水帯による集中豪雨が近年繰り返し発生しており、洪水・土砂災害が深刻化しています。日本では発生の可能性は高くないものの、洪水によって下水処理能力が超過すると、飲料水や生活用水が汚染され、水系感染症(コレラ、レプトスピラ症など)のリスクが高まることは国際的に知られています。

さらに、サハラ砂漠以南のアフリカや南アジアなどの発展途上国では、猛暑、冷夏、豪雨などで穀物の生産量が減少し、食料価格の高騰により、子どもを中心に栄養失調で命を落とすことが少なくありません。また、栄養失調と下痢症は密接に関係していて、下痢症になると栄養を吸収する能力が低下して栄養失調になりやすく、人々の命を脅かす要因となっています。

季節性のアレルギー疾患も、気温の上昇に影響を受け、中でも花粉症は、例年、2月ごろにスギ花粉の飛散が確認されていますが、飛散時期が今よりも前倒しになる可能性があります。例えば、12月中から花粉が飛散し、の期間が長引くように変化するかもしれません。

メンタルヘルスへの暑さの影響について、ここ5年くらいでかなり知見が蓄積されています。豪雨、洪水、台風が激甚化し災害が拡大することにより、自身がをする、家族や知人を失う、家屋などの財産を失うなど、災害後のメンタルヘルスの問題は深刻です。激甚災害以外に、猛暑が続くことで、気分の落ち込みやうつ症状を訴える人は多いとみています。

気温が上がると睡眠時間の減少を示す研究があり、熱帯夜では寝苦しく、入眠時間が遅くなり、結果的に睡眠時間が短くなります。翌日の気分や精神状態に影響を及ぼし、集中力の低下から労働生産性の低下も考えられます。メカニズムは不明ですが、人間の情動と暑さは、密接に関係していると考えています。

エアコンに頼る対策は将来的に限界

2014年に世界保健機関(WHO)が発表した報告書では、2030~2050年代に温暖化による過剰死亡は、年約25万人に達すると推定されています。その内訳は、低栄養が9万6000人、マラリアが6万人、下痢症が4万8000人、熱中症をはじめとする暑熱関連死が3万8000人です。私は、この数値には自然災害やメンタルヘルスへの影響が含まれていないので実際はさらに多くなるのではないか、と考えています。

日本における影響評価は、環境省の気候変動影響評価等小委員会(現、気候変動影響評価・適応小委員会)が重大性、緊急性、確信度の3つの指標を用いて行っています。5年ごとに改訂され、2025年中に第3版が発表される予定です。2020年発表の報告書の健康分野に注目すると、熱中症や暑熱関連死は3指標とも高く、デング熱などの節足動物媒介感染症と、小児・高齢者・基礎疾患を有するなど脆弱性の高い集団に関して、重大性と緊急性が高く注意が必要とされています。

このような気候変動の問題に対して、温室効果ガスの排出を抑制し、温暖化をストップさせる「緩和策」と、社会のシステムやライフスタイル、行動様式を気温上昇に合わせて私たちが変えて、被害を最小限に抑える「適応策」を車の両輪のように、並行して進めていくことが重要です(図6)。

熱中症関係省庁連絡会議幹事会の資料を基に作成

図6 緩和と適応温室効果ガスの排出をゼロにしても、この先数十年は温暖化は止まらない。行動変容や社会のあり方を変えていく「適応策」も重要だ。

日本政府は「熱中症対策行動計画」を2021年に策定し、2023年5月に中期的な目標として、熱中症による死亡者数を現状から半減する計画を掲げました。その手段・対策として、2021年から気象庁と環境省が共同で熱中症警戒アラートを全国で発表するようになりました。このような手段や対策によって、熱中症死亡者数が半減できるかどうか、かなりハードルが高いのではないかと考えています。現状、行政レベルで進められているのが、熱中症警戒アラートといった情報提供の他に、誰でも利用できるクーリングシェルター(エアコンのある公共施設)の整備、自治体による高齢者宅へのエアコン設置費用の補助などです。

ただし、これらの対策や手段は、エアコンの使用を前提に進められています。エアコンは熱中症予防に非常に効果があり、気候変動のある・なしにかかわらず使用はためらうべきではありませんが、エアコンに過度に頼った対策は、近い将来、限界が来るのではないかと考えています。中長期的に見ると、電気を使うエアコンは発電に伴ってCO2排出が増え、間接的に温暖化に寄与することになります。一方、今以上に、電力消費量が暑い日に集中すると、停電のリスクも高まる可能性があり、社会全体の機能を損なうことになりかねません。エアコンに偏った熱中症対策というのは、実は危ういのだと理解することが必要です。

気候変動の問題に関して、個人の努力だけでは、今後に予測されている未曽有の暑さになった場合、熱中症死亡者数を大幅に減らすことは難しいと考えられます。さまざまな対策を組み合わせて、社会全体で取り組むことが重要です。例えば夏の暑い時季に、なるべく暑さにしなくて済むような働き方や、ライフスタイルを社会全体で模索し、対策についても妥当かどうかを常に検証していく必要があります。

気候変動は、今生きている私たちの健康だけでなく、将来の次世代が健やかな毎日を過ごせるかにも関わってくることです。地球環境を守ることは、健康を守ることにつながることを、改めて考え、行動してほしいいと思っています。

(図版提供:橋爪真弘)

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2025年11月10日発行
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