野本教授の腸内細菌と健康のお話15パンダとも害虫とも共生する微生物

イラストレーション/小波田えま

東京農業大学生命科学部分子微生物学科
動物共生微生物学研究室教授

野本康二

微生物と共生する動物種の範囲は広い。筆者はもっぱらヒトやマウスの腸内フローラを研究対象としてきたが、3年前の動物共生微生物学研究室の立ちあげに際して必然的に研究対象が広がった。自称「臨床腸内細菌屋」として、産業動物に的を絞り、最初に身近な「ブタ」を選択した。ヒトでは比率の高いビフィズス菌が少なく、逆にヒトで比較的少ない乳酸桿菌の比率が高い、などの差異はあるが、ブタの腸内フローラの菌群構成や有機酸濃度などの腸内環境はヒトと似ている。この意味でブタはヒトのレファレンス動物として有用とも考えられ、研究のポイントとしてブタの飼料に添加されている抗菌剤を取りあげたことは、すでに本コラムで紹介した。

異なる動物種ではその食性に応じた特有の腸内フローラを保有している。同じ家畜類でもウシやヒツジなどの反芻動物では、消化管(第1胃)に共生している原虫などの微生物が持つセルラーゼといった消化酵素などの働きで、飼料中のセルロースを有機酸や単糖(グルコース)に分解し、栄養分としている。特殊な食性に適応している例としてジャイアントパンダがよく知られている。パンダは本来食肉目クマ科であり、消化器の構造も肉食動物に近いとされているが、その餌はほとんど竹やササなどの食物繊維に富んだ植物である。しかるに、パンダ自身は食物繊維を分解する酵素を持っていないため、腸内フローラを介する食物繊維の分解と利用が考えられ、実際にパンダの腸内から、セルロースやリグニンを分解する細菌が同定されている。しかしながら、その消化率は低く、最近では、セルロースやリグニンといった難消化性食物繊維の分解というより、これらに付着しているより易消化性のヘミセルロースやデンプンを消化しているのではないかとも考えられている。

昆虫類でも興味深い研究が実施されている。理化学研究所の研究グループは、シロアリ——原虫——細菌の3者の共生関係を報告した。すなわち、シロアリが食べる木片をシロアリ自身は消化できないが、腸内に共生している原虫が木片のセルロースを酵素的に消化可能な糖にまで分解してくれる。一方で、腸内細菌群は、与えられた糖をエネルギーとして利用しながら、空中窒素を固定してアミノ酸やビタミンを合成し原虫やシロアリに提供している、というものである。この研究では、それまで未同定であった多くの新規な細菌種も見つかっている。また、より最近、伊藤先生(産業技術総合研究所)らは、農作物の害虫であるホソヘリカメムシの幼虫期に複数の細菌が共生した場合、細菌同士の競合の結果、最終的に腸内環境に最も適応した1種の細菌(SBEバークホルデリア:土壌中に見つかる細菌の一種)のみが共生する状態となることを報告している。こういった害虫に共生する微生物を掘り下げて研究することが環境に配慮した防除法の開発につながる可能性がある。また、アメリカ・スタンフォード大学の研究グループは、飼育動物の餌となるミールワーム(ゴミムシダマシという甲虫の幼虫)が発泡スチロール(ポリスチレン)を栄養分として生存可能なことを見出し、さらにはこのミールワームの腸内からポリスチレン分解菌(Exiguobacteriumエグジゴバクテリウム sp.)を分離した。一方で、腸内細菌の宿主への機能的な関与を否定する報告もある。T. J. Hammerらが、北米や中米で採取した124種類もの植物の葉を食するイモムシの腸内フローラを調べたところ、腸内細菌の種類は個体間で多様であり、数も少なかった。葉っぱの消化に寄与するような常在細菌群は特定できず、単に植物に付着して摂取された菌が検出されたものと結論づけている。

いずれにしろ、チョウ類の寄主植物特異性(例えば、モンシロチョウはキャベツの葉に産卵し、アゲハの幼虫はミカンの葉っぱを食べることなど)はよく知られている。幼虫の狭食性と寄主選好性の種間差に腸内細菌が関与する可能性は興味深いし、さらにはこれが種を規定する一因でもあると言ったら言いすぎであろうか?

  • *1 野本康二:一般財団法人 畜産ニューテック協会 平成30年度研究調査助成事業実施報告書「飼料中抗菌剤が仔豚の腸内フローラおよび腸管環境に与える影響の解析、ならびにプロバイオティクスによる抗菌剤の代替の可能性の検討」一般財団法人 畜産ニューテック協会-畜産生産に関する研究調査成果報告書 VOL.9, 37-74, 2019.
  • *2 Zhang W, et al: Age-associated microbiome shows the giant panda lives on hemicelluloses, not on cellulose. ISME J, 12: 1319-1328, 2018.
  • *3 大熊盛也:培養できない微生物の遺伝子から共生メカニズムを探る. 理研ニュース, 338: 3-5, 2009.
  • *4 Itoh H, et al: Host-symbiont specificity determined by microbe-microbe competition in an insect gut. Proc Natl Acad Sci USA, 116: 22673-22682, 2019.
  • *5 Yang Y, et al: Biodegradation and mineralization of polystyrene by plastic-eating mealworms: Part1. chemical and physical characterization and isotopic tests. Environ. Sci Technol, 49: 12080-12086, 2015.
  • *6 Yang Y, et al: Biodegradation and mineralization of polystyrene by plastic-eating mealworms: Part2. Role of Gut Microorganisms. Environ. Sci Technol, 49: 12087-12093, 2015.
  • *7 Hammer TJ, et al: Caterpillars lack a resident gut microbiome. Proc Natl Acad Sci USA, 114:9641-9646, 2017.
  • *8 本田計一:蝶類の寄主選択および寄主特異性の発現と植物2次代謝成分. 比較生理生化学, 12:145-166, 1995.

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ヘルシスト 261号

2020年5月10日発行
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