野本先生の腸内細菌と健康のお話46 プレバイオティクス雑考

イラストレーション/小波田えま

元東京農業大学生命科学部教授

野本康二

現在、プレバイオティクスは、「これを摂取したときに、健康上の利益をもたらす宿主微生物によって選択的に利用される基質」と理解されてい。より狭義には、「腸内微生物により資化され、腸内細菌叢の組成や代謝を変化させることによりヒトの健康に有益な作用を及ぼす難消化性の多糖類」との解釈が一般的である。典型的なプレバイオティクスであるオリゴ糖(2〜10個の単糖分子が結合したもの)は、構成糖の種類によって、ガラクトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、大豆オリゴ糖、乳果オリゴ糖など、多様であ、それぞれを含有する食品を介して摂取することができるし、精製物をサプリメントとして入手することも可能である。

数年前に、古巣の乳飲料企業の研究所から、「オリゴ糖の摂取が愛玩動物の腸内細菌叢および環境に与える影響」を題目とする共同研究の打診を受けた。所属していた動物共生微生物学研究室のメインテーマである「動物と共生する微生物の、宿主の健康への関わり」の核心を突く研究課題であり、二つ返事でお受けした。主目的は、家庭や飼育機関で飼育されているイヌおよびネコにおけるオリゴ糖の継続摂取が腸内細菌叢に与える影響を見る、という、まさに、プレバイオティクス作用を期待するものであった。毎日0.5~2.0gの液状のガラクトオリゴ糖(GOS:galacto­oligo­saccharides)を対象動物に与え、これを8週間続けた。試験の開始時、GOS摂取期間中(4週目と8週目)および、摂取終了後4週目の、計4回、新鮮便に含まれる細菌叢を解析するとともに、腸内の有機酸および腐敗産物(こちらは血清中も)の濃度に与える影響を調べた。その結果、イヌでもネコでも、GOS摂取による腸内細菌叢の改善が認められ、腸内有機酸濃度が上昇し、腸内のフェノールおよび血清中のインドキシル硫酸(イヌ)やフェニル硫酸(ネコ)といった腐敗産物の濃度が減少してい。この研究で使用したGOSについて、ヒトにおいてはすでに腸内細菌叢の改善が報告されてお、本研究結と併せて、複数の異なる動物種において、同一のプレバイオティクスが腸内細菌叢および環境の改善作用を示したことは興味深い。ちなみに、上記の試験に用いられたGOSは、これまでのヒト用のみならず、イヌやネコ用のサプリメントとしても入手可能である。

αグルコシダーゼ阻害薬(α-GI)〔アカルボース(商品名:グルコバイ)、ボグリボース(商品名:ベイスン)〕は、一般的に使用されている糖尿病の処方薬であるが、食物中に含まれる炭水化物の代謝を阻害することにより、血糖値の上昇を抑制する。その副作用として、「未消化の糖の一部が大腸へ移行し、腸内細菌によって発酵される」、「腸内細菌による発酵でガスがたまり、腹部膨満や放屁などがあらわれる場合がある」と提示されている。随分前になるが、α-GIを処方されている糖尿病の患者さんの腸内細菌叢を調べたことがある。その結論として、「α-GI服用群では、α-GI非服用群に比べてビフィズス菌(Bifidobacterium)の菌数が有意に増加し、有用菌が優勢の腸内フローラが形成されていることが分かった。また、特にベイスン服用群では、α-GI非服用群に比べて乳酸Lactobacillus)の菌数も有意に増加し、腸内有害菌の代表格であるレシチナーゼ陽性Clostridium perfringens(通称:ウエルシュ菌)の検出頻度が低下した。これらの変化は、未分解の多糖類が大腸に供給されて、常在性のビフィズス菌などの有用菌に選択的に資化されたことによるものと考えられた」という、α-GIの有効性を示唆するものであっ。すなわち、α-GIが間接的なプレバイオティクス作用を発揮したものと考えられるが、だからといってこれらの薬剤自体をプレバイオティクスとしてはいない。

  • *1 Hutkins R, Walter J, Gibson GR, et al. Classifying compounds as prebiotics – scientific perspectives and recommendations. Nat Rev Gastroenterol Hepatol, 22: 54–70, 2025. doi: 10.1038/s41575–024–00981–6.
  • *2 Saville SH, Younes JA, Paraskevakos G, et al. The prebiotic landscape: history, health and physiological benefits, and regulatory challenges – an IPA perspective part 1. Benef Microbes, 16: 1–33, 2025. doi: 10.1163/18762891–bja00056.
  • *3 Hokkyo A, Kakiyama S, Shiwa Y, et al. Continuous intake of galacto-oligosaccharides containing syrup contributes to maintaining the health of household dogs by modulating their gut microbiota. Biosci Microbiota Food Health, 43: 204–212, 2024. doi: 10.12938/bmfh.2023–062.
  • *4 Hokkyo A, Kakiyama S, Shiwa Y, et al. Continuous intake of galacto-oligosaccharides containing syrup contributes to maintaining the health of household cats by modulating their gut microbiota. Biosci Microbiota Food Health, 44: 137-145, 2025. doi: 10.12938/bmfh.2024–082.
  • *5 松本一政, 高田敏彦, 結城功勝, 他. 新ガラクトオリゴ糖含有液糖がヒト腸内菌叢に及ぼす影響. 腸内細菌学雑誌, 18: 25–35, 2004.
  • *6 松木隆広, 武井泉, 朝原崇, 他. 糖尿病患者の腸内フローラとα-グルコシダーゼ阻害薬が及ぼす影響についての検討. 糖尿病, 48(Supplement 2): S.266, 2005.

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