
9月は「防災月間」だ。水や食料などの備蓄の重要性は知られているが、同じくらい大事なのが災害時の食事作りだ。今回は災害時の食事作りとして「パッククッキング」を紹介したい。しっかりマスターして、災害時にも、心と体に健康的な食事ができるようにしよう!
文/茂木登志子 イラストレーション/古泉香苗

9月は「防災月間」だ。水や食料などの備蓄の重要性は知られているが、同じくらい大事なのが災害時の食事作りだ。今回は災害時の食事作りとして「パッククッキング」を紹介したい。しっかりマスターして、災害時にも、心と体に健康的な食事ができるようにしよう!
9月1日は「防災の日」だ。1923年9月1日に発生した関東大震災を教訓に、災害への意識を高め、備えを強化するために制定された。また、10月13日は「国際防災デー」だ。世界中で防災意識を高め、危機管理への取り組みを促進するために、1989年に国連総会で制定された。9月から10月というのは、日本では台風や大雨など自然災害が多い時期でもある。ぜひこの時期には、家具の固定、非常食や水の備蓄、避難場所や経路の確認、家族との連絡方法や集合場所の決定、防災訓練への参加など、日頃の災害への備えを再確認しておきたい。
災害への備えの中で大切なことの一つが、心身の健康を支える食事だ。被災して疲弊しているときこそ、温かく、いつものような味わいの食事を摂ることが、心身の健やかさにつながるからだ。
過去の事例では、大きな災害が発生すると、流通機能や電気・ガス・水道などのライフラインが停止して、復旧までに1週間以上を要するケースが多く見られた。そのため、1人当たり「最低3日〜1週間分」の食品備蓄が望ましいといわれている。
食品備蓄については、普段よく食べている食品を少し多めに買い置きしておいて、賞味期限の近いものから消費し、消費した分を新たに買い足す「ローリングストック」が推奨されている。そして、ライフラインが絶たれたときでも、それらの備蓄品を活用して、温かく、いつもの食べ慣れた味わいの食事を摂れるのが「パッククッキング」という調理方法だ。今回は災害時の食事を支えるこの調理方法をマスターしたい。
パッククッキングとは、耐熱性のポリ袋に食材と調味料を入れ、袋のまま鍋で湯煎する調理方法だ。ポリ袋を密封した状態で加熱すると、真空に近い状態になる。そのため、熱が均一に伝わりやすくなるので、少ない調味料でも短時間でしっかり食材に味が染み込む。なかなか便利な調理法で、時短料理として知られている。だが、このパッククッキングが災害時の調理法として推奨されるのは、なぜなのか?
「準備は普段の食品を袋の中で混ぜるだけです。1つの鍋で例えばご飯とスープとおかずが同時に調理できます。1人分ずつ個別調理できるので、お持ち帰りもできますし、袋に入れたまま食器に盛り付けて食べれば食器が汚れません」
こう答えてくれたのは、飯田短期大学の髙木一代准教授だ。髙木さんはさらにこのパッククッキングの長所を挙げた。
「鍋が汚れないですし、加熱に使った水も汚れないので再利用できます。少ない水で、温かい料理を作れるので、災害時であっても、温かくて普段通りのなじみのある味わいを提供できるのがメリットです」
防災士の資格も持つ髙木さんは、食材の水分と味わいを生かしたパッククッキングのレシピを開発している。そして、長野県飯田市を中心に、災害に備え、考えるきっかけづくりをコンセプトとした一般市民対象の「防災フェス」を企画・開催。そのプログラムの一つとして、調理体験と試食など、災害時に役立つパッククッキングの普及・啓発活動に取り組んでいる。
「災害時にパッククッキングが役立つ理由は、まだあります。包丁などを一切使わず、手も汚さずに調理できるため、設備が整っていない避難所で調理ができます。雨水で湯煎しても、空気を抜いて縛ったポリ袋をさらにポリ袋に入れて同様にすると、中の袋はきれいです」
災害によって公共交通機関がまひすると、自宅に帰ることができない帰宅困難者が発生する。いつも食事を作ってくれている人が負傷したり、帰宅できなかったりしたら、自分で食事を作れない人はどうすればいいのか。
「パッククッキングなら、簡単です。この調理方法を覚えておけば、普段料理をしない人や子どもでも、温かい食事が作れます」
パッククッキングの手順を、髙木さんに教えてもらった。
「まず、主食のご飯の準備から始めます。お米をポリ袋に入れて、水を入れます。加熱すると膨らむので、袋の中の空気をしっかり抜いてから、水が入らないように袋の上部でしっかりと結びます」
米と水の量だが、災害時には計量カップなどを使えないかもしれない。
「お茶わんでも紙コップでもどんな容器でもいいです。お米1に対して水が1.2倍になるように容量を見ながら調整してください」
お米は、無洗米ではなくて、普通のお米をとがないでそのまま使っていい。
「30分程度吸水させることで、ぬか臭さが減少します」
これを基本に、水の量を増やせばおかゆも作れる。
「お米から炊いたおかゆはおいしいですよ。嚙む力の弱い高齢者や赤ちゃんの離乳食などにいいでしょう」
また、お米に好きな缶詰を加え、水加減して湯煎すると、おかずいらずの炊き込みご飯になる。髙木さんのおすすめは、塩味の焼き鳥の缶詰だという。
「缶詰などの加工食品は、調味料としても活用できます」
髙木さんは、和風のおかずとして、「サバと高野豆腐の煮物」を教えてくれた。
「ひと口サイズの高野豆腐6個をポリ袋に入れてから、少しずつ高野豆腐に水を含ませます。ごく少量の水で大丈夫。余計な水は使いません。そこにサバの味噌煮の缶詰を汁ごと全部入れます。袋の中の空気をしっかり抜いて袋の上部を縛ったら準備完了です」
ちなみに高野豆腐に水を含ませない場合は、弾力性のある少し硬めの仕上がりになるという。高野豆腐は不溶性食物繊維を多く含む食品だ。また、高野豆腐に含まれるレジスタントプロテインも、食物繊維と同様に腸内環境を整える働きがある。災害時の食事は野菜不足になりがちだが、こういう形で食物繊維を補うことができるのだ。
「洋風のおかずもありますよ。パッククッキングの講座で人気があるのは、『なんちゃって卵焼き』。卵2〜3個とハムやスライスチーズなどをポリ袋に入れたら、袋をよくもみ混ぜます。袋の中の空気をしっかり抜いて袋の上部を縛ったら、これもまた準備完了です」
そういえばローリングストックの食材リストとして、ホットケーキミックスが記載されていることが多い。フライパンなど使えないかもしれないのに、なぜなのか? どうやって食べればいいのか? かねがね疑問に思っていた。
「ホットケーキミックスで蒸しパンを作れます。例えばプリンを加えれば甘いおやつにもなるし、水分を含む豆腐に塩分を含むハムやチーズを加えれば主食の蒸しパンにもなります。大事なポイントは、ホットケーキミックスの粉に、それと同じくらいの量の水代わりになる食材を加えることです。私がよく使っているホットケーキミックスは1袋150gなのですが、プリンの大きいカップなら1個分が150〜160gなのでピッタリ。お豆腐も3個1パックで市販されている充填豆腐の1個分が150gなので、これも計算しないでそのまま使えます」
髙木さんが口頭で教えてくれた4つのレシピは、同時に調理できる。
「火を使うので、カセットコンロを準備しておいてください。カセットボンベもローリングストックしておくといいですね。鍋の底に皿か金ザルを置き、鍋の深さの半分を目安に水を張ります。沸騰したら、準備しておいた食材入りポリ袋を入れます。結び目は鍋の内側に入れてください。弱火から中火にして、フツフツする状態を保つようにふたをして30分待ちます。ポリ袋を取り出したら火を止めて調理終了です」

図1 パッククッキングの基本
災害時には、便利なキッチン道具が使えないかもしれない。だから、食材や水を量らなくても、おいしく簡単に作れるレシピが必要だ。髙木さんのレシピにはそんな工夫がある。それだけではない、どのレシピにも共通しているのは、水の使用量が少なく、調味料がまったく使用されていないのだ。
「災害時において水は大変貴重です。ですから、水を極力使わないレシピを考案するようにしています。また、災害時にはキッチン道具はもとより調味料も使えないかもしれません。そこで、ローリングストックをしている加工食品を調味料として使うようにしています」
防災士でもある髙木さんは、パッククッキングの講座などで水の重要性を説明している。
「災害が発生するとライフラインや流通が途絶えるため、3日間程度は自宅にある飲料水・食料などでしのがなくてはなりません。その目安として、1人当たり1日3ℓの飲料水の備蓄が必要とされています」
だが、普段の私たちの生活では炊事以外にも洗濯、トイレ、風呂などで、生活用の水を1人当たり1日平均約262ℓ使用しているのだと、髙木さんは教えてくれた。
「上水道の復旧作業は震災後3日くらいから開始され、すべてが完了するにはおおむね1カ月程度かかると考えられています。その間、給水車が来てくれる? 残念ですが、給水車は日本全国からかき集めても1300台程度しかありません。水は本当に貴重なのです」
髙木さんが水を極力使わない災害時のパッククッキング用レシピを開発しているのは、こうした状況を考慮してのことだ。
「パッククッキングはとても簡単な調理方法です。失敗するとしたら……、空気を抜こうと力を入れすぎて袋を破いてしまうことくらい、かしら? でも、そうしたことも含めて、練習のつもりで一度経験しておくことをお勧めします」
そう言うと、髙木さんはまた一つ、レシピを教えてくれた。
「キャンプなどのアウトドアでも、休日のランチタイムでもいいから、パッククッキングで焼きそばを作ってみてください。3袋入り1パックで粉末ソースも入っている市販の焼きそば、あれを使います」
ポリ袋に焼きそばの麺1袋入れてほぐす。そこに粉末のソースを1つ入れ、よく混ぜる。あれば、ハムとかベーコン、キャベツなどを加える。
「1人分ずつ麺とソースと具をポリ袋に入れ、空気をしっかり抜いたら、上部を結びます。沸騰したお湯に入れて、フツフツと30分。油を使っていないので、いつもよりヘルシーな焼きそばを味わってみてください」
全国各地で9月に防災訓練を行うことが多い。
「避難訓練なども毎年繰り返しますが、それはこうして繰り返しやっていくことで身に付き、いざというときに体が動くからです。簡単であるとはいえ、パッククッキングも同じです。何度か繰り返して、マスターしておくと、非常時でも慌てずに温かい食事が作れると思います」
さらに髙木さんは言葉を続ける。
「災害時の対応として、自助・共助・公助という3つの柱があります。自助は、自分自身や家族の身を守るための備えや行動、共助は地域住民同士で助け合うこと、公助は行政による支援を指します。私見ですが、自助や共助のためには、何か1つ役に立つ技を持っていることも防災対策の一つだと思います。パッククッキングをマスターしておくと、自分や家族だけではなく近隣の皆さんのためにも、温かくておいしい食事の提供という点で貢献できるのではないでしょうか」
防災訓練の一環として、ぜひ、パッククッキングに挑戦し、マスターしよう!

一般的なポリ袋は低密度ポリエチレン袋といい、加熱すると破れる恐れがある。パッククッキングには、必ず耐熱の高密度ポリエチレン袋を使うこと。スーパーマーケットやホームセンター、百円均一ショップなどで販売されている。「耐熱温度が130℃以上」「湯煎対応」などの記載が目印だ。また、食材を取り出しやすいため、マチがないもののほうが使いやすい。
電気やガスが使えなくても、カセットコンロとカセットボンベがあれば調理ができる。冬の鍋料理用などに準備している家庭もあるだろう。注意したいのは、カセットコンロとカセットボンベには、それぞれ使用期限があることだ。業界団体の日本ガス石油機器工業会は、カセットコンロの使用期限の目安を製造から約10年として買い替えること、カセットボンベは製造から約7年以内に使い切ることを、それぞれ推奨している。
家にあるものならなんでもいいが、湯煎にする水と食材のパック複数を入れてもあふれないように、できれば「深さのある鍋」がいい。また、出し入れの際はやけどをしないように、広口の鍋が使いやすい。
袋が鍋底で溶けたり、破れたりするのを防ぐために、必ず鍋底に皿か金ザルを入れる。プラスチックの皿は使えない。必ず耐熱性の皿または陶器の皿を使用すること。皿などがない場合は、布巾で食材の入ったポリ袋を包んで鍋に入れる。なお、皿のサイズは鍋底より一回り小さいと出し入れも容易だ。
水道が使えない状況では、水は貴重品だ。湯煎用には、飲料用ではない水を用いても大丈夫だ。ただし、ポリ袋が破れて食材が汚染されないように要注意。なお、湯煎用の水は、捨てずに繰り返し、使用することができる。
ローリングストックで、普段から食べているものを備蓄しておこう。ローリングストックというのは、普段から使い慣れた食品を少し多めに買い置きし、賞味期限の古いものから消費していく方法だ。こうすると、消費した分を買い足すことで、常に一定量の食品を家庭で備蓄することができるので、災害時にも普段と変わらない食事ができる。

基本のご飯、主食にもおやつにもなる蒸しパン3種、焼きそば、なんちゃって卵焼き、サバと高野豆腐の煮物を作ってみた。見た目はともかく、味がしっかり付いていておいしく味わえ大満足だ。ただし、久しぶりに取り出したカセットコンロは、カセットボンベの取り付け方をすっかり忘れていた。髙木さんが指摘する「繰り返して身に付ける」ことの大切さを痛感した。

ご飯となんちゃって卵焼きを同時に作った。米はとがずに炊いたが、吸水させたせいかぬか臭はない。卵は少し硬めだがチーズとハムの塩分で味はついていた。


ホットケーキミックスで蒸しパンを作った。左は、豆腐とクリームチーズとハムを混ぜたご飯代わりの主食用だ。中央は、市販のプリン1個を加えた。右は加糖ヨーグルト(3連パックのうち2個)を加えて作った。それぞれプリンとヨーグルトの香りがする、おやつにぴったりの味わいとなった。水分代わりに加える食材で、主食にもおやつにもなるのは便利だ。

大きめの高野豆腐1個を適当に割り、サバの味噌煮缶と合わせた。わずか30分で高野豆腐にしっかり味が染みて驚いた。

麺1袋と付属の粉末ソース、包装フィルムのまま定規で刻んだ魚肉ソーセージ1本、手でちぎったキャベツを合わせた焼きそばだ。