野本先生の腸内細菌と健康のお話47 生菌とは?

イラストレーション/小波田えま

元東京農業大学生命科学部教授

野本康二

一般的に微生物の生菌数は、これを含む材料を寒天平板培地に塗布してしばらく培養している間に、培地成分を資化して増殖した微生物が培地上に形成する微生物コロニーの数(コロニー形成単位〈colony-forming unit:CFU〉)として示される。培養はせずに、材料を適宜染色液で染めたのちにスライドに塗布したものを顕微鏡で拡大観察して菌体を数えることもできる。ただし、顕微鏡観察される菌体数に比べてCFUの数は少ないことが一般的で、これは「The great plate count anomaly(平板培地で計数されるコロニー数が、実際の菌数より少ないこと)」と呼ばれてい。我々の腸内に生息する嫌気性菌の多くはいわゆる「難培養菌」であり、新鮮便を、よほどの栄養を付加した培地で嫌気度の高く維持された環境で培養しても、この現象が観察される。プロバイオティクスを含む製品でも、腸内嫌気性菌ほどではないが、顕微鏡で観察される菌数と、培養されて生じるCFUの数にはが生じる。この理由として、微生物が増殖する過程で一定の割合の菌が死んでいくことや、「生きてはいるが、培養されたときに増殖できずにコロニーを作れない(これをviable but not culturable:VBNCと呼んでいる)菌」が含まれていることが考えられている。

VBNCは、コレラ菌や大腸菌のような腸管病原菌について、Rita R. Colwell博士らの研究グループにより最初に提案された概念であ。インド・コルカタ市で実施されたプロバイオティクスの大規模飲用試験に参画した際に、ランダムに選ばれた133人の健常小児の便中のコレラ菌の数を測定した(方法は、我々の開発した定量的RT-PCR法で、生菌数を反映する)。間隔を空けた5回の測定のうち1回コレラ菌が検出された小児は42人(31.6%)と高率であり、なんと、5回中5回ともコレラ菌が検出された小児が1人い。検出された腸内コレラ菌は便1g当たりほぼ104個のレベルであり、総菌数の約1011個/gにくらべて極めて低く、恐らく、生菌として腸内に生息はしているが、「休眠」状態であり、小児の健康に明らかな影響を及ぼさなかったものと考えられている。実際に、小児は試験期間中に健康状態を維持して生活を続けていたが、腸内のコレラ菌が旺盛に増殖してコレラ毒素を産生すれば、重篤な下痢を発症していたことが予想される。VBNC状態の微生物を増殖するように蘇生させること(resuscitation)が可能であVibrio属菌(コレラ菌も含む)を人工海水中で低温下で長期間培養するとVBNC化する。この状態のコレラ菌を、ヒト大腸細胞と混合培養することにより、見事に蘇生させることができが、この役割は、細胞の有するカタラーゼという酵素(過酸化水素を水と酸素に分解する)が担っていることが報告されてい

「生きて腸にとどく」は、プロバイオティクスの説明によく使われる。さて、それでは、プロバイオティクスが「生きている」ことはどのように定義されるのか? Catherine Davis博士は、「代謝活性を有し、かつ、あるいは損傷のない細胞膜を有すること」と定義づけてい。もちろん、プロバイオティクス製品を摂取した後の新鮮便を回収して、これに含まれるプロバイオティクスの生菌数を、培養方法によるCFU数として示すことができる。一方で、例えば、Bacillus属やClostridium属に属する一部のプロバイオティクスは、増殖に不利な環境下に置かれた場合、耐久性の芽胞の状態でしのぐことが知られてい。また、典型的なプロバイオティクスであるシロタ(LcS)株を含む飲料を長期(40日間以上)低温保存する間に、一部のLcSはコロニー形成能を失うが、この状態でもその細胞膜に損傷はなく、菌体内酵素(エステラーゼ)活性の低減も認められない、いわゆるVBNC状態に移行する。この状態のLcSの糖代謝能はコロニー形成能とリンクするように低減した、と報告されてい

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2025年9月10日発行
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