特集 被災地の伝えられない現実 能登半島地震で鮮明になった避難所における食の課題

構成/渡辺由子

大災害時、いわゆる冷たい食べ物はクローズアップされるが、特別用途食品(特殊栄養食品)についてはあまり知られていない。特別用途食品は「乳児、妊産婦、授乳婦、困難者、病者などの健康の保持・回復などに適する食品」で、嚥下機能が低下した高齢者の多い被災地では不可欠だが、被災直後は効率的に行き渡らせることができなかったという。の成分が含まれていたり必要な栄養素が不足したりと、避難所の食事には限界がある。食べ慣れた食料の備蓄が推奨される。

北陸学院大学健康科学部栄養学科教授/石川県栄養士会会長

田中弘美(たなか・ひろみ)

1981年、北陸学院短期大学食物栄養学科卒業後、同科実験実習助手として給食管理業務に従事。日本女子大学家政学部食物学科通信教育課程、愛媛大学大学院農学研究科修士課程修了。2016年から北陸学院大学短期大学部食物栄養学科准教授を経て、2023年から現職。2022年から石川県栄養士会会長。日本栄養士会災害支援チーム(JDA–DAT)リーダー。研究テーマは、地域・職域における栄養・食生活の改善や食育など。

石川県栄養士会は、県民の栄養改善を通して、健康増進および疾病予防に資する事業を柱に、さまざまな活動を行っています。能登半島地震では、石川県との協定に基づき、奥能登地域での支援活動や金沢市内の「1.5次避難所」の食支援に携わりましたが、それまでの支援と比べて、今回のような長期で多様な支援は初めてでした。一部の会員は家屋の全壊・半壊といった深刻な被害を受けながらも、職務を全うしようと携わってくれ、皆が手探りの状態でしたが、被災地への物資の供給や栄養相談等の、食生活と栄養の支援を行うことができました。

食に配慮が必要な被災者への支援

2024年元日の夕方に発生した能登半島地震は、経験したことのない大災害で、当会は発災直後から栄養支援活動に奔走することになりました。その日のうちに、日本栄養士会へ災害の状況を報告すると、翌2日には、日本栄養士会災害支援チーム(The Japan Dietetic Association–Disaster Assistance Team:JDA–DAT)の先遣隊が金沢市へ駆けつけ、石川県健康推進課・厚生労働省健康課栄養指導室・JDA–DAT・当会で協議のうえ、栄養支援を行う日本栄養士会と石川県栄養士会の災害対策本部を、金沢市の当会事務局に設置しました。

都道府県や市区町村長が指定する公的な避難所に避難した被災者のうち、健康な人に対しては、発災直後から備蓄の食料品や支援物資の提供の他、自衛隊やNPO団体による炊き出しなども行われ、一定程度の栄養を確保することができます。しかし、嚥下機能に問題のある高齢者、障がいのある方、高血圧・糖尿病・腎臓病などの慢性疾患やアレルギー疾患のある方、乳幼児や妊婦などは、避難所で出される食事や食料品では、摂食が困難だったり、禁忌の成分が含まれていたりして摂ることができない、あるいは必要な栄養素が不足している場合があります。

日本栄養士会は、「食に配慮が必要な被災者」への食生活と栄養の支援として、嚥下困難な方に向けた軟らかい食事、タンパク質低減食、アレルギー対応食、乳児用液体ミルク、離乳食などのさまざまな特別用途食品(特殊栄養食品)を、必要に応じて提供し、併せて栄養士による栄養相談なども行っています。当会は、2017年に石川県と「災害時の医療救護等に関する協定」を結んでおり、能登半島地震では県からの要請を受けて、食に配慮が必要な被災者を主な対象とした指定避難所に対する食生活と栄養の支援を開始することになりました。

被災地の奥能登地域は過疎化が進み、そもそも健康な被災者といっても65歳以上の高齢者が非常に多く、その中で食に配慮が必要な対象者は、乳幼児や妊婦は少なく、嚥下機能の低下した高齢者が多かったことが特徴的でした。一方で、指定避難所では、特殊栄養食品を備蓄していません。当会が全国から集まる特殊栄養食品を取りまとめ、被災地へ送ることになりました。

1月3日、食に配慮が必要な被災者を支援するための「特殊栄養食品ステーション」を、金沢市内の当会事務局と、ベテランの会員が運営する七尾市内の「認定栄養ケア・ステーション」内に設置し、奥能登地域への物資輸送の拠点としました。栄養ケア・ステーションとは、栄養士が地域住民の日常生活の場で、栄養ケアを実施、提供する地域密着型の拠点です。石川県は南北に長く、特に震源地周辺の県北部の奥能登地域は三方を海に囲まれた半島にあるため、金沢市と奥能登地域の中間点になる七尾市に中継拠点を設けることにしたのです(図1)。

図1 石川県金沢市から能登半島金沢市から珠洲市までの距離は約130㎞。通常は車で2時間半程度。道路網が寸断し、金沢市と奥能登の中間拠点とした認定栄養ケア・ステーションから珠洲市や輪島市への輸送は、1日がかりだ。

1月6日にJDA–DAT本隊の第1陣が到着。市町からの要請に応じた特殊栄養食品を、石川県に集結したJDA–DAT号(災害支援緊急車両)で七尾市の特殊栄養食品ステーションに搬入したのち、支援物資の奥能登地域への輸送、栄養士の被災地への派遣といった、本格的な支援が始まりました。災害対策本部では当会事務局員が、JDA–DATのメンバーとして全国から集まった栄養士を派遣するために、人員の配置、宿泊先の確保等の調整などに追われました。

一般の食品と特殊栄養食品が混在

しかし、中継拠点の認定栄養ケア・ステーションから、被災地支援の拠点になっている輪島市や珠洲市へのアクセスは、道路網の寸断で移動時間が通常の数倍もかかりました。栄養士派遣においては、被災地周辺の過疎化により宿泊施設が限られ、さらに宿泊施設自体も被災しており、宿泊先の確保は困難を極めました。発災直後の栄養士派遣は見送られ、1月中旬までは、特殊栄養食品などの物資輸送に限られました。

1月中旬以降、金沢市内に宿泊施設を1カ所、七尾市でも会員の関係者の宿泊施設を確保するなどして、避難所への栄養士派遣を順次開始。避難所に届いたさまざまな食品の栄養素に応じた仕分けや、一般の食料品と特殊栄養食品との仕分けは、栄養士であれば容易に行えますが、発災直後は栄養士が不在のため、一般の食料品と特殊栄養食品が混在。特殊栄養食品が必要な人に行き渡らない、という問題も起こりました。

大災害の避難生活を伝える報道では、被災直後に配られる菓子パン、おにぎり、冷えた弁当などのメニューがクローズアップされることはありますが、特殊栄養食品を知らない方が多く、それに伴い、避難所の食事情が広く正しく伝わっていないことを痛感しました。

通常、被災者の居所は、地震発生後に緊急的に避難する1次避難所から、時間の経過とともに生活環境の整ったホテルや福祉施設などの安全な2次避難所へと移行します。しかし能登半島地震の被災地では、大規模な家屋倒壊、道路の途絶、断水、下水道の利用不可などにより、1次避難所にとどまることが難しい状況が発生しました。一方で、2次避難所への移行には時間を要するため、行き場を失いかねない被災者が生じました。そこで1次避難所から2次避難所へつなぐ拠点として、一時的に滞在する1.5次避難所の開設が決まりました。

4段階の嚥下調整食と常菜の計5種類

1月8日、県内最初の1.5次避難所が、金沢市内の総合体育館「いしかわ総合スポーツセンター(以下、センター)」に開設され、高齢者や障がい者、未就学児童を主に受け入れることになり、県からの要請を受けて、当会が食生活と栄養の支援に当たりました。センターのメインアリーナに約230のテントが設置され(図2)、避難者への食事は県が弁当や炊き出しなどで提供し、栄養士による栄養相談の場を設けました。

図2 金沢市内の1.5次避難所金沢市の「いしかわ総合スポーツセンター」に開設された1.5次避難所内に、介護が必要な高齢者を受け入れる一時待機ステーションが開設され、嚥下調整食の提供など、約6カ月間の栄養支援を行った。

そのさなか、1.5次避難所内に在宅支援を受けていた方や老人保健施設に入所されていた方を受け入れるための「一時待機ステーション」が新たに設置されることが決まり、食に配慮が必要な方が急増することになりました。一時待機ステーションはサブアリーナとマルチパーパスと呼ばれる2つの小体育館に、介護が部分的に要する方を対象とした120床、常時介護を要する方を対象とした40床が設置されました。一時待機ステーションは、災害派遣医療チーム(Disaster Medical Assistance Team:DMAT)が主体となって運営され、私たちはDMATの医師と協議のうえ、食事提供を開始しました(図3)。

図3 一時待機ステーションでの食事提供一時待機ステーションでは、日本栄養士会と石川県栄養士会会員を中心に、延べ1000人以上の栄養士が栄養支援に参加。厨房施設がない中で、チームワークと創意工夫で安全な食事を提供し続けた。

センターは大型総合体育館で、水道・排水・加熱機器などがそろう厨房設備は当然のことながらなく、調理による3食の提供はできません。DMATと協議のうえ、食中毒などの衛生面に考慮して、温めるだけで食べられる食品を使い、栄養士が毎食の献立を作成しました。食事内容は、「日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2021」を基に、4段階の嚥下調整食と常菜の計5種類の食事形態で、協議しながら安全重視で提供しました(図4)。

図4 一時待機ステーションで提供した嚥下調整食「日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2021」を基にした、ある日の献立。コードJ、コード2、コード3、軟らかい白飯を付けた普通食。コードとは、嚥下機能障がいに応じて、5段階に分類されている食事形態のこと。食中毒と誤嚥の予防を最優先に、支援物資のレトルト食品や嚥下調整食の配食サービスを活用し、提供。食器はすべて使い捨てのため、使い捨て食器やそれを載せる使い捨てトレーの確保に苦労した。食中毒ゼロ、体重減少もなかった。

一時待機ステーションの入所者の状況に応じて、1回の配膳で100食以上、1月下旬のピーク時には1日425食を提供しましたが、その準備には大変な苦労がありました。入所者の急増で、食材は支援物資だけでは足りず、県と協議してレトルト食品や配食サービスの嚥下調整食を調達して対応。厨房代わりの事務室内のスペースはコンセントの数が限られ、冷蔵庫を使用しながら電子レンジを使うとブレーカーが落ちるため、電気製品のプラグを抜き差ししながら効率よく温めることなどに苦心しました。

1.5次避難所内の一時待機ステーションは、本来は短期間の滞在を想定していたのですが、受け入れ先が決まらずに何カ月も長期滞在することになりました。

能登半島地震での栄養支援を振り返ると、さまざまな課題が浮き彫りになりました。

3月末にJDA–DATの派遣に区切りがつき、6月で1.5次避難所は役目を終えて閉鎖となりました。当会では、発災後3カ月ほど経過し、仮設住宅の入居が始まると、JDA–DATリーダーが戸別訪問しました(図5)。避難所の食事や配食弁当は炭水化物が中心になりがちで、兵庫県の栄養士チームの食事調査によると、タンパク質、ビタミンやミネラル、食物繊維の不足が分かりました。食に配慮が必要な被災者は、医師や栄養士が栄養状態を確認しているので、体重減少はほとんど見られませんが、その反面、健康な人で何でも食べられる人ほど、避難所での食生活によって体重が減少したケースが多かったことを報告している調査もあります。健康な人ほど、災害時の栄養状態について注意が必要です。

図5 仮設住宅戸別訪問石川県栄養士会では、現在でも、仮設住宅を回る個別支援や、集会所などで複数人を対象にした栄養教室などを行っている。個別支援では生活全般の評価と体重計などを用いた栄養評価を行い、栄養状態の維持・改善を図る。災害後のフェーズに合わせた息の長い支援を継続している。

マンパワーの確保と関係各所との連携は、大きな課題です。能登半島地震とその後の豪雨災害によって、奥能登地域は復興の途上にあり、いまだ先が見えない状況です。前述のように、奥能登地域は過疎化が進み、そもそもインフラが脆弱で、復興に想定以上の時間がかかっています。それだけに、災害時の食生活と栄養の支援で大切なことは、行政との連携、NPOとの連携等の人間関係を強固にして、少しでも市町の栄養士の助けになるように、当会として働きかけなければならないと考えています。

日頃から食べ慣れたものを備蓄

多くの会員が支援に協力してくれ、週末を利用して1.5次避難所の支援に入る会員も多く、延べ人数で1000人以上が支援活動に参加してくださいました。さらに会員同士のつながりを深め、特に県や市町といった行政機関に勤める管理栄養士と顔の見える関係をより強固にしておくことで、今後災害が発生したときに、より迅速で、より的確な支援体制の構築ができると考えています。

食物アレルギーの被災者への対応も重要な課題です。自衛隊やNPO団体の炊き出しは、原材料表示をしていないこともあり、禁忌成分の確認ができないために避難所では食べられるものがなく、避難したくてもできないなど、かなり苦労されていました。自ら声を上げなければ、必要なものを手に入れられない状況は、何としても改善しなければなりません。当会ではアレルギー対応食の必要な被災者数の把握が困難だったことを課題として挙げ、今後は医療機関や保育所や学校、市町の教育委員会との連携を構築したいと考えています。

公的な指定避難所以外の、在宅避難、車中泊、近隣住民が自主的に避難した自主避難所へは、JDA–DATや当会から特殊栄養食品を届けることができませんでした。公的か自主的かの区別なく、避難所への食生活と栄養の支援ができるように整えていくことが必要だと考えています。

また、今回の大災害を経験したことにより、皆さんへお伝えしたいことがあります。「自助」「公助」「共助」の考え方がありますが、災害に備えて日頃から準備しておく自助が大切だと痛感しました。避難所での食事でおなかを満たすことはできても、食べ慣れないものを食べ続けることは、被災したストレスを増幅させることになりかねません。日頃から食べ慣れたものを家庭に備蓄し、食事として使い、なくなった分を補充する「ローリングストック」は、非常に有効です。特に食物アレルギーの方はアレルギー対応食を、介護が必要な方は嚥下機能に応じた食品を1週間分程度、備蓄しておくと安心です。ぜひ、大切な命を守るために、食の面でも日頃からの備えを怠らないようにしてほしいと願っています。

(図版提供:田中弘美)

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2026年1月10日発行
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