特集 茶のチカラ 現代版「おいしい淹れ方」常識・非常識

文/渡辺由子  イラストレーション/千野六久

日本茶のれ方には、静岡県茶業会議所などがまとめた「茶のいれかたの検討」というガイドラインがある。しかしこの報告書が発表されたのが1973年といささか古く、時代の変遷とともに茶葉の品質や加工技術が良くなり、また、若者の嗜好が「うま味」から「軽やかで香りのある」茶へと変わりつつあることから、2022年、「日本茶インストラクター協会」が現在の茶種に見合った淹れ方を提案した。現代版「おいしい淹れ方」とは——ポイントはずばり、「浸出温度のコントロール」なのだという。

静岡県立大学大学院食品栄養環境科学研究院茶学総合研究センター
日本茶インストラクター

亀岡葉子(かめおか・ようこ)

女子栄養大学栄養学部二部栄養学科卒業。静岡県立大学大学院生活健康科学研究科高次機能性食品探索研究室に研究補助員として勤務。出産・育児を経て、現職。管理栄養士。

これまで、日本茶の淹れ方で基準とされてきたのが、1973年に発表された、静岡県茶業会議所・農林省茶業試験場・静岡県茶業試験場の委員による「茶のいれかた研究会」がまとめた「茶のいれかたの検討」(茶業研究報告、1973 巻40号)だ。50年以上が経過し、茶葉の品質や加工技術が劇的な進歩を遂げていることから、2022年に「日本茶インストラクター協会」の委員会で、現在の茶種に見合った淹れ方を見直したという。現代にふさわしい茶の淹れ方は、どう変わったのだろうか。

当時とは味も淹れ方も楽しみ方も違う

静岡駅から在来線で30分ほどの丘陵地帯に、国内外の茶といわれる茶に関する情報が集まる、静岡県立大学の茶学総合研究センターがある。本特集のP18〜21にもご登場いただいた中村順行センター長によると、見直しの背景に、チャノキの栽培や製茶技術の進化、消費者の嗜好の変化などがあるという。

チャノキの栽培については、50年以上前に報告書が発表された当時、在来種を栽培する茶園が多かった。在来種は種子で繁殖されるため、個体ごとに形質が異なるのみならず、芽が硬化しやすく渋味が強い。施肥管理も現在ほど行き届いておらず、芽の生育も不ぞろいだった。製茶工程は、煎茶を例に挙げると、生葉を蒸気で蒸す「蒸熱」、水分をみ出しながら乾燥させる「粗揉」「揉捻」「中揉」「精揉」などの工程があるが、昔は製茶機械が小さく、硬い芽を含んだ茶葉を揉み出す力が、今に比べて弱かったのだ。同センターで日本茶インストラクターとして活動する亀岡葉子さんが、報告書当時と現在の違いを次のように説明してくれた。

「現在では、多くの優良品種が育成され、栽培時の施肥管理などが整い、一斉にした柔らかい芽を育てることができるようになりました。さらに、製茶機械の改良が著しく、大型化も進み、現在では1回に処理できる量が生葉250㎏程度まで可能です。柔らかい芽を力のある大型機械でしっかり揉み出すことで、茶葉の細胞がり込まれ、茶の成分がより多く湯に溶け出すお茶ができあがります。現在の技術で加工・精製したお茶は、報告書の当時とは味も淹れ方も楽しみ方も違うことが分かります。

また、製茶工程で茶葉の蒸熱の時間を長くした『深蒸し茶』や『玉緑茶』などを、評価する茶種に加えています。深蒸し茶は、それまでの2~3倍の蒸熱時間をかけて茶葉を柔らかくしているので、揉み出す際に茶葉が砕けやすくなり、細かくなります。普通煎茶よりも短時間で淹れることができ、水色は緑色が濃く、味は濃厚で、苦味や渋味が少ないのが特徴です。市販の煎茶の中でも、深蒸しは消費量が多いことが、追加の理由だといわれています」

こういった製造工程の進化とともに、「おいしさ」の基準の変化もあると中村センター長は話している。

「今ほど飽食の時代ではなかった50年以上前は、うま味のある食事でおなかが満たされることを良しとし、おいしさ=うま味が求められていたと思います。その後、健康志向が重視され、最近では栄養バランスを考えるのは当たり前になっています。日本茶には、心身の健康を保つのに有効な成分がたっぷりと含まれていることが、国内外の研究で明らかにされ、その人気は世界的にも高まっています。お茶のおいしさとともに、機能性も求められるようになっているのです。また、若者の嗜好もうま味たっぷりのものから、少し軽やかで香りのあるお茶に変わりつつあるなど、消費者の嗜好からくるニーズが、時代の変遷とともに変わってきていることも、見直しの要因になっています」

同じ茶葉で煎を重ねる場合は約3煎が限度

日本茶インストラクターの亀岡さんが、現代の茶種に合ったおいしい淹れ方を伝授してくれた。ポイントは、「浸出温度のコントロール」だ。

「湯はそのままだとなかなか冷めません。お湯を器に移すたびに5~10℃下がるので、お好みの茶に適した湯温にできます(図1)。器は湯冷まし用の器でなくても、マグカップなどでもかまいません。浸出温度はもちろん、茶量、湯量、浸出時間によって、お茶の味に大きく影響する三大成分(アミノ酸の一種のテアニン、カフェイン、カテキン類)の抽出をコントロールできます(図2)。なお、昔のほうじ茶はカフェインが少ないから、病人や妊産婦、子どもでもたくさん飲めるとすすめられてきました。昔は番茶からつくられていたからですが、最近は一番茶なども混ぜた品質の高いほうじ茶が市販されており、カフェインやアミノ酸の含有量が増えています」

図1 湯の冷まし方茶を淹れるには、一般的に専用の「湯冷まし」を使うが、これから使用する茶碗を利用して冷ましたり、あるいは、器を移すごとに湯を冷ます方法で調整してもよい。湯は器に移すごとに、5~10℃下がる。

図2 茶の成分は温度の違いで浸出量が異なる日本茶は、湯温、浸出時間、茶量、湯量により、うま味、渋味、苦味を変えることができる世界でもまれな茶。茶の三大成分(アミノ酸類のテアニン、カフェイン、カテキン類)は、温度の違いで浸出量が異なる。

昔のお茶は、同じ茶葉で4煎、5煎目でも当たり前のように飲めたので、煎を重ねる場合には湯温を上げて茶の成分が抽出できた。しかし、深蒸し茶に代表される最近の日本茶は、1煎目から茶の持つ成分を存分に味わえるので、同じ茶葉で繰り返す場合は3煎くらいが限度なのだという。

日本茶をおいしく味わうには、保存法にも気遣いが必要だ。ポイントは、酸化しないように酸素や光、高温、多湿を避けること。100g単位で購入することが多いと思うが、茶葉を数日で使い切れる分量に小分けし、密閉して冷凍庫や冷蔵庫で保存しよう。

「上級煎茶や玉露などの良いお茶(=高価格の茶)ほど、味や香りが変わりやすいので、数日で飲み切ってほしい」と亀岡さん。番茶やほうじ茶は、それほど神経質にならなくてもよいそうだ。

同大では、全学部・全学年対象の講座「茶学入門」を開講している。歴史、栽培、製造、マーケティングなど、茶に関して多角的に学ぶ講座で、毎回学外の専門家を招いて行われている。お茶に興味があり、学ぶ意欲のある学生が200人近く受講しており、2024年度と2025年度には各受講生へ試飲アンケートを実施した。

2種類の茶を、収穫時期や値段等を知らせずに飲んでもらい、「どちらが好きか」を尋ねた。1つ目は一番茶で100g 1000円、2つ目は四番茶で100g 300円(2025年度は同様のグレードが500円に値上げされた)。茶葉は1年で3~4回収穫でき、一番茶は4月下旬から5月上旬に収穫する新茶で、みずみずしい新緑の香りとまろやかなうま味と甘味がある。四番茶は三番茶を摘んだ後に伸びた葉を、だいたい9月下旬ごろに収穫。カフェインが少なく、カテキンが増えてくる。渋味はあるが、すっきりと飲めるお茶だ。

その結果、2024年度で一番茶を好きと答えた受講生は56.3%、四番茶は43.0%、不明0.7%。2025年度では、一番茶55.81%、四番茶41.28%、どちらでも良い0.58%、不明2.33%。受講生のコメントで、一番茶に対して、「香りや味が良い」「味がスッキリして自然な甘さだと感じた」という期待通りの回答があり、「お母さんやおばあちゃんが淹れてくれたお茶の味がする」「小さい頃からの飲み慣れた味がする」(2024年度)、「いつも家(または祖父母宅)で飲んでいるお茶の味に近い」(2025年度)といった各家庭での茶事情がうかがえるコメントもある。

興味深いのが、四番茶を選んだ受講生からは、「普段飲んでいるペットボトルに近い味で、なじみがあって好き」(2024年度)、「苦味が少なくて優しい味」「匂いが良かった」(2025年度)というコメントがあった。

「好みは人それぞれですが、四番茶を『おいしい』と評価する受講生が、両年度とも半数近くいることが衝撃的でした。2025年度には、普段飲んでいる飲料についても聞いたところ、一番茶、四番茶を選んだ人のどちらも、ペットボトル入り緑茶飲料を飲んでいる人が半数程度を占め、普段は急須で淹れるお茶を飲んでいる人では、一番茶19.8%、四番茶16.9%。普段麦茶やほうじ茶等を飲んでいる人は、一番茶13.5%、四番茶14.1%と大きな違いは確認できませんでした。これは一番茶や四番茶の好みと、普段飲んでいる飲料との相関関係は認められないことを示しています。ペットボトルの緑茶をいつも選択し、おいしいと評価するのは簡便さが理由で、急須を持たない、急須を使わないことにつながっていると思います」(亀岡さん)

おいしいお茶の淹れ方

(「番茶」「ほうじ茶」を除き、分量は3人分)

[普通煎茶(中級)]

●茶量/約6g(ティースプーン山盛り2杯程度)
●湯量/約240㎖
●湯温/70~90℃
●浸出時間/70℃では90~120秒、90℃では60秒
※まろやかな甘味と爽やかな渋味のバランスが絶妙

[深蒸し茶]

●茶量/約6g
●湯量/約240㎖
●湯温/70℃
●浸出時間/60秒
※普通煎茶より浸出時間が短くてもおいしく味わえる

[玉露]

●茶量/約9g(ティースプーン山盛り3杯程度)
●湯量/約80㎖
●湯温/50~60℃
●浸出時間/120秒
※玉露らしい濃厚なうま味・渋味・香味が感じられる

[番茶][ほうじ茶](※2人分)

●茶量/約5g(ティースプーン山盛り3杯程度)
●湯量/約400㎖
●湯温/熱湯
●浸出時間/30秒
※高温で淹れても渋味は少なく、香り高い

(写真:イメージマート)

ペットボトル入り緑茶飲料の影響が大きい

同センターでは、お茶の奥深い魅力を知ってもらうために、学生食堂でさまざまなお茶を提供したり、お茶を楽しむ集い「Free Tea Café」を月に1回開催したり、一般の人に向けた講座なども開催している(図3)。

図3 五感で学ぶ茶学スキルアップ講座夏休み中の小・中学生を対象に茶学講座を開講。中村順行センター長の講義で、テアニンやカテキンの結晶の観察など、茶について学んだ。

地下1階にある学食を訪れてみると、真っ先に目に飛び込んできたのが給茶機だ。モスグリーンの美しい液体がグルグルと回り、昼食のお弁当を食べている3人の学生の湯飲みは、そのモスグリーンの液体で満たされている。隣のテーブルの男女2人は、透明の急須で紅茶を淹れている。ここでは本格的なお茶が用意され、学生がそれを楽しんでいる(図4)。

図4 学生に美味しいお茶をプロジェクト静岡県立大学の学食では、数種類の茶を用意。さまざまな茶を味わい、茶の知識が深まるにつれ、好みの淹れ方にこだわる学生が増えてきた。

「学生に聞くと、実家にはティーポットはあるが、急須がないという人も少なくありません。お茶に親しむには、ぜひ急須を使ってもらいたいので、学校側が食器洗浄乾燥機で洗える硬質プラスチック製を用意してくれ、当センターからさまざまな種類の日本茶や紅茶などを提供しています。茶業界では、『お茶離れ』だとか、『今の若者は、急須で淹れて飲むお茶に興味がない』という声が挙がっていますが、そんなことはないと思います。給茶機の横に、急須、ティーバッグ、茶筒を置いていますが、おいしいお茶はすぐなくなります。急須は持っていなくても、おいしいお茶であることは分かってくれるので、それがうれしいですね」と亀岡さん。

「うま味が濃厚な玉露を味わってほしいと、Free Tea Caféで出してみると、『お茶らしくない汁のような香味』と驚く学生が多くいます。若い世代の中には、うま味成分のテアニンをたっぷり含むお茶をおいしいとは感じない人がいるのです。むしろ、爽やかな香りであっさりした味わいのライト志向のお茶や、系の香りが付いているフレーバーティーなどが好みで、お茶に期待するところが違うのだなと、世代間の差違を痛感しました。おいしさの基準がシフトしている背景には、食生活の変化はもとより、ペットボトル入り緑茶飲料の浸透の影響も大きいと思います」と中村センター長は話す。

実際に、今の日本では、急須で茶を淹れる習慣が減っているため、茶葉を購入する金額も減少傾向だが、一方で、ペットボトルや缶で茶飲料を購入する機会は増えており、その購入額は増えているという。急須や茶筒などのお茶の道具を買いそろえ、淹れる手間は面倒だけど、お茶は好き、飲みたい、ということだろうか。

最後に、亀岡さんが用意してくださったのが、玉露の「すすり茶」(図5)。おちょこのような大きさの茶器に玉露の茶葉をティースプーンで軽く1杯入れ、氷水を注ぎ、待つこと15分。茶葉が口に入らないように静かにすするように楽しむ、玉露の最高の味わい方とされている。いただくと、舌に広がる強いうま味は、和食の出汁のよう。ほのかな渋味と甘味も感じられ、奥行きのある味わいだ。飲み干した後の茶葉も残さずいただくと、苦味が心地よい。じつに贅沢な楽しみ方だ。

図5 学食で月1回開催の「Free Tea Café」参加無料で昼食の時間に開催される。普段飲む機会のない玉露のすすり茶や、季節に合わせた茶などを用意して、茶の魅力を紹介している。

「留学生にも、すすり茶を楽しんでもらいましたが、うま味の強さが強烈な印象だったようです。日本茶は茶種を替えるだけでなく、湯温を変えても味が変わり、成分も変わります。リラックスしたいとき、シャキッとしたいとき、好みに合わせて楽しんでいただければうれしいです」(亀岡さん)

(図版提供:中村順行、亀岡葉子)

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