特集 「土壌」の謎に迫る! 土の分布が一目で分かる「日本土壌インベントリー」

構成/菊地武顕

どこに、どんな土が存在しているのか——そのような疑問に答えてくれるのが、「日本土壌インベントリー」というウェブサイト。農研機構が開発した日本全土を網羅する「土壌情報閲覧システム」をデジタル化したもので、農耕地以外の土壌も加えると381種類にも及ぶ日本の土壌分布が一目で分かる。農作物の生産は土壌に大きく影響されるため、栽培に適した土壌を知ることは極めて重要だ。土壌資源の安定的な確保は、国の食料安全保障のうえでも第一に考慮すべき課題なのだという。

農業・食品産業技術総合研究機構上級研究員

高田裕介(たかた・ゆうすけ)

2001年、帯広畜産大学卒業。2007年、京都大学大学院博士課程修了。農業環境技術研究所(農環研)特別研究員、同研究所主任研究員を経て、2016年から現職。同年、「デジタル土壌図と農地放射性物質濃度分布図の作成」により農林水産省 若手農林水産研究者表彰。

2010年に農業環境技術研究所(現、農業・食品産業技術総合研究機構:農研機構)が、土壌情報の配信サイト「土壌情報閲覧システム」を公開し、国内の農耕地土壌図をインターネット上で見ることができるようになりました。2017年からは、農研機構が農耕地以外も加えた国内のほぼすべての土壌図を「日本土壌インベントリー」というウェブサイトで公開しています(図1)。日本の土壌は細かく381種に分類されますが、どこにどのような土があるのか、一目で分かります。

図1 全国土壌図および土壌の分布面積割合(%)日本土壌インベントリーでは、最新の土壌分類法(包括的土壌分類第1次試案)を用いて作製された全国土の土壌図を閲覧できる。全面積の31%を占める黒ボク土は、北海道南部、東北北部、関東、九州に多いことが分かる。

約40万カ所の未調査分布を更新

この基になっている土壌図は、1950年代に始まった農林省(現・農林水産省)の調査事業で作られました。1959年から1978年まで約20年間にわたって、土壌生産力の効率的発現と地力の保全を目的として「地力保全基本調査」を行ったのです。全国の農地を500m間隔で深さ1mほどの穴を掘って土壌の性状を明らかにし、その調査データを集めて地図に落とし込みました。ただし出来上がった紙の土壌図は、農業従事者にはなかなか見る機会がありませんでした。一般には公開されておらず、生産者が都道府県の農業普及機関に問い合わせてようやく目にすることがあるくらいで、自身の持つ土地がどのような土壌なのか分からないというのが実情でした。また、調査当時に比べて農地の分布状況も大きく変化していますので、当時は未調査であった場所にも農地が分布しています。そこで、当時未調査であった約40万カ所を専門家の知見を踏まえて更新し、現在のデータベースが作られたわけです。

もともと農林省が始めたことで分かるように、土壌は食料生産の起点となる資源です。それぞれの土壌には、その特性に合った作物が存在します。土壌の生成要因は、主に気候・植生・地形・母岩(土壌のもととなる岩石)・時間・人為の6要素。それらがどう作用しているかを研究し土壌の性質を解き明かすことで、農業に貢献できます。日本土壌インベントリーを利用している方には、各地の農業普及機関、JA、そして生産者が多いと聞いています。実際、隣り合う圃場で同じように育てても、こちらではたくさんれたのに、一方では全然穫れないというケースもあります。近接しているのに土壌がまったく異なることがあるからです。簡単にアクセスして土壌を調べることができるようになったことに、大きな意味があります。

さて、日本土壌インベントリーの土壌図で青色で示している土壌が「低地土」です(図2)。主に河川周辺に分布していることでも分かるように、低地土の主たる母材は河川氾濫により堆積した土砂などです。低地土は5種類に細分化されますが、河川氾濫堆積物の度重なる付加によって母材は常に新しい状態が保たれ、また養分が豊富であることが多いために、一般的にはな土壌として知られています。新潟県、秋田県、山形県といった米どころに多いことが見て取れます。低地土の分布する面積は国土の14%程度ですが、水田利用地に限っていうと、なんと低地土が約70%を占めているのです。低地土は地下水位が高いうえ粘土質で水はけが悪いことが多く、水を張る必要のある稲作には最適な土壌だからです。

図2 低地土(香川県高松市で採取)低地土は5種類に分類され、その一つである灰色低地土。地表下50㎝以内に、斑鉄層(地下水位の変動により鉄分が集積して赤褐色の斑紋状に見える)がある。

土壌の性状で適した農作物は異なる

それぞれの土壌が農作物を育てる力のことを地力といい、これは水持ちや肥持ちの良しあし(排水性・透水性、保肥力)で変わります。土壌の性状によって、生産に適した農作物は異なります。例えば水田に適した土地で大豆を作ろうとしてもなかなかうまくいかないのは、大豆が水を嫌うからです。もし稲作をやめて水田だった土地を畑として利用したいのなら、まずは排水性を改良しないといけません。低地土で水を張っていた水田の土は、青みがかった色をしていることが多いです。というのも、水を張った状態では低地土の中には酸素がないので、鉄分の中でもFe2+[第一鉄イオン、鉄(Ⅱ)]という成分の割合が多くなるからです。Fe2+は水溶液中では淡緑色をしているので、水田の土壌は青いことが多いです。それが乾いていくことで、土壌中に酸素が行き渡るようになり、Fe2+がFe3+[第二鉄イオン、鉄(Ⅲ)]に変化して土壌は褐色がかかってきます。

では、畑にふさわしい土壌とはどういうものでしょうか。実は日本には、世界的にまれな黒ボク土(図3)と呼ばれる土が非常に多くあり、国土の31%ほどを占めています(土壌図で明るめの茶色で示された部分)。世界の陸地全体を見ると、黒ボク土はわずか0.6%ほどに過ぎません。まさに日本特有の土壌なのです。

図3 黒ボク土(宮崎県・綾町で採取)黒ボク土は6種類に分類され、その一つであるアロフェン質黒ボク土。火山放出物を母材に、結晶度の弱い粘土鉱物(アロフェン、イモゴライト)と腐植が集積された。

この黒ボク土こそ、畑作に適しているのです。国土全体の31%ほどですが、畑(普通畑、牧草地、樹園地)に限っていうと約47%も占めています。保水性や透水性が良いうえ、土が柔らかいので耕しやすいのです。

なぜ地球上の陸地の1%にも満たない黒ボク土が、日本では3割を超すほどあるのか。その理由は活火山(過去1万年以内に噴火した火山、および現在活発な噴気活動のある火山)にあります。黒ボク土は、火山灰が堆積してできた土なのです。現在、全世界には約1500の活火山があり、そのうち111もの活火山が日本に集中しています。日本列島は、太平洋プレート、フィリピン海プレート、ユーラシアプレート、北米プレートの4つの海洋・大陸プレートがぶつかり合う場所に位置し、海側のプレートが大陸側のプレート下に沈み込むことでマグマが発生。多くの活火山があるため、日本の土壌に黒ボク土が多く存在するのです。

火山灰からできた黒ボク土は水はけが良い

国内の黒ボク土は、主に北海道南部、東北北部、関東、九州に分布しています。これは、活火山の分布状況を反映しているといえます。日本土壌インベントリーの土壌図は、黒ボク土が活火山の東側に位置することを示しています。というのも、大規模な噴火(噴煙が高度1万mに達するような噴火)により飛び出した火山灰は偏西風の影響で主に火山の東側に飛び、堆積するからです。例えば東京都や神奈川県などの関東地方南部の土壌の表面の多くにある黒ボク土は、富士山、箱根山や浅間山などの火山活動で噴出した火山灰が堆積してできたものです。

黒ボク土は火山灰が徐々に堆積する過程でできた(穴ぼこ、植物根の跡)が多くあるので、非常に水はけが良いのです。また火山灰由来の土壌の特徴の一つとして、活性アルミニウムを多量に含んでいます。噴火によって噴出したマグマは急冷・減圧され、マグマ中のガスが放出されて、気泡を多く含む火山灰や軽石になります。地表にたどり着いた火山灰中の気泡に雨水が流れることで、通常はあまり溶け出さないアルミニウムが多量に溶け出し、土中の植物由来の有機物と結合します。その結果、土壌の色が徐々に黒く変化するのです。

黒ボク土は、英語の分類名では「andosol」と言われます。この英語名が生まれたのは、第二次世界大戦後のこと。GHQが日本国土の資源探査や土壌調査を行った際に、それまで見たことのない黒い土に驚いたわけです。これは一体何だと聞かれた日本人は「暗土」と答えたそうです。そこでandoにラテン語で土を意味するsolを組み合わせて、この分類名ができました。

今でこそ畑作に適した肥沃な土壌というべき黒ボク土ですが、以前は痩せた土、使い勝手の悪い土でした。というのも、黒ボク土に豊富に含まれる活性アルミニウムはリン酸の吸着力がとても強いのです。また、日本のように湿潤な気象条件であれば、雨水と共に土壌中からカルシウムなどのミネラルが失われ、土は酸性化します。リン酸は窒素、カリウムと並ぶ作物の三大栄養素。それが酸性状態の土壌中の活性アルミニウムと非常に強く吸着してしまうため、植物の根が吸収できません。結果として作物が育ちにくいのです。それを克服するため、例えば江戸時代の大宮台地では、川沿いにある黒ボク土以外の豊かな土を運び込んで畑の土壌を変えるようにしました。さらに、堆肥を大量にまくことで不足するリン酸を補っていたのです。

このあたりが、同じ黒い土でも、小麦の一大生産地・ウクライナに広がる「チェルノーゼム」(ロシア語で黒い土の意)とは違うところです。肥沃な土壌の代名詞とでもいうべきチェルノーゼムは、カルシウムを豊富に含んだ中性から弱アルカリ性の土壌です。カルシウムが植物由来の有機物とゆるく結合して蓄積していくことで、黒く変化したのです。カルシウムはそれ自体が作物の栄養になるうえ、土壌を中性に保ち、栄養分を効率よく作物に供給する働きをします。

チェルノーゼムとは異なり、酸性の黒ボク土は痩せた土地。多くの生産者にとってやっかいな存在でした。詩人・童話作家の宮沢賢治は、「雨ニモマケズ」で知られるように、自ら畑を耕しながら農業指導に携わっていました。盛岡高等農林学校(現・岩手大学農学部)では、関豊太郎教授を師と仰ぎ、土壌を研究しました。関教授は当時の学界を代表する土壌学者で、日本土壌肥料学会の初代会長を務めた人です。岩手県の洪積台地の多くは黒ボク土で覆われ、酸性での悪い痩せた土地。そのため宮沢賢治さんは酸性矯正という土壌の酸性を和らげる研究をしていたのです。得業論文(卒業論文にあたる)は「腐植質中ノ無機成分ノ植物ニ対スル価値」と題し、岩手の黒ボク土を肥沃な土壌にするには焼土法が良いと結論づけています。それだけ当時の黒ボク土は農業に適さず改良が必要な土壌だったということです。これが大きく変化したのは、戦後のこと。過リン酸石灰やリン肥といったリン酸の入った化学肥料をふんだんに使えるようになってからです。

化学肥料の普及後、黒ボク土は畑作に利用されることが増えました。火山灰でできているので、土中に石を含みません。また、水はけも良いため根菜類の生育に適しています。黒ボク土が広がる北海道・十勝平野で小麦と大豆が生産されるのも、気候条件などに加え、小麦と大豆があまり水を必要としない点が挙げられます。熊本県を中心とする九州南部では、黒ボク土の畑でさつまいもや大根といった根菜類の生産が盛んです。

化学肥料の使用量がほぼ半減したケースも

国の食料安全保障を考えるうえで、第一に評価しなければいけないのは土壌資源です。わが国では早くから土壌図を作成してきました。1882(明治15)年、ドイツから農林地質学者マックス・フェスカ博士を招き、その指導の下で3年後に「大日本甲斐国土性図」を完成させました。旧・甲斐国(山梨県)の土壌を記した、日本で初めて科学的見地に立って作成された土壌図です。また、1889年には予察土性図がパリ万博に出品され高い評価を得たそうです。

そうした先達の努力を受け継いでできたのが日本土壌インベントリーであり、そこで示されている土壌図データは、他のサイトに供給されています。例えば土壌にどれだけCO2を蓄えられるかを計算するサイトがあります。大気中から吸収された炭素を土壌有機物などの形で土の中に閉じ込める土壌炭素貯留は、地球温暖化対策の大きな役割を担いますが、そのサイトでも私たちのデータが利用されているのです。また、最適な肥料量計算に関しても日本土壌インベントリーのデータが用いられています。肥料の溶出量は土地の温度と水分で決まります。適切な肥料の量を計算するサイトがいくつかあり、私たちの持つ土壌の性状データならびに気温等から推定した地温と水分データを利用して計算をするのです。私たちも「有機質資材の肥効見える化アプリ」を作成し、農業普及機関などに利用していただいています。これまでの3年間に約70例でこのアプリを用いて量を管理したところ、堆肥などの有機質資材の肥効により、化学肥料の使用量がほぼ半減できました。経費の節減はもちろんのこと、環境への負荷を低減することができています。

ただし土壌は、土地利用や自然災害などによって変化します。50年前には80㎝ほどあった黒い土の層が流れてしまい、次の層が一番上に出てきたという土地もあります。つまり、そこでは年間1.5㎝以上の土が失われてきたわけです。近年は気候変動のために各地で大雨が降り、土壌のほうもかなり変わってきているでしょう。私たちは現在も、規模こそ縮小していますが、年間1000~2000点の最新の土壌データを集めています(図4)。また以前の技術では推し量ることができなかった土壌性状の変化過程も、現在はスーパーコンピュータやAIを使って推定できるようになってきました。それらを駆使して最新の調査結果を解析し、日本土壌インベントリーの土壌図の精度を高める活動を続けています。

図4 土壌調査の様子深さ1mほど掘って土壌を調査。その一部は土壌断面そのままの姿で固定した標本(土壌モノリス)にする。農研機構内にある農業環境インベントリー展示館では、幅約20㎝、高さ約1mの土壌モノリスを約100点展示している。

(図版提供:高田裕介)

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