暮らしの科学 第70回 夜空を眺めて涼む。いざプラネタリウムへ!

文/茂木登志子  イラストレーション/山崎瑶実

どこかに遊びに行きたいが、外は暑い。涼しくて、楽しい所はないか? そうだ、プラネタリウムに行ってみよう! 今回は私たちを星空に案内してくれる施設、プラネタリウムの魅力を通して星の世界を探ってみた。

〈今月のアドバイザー〉永田美絵(ながた・みえ)。コスモプラネタリウム渋谷チーフ解説員。大学卒業後、天文博物館五島プラネタリウム、東急まちだスターホール、五藤光学研究所などを経て、現在は東急コミュニティー運営のコスモプラネタリウム渋谷でチーフ解説員を務める。また、時にはプラネタリウムから飛び出し、各地で講演や星空解説を通して、宇宙の壮大さや地球の美しさを伝えている。NHKラジオ第1「子ども科学電話相談」の天文・宇宙関連を担当。著書『こころにそっとよりそう星空の話』(イースト・プレス)、解説員仲間との共著『プラネタリウム解説員が本気で伝えたい 星座と星めぐり』(中央公論新社)など多数出版。

プラネタリウムというのは、ドーム型のスクリーンに星空を映し出し、星の世界を案内してくれる施設を指す。ナビゲーターは、各施設の解説員だ。今回は、コスモプラネタリウム渋谷のチーフ解説員で、“癒しの星空解説員”として知られる永田美絵さんにプラネタリウムの楽しみ方を教えてもらうことにした。

コスモプラネタリウム渋谷は、東京都渋谷区の総合施設「渋谷区文化総合センター大和田」内にある。渋谷区から永田さんが所属する民間会社が委託を受け、プラネタリウムの企画・運営を担っている。オープンしたのは2010年。渋谷の駅から徒歩5分で宇宙につながる場所として人気を得て、一昨年には来館者が100万人を突破した。

永田さんはコスモプラネタリウム渋谷で宇宙へのナビゲーターを務める傍ら、NHKラジオ第1の人気番組「子ども科学電話相談」で、天文・宇宙の専門家として子どもたちからの疑問や質問に優しく、そして分かりやすく回答している。その柔らかな声に聞き覚えのある人もいるかもしれない。

画像提供:コスモプラネタリウム渋谷

図1 プラネタリウムの内部と解説員の仕事左の写真中央に見えるのが星空の投影機だ。その手前にある席で解説員は、右の写真のようなコンピュータや音響機器などを操作しながら、星空を案内する投影とナレーションを行う。永田さんいわく「ナレーションはフリートークです。暗い中で機器の操作をしているので、台本を作っても見ることができません」。

プラネタリウムの魅力

「プラネタリウムにようこそ! 1923年にドイツで誕生したプラネタリウムは、世界中に普及しました。なかでも日本は47都道府県すべてにプラネタリウムがあり、その総数は約300施設です。これは、アメリカと中国に次いで世界第3位の設置数と稼働数です。こうしたことから、日本は世界有数のプラネタリウム大国といわれているのですよ」

永田さんによると、プラネタリウムの魅力は大きく3つに分けられるという。

「1つ目は、天文学の知識を学べること。2つ目は、宇宙のエンターテインメントを楽しめること。そして3つ目が、癒やしの空間であること。順に説明していきましょう」

1つ目の代表例が、学習投影だ。学習投影とは、学校教育においてプラネタリウムを活用して授業を行うことを指す。文部科学省の定める学習指導要領では、小学校4年と6年、中学校3年時に、天体学習を行う。プラネタリウムはこの学習支援として活用されているのだ。

「近年は、各地のプラネタリウムで、幼稚園や保育園の園児を対象にした学習支援を行っている施設もあります。ですから、初めてのプラネタリウム体験が学習投影だったという人も多いことでしょう」

プラネタリウムのプログラムは約40分。だが、この間に解説される内容を一度に覚える、あるいは吸収するのは難しい。

「星や宇宙、天文学に興味を持つ人にとって、プラネタリウムは、何度も通って、星空を楽しみながら天文の知識を蓄積していく学びの場でもあります」

一方で、近年の特徴は、音響や映像などの技術の進化とともにエンターテインメント型プラネタリウムが増えていることだ。アニメなどの人気キャラクターが登場する子ども向けのプログラムや、ロマンチックな雰囲気を演出して女性やカップルに人気のプログラムを上映している施設もある。

「当館でも、サイエンスとエンタメを融合したオリジナルのプログラムを制作して上映しています」

子どもやファミリー向けのプログラムとして人気なのが、ハチ公(亡くなった飼い主の帰りを渋谷駅前で10年間待ち続けたことで忠犬として知られている秋田犬)と一緒にロケットに乗って宇宙旅行に出かける『ハチ公と! 星座はじめてものがたり』だ。また、太陽の周りを回る8つの惑星を巡る『プラネットジャーニー』や、果てしない宇宙の彼方から私たちの体の中の奥深くまでを旅する『星はここにある』などは、大人の観客が多いという。

「お子さま連れのご家族やお友達同士、恋人同士はもちろん、おひとりさまでも楽しめるのがプラネタリウムのいいところです。私は勝手にプラネタリウム・マジックと呼んでいるのですが、入場時と退場時でお客さまの表情が変わっていることが少なくありません。投影された夜空を眺めた後は、皆さんとても穏やかな表情をされています」

これが、3つ目のプラネタリウムのヒーリング効果だ。でも、なぜプラネタリウムで星を見ると癒やされるのだろうか?

「プラネタリウムでは星空がよく見えるように、座席がゆったりとしたリクライニングシートになっています。上映中は、あおむけになって、およそ40分間ずっと夜空を見上げています。脳科学の専門家に伺ったのですが、私たちは空を見上げていると気持ちが落ち込まないそうです。私たちの脳は、下を見ていると、失敗や過去などネガティブなことを考えてしまいます。しかし、上を見ていると、未来や成功したことなどポジティブなことを考えるからだといいます」

猛暑の夏に涼しいプラネタリウムに行くと、楽しく夜空の星を眺めながら天文学の知識を得られるだけではなく、ヒーリング効果まで得られるとは! 常連客がいるというのもうなずける。

季節ごとに変わる“見える星”

プラネタリウムには、教育に特化した施設やエンターテインメントに徹している施設もある。そういう中でチーフ解説員である永田さんが目指しているのは、観客のニーズに合わせた選択肢のある施設だ。そのため複数のプログラムを用意して入場客を迎えているが、毎日必ず組み込まれている定番のプログラムもある。その日の夜8時の渋谷の空から星の世界を案内する『今夜の星めぐり』だ。このプログラム、定番ではあるが、毎日その内容が異なるという。

「天文データを蓄積しているコンピュータが、最新のデータに基づいてシミュレーションした、当日の星空を投影機が映し出します。翌朝まで移りゆくその様子を、音楽と解説員のナレーションでお客さまにご案内しています。定番でありながら内容が毎回異なるのは、見える星の位置が日々変化し、解説員も毎回変わるからです」

解説員の個性に応じてナレーションが違うのは、分かる。だが、星の位置が変化するというのが分からない。なぜ?

「地球が公転しているからです」

地球が太陽の周りを約1年間かけて1回転する運動を公転という。1回転360°だから、1日に1°くらい、ひと月で約30°、3カ月ではほぼ90°回転しているというわけだ。

「例えば1月の南の空にはオリオン座が見えます。でも、3カ月たつと地球に住む私たちの目には星の位置が90°くらい移動して見えるので、同じオリオン座が西の空に見えるようになるのです」

変化する星空。実際には地球が動いているのだが、私たちの目にはまるで星が動いているように見えているというわけだ。

ところで、誕生日と星座を結びつけた星占い(西洋占星術)というものがある。天文学の知識はないけれど、自分の誕生日が何座なのかは知っているという人も多いのではないだろうか。夏に誕生日を迎える人の星座といえば、主にかに座(6月22日〜7月22日生まれ)しし座(7月23日〜8月22日生まれ)とおとめ座(8月23日〜9月22日生まれ)だろう。誕生月にプラネタリウムに行って、名前だけ知っていた星座をこの目でしっかりと見るのは楽しそうだ。ところが永田さんからは予想外の言葉が出てきたのだ。

「誕生日の星座は、実際の誕生日の3〜4カ月前に見るのがベストなのです」

え〜! なぜ? 夏生まれの人は、夏の夜空でかに座やしし座、おとめ座が見えないの?

「地球から見上げたときの、見かけ上の太陽の通り道(太陽が星座の間を動いているように見えるその道筋)をというのですが、誕生日の12星座はその黄道上にあります。そして星占いの星座というのは、紀元前2000年くらいの星座ができたころは、その人が生まれたときに太陽が位置していた星座を指しているのです。言い換えると、誕生日の頃には、その星座の辺りに太陽がいたということを意味しています」

永田さんは次のように説明を続けた。

「誕生日の頃には、誕生日の星座は太陽の近くにいます。太陽と同じ方向で輝いているため、太陽がまぶしくて、実際にはその星座が見えないというわけなのです」

びっくりしたり、がっかりしたり。でも、永田さんはこんなふうにアドバイスしてくれた。

「当館のように解説員のいるプラネタリウムが近くにあれば、ぜひ自分の誕生日の1つ前の季節に行ってみてください。その季節によく見える星座として紹介されるでしょう。そして1つ年を取る前に、実際の夜空で誕生日の星座を眺めてみてください」

秋に誕生日を迎える人の星座といえば、てんびん座(9月23日~10月23日生まれ)、さそり座(10月24日~11月22日生まれ)、いて座(11月23日~12月21日生まれ)だろう。当該読者の皆さん、ぜひこの夏、プラネタリウムや夜空で誕生日の星座を見てみよう!

図2 夏に見える誕生日の星座てんびん座(左)は、さそり座のアンタレスとおとめ座のスピカの間に位置する。さそり座(中央)は、南の空で赤く輝くアンタレスが目印だ。いて座(右)は、天の川が一番濃く幅広く見える6つの星が目印だ。ギリシア神話に基づく星座の由来を知るとより面白い。

今年の七夕は8月29日

夜空にまつわる夏の風物詩といえば、七夕祭りだ。天の川を挟んで別れて暮らす織姫と彦星が、天の川を渡って7月7日の夜にだけ再会し、共に過ごせるという伝説がある。遣唐使などによって中国から伝わったとされるが、江戸時代には五節句の一つとされ、日本では短冊に願い事を書いて笹や竹に飾る習わしが今なお続いている。だが、7月7日はまだ梅雨の最中で、雨が降ることもある。七夕の日に雨が降ると、天の川が氾濫し、織姫と彦星は会えなくなってしまう。笹や竹に飾った願い事もかなわないのではないかと、心配になる。

「七夕祭りの7月7日は、元々は旧暦の日付なのです」

旧暦とは、月の満ち欠けを基準とする太陰暦と、太陽の運行を基準とする太陽暦を組み合わせた太陰太陽暦を指す。メソポタミア文明の中でもバビロニアの人々は、季節の移り変わりと星の位置の変化や月の満ち欠けなどを観察し、種まきの時期や収穫の時期など、暮らしの目安にしてきた。こうして生まれたのが、太陽太陰暦という暦だ。日本では、朝鮮半島を経由して中国から暦法(暦の作り方)が伝来し、飛鳥時代の推古12(604)年に最初の暦が作成されたとされる。

以来、日本では太陰太陽暦が用いられてきた。だが、現在、私たちが使っているのは、太陽の動きを基にしているグレゴリオ暦で、明治時代に導入されたものだ。そして、旧暦の明治5(1873)年12月3日が、新暦の明治6(1873)年1月1日とされたので、この導入時から旧暦と新暦にはおよそひと月のずれが生じたという。

「新暦に変わって、太陽や月の変化が置き去りにされ、7月7日という日付だけが一人歩きしてしまいました。旧暦の7月は新暦ではおよそ8月に相当するので、仙台の七夕まつりのように、地域によっては月遅れの8月7日を七夕としている所もあります」

では、万が一、7月7日に雨が降っても、8月7日が晴天なら、織姫と彦星は再会できるかもしれない!

「ちょっと待ってくださいね。今年の“伝統的七夕”がいつなのか、調べてみましょう」

伝統的七夕というのは、旧暦で用いられていた太陰太陽暦に基づく七夕を指す。前に述べたように太陰太陽暦は、月の満ち欠けで1カ月を定め、1年間の長さは月を入れて太陽の動きに合わせて調整される。単純に新暦の1カ月後、というわけではないのだ。また、伝統的七夕については、国立天文台が「二十四節気の処暑を含む日かそれよりも前で、処暑に最も近い新月の瞬間を含む日から数えて7日目」と定義している。

「今年の伝統的七夕は、8月29日ですね」

意外に遅いというか、8月29日なら梅雨の心配はないが、今度は台風の襲来が心配になる。ともあれ、伝統的七夕の夜、どっちの方向を向けば、織姫と彦星を見つけることができるのだろうか?

「織姫はこと座の1等星・ベガで、彦星はわし座の1等星・アルタイルです。真上を見上げて、夜空の高い所で輝く1等星(地球から見た星の明るさを表す単位のうち夜空で最も明るい等級の星)を探してください」

図3 伝統的七夕と夏の大三角夏の夜、東の方角を向いて空を見上げると、こと座の1等星・ベガが見えるはず。ベガから左下の方向に見えるのがわし座の1等星・アルタイル、ベガから左上の方向にははくちょう座の1等星・デネブが見える。3つの1等星を結んだ大きな三角形を「夏の大三角」と呼ぶ。

伝統的七夕の夜に、ぜひとも織姫と彦星の再会を見たい。でもその前に、プラネタリウムに行って、夏の夜空の星についての解説を聞いて予習しておくと、うまく目当ての星を探すことができそうだ。今年の夏は、プラネタリウムで涼みながら星巡りを楽しもう!

星とプラネタリウム

プラネタリウムの星は双眼鏡で見る

私たちの目に見える星は6等星までで、その数はおよそ6000〜7000個だといわれている。だが、コスモプラネタリウム渋谷では肉眼では見えない星も含めて25万6000個の星を映し出している。永田さんは「双眼鏡を持ってきていただくと、野外での天体観測と同じようにそうした小さな星々まで見ることができます」という。施設によっては双眼鏡の貸し出しをしているところもあるそうだ。

“推し”の星を見つけよう

プラネタリウムでは、解説を聞きながらたくさんの星を見ることができる。実際の夜空で星を探すにはどうしたらいいのだろうか? そう尋ねると永田さんは「“推し”の星を1つ決めるのがコツ」と教えてくれた。自分の好きな星なら、その位置を探すのも楽しい。そこから他の星の名前や位置についての知識を少しずつ増やしていくと、見える星の世界が広がるというのだ。

星を探すときに便利なアプリ

リアルタイムで星を探し、特定したいときに役立つ便利なアプリケーションが複数ある。スマートフォンにこうした無料のアプリを入れておくと、夜空にスマホをかざすだけで星座や星の名前を教えてくれる。また、GPS機能が位置情報を読み取って自分がいる場所から見える星を教えてくれるアプリもあり、星空探検に役立つ。

雨が降ると星が見えない理由

雨が降ると、星が見えなくなる。これは、雲が星の光を遮るからだ。雲は水蒸気が凝集してできたもので、星の光を透過させない性質がある。そのため、雨が降っていると、空に雲が広がり、星の光が遮られるので、星空が見えなくなってしまうというわけだ。

星が輝くのは夜だけ!?

地球は北極と南極を結ぶ地軸を中心に1日に1回転している。地球の自転だ。この自転によって、太陽の光が当たっている面が昼で、光が当たっていない面が夜になる。星や太陽の位置は変わらないが、昼は太陽の輝きに遮られて星が見えない。反対に夜になると星が見えるのだ。

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ヘルシスト 292号

2025年7月10日発行
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