暮らしの科学 第74回 電池を上手に使って適切に処分しよう!

文/茂木登志子  イラストレーション/古泉香苗

私たちの身の回りのいろいろなものに電池が使われている。今回はその中でもリチウムイオン電池に注目した。電池の仕組みや上手な使い方、そして適切な処分方法とその理由まで探ってみた。

〈今月のアドバイザー〉菅野了次(かんの・りょうじ)。東京科学大学総合研究院特命教授(名誉教授)、全固体電池研究センター長。1980年、大阪大学大学院理学研究科無機および物理化学専攻課程修了。1985年、理学博士となる。神戸大学理学部助教授を経て、2001年、東京工業大学(現・東京科学大学)大学院総合理工学研究科教授。2016年、同大物質理工学院教授。2018年、同大科学技術創成研究院教授、全固体電池研究ユニットリーダー。2021年、同大科学技術創成研究院特命教授、全固体電池研究センター長となる。同年、文部科学大臣表彰科学技術賞(研究部門)受賞。その他受賞歴多数。共著書に『全固体電池入門』(日刊工業新聞社)。

断捨離を決意した。まず、取り組んだのが、不要になった電動アシスト自転車の処分だ。自治体に粗大ごみの処分を申し込むと、処分対象は自転車の本体のみ、つまりバッテリーを外した状態ということだが、すぐに引き取ってもらえた。だが、バッテリーの処分に困ってしまった。電動アシスト自転車のバッテリーには、リチウムイオン電池が用いられている。居住する自治体では、リチウムイオン電池の回収を行っていないのだ。

どうしたらいいのだろうか? 自治体のウェブサイトで調べてみた。販売店やメーカーに問い合わせるようにと、記載されている。だが、販売店はすでに廃業して存在しない。そこでメーカーのウェブサイトにアクセスすると、小型充電式電池のリサイクル活動を行っている団体に加盟している最寄りの店舗を検索して相談するように、という案内文が記載されている。ところが、検索しても近くに該当する店舗がない。メーカーのお客さま相談室に電話で問い合わせてみようかと思いつつ、いつしかそのままになっていた。そして、バッテリーはほこりをかぶり、断捨離の意気込みと決意は消えてしまった。

そんなある日、リチウムイオン電池の廃棄には発火・爆発の危険があり、ごみ収集車や処理施設での火災が多発しているという報道に接した。家の片隅に置かれた電動アシスト自転車のバッテリーのことが心配になった。家の中でこのバッテリーから火が出たり、爆発したりしたらどうしよう? 怖い!

ところが幸いなことに、自治体でのリチウム電池・リチウムイオン電池の回収が始まった。おかげでその1回目の回収日に、無事に懸案のバッテリーを手放すことができたのだ。

バッテリーはなくなったが、いくつかの疑問が残った。リチウム電池とリチウムイオン電池の違いは? 乾電池との違いは? なぜ、リチウムイオン電池の廃棄には発火・爆発の危険があるの? なぜ、リチウム電池とリチウムイオン電池の処分がこんなに大変なの? そこで、この疑問を解き明かしてくれる専門家を訪ねることにした。

歴史で学ぶ「エネルギーの缶詰」

訪ねた先は、東京科学大学全固体電池研究センター長の菅野了次特命教授だ。菅野さんは、電池の研究に40年以上携わってきた。

最初の質問は「電池とは?」。するとすぐにこんな答えが返ってきた。

「電池を一言で表すなら、それは『エネルギーの缶詰』といえます」

なるほど、電池の中には電気エネルギーが詰まっているからですね! と思うのは、大きな誤解だ。なぜなら、電気エネルギーは、物質のようにそのままためておくことができないからだ。だが、エネルギーの形を変えてためておいて、必要なときに再び電気エネルギーとして取り出すことは可能だ。電池はどんな仕組みで電気を供給しているのだろうか? 菅野さんは電池の歴史と共に、その基本を教えてくれた。

「世界で初めて電池を発明したのは、イタリアの物理学者、アレッサンドロ・ボルタで、1800年のことでした」

イオン化傾向の異なる2種類の金属(亜鉛と銅)を、希硫酸に浸し、化学反応で電子を移動させて電流を発生させる仕組みを創出したのだ。

「電圧の単位をボルトと言いますが、それはこの発明者の名前に由来しています」

図1 「ボルタ電池」の仕組み金属を電解液に浸した際、電解液によって電子を奪われて陽イオンへ変化しやすい度合いを表したものを 、イオン化傾向という。異なる2種類の金属元素が存在するとき、イオン化傾向が大きい金属のほうが優先して陽イオンになる。この性質を利用して、イオン化傾向が大きい亜鉛がイオンになることで、電子が銅板に移動し、電気を発生させている。

このボルタ電池の発明から、さまざまな研究が進んだ。ここでは、それらの中でも特筆すべき3つの発明を紹介しておこう。

1つ目は、1859年に、フランスの物理学者、ガストン・プランテによって発明された鉛蓄電池だ。2枚の鉛の板をゴムの絶縁体で挟んで渦巻き状に巻き、10%の希硫酸に浸したものだが、これこそが、世界で初めての再充電可能な二次電池なのだった。

「電池は一次電池と二次電池に分けられます。前者は使い切りの電池で、後者は充電して繰り返し使える電池を指しています。160年以上も前に発明された二次電池の鉛蓄電池は、もちろん改良されながらですが、自動車のバッテリーとして今でも使われています」

2つ目は、1880年代に、持ち運びに便利で、横にしても電解質が液漏れしない乾電池が誕生したことだ。乾電池はエアコンやテレビのリモコンなど、今でも私たちの身の回りで使われている。

デジタル機器の小型・軽量化を促進

さて、3つ目の発明は何か?

「リチウムイオン電池です」

1985年に、充電可能なリチウムイオン二次電池の基本構造を発明したのは、日本の吉野彰博士だ。この功績により、2019年にノーベル化学賞を受賞した。

「リチウムイオン電池には、小型化や軽量化が可能なうえに、大容量の電気を蓄えることができるという特長があります」

この長所を生かして1990年代前半に、家庭用のビデオカメラに搭載された。つまり、ビデオカメラの小型・軽量化に役立ったのだ。その後、携帯電話やノートパソコンなどに用いられるようになり、それらの小型・軽量化も進んだ。

「今では、スマートフォンやノートパソコンをはじめ、電気自動車や電動アシスト自転車などのさまざまな分野で採用されています」

図2 「リチウムイオン電池」の仕組みリチウムイオン電池は、正極(プラス)と負極(マイナス)の間を「リチウムイオン」が電解液を通って行き来することで、充電・放電する仕組みになっている。充電時は外部から電気を送り込むことで正極からリチウムイオンが負極へ、使うときは負極にあったリチウムイオンが電解液を通って正極へ移動する。リチウムイオンが、エネルギーを運ぶボールのように往復するから、繰り返し何度も使えるのだ。

ボルタ電池から今日まで、220年余りの電池の歴史を振り返りながら、菅野さんは次のように総括する。

「電池の歴史は、いかに効率よく、より大きなエネルギーを詰め込むか、という歴史でもあります」

より長持ちで、より大きな力で、より小さく、より薄く。そんな需要に応えるために、電池の開発に取り組む専門家たちは研究を重ねてきた。そうして開発された電池は、私たちの生活も便利にしていった。その象徴がリチウムイオン電池だ。

リチウムイオン電池は、なぜ、小さいのにパワーがあるのだろうか?

「従来の電池は、電解液に水に近い成分を使っていました。しかし、リチウムイオン電池は有機溶媒(燃える性質を持つ液体)を採用することで、従来の約3倍という高い電圧(4V級)を実現しました」

電圧が高いことには、どういうメリットがあるのだろうか?

「蓄えられるエネルギーの量は、『電気の量×電圧』で決まります。電圧が3倍になれば、同じサイズでも3倍のエネルギーを詰め込めるということです」

タブレット、デジタルカメラ、暑い夏に便利なハンディタイプの扇風機、モバイルバッテリー、ワイヤレスイヤホン、コードレス掃除機、電子・加熱式たばこ……。だから身の回りにもリチウムイオン電池が使われたアイテムが多いというわけだ。

リチウム電池とリチウムイオン電池の違い

リチウム電池は使い捨ての一次電池で、リチウムイオン電池は充電して繰り返し使える二次電池だ。リチウム一次電池には、ボタン形や円筒形などがある。自動車のキーレスエントリーやスマートキー、AED(自動体外式除細動器)などに用いられている。

図3 リチウムイオン電池が使われているものリチウムイオン電池は、軽量で高容量な充電式製品に広く用いられている。ただし、衝撃や熱に弱く、誤った廃棄はごみ収集車や処理施設での火災原因となるので注意が必要だ。

処分・回収の難しさ

便利な一方で、使用済みのリチウムイオン電池の処分・回収が難しいのはなぜなのだろう? 

「電池はエネルギーを詰め込めば詰め込むほど小型・軽量化が進んで便利ではありますが、その一方で『危険な存在』にもなるからです」

その理由を、次のように説明してくれた。

「リチウムイオン電池には、有機溶媒が使われていて、これには発火のリスクがあります。また、リチウムイオン電池の内部は、数十㎛という極めて薄いシート状の電極が精密に重なり合った構造をしています。もし、衝撃や不純物の混入でこの電極の壁が破れ、内部でショート(短絡)が起きれば、蓄えられたエネルギーが一気に放出され、発火や破裂につながる恐れがあるからです」

一般ごみに混入し、ごみ収集車や処理施設で押しつぶされて発火する事例が多発しているのも、そういう理由だ。また、回収システムがまだ整備途上にあるのは、小型家電から大型の車載用バッテリーまで、多種多様なリチウムイオン電池が広範囲に散らばっているため、安全に回収・輸送するための物流コストが高いことも障壁になっている。

「160年以上も前に発明された鉛蓄電池が今も自動車に搭載されているのは、安全性も含めて改良を重ねてきたからです」

菅野さんはさらに言葉を続ける。

「私たちがスマホを何の不安もなく毎日充電し、電気自動車が街を走れるようになったのは、メーカーが30年かけて、このリチウムイオン電池という『エネルギーの缶詰』の安全性を極限まで高めてきたからです。温度が上がれば電流を止めるシステム、衝撃に耐える強固なケース。こうした目に見えない技術の積み重ねが、今の利便性を支えています」

言い換えると、広く普及したからこそ、処分・回収の未整備や発火の危険性などの短所が、私たちの目につくようになったともいえる。

処分に関わる安全性などは、取り組みが始まったばかりだ。歴史ある鉛蓄電池のように、リチウムイオン電池も研究や技術開発に関わる人々の努力により、長い歳月をかけて安全性を高めていくのだろう。そう、期待している。

リチウムイオン電池よりも安全で、小型・軽量で、パワフルな電池はないのだろうか? ある。現在、次世代の安全かつ高性能な電池として期待されているのが、全固体電池だ。 実は、菅野さんが取り組んでいる研究テーマでもある。一体どんな電池なのだろう?

「これまでの電池で使われてきた電解液に、液体ではなく固体材料を使った電池を指して固体電池といいます。その中でも、特に電池の構成部材である正極、電解質、負極のすべてに固体材料を用いたものを、全固体電池と呼んでいます」

ということは、液体や気体のように流動したりしないはず。ならば、電子やイオンが移動しても、その物質自体は壊れることはないのではないか?

固体の中を、イオンがあたかも液体のように動き回る物質を、超イオン伝導体と呼ぶ。2011年、菅野さんの研究グループは、リチウムイオンの伝導率が高い固体電解質材料を開発した。この材料開発により、急速充放電性能が非常に高い電池を製造できる可能性が高まった。また、リチウムイオン電池よりも安全性が向上する。

「電解液の液漏れがありません。燃える液体を使わないため、発火の危険が極めて低く、安全性に優れるのが特長です。高容量化も期待され、次世代の主力として開発が進んでいます」

全固体電池開発は1980年代に本格化し、菅野さんも同時期からこの分野で研究に取り組むようになった。

「電池の開発には、材料の開発に10年、そこから実用化に至るまでにさらに10年、20年という時間を要します」

ボルタの発明から始まった電池の開発は、まだ発展途上にあるというわけだ。電池は、私たちの夢や利便性を形にする「デバイス」ともいえる。かつては想像もできなかったスマートフォンや電気自動車が当たり前になったように、これからは空飛ぶクルマや高性能ロボットが、進化した電池によって日常の景色になっていくのも夢ではない。どうやら電池は、未来を動かすエネルギーといえそうだ。

リチウムイオン電池を安全に長持ちさせるコツ

1

100%の満充電状態で放置しない

4.2Vなどの高い電圧(満充電)で置いておくことは、電池の材料にとって非常に厳しい状況であり、劣化を早めてしまう。

2

0%の完全放電(空っぽ)を避ける

電池が完全に空の状態(0%)になるのは、満充電よりもさらに材料にとって「つらい状況」であり、避けるべき。

3

理想は「おなか半分」の状態を保つ

容量の半分程度で充放電を繰り返す使い方が、電池の寿命にとっては最も理想的だ。

4

高温を避ける

リチウムイオン電池は一般的に60〜70℃が限界であり、温度が上がると劣化が進む。

5

過度な急速充電を控える

短時間で大きな電流を流すと発熱しやすくなり、電池に負担がかかる。

6

異常な発熱時は使用を中止する

充電中や使用中に「触れないほど熱い」と感じる場合は、装置側の制御(過充電防止など)が正常に働いていない可能性があるため、使用や充電を中止する。

正しい捨て方と廃棄時の注意点

1

端子を絶縁して捨てる

捨てる際には、端子部分にテープを貼るなどして絶縁処理を行う。

2

一般ごみ(生ごみなど)に混ぜない

燃やすごみの中に混入すると、ごみ収集車や処理施設で衝撃が加わった際に、爆発や火災を引き起こす危険がある。

3

空っぽに近い状態で捨てる

フル充電直後(電池残量100%)が、発火などにつながる最も危険な状態だ。できるだけ使い切った状態で出すことが推奨される。

4

信頼できる回収拠点を利用する

製造したメーカーが引き取るのが望ましいが、まだそうした回収制度が整備されていない。自治体や家電量販店などの適切なリサイクル回収拠点を利用しよう。

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2026年3月10日発行
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