暮らしの科学 第76回 猛暑の運動不足はラジオ体操第1で解消!

文/茂木登志子  イラストレーション/古泉香苗

夏が来た。猛暑が続く。不要不急の外出は控えたい。だが、室内でじっとしていると、運動不足に陥る。そこで活用したいのが、ラジオ体操第1だ。わずか3分。いつでも、どこでも、誰でも実践できる。今回は、ラジオ体操の健康効果と実践のコツに迫った。

〈今月のアドバイザー〉鈴木大輔(すずき・だいすけ)。全国ラジオ体操連盟理事長・現NHKテレビ・ラジオ体操指導者、日本栄養大学実践運動方法学研究室非常勤講師。2004年、日本体育大学体育学部社会体育学科卒業。私立中高一貫校勤務を経て、2010年に保育園や障がい児支援事業を運営する社会福祉法人にじのいえ理事長に就任。2016年、聖学院大学大学院人間福祉学研究科修了。同年にNHKテレビ・ラジオ体操指導者、全国ラジオ体操連盟理事となり、2024年から同連盟の理事長に就任。共著書『じつはすごい! 科学的に証明された本当のラジオ体操』(アスコム)の印税は子ども食堂に寄付。現在、大学院博士過程で長寿健康の研究にも従事。

「ラジオ体操は、みんなが知っていて、誰もができる。これが最大の強みです」

よく通る声で断言するのは、全国ラジオ体操連盟理事長であり、体操指導者として広く知られている鈴木大輔さんだ。

鈴木さんによると、世界中を見渡しても、日本のラジオ体操のように、老若男女がみんな知っていて、実践できる運動は、珍しいのだという。

知っているということは、思い立ったときに、その場ですぐ実践できるというメリットがある。しかも、両腕と両足を広げるスペースがあれば、どこでもすぐできる。トレーニング用の服や靴も必要ない。

「ラジオ体操は、1928年11月1日にラジオでの放送が開始されました。普及のため作られたポスターには、ワイシャツにちょうネクタイで体操している男性が描かれていました。当時から『体操は学校と軍隊でやるもの』という少し堅苦しいイメージがありました。これを払拭し、一般家庭で広く実施してもらおうと考え、モダンな服装をしたモデルにしたそうです」

いつでも、どこでも、誰でもできる、ラジオ体操。猛暑の運動不足対策にはもってこいではないか。

なお、ラジオ体操には、第1と第2がある。このうち、いつでも、どこでも、誰でも行えるように作られているのが第1だ。第2は、働く人や体力づくりを目的とした人向けに考案され、運動強度は第1より強い。というわけで、ここではラジオ体操第1を究めよう。

3分で「運動のフルコース」

まず鈴木さんに、ラジオ体操第1についての解説を仰いだ。

「ラジオ体操第1は、次のような、13の運動で構成されています」

1:伸びの運動、2:腕を振って脚を曲げ伸ばす運動、3:腕を回す運動、4:胸を反らす運動、5:体を横に曲げる運動、6:体を前後に曲げる運動、7:体をねじる運動、8:腕を上下に伸ばす運動、9:体を斜め下に曲げ、胸を反らす運動、10:体を回す運動、11:両脚で跳ぶ運動、12:腕を振って脚を曲げ伸ばす運動、13:深呼吸。

順番 運動の名称 運動のやり方 運動の主な目的や効果
準備運動 1 伸びの運動 腕を前から上へ上げ背筋を伸ばし横から下ろす 姿勢改善、全身の目覚め、血行促進
2 腕を振って脚を曲げ伸ばす運動 腕を左右に振りながら膝を曲げ伸ばしする 全身の血流促進、ウォーミングアップ
3 腕を回す運動 腕を大きく回す 肩関節の柔軟性向上、肩こり予防
上半身の
運動
4 胸を反らす運動 腕を斜め上に振り上げ胸を大きく広げる 猫背改善、胸郭の拡張、呼吸機能向上
5 体を横に曲げる運動 左右交互に真横へ体を倒す 脇腹のストレッチ、体側の柔軟性向上
6 体を前後に曲げる運動 前屈と後屈を繰り返す 背中・腰・太ももの柔軟性向上
7 体をねじる運動 上半身を左右にひねる 腰回りの可動域向上、体幹の活性化
リセット 8 腕を上下に伸ばす運動 腕を上げ下げしながら全身を伸ばす 肩甲骨周辺の可動性向上、全身調整
体全体を
動かす運動
9 体を斜め下に曲げ、胸を反らす運動 斜め前へ曲げてから胸を開く 背中・腰・胸の柔軟性向上
10 体を回す運動 上体を大きく円を描くように回す 腰回りの筋肉をほぐし、柔軟性向上
11 両脚で跳ぶ運動 音楽に合わせ、軽くリズミカルにジャンプする 下肢筋力向上、心肺機能刺激
整理運動 12 腕を振って脚を曲げ伸ばす運動 2番と同じ動きをゆったり行う 呼吸を整え、疲労を残さない整理運動
13 深呼吸 腕を上げながら息を吸い、下ろしながら吐く リラックス、自律神経の調整、運動の締めくくり
図1 ラジオ体操第1の構成とそれぞれのポイント一つひとつの運動についての解説は鈴木さんの著書が分かりやすい。インターネット上では全国ラジオ体操連盟の公式チャンネルで解説動画が見られる。また、鈴木さん自身の出演作を含めてさまざまな「お手本」動画がある。

「安全に体を動かす基本としては、腕や脚など体の遠い部分から徐々に動かして、体の中心である体幹を動かすやり方が推奨されています」

ラジオ体操第1の構成も、このセオリー通りだ。

「1〜3は体を目覚めさせる準備運動で、4〜7は背骨を中心に上半身の運動です。8で心身をリセットしたら、9〜11で体全体を大きく動かし、12と13の整理運動で体を落ち着かせます」

13の運動に要するのは、わずか3分程度だ。

「実はこの3分間で、指先から爪先まで650個近くある全身の筋肉のうち、約400個を動かしています。つまり、ラジオ体操は、わずか3分間の、運動のフルコースともいえます」

ちなみにこの所要時間は、ラジオ体操の伴奏のテンポと関係がある。ラジオ体操第1が作られた頃の演奏時間は、2分55秒だった。しかし、日本人の平均寿命が延びて、ラジオ体操を行う高齢者が増えた。そこで現在は、幅広い年代が安全に運動できるようなテンポということで、およそ3分10秒を目安にしているという。

さて、運動のフルコースであるラジオ体操第1には、大きく3つの目的があり、合理的かつ効率的に構成されている。

「目的の1つ目は、姿勢づくりです。2つ目は、体の筋肉や関節を動かす柔軟性の向上です。3つ目が、体全体を使った有酸素運動で、血液の循環を高めることです」

合理的に構成されているラジオ体操だが、より良い健康効果を得るには、できるだけ正しく体を動かすことが肝心だ。

「例えば1番の伸びの運動は、深呼吸と勘違いされていることが多いです」

この運動の目的は、全身の筋肉や関節をほぐし、体を目覚めさせることだ。体をほぐし、目覚めさせることで、これから始まる3分間の運動のフルコースの効果を高める役割がある。

「このように、それぞれの運動には目的があるので、それをしっかり理解して行いましょう」

そのためには、ただ体を動かすのではなく、体操指導者の号令や助言をしっかり聞きながら実践することが望ましい。

“ちょいラジ”で心身をより健やかに

「ラジオ体操の指導で全国を回っていると、『私はちゃんと跳べます』と、少し誇らしげに話す70代や80代の方に出会うことが少なくありません。こういう方は長くラジオ体操を継続しています」

当初は鈴木さんも、ジャンプ即ち11番の“両脚で跳ぶ運動”ができるということが高齢者の自慢になる意味が分からなかったという。しかし、フレイル(筋力、認知機能、社会とのつながりなどといった心身の活力が低下した状態)が、社会問題としてクローズアップされるようになり、ジャンプができる高齢者の身体能力はすごいのだと実感するようになったという。

猛暑の運動不足は、高齢者にとってフレイルの進行につながりやすい。だが、フレイルは高齢者だけの問題ではない。若者や働き盛りの世代でも、動かないでいると、体力や筋力の低下、生活習慣病リスクの増加が懸念される。つまり、年齢に関わりなく、「動かない」が「動けなくなる」につながることが問題なのだ。

そこで鈴木さんは、ラジオ体操を運動のフルコースとして行うだけではなく、ラジオ体操の運動を生活の中のメンテナンスツールとして使う“ちょいラジ”を推奨している。

「その時々の体の状態に合わせて、ラジオ体操の運動を“ちょい”と取り入れて、体の調子を整えたり不具合を改善したりする方法です」

例えば、デスクワークの合間や家事の前後、会議や移動の交通機関、病院の待合室などで長時間座った後……。心身をリセットするために必要な動きを、ラジオ体操第1の13の運動からピックアップして、実践するという次第だ。

具体例を挙げ、鈴木さんにどの運動を取り入れたらいいのか、聞いてみた。

エアコンの冷気は室内の下方にたまりやすい。足の冷えを感じたら?

「2番の腕を振って脚を曲げ伸ばす運動で血流をアップさせ、11番の両脚で跳ぶ運動で血液を心臓へ押し戻すポンプ機能を促しましょう」

座りっぱなしのデスクワークなどで、同じ姿勢を長時間続けると、体がこわばるような実感がある。

「そんな場合は、5番の体を横に曲げる運動と7番の体をねじる運動で、体幹の筋肉や背骨をほぐしましょう」

図2 生活に取り入れたい“ちょいラジ”ここでは本文で触れた“ちょいラジ”で活用したい運動を紹介している。家事の合間や仕事が一段落したときなど、一つひとつの動きを丁寧に実践し、心身のリフレッシュに役立てよう!

運動は「継続」することが大事!

厚生労働省の基準によると、ラジオ体操第1の運動強度(身体活動量)は「4.0メッツ(METs)」に設定されている。座って行うラジオ体操は「2.8メッツ」だ。メッツは身体活動の強さを安静時の何倍に相当するかで表す単位で、座って安静にしている状態が1メッツ、普通歩行が3メッツに相当する。立って行っても座って行っても、ラジオ体操第1には、それなりの運動強度がある。

一方で、健康につながる運動習慣は、「強度」よりも「継続」が重要だと指摘されている。そして継続には、毎日体を動かすきっかけを失わないことが必要だ。

そうした継続のきっかけとして活用したいのが、全国各地で開催されているラジオ体操会だ。地域住民が早朝に公園などに集まり、NHKのラジオ放送に合わせて一斉にラジオ体操を行っている。

全国ラジオ体操連盟のウェブサイトで検索し、家から一番近い会場で開催されているラジオ体操会に参加してみた。

この会場では、ラジオ体操会の活動を始めてちょうど1年になるという。早朝6時半、緑の多い公園に集まった老若男女は80名くらいだろうか。犬の散歩中に立ち寄る親子もいた。ラジオの放送に合わせて、10分間、ラジオ体操第1と第2を行った。終わって散会する中で「また明日!」と挨拶を交わす元気な声があちこちから聞こえてきた。共に運動する仲間がいることも、継続の力になるのかもしれない。

猛暑の運動不足をラジオ体操で解消したら、運動の秋に向かって「継続」していこう!

Column

ラジオ体操は、
いつ、作られたのか?

「国民保健体操」が1928年からNHKのラジオで放送され、広く普及した。その愛称が「ラジオ体操」だ。第二次世界大戦後、曲に合わせて一斉に行う体操が全体主義的だと見なされて、禁止となる。しかし、復活を望む国民の声が大きく、2代目ラジオ体操が作られたのだが、舞踊的な動きの要素が多く、ラジオだけでは動きが分かりづらく1年で中止となる。1951年に、老若男女を問わず誰でもできる3代目のラジオ体操が作られた。これが現在のラジオ体操で、今年5月で75年目を迎えた。

ラジオ体操は、
誰が、どのように作ったの?

初代のラジオ体操は、逓信省簡易保険局(現:かんぽ生命保険)により制定され、NHKのアナウンサーがラジオ番組を通じて指導した。今回取り上げたラジオ体操第1は、ベルリン五輪体操選手でもあり、ラジオ体操の「父」とも呼ばれる遠山喜一郎氏をはじめとする複数の専門家が作り上げたという。また、音楽は服部正さんが作曲した。ラジオ放送でおなじみのテーマ曲である「ラジオ体操の歌」は、作詞家で詩人の藤浦洸氏が作詞し、歌手の藤山一郎氏が作曲した。

ラジオ体操を、
みんなができるのは、なぜ?

昭和の時代には文部省(現・文部科学省)の定める学校体育指導要綱における体操領域の代表的な教材として取り入れられ、体力向上と健康保持の基盤として普及した。1998(平成10)年の改正以降、体操領域が「体つくり運動」に統合・再編されて以降も、準備運動や基礎的な体づくりとして広く活用されている。また、小学校の夏休みに、全国各地の校庭や公園などで、早朝のラジオ放送の時間帯にラジオ体操会が実施されたことも普及を促した。

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2026年7月10日発行
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