感覚過敏に悩んでいる人は意外に多く、人口の約20%はなんらかの感覚に関して特有の高い感受性を持っているという報告もある。視覚・聴覚・触覚・嗅覚・味覚の五感と、前庭覚・固有受容覚が、受け取る刺激を強く感じることで不快感や苦痛を覚え、ひどいときはパニックに陥ることも。原因は解明されていないが、遺伝的メカニズムと神経生理学的要因がバックグラウンドにあると考えられている。刺激に対して敏感であることは生存に必要な特性ともいえ、適切な対処が必要だ。
特集 「感覚」の基礎知識 身近にある感覚過敏——正しい理解と適切な対処法
構成/渡辺由子
「大きな音がすると恐怖を感じる」「スマートフォンやパソコンの画面のコントラストが強すぎて目が疲れる」「いろいろなにおいのあるレストランや化粧品売り場で、気分が悪くなる」など、多くの人は気にならない程度の刺激を強く感じてしまい、不快や苦痛を伴い、時にはパニックに陥る状態を「感覚過敏(sensory hypersensitivity)」といいます。
「自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder:ASD)」のある人では、感覚過敏が原因で日常生活や社会生活を送ることが困難になることもあり、ASDの障がい特性の一つとして認められて診断基準の一つにもなっています。しかし、ASDのない人でも、感覚過敏性を持っている人、あるいは「自分は過敏すぎるのではないか」などと悩んでいる人は多いと考えられています。感覚に関して感受性の非常に高い人は、人口の20%くらいの割合で存在するという研究報告があり、私たち臨床心理学の専門家もそのように見ています。それだけに、意外と身近にある感覚過敏について、多くの人が理解を深め、広く認知されることを願っています。
各感覚過敏の症状
感覚過敏は、五感(視覚・聴覚・触覚・嗅覚・味覚)と前庭覚・固有受容覚など多岐にわたり、各感覚で症状が異なります(図1)。下記は各感覚過敏の一例です。
(イラスト:PIXTA)
図1 さまざまな感覚過敏感覚過敏は、人によって表れ方や強さが異なり、日常生活が困難になる場合もあるため、自分なりの対処法や対策を見つけることが重要だ。
- ●視覚過敏
- :周りの人よりも光をまぶしく感じ、目に突き刺さるほど。特定の色を強く感じる。通常では分からないような蛍光灯の点滅などが気になる。点滅のパターンや動きに敏感である。
- ●聴覚過敏
- :小さな物音や特定の音(チャイム、掃除機や冷蔵庫など家電製品の音、生活音など)を非常にうるさく感じる。大勢の人の話し声、赤ちゃんの泣き声なども苦手に感じる。特に大きな音ではなく、通常の音量でも敏感に感じ取ってしまうことが特徴で、耳の痛みや、頭痛、めまいなどを引き起こすこともある。
- ●触覚過敏
- :衣類のタグや縫い目など、肌触りにこだわりがある。のりや粘土など、ぬるぬる、ベタベタした物を触れない。他者からの接触を苦痛に感じる。
- ●嗅覚過敏
- :香水、シャンプー、洗剤、食べ物などのにおいに敏感で、吐き気を催したり、頭痛を引き起こしたりすることもある。
- ●味覚過敏
- :特定の食感や風味に過剰に反応し、強い偏食や拒食をもたらすこともある。
- ●温度感覚
- :暑さや寒さなどに敏感。
- ●前庭覚・固有受容覚過敏
- :前庭覚とは、内耳の奥にある回転運動を感知する三半規管と、加速度や重力方向を感知する耳石器という受容器により、姿勢のコントロールや身体のバランスの保持に関わる。固有受容覚とは、筋肉、腱、関節にある受容器でこれらの動きを感知し、身体の位置や動き、力の入れ具合などに関わる。特徴的な症状は、常に必要以上に身体に力が入っている。身体の揺れや傾き、高所に敏感、低気圧の接近などの気圧の変化に敏感で、不安やめまいを感じる。
好みの刺激でマスキングする
感覚過敏を知るうえで重要なのは、上記のようにさまざまな種類があり、それら種類ごとに症状が異なり、刺激の感じ方は人によりさまざまで、表れ方も異なることです。例えば、聴覚過敏について、音の種類や大きさだけでなく、同じ音でも音圧や音色などによって、嫌悪の対象になることがあります。また、感覚過敏が1つの種類だけの人もいれば、複数の種類に対して敏感に反応する人もいます。さらに、苦手な刺激には拒絶反応を示す一方で、好きな刺激に集中してしまうことがあるなど、実に多種多様な表れ方をしているのが、感覚過敏の特徴です。
ASDで聴覚過敏のある子のケースで紹介しましょう。音楽の授業は大丈夫だけれど、運動会などで拡声器から流れる大きな音や競技スタートを知らせるピストル音が苦手。時計や数字が大好きです。運動会のとき、その子の父親がビデオ撮影中に、玉入れ競技のスタートがピストル音で鳴らされようとすると、「ああ、うちの子はダメだ……」とパニックを心配してつぶやいたそうです。ところが、そのピストルを使った先生はストップウォッチも持っていて、その子はストップウォッチに興味が集中。ピストル音が鳴り、競技には参加しませんでしたが、大好きな時計と数字に意識が集中し、パニックにならなかったといいます。
また、大勢の人や人混みの中での雑音が苦手ですが、映画館で大好きな映画を観ているときや、推しのアイドルのコンサートに行くときは、大勢の人がいても気にならない人もいます。
苦手や嫌いな刺激に対して過敏であることは、大好きな刺激に対しても、過敏に反応する場合もあります。好きな刺激があれば、そちらへの過集中によって嫌な刺激から遮断されるために、パニックに陥らず、何とかなることがよくあるのです。つまり、感覚過敏がある人は、嫌な刺激に対して自動的に強烈な拒絶反応を示すだけでなく、自分の好きなこと、記憶などの認知的な処理や、注意の配分によって、それらの反応を緩和させられる可能性があるということです。いわば、苦手な刺激に好みの刺激を入れることでマスキングするというものです。先ほどのASDで聴覚過敏のある子どもは現在成人されていますが、突発的な苦手な音やその他の刺激に関しては、イヤホンで好きな音楽や動画を見ることでやり過ごしています。これは感覚過敏への対処法の一つとして応用できると考えています。
感覚に対する感受性が高いことと対極を示すのが、痛みや疲労感や空腹・満腹などの感覚に対する、感受性の低さである「鈍麻」です。鈍麻については、視覚や聴覚に関して、感受性の高さが求められる職業や、危険回避ができないと生命を脅かされるような職業以外では、一見ほとんど問題にならないように思えますが、以下のような例もあります。
空腹・満腹の感覚が分からないASDのある子どもは、お母さんにおなかを触ってもらい、食べたら胃が膨らむので、「おなかいっぱい食べたね」と言われて、「そうなんだ」と納得。おなかが減っているときは、「おなかがペッタンコになっているから、おなかがすいているね」と判断してもらっていました。
また痛みについては、ケガや病気に気づくのが遅れることで健康を害する危険性もあるので、注意が必要です。痛みに鈍く、本来は受診が必要なのに、緊急度が高まるまで痛みを訴えず、周囲が気づいて医療機関へ駆け込んだ、というケースも見られます。
感覚過敏と感覚鈍麻は、どちらか一方を持っているだけでなく、一つの身体の中に感覚に対する鋭敏さと鈍麻が共存するケースがあります。
標準化されつつある評価法
感覚過敏の原因は、まだ解明されておらず、専門家の間でも議論が沸騰していますが、遺伝的なメカニズムと、神経生理学的な要因がバックグラウンドにあることについては、共通の認識を得ています。
神経生理学的な要因については、脳の感覚処理領域(大脳皮質の感覚野、扁桃体、視床など)の活性や、抑制の困難が考えられています。過敏になっている感覚に関連する脳の部位のバリエーションが多く、脳の特定の部位に原因があると明らかにできない難しさを感じています。また、感覚入力と出力の統合の障がいとされる、感覚調整障害(Sensory Modulation Disorder:SMD)などといわれることもありますが、医学的原因は不明です。発達障がいとの関連については、アメリカ精神医学会がまとめた、精神疾患の世界的な診断基準「DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル」において、ASDの診断基準に含まれています。実際に、ASDの約半数は感覚過敏を持つとされています。注意欠如多動症(Attention Deficit Hyperactivity disorder:ADHD)でも、感覚刺激への過敏性が見られることがあります。
多くの感覚過敏は元々の体質によると考えられていますが、環境的・心理的要因として、慢性的な疲労や睡眠不足、ストレス、トラウマや過去の否定的な感覚体験などが影響して、元々持っていた感覚過敏の症状が強く出ることはあります。また最近の研究では、抑うつや不安との関連が指摘されており、今後は、さまざまな感覚過敏の症状を横断的に考慮した研究がなされていくと考えています。
一方、ASDではないが感覚過敏について自覚している場合で、今まさに悩んでいるけれど、医療機関を受診したほうがよいのか決められないで悩んでいる人も多いのではないかと思います。「感覚過敏がある」というだけで、精神科や心療内科などへ相談に訪れる方は、ほとんどいませんし、視覚過敏や聴覚過敏を訴えて眼科や耳鼻咽喉科を受診しても、「異常なし」と言われることが多いでしょう。職場や学校で感覚過敏の症状が強く出て、不登校や出社拒否、パニック状態に陥るなど、感覚過敏によって社会的な問題が生じた場合に医療機関につながることが増えてきています。例えば職場でみんなと仕事をする際に、物音が気になって集中できない、ミスが多い、コミュニケーションが取れない、人間関係の構築が困難などで困り果て、精神科で相談した結果、聴覚過敏であることが判明するようなケースです。
これまでは、感覚過敏によって実際の社会生活、日常生活に影響が及んでも、その方自身が「自分のせいだ」「気にしすぎだ」など自分に責任があると思い、つらい気持ちを押し殺したり、周囲から「気のせい」「わがままだ」と誤解されたり決めつけられたりして、医療機関での相談に至らなかったと思われます。
感覚過敏の評価の方法は、臨床心理学の専門家の間では、アメリカの作業療法士のウィニー・ダンが発表した「SP感覚プロファイル」を、標準化された検査として10年ほど前から採用しています。
これは、検査対象者の感覚処理機能についてプロファイルする際に、次の4つの部分に基づいて、詳細な評価を行います。「①低登録:刺激に対して気づき(登録)が低い。神経学的閾値が高く、反応に遅延が見られる。受動的行動」「②感覚探求:自己安定のために特定の感覚を求める。神経学的閾値が高く、それを満たすために刺激を求める。能動的行動」「③感覚過敏:神経学的閾値が低く、刺激が入力されると苦痛を伴う」「④感覚回避:神経学的閾値が低く、嫌いな刺激を避ける。能動的行動」。この4つの視点から、対象者の感覚処理機能を評価し、さらに観察、分析を進めていきます。
感覚過敏に対する治療として、認知や行動に働きかけて過剰な感覚を和らげる「認知行動療法」、その中の技法の一つとしての過敏になる感覚に少しずつ慣らしていく「段階的曝露法」、さまざまな刺激に対して身体をどのように適応させるかを学ぶ「感覚統合療法」などがあり、症状の軽減は期待できますが、現在のところ完治に導くことは困難な状況です。
感覚過敏を完全に治そうとすると、感覚過敏への注意が高じて、かえって症状を悪化させてしまうリスクもあります。完全に治すことにこだわるよりも、自分の感覚過敏とうまく付き合い、社会生活を送るうえで問題にならないように、嫌悪的な刺激に対しては距離を取る、刺激を感じたら休憩を入れるなど、自分に適した、過敏になった感覚の和らげ方などの対処法を見つけることが大事ではないかと考えます。対処法によって、ポジティブな経験と自信を持つことで、感覚過敏は自分の調子の良し悪しを判断する「体調のバロメーターだ」と、考えるくらいになるのが良いでしょう。
なお、ASDやADHDなどの発達障がいが認められる場合は、医療的支援を受けることが効果的です。
高い感覚感受性は必要な特性の一つ
対処法は、過敏を訴える感覚に対して考えていきます。一例を紹介しましょう。
- ●環境調整
- :刺激的な音をカットするイヤーマフやノイズキャンセリングヘッドホン、遮光眼鏡、柔らかい素材の衣類を使用するなど、感覚過敏の種類に応じて、物理的な環境調整を行います(図2–①②)。また、学校や家庭などの理解による人的環境調整や、感覚過敏に配慮した学習環境やスケジュールの調整も必要です。周囲の人々へ、誤解を防ぐことやちょっとした気遣いも、感覚過敏を訴えている当事者の助けとなります。
- ●コーピング(対処スキル)
- :距離を取る、休むなどの「気づき」や、「不快な刺激を避ける」方法を用いることです。最近では、空港などの公共施設や職場に、「カームダウンスペース」が設置されるようになりました。「カームダウン(calm down)」とは、気分や状態が落ち着く、静まるという意味で、内面的な事象に用いられる言葉です。個室やパーティションなどで区切られ、1人用のソファなどを置いた静かなスペースで、刺激によって緊張が高まったときなどに、心身を静めることを目的にしています。感覚過敏でつらいときは、このようなカームダウンスペースを積極的に利用することが勧められます(図2–③)。また、先にご紹介した事例の方のように、感覚への注意をそらすような、好みの刺激や活動を入れるなどもよいかもしれません。
(写真提供:①HOYA/②3M/③オーエム機器)
図2 環境調整で活用できる品々①視覚過敏の対策に、機能的なカラーレンズでまぶしさやぎらつきをカット。②聴覚過敏には高い遮音性と耳への圧迫が少ないイヤーマフを選びたい。③空港などの公共施設や職場や学校で設置が増えているカームダウンスペース。外部からの刺激を遮断し、気持ちを落ち着かせる場所。
近年、SNSなどを通じて認知が広まっているのが、「繊細さん」という言葉です。心理学者エレイン・N・アーロンが提唱する概念で、人一倍、刺激に対して敏感で繊細である人を「HSP(Highly Sensitive Person)」や「HSC(Highly Sensitive Child)」と呼び、心理学の分野における気質の一つとしています。アーロンの理論によると、HSPやHSCは、感覚処理感受性(Sensory-processing Sensitivity:SPS)と呼ばれる性格特性が特に高い集団を指しています。SPSが高い人は、感情に対する感受性が高く、痛み、空腹、光、騒音といった外的刺激と内的刺激の両方に対して、強い反応を示すとされています。
感覚過敏やHSP・HSCは、認知度が広まっていますが、現時点ではどちらも医学的な診断ではありません。歴史的に、HSPは知覚される共感性と社会的能力に基づいて、自閉症と区別されてきました。しかし現在では、自閉症の人も共感性を経験できることが研究で示されてきており、自閉症とHSP・HSCの区別を複雑にしています。そのため、感覚過敏やHSP・HSCを持っている人に対して、このラインから自閉症、そこまでいかないならHSP・HSCという線引きをすることに、意味はないと考えます。
生物学的な観点から見れば、生存を脅かすような刺激に対して敏感であることは、外敵に襲われない用心深さにつながるなど、サバイバルしていくのに必要な一つの特性です。同じ種の中で、過敏なタイプ、鈍感なタイプ、繊細なタイプなどのバリエーションが豊かであることは、その種が生き残っていくすべに違いありません。
感覚の問題を周りに理解されず、わがまま、努力不足という形で追い詰められると、人間不信、自信喪失につながります。感覚過敏をきちんと理解し、お互いに気持ちよく過ごせるようにすることが、何よりも大切だと考えています。








