特集 「土壌」の謎に迫る! 人類の営みと密接につながる世界各地の多種多様な土

構成/飯塚りえ

世界の土壌は気候、地形など環境に影響を受け、それぞれに特徴を持つ。ユーラシア草原など主に半乾燥草原気候の地域に広がる黒土は柔らかく、有機物に加え無機養分も豊富で生産性が高い。砂漠は、降雨がないため養分が流出せず、無機物を豊富に含む。一方、カザフスタンではによる塩類集積、また、ニジェールでは過度な耕作が風食を引き起こすなど、人間活動が原因で劣化した土地もある。土壌の多様性を理解し、社会・文化的特性をも考慮した対策の模索が続いている。

愛知大学国際問題研究所上席客員研究員、名誉教授

小﨑 隆(こさき・たかし)

京都大学卒業。農学博士。国際熱帯農業研究所(IITA)、京都大学教授などを経て、2023年から現職。専門は土壌学・地球環境科学。アフリカやアジア地域を中心に多様な土壌劣化問題に取り組み、持続的な土地利用法の構築に関する研究を続けるとともに、近年は土壌・環境教育にも取り組む。日本土壌肥料学会会長、国際土壌科学連合会長を歴任。受賞歴に日本農学賞やアメリカ土壌学会国際土壌科学賞など。

誰しも小さい頃に土で遊んだ経験があると思います。私は、大学の授業で「小さな頃、絵を描いたら土を何色に塗っていましたか?」と質問することがあります。関東出身の学生なら、焦げ茶色や黒という答えが返ってくるでしょう。私は大阪の出身なので、土といえば黄土色を思い浮かべます。土は非常に身近な生態系なのですが、色ひとつ取っても、このように、地域によってその性質は大きく異なります。

土の色をより所にしている哲学思想

世界の土とその食料生産性について紹介する前に、各国の文化が土に色濃く影響を受けていることにも触れたいと思います。

古代中国に五行説という哲学思想があり、これに登場する四神は、方角をつかさどる霊獣とされています。東の青龍、西の白虎、南の、北の玄武は、それぞれ青、白、赤、黒を自身の色としています。この4色は土の原色ともいえる色です。

中国文化の発祥の地は、黄河の中下流域辺りの中原という地域ですが、中原を中心に中国の国土を見てみると、東方は青土、西方は白土、南方は赤土、北方は黒土となっています。紀元前に確立した壮大な哲学思想がそれぞれの地域に見られる実際の土の色をより所にしていたことに大変驚きました。

メソポタミア文明は、現在のイラン、イラクからシリアまで広がる地域に発達した文明です。その時代の神話には、土を粗末に扱うと土の中から神様が現れて塩をまき、土を塩辛くしてしまうという話が出てきます。土壌中の水分の蒸発などによって塩分が土の表面に集まって濃縮され、植物の生育を阻害する「塩類集積」という現象を指していると考えられます。その時代に塩害という現象とその原因を理解して、物語に示唆的に盛り込んでいるのです。

日本に残る「風土記」は奈良時代に元明天皇が諸国に命じて、地域の地名や産物などを記した地誌で、地域の土の生産性が記録されています。現代の日本にあっては、土地の生産性を意識する機会は少ないかもしれませんが、古来、土の生産性は、時の政権にとって適切な課税システムを構築するうえで大きな関心事であり、私はその点で、土壌学は国家運営の基本であると考えています。

文化・社会的側面を紹介してきましたが、ここからは科学的な視点から世界の土を見ていきましょう。

近代科学の土壌学は、19世紀後半、ロシアの地質・地理学者であったヴァシーリー・ドクチャーエフの研究が始まりです。ドクチャーエフは、「土は、地質(もととなる岩石や堆積物)、気候、生物、地形、時間という5つの生成因子の組み合わせによってその性質が決まる」として、世界の土を分類しました。

畑作農業において最も生産性の高い土

現在、世界の土は、国際土壌科学連合(IUSS)により承認され、国際連合食糧農業機関(FAO)などで広く利用されている世界土壌資源照合基準(WRB)では32に、アメリカ農務省(USDA)の土壌分類体系では12に大別されています。

後者の分布図を見ると、やはり気候、地形が似たような場所に同じような土が生成されることが分かります(図1)。各地の土を見ていきましょう。

図1 世界の土壌分布図アメリカ農務省による世界の土の分類。実際に食料生産が可能な場である「土壌」として機能している12分類に加え、土のない地域(岩石地、飛砂地、氷原)がある。

ウクライナやカザフスタンなどのユーラシア草原、カナダやアメリカの北米プレーリー、アルゼンチンに広がるパンパは、半乾燥草原気候でな黒土(USDAではモリソルという分類名)を有します。「モリ」はラテン語で「柔らかい」を、「ソル」は「土」を意味します。黒く柔らかい土は、主に植物が微生物によって分解され変性してできた「腐植」という有機物とともに、無機養分も豊富に蓄積しています。比較的柔らかい土が多く、畑作農業においては最も生産性の高い土です。これらの地域は有数の小麦の産地として、世界のほとんどのパンとパスタを作っていると言っても過言ではありません。世界の大国はこうした地域の中にあり、またその領地を奪うため多くの戦争が起きています。ナポレオンやヒトラーもウクライナの土地を狙って当時のロシアを侵攻しています。

アフリカ中部や南米の台地では、湿潤気候の影響で土壌の鉄分が酸化して「さび」が出て、生産性の低くなった赤土が多く見られます。

土が赤くなるのは、土が何百万年もの長い間雨風にさらされ、植物の養分となる窒素、リン酸、カリウム、それにカルシウムやマグネシウムなどが流れ出てしまう一方で、酸素に反応した鉄分は不溶性となって土にたまるからです。土と植物には、土中の養分を植物が吸収し、植物は光合成によってデンプン(有機物)を作り、それが枯れれば土に戻るという循環システムがありますが、赤土(オキシソル)は、養分が流出し相対的に鉄の量が多い状態です。言ってみれば、だしが出きった「出がらし」のような土です。

日本ではこのような古い赤土が見られることはほとんどありません。火山があり、山も急峻で侵食されやすいため、同じ場所に長い間土がとどまっていることが少ないからです。

日本に多くあるのは、川が繰り返し氾濫してできた平野で見られる若い酸性の土や火山灰土です。日本の土は新しく、古いものでも数十万~数万年前程度、日本に広く分布する黒ボク土は、せいぜい1万年程度です。5億年ほどを経ているイギリス・スコットランド地方の土と比べると、その若さが分かります。

養分が最も豊富なのは砂漠の土です。意外に感じるかもしれませんが、砂漠は雨が降らないので養分が流出せず、ナトリウムのほか、リン酸、カリウム、カルシウムなどの無機物が豊富に含まれます。

メソポタミア文明やエジプト文明は、本来の砂漠の肥沃な土と豊かな太陽に加えて大きな川から引いてきた水を利用し(灌漑)、活発に食料生産を行うことにより成立し得たのです。

しかし、灌漑はその方法を誤ると塩害を引き起こします。元々の地下水がない土地に水を与えると、作物を作っている表面の土よりも下の層に人工の地下水帯ができます。すると、地下水が表面の土に染みて上がってくるという毛細管現象が起きるのです。そうして水が染み上がってくる過程で、塩分などが溶け出し、塩分の濃度がどんどん高くなってしまいます。水分は蒸発しますが、塩などはそのまま残るので白っぽい土になっていきます。

塩分の多い土で作物を育てるとどうなるでしょうか。私はよく、ぬか床を例に出しますが、例えば野菜を作っても漬物のように水分が抜けてしなびてしまい、根から養分を吸収できずに、結局、枯れてしまいます。これがいわゆる塩類集積といわれて土壌劣化のタイプの一つです。塩類集積は、砂漠の土地で起こることが多いのですが、ウクライナなど半乾燥地でも起きる可能性があり、せっかくの肥沃な土地を台無しにしてしまうので、きちんと管理をする必要があります。

塩類集積により30年ほどで劣化してしまう

私たちは、世界各地の農地を調査してきましたが、一口に灌漑といっても、その場所によって状況が異なるので、解決は簡単ではありません。一見、同じような土地でも、わずか10㎝程度の高低差で高いほうは無事ですが、低いほうには塩が上がってくることがあるのです。一度出てしまった塩を洗うことは容易ではなく、費用も膨大にかかります。

カザフスタンでは、塩類集積によって30年ほどで土が劣化してしまった農地のケースを目にしています。

1960年代から1990年にかけ、カザフスタンは旧ソビエト連邦領の時代に、強行に農業生産量を上げました。私たちはアラル海が劇的に縮小している問題をきっかけにカザフスタンに入りましたが、まさに土を食いつぶすようでした。アラル海には、源流を天山山脈とするシルダリア川が注いでおり、地球儀で見ると大きな湖です。しかし、今は水がほとんど干上がっています。シルダリア川からカザフスタンの砂漠に灌漑用水として大量の水を引き込んだ結果、アラル海には水が流れ込まなくなり、どんどん縮小していったのです。現地の関係者はこの結果を予測していましたが、旧ソ連の五カ年計画の中では、生産量を上げることが最優先でした。塩害によって農業ができなくなると、最終的にはその土地を放棄して別の農地に移動します。放棄した土地は、羊やヤギの放牧地として使うしかありません。その放牧地ですら、草が減ってきて半砂漠のようになった土地も少なからずありました。

このような「土地の消費」は、必ずしも旧ソ連だったから起こったのではなく、アメリカやオーストラリアでも同じようなことが起こっており、土地の適切な管理は、現在も続く世界的な問題と考えています。

カザフスタンは塩類集積の例でしたが、ニジェールでは風食の問題に取り組みました(図2)。風食は、ジョン・スタインベックの『怒りの葡萄』の社会的背景としても描かれました。風によって土が飛ばされ、土壌肥沃度が下がる問題です。

Ikazaki et al. (2011)

図2 ニジェールの畑の休閑ベルト1枚の畑に休閑ベルトと耕作地を交互に配置して土の飛散を防ぐ。現地の人の理解も欠かせない。

ニジェールの畑は砂漠化が進行していました。現地では、トウジンビエを栽培しているのですが、風が強いために土が舞って養分が飛散してしまうのです。そのため耕作地と休閑地を何年かごとにローテーションして、移動農業作物を育てていたのですが、人口の増加に伴って生産量を増やさなくてはならないという課題を抱えていました。

まずは現地に入って調査した結果、私たちの研究チームはいわゆる耕地内休閑システムという方法を提案しました。要は、1枚の畑の中に、休閑ベルトと稼働している畑を一緒に作るという方法です。休閑ベルトといっても、実際には草を生やすだけなのですが、風で舞い上がった土や養分が草に引っかかって根本に落ちるので、土から養分が失われることがありません。翌年は休閑ベルトを畑として使い、畑だった部分は休閑ベルトにすることで、土を上手に使うことができるようにしました。

ただ、耕地内休閑システムというアイデアを考案しても、ニジェールのこの場所での最適な方法を見つけるには、現地での調査や実験を繰り返さなくてはなりませんでした。飛散する粒子などを集め、風速がどの程度のときに、どの程度の量の、どんな粒子が飛ぶのか、それを捉えるにはどれほどの草の丈が必要かなどの調査を行い、生産力をキープしながら土を傷めないバランスを見いだしました。こうした地道な研究に加えて、私たちが良い方法だと考えても、手間が増えすぎたり極端に費用がかかったりすれば現地の人に納得してもらえず、システムが採用されません。環境と現地の農家の反応を見ながら、現場主義で支援の方法を模索します。

水田は土の劣化も少なく持続的な方法

日本に関しては、土地の劣化の不安は少ないと思います。ハウス栽培で塩類集積が起こるケースがありますが、雨が多いので土地の回復は可能ですし、少なくとも水田に風食が起こる可能性はありません。

水田は確かに手間がかかりますが、土の劣化も少なく、畑作に比べて持続的な方法です。現在、水田による稲作を行っているのは南~東・東南アジア諸国が中心です。この地域は世界人口の約半分を占めていますが、陸地面積はわずか世界の12%程度です。このことから、水田が面積当たりで扶養できる人数の多い、生産力の高い農法であることが分かります。日本などアジアで今後も受け継がれるべき農法だと思います。

ただ、世界のどこでも通用するオールマイティな「土に良いこと」はありません。土壌の劣化を防ぎ、土の環境を維持する手法はそれぞれの環境ごとに異なります。そもそも健康な土の状態すら、生態系ごとに異なるのです。土の多様性を理解して、生態系だけでなく、社会・文化的特性をも考慮した最適解を模索していくことが、世界の土を健全に保つうえで重要だと考えています。

私たちが世界各地で農地の保全と生態系機能強化の支援を行っているのは、土が消費されていることへの危機感からです。土は生態系において物質循環の要であって、地球上のほぼすべての生命を支えています。土壌学の関係者は100億人程度の食料を賄うことはできると考えていますが、それは地球全体の生産能力を公平に分配した場合です。実際には地域による生産能力には大きな違いがあり、食料をどのように分配するのかという問題も残ります。あるいは、土に頼らない植物工場のような技術が進歩するかもしれませんが、土に食料生産の95%以上を依存している現状は、すぐには変わらないでしょう。食料生産のために利用できる土は他の用途に転用したり、耕作を放棄したりせず、土が消耗しないようにきちんと管理していく必要があると考えています。

私たち土壌学関係者も、世界各地で土壌と土壌学の啓発活動を展開しています。IUSSは、2025年から2034年までを「持続的発展のための土壌科学の10年(Decade of Soil Sciences for Sustainable Development)」と定めて、より多くの人に土への理解を深めてもらいたいと活動しています。

(図版提供:小﨑 隆)

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2026年3月10日発行
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