生物 細胞と遺伝子 第40回 「皮膚の老化」と「幹細胞の不均一性」の関係 皮膚の老化とは、細胞が一様に弱ることではないかもしれない。表皮には分裂の速い幹細胞と遅い幹細胞が異なる区画に棲み分け、役割を分担している。この「不均一性」こそが、皮膚の再生力と強さを支えているが、加齢に伴いそのバランスが崩れ、特定の集団が失われることで、傷が治りにくくなり表皮は薄くなって弾力を失っていく。老化は細胞の衰えではなく、多様な集団の構成比が変わることで起きる——そのような新たな視点が、老化研究に問いを投げかける。
生物 細胞と遺伝子 第39回 細胞膜の損傷が老化を引き起こす 細胞膜に傷がついた細胞の運命は、修復されて生き延びるか死ぬかの2択と考えられていたが、最新研究で「細胞老化」という第3の道があることが示された。老化細胞は慢性炎症や組織の機能低下を招くが、その原因はDNAの傷や変化によるものとされてきた。細胞膜の損傷もまた老化を引き起こすという今回の発見は、老化研究に新たな視点をもたらす。変形性関節症や動脈硬化など加齢に関連する疾患への介入を通じ、健康寿命の延伸につながる可能性を秘める。
生物 特集 知られざる粘菌の世界 細胞性粘菌は「敵と味方を区別」する 脳も神経系も持たない変形菌が「かしこい単細胞」として注目を集めた。同じく粘菌と呼ばれる細胞性粘菌もまた、異なる化学シグナルで「敵と味方を区別」する巧妙な戦略を持つ。土壌表層に生息する細胞性粘菌は、同じ生息域の自活性線虫を胞子の運び屋(vector)として誘引する一方、地中深くに潜み運び屋に適さないネコブセンチュウは忌避させる。この仕組みを応用することで、最重要病害虫のネコブセンチュウから農作物を守りつつ、高毒性農薬依存から脱却する道が開ける。
生物 特集 知られざる粘菌の世界 動物と植物の特性を備える細胞性粘菌 生命は単細胞生物から多細胞生物へと進化してきた。細胞性粘菌は飢餓状態になると単細胞のアメーバが集合して多細胞体を形成し、24時間で胞子を作るという劇的な生活環を持つ。アポトーシスや細胞分化など、ヒトを含む多細胞生物に共通する遺伝子を備えながら、ゲノムサイズはヒトの100分の1。動物と植物、両方の特性を兼ね備えた独自の進化を遂げており、多細胞化の起源を探るモデル生物として世界的に重要視されている。多彩な二次代謝物は創薬への応用が期待される。
生物 特集 知られざる粘菌の世界 自他を「認識」する変形菌の非常識な生態 変形菌は単細胞生物でありながら、1つの細胞のまま巨大化するという特殊な生態を持つ。さらに驚くべきことに、自己と非自己を正確に見分ける能力まで備えている。同種であっても出身の異なる個体は数時間かけて識別し、融合できないと判断すれば静かに回避する。直接触れずとも、分泌した粘液鞘のシグナル物質で相手を見分けることも可能。この自他認識の解明は、多細胞生物の進化の起源や「生物にとって自己とは何か」という根本問題への理解を深める鍵となる。
生物 特集 知られざる粘菌の世界 〈巻頭インタビュー〉考えることなく最適解を提示する単細胞 倒木や腐葉土に広がる黄色いゼリー状の物体が変形菌だ。脳も神経系も持たないこの単細胞生物が、迷路を最短経路で解き、関東圏の鉄道網に酷似したネットワークを形成する。北海道大学の中垣俊之教授はこの振る舞いを実験で示してイグ・ノーベル賞を2度受賞、絵本『かしこい単細胞 粘菌』ではその驚きを子どもたちに伝えた。変形菌は「考えて」はいない。しかし局所的なルールの積み重ねが最適解を生み出す。その現象が導くのは「知性とは何か」という根本的なテーマだ。
生物 細胞と遺伝子 第38回 睡眠を誘導する「起きている状態」の履歴 睡眠の研究には「どう眠るのか」と「なぜ眠るのか」の2つのテーマがある。そのうち「どう眠るのか」の睡眠研究は古く、睡眠を引き起こすさまざまな物質が候補に挙がってきたが、どれも決め手に欠く。そこで発想を転換し、脳が記憶する「起きている状態」の履歴が眠気を生み出しているのではないかという仮説の下、研究を重ねたところ、あるメカニズムが浮かび上がった。一方「なぜ眠るのか」の追究は、「意識とは何か」という壮大な真理の解明につながるという。
生物 特集 ここまで分かったエピジェネティクス 獲得した性質が次世代に伝わる可能性 エピジェネティック修飾はDNAの塩基配列に影響を与えずにメチル化などで遺伝子の働きを調節することから、新たな個体が生まれるときにリセットされ、次世代に受け継がれないとされてきた。しかし受精後、子の体細胞で再びメチル化が始まるという研究結果が得られた。つまり、DNAのメチル化そのものが直接受け継がれているのではなく、メチル化を再起動させるメカニズムが機能したのではないかという。親が獲得した性質が次の世代に伝わる可能性は否定できない。
生物 野本先生の腸内細菌と健康のお話50[最終回] 目指すべき腸内フローラやプロバイオティクスの「すがた」や「はたらき」 本コラムでは「腸内フローラと健康」に関わるトピックを筆者の経験も絡めて紹介してきたが、初回(247号/2018年1月10日発行)から本号まで足掛け9年にわたる執筆内容を振り返り、この領域の研究や開発の今後について考えてみたい。
生物 細胞と遺伝子 第37回 体温を下げない「温かい冬眠」 遺伝情報を保存・伝達する核酸はすべての細胞に存在する。核酸の遺伝子を対象とする核酸医薬の開発が進んでいる。核酸医薬はmRNAに結合することで病気の原因となるタンパク質をつくらせない。一方mRNA医薬は必要なタンパク質をつくらせることで効果を発揮する。どちらも狙う遺伝子の情報を制御することで、より安全な効果が得られるとされ、COVID-19のmRNAワクチン普及もあり注目される。mRNAの免疫反応への対処が今後の課題なのだという。